特集 2016年8月9日

浜松の「たくあん入りお好み焼き」のことを現地の人に聞いた

「キャベツとたまごの存在感が薄い」のも特徴だと思う
「キャベツとたまごの存在感が薄い」のも特徴だと思う
「静岡県浜松市のお好み焼きには、たくあんが入っている」と聞いた。なんだそれは。食べてみたい。いや、食べるだけじゃなくて、現地の人に話を聞いてみたい。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

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土用丑の日の浜松で、お好み焼きを食べる

浜松ではお好み焼きにたくあんを入れる。
教えてくれたのは、浜松出身のデイリー編集部の取引先の方だ。この話は、先々月に開催された友の会限定スナックの席で交わされたらしい。わたしはその場にはいなかったのだが、聞いてすぐに気になってしまい「それ、食べてみたい!浜松行きたい!」と瞬発的に手を挙げてた。
不意をつかれたような組み合わせだなぁと思った
不意をつかれたような組み合わせだなぁと思った
名称は「遠州焼き」と呼ばれることもあるが、それはあくまでも他県の人が識別しやすいように付けられた名前らしい。現地では、「お好み焼き」として売られていることが多いみたいだ。

浜松と聞くとどうしても連想してしまう魚類がいるが、取材当日が土用丑の日というのは前日に気づいた。でも、誕生日プレゼントは当日の前後半年までは受け付けている方だし、鰻はきっと当日じゃなくても大丈夫なんじゃないだろうか。
また今度ね、と心の声で伝えた
また今度ね、と心の声で伝えた

特徴は、たくあんだけじゃなかった

ところで、さっきから「たくあん」と連呼しているが、浜松のお好み焼きの特徴はたくあん以外にも沢山あった。
まずは、浜松駅から遠州鉄道で少し移動した先にある「山口屋菓子店」さんと、
まずは、浜松駅から遠州鉄道で少し移動した先にある「山口屋菓子店」さんと、
昭和24年から続く老舗「お好み焼き大石」さんを食べ歩いた
昭和24年から続く老舗「お好み焼き大石」さんを食べ歩いた
① キャベツが入っていない場合がある
お店の人が焼いてくれるのを眺める。あれ、あいつが居ない
お店の人が焼いてくれるのを眺める。あれ、あいつが居ない
キャベツ。通常、お好み焼きの具に必須なものランキングをとったらかなり上位に食い込むんじゃないかと思うが、入ってない場合があるのだ。

でも、全然気にならない。入っていても存在感が薄い。緑(ねぎ)・赤(紅しょうが)・黄色(たくあん)の色彩トライアングルが、バランスよく成立しているせいなのかもしれない。
② たまごも入っていない場合がある
いちばん右、す焼きを頼むとたまごは入らない
いちばん右、す焼きを頼むとたまごは入らない
おお、たしかに白い。動物性たんぱく質のほぼ存在しない世界だ
おお、たしかに白い。動物性たんぱく質のほぼ存在しない世界だ
これを食べた後に肉入りのお好み焼きを食べると、「うわあ、すごく肉の味だ!」と、動物性たんぱく質にやたら過敏反応するという新鮮な驚きがあった。
③ かなり薄い
そういえば大体の場合、お好み焼きの厚みはキャベツが生成していた気がする。
④ソースがさらさら
ウスターソースが使われていたのだ。刷毛でばしゃっと勢いよく塗られたソースは、するっとお好み焼きの生地に吸収されてく。
これはかなりソース味になってる気配が
これはかなりソース味になってる気配が
⑤お皿に盛られるとき、かなり一口大サイズで提供される
薄く焼いたお好み焼きは3重に畳まれ、きれいに切り分けてもらえた。
まず、3つ折に畳まれたら
まず、3つ折に畳まれたら
ソースをひたして、ざくざく切り
ソースをひたして、ざくざく切り
さらに切る!見ただけで食べやすさを感じる
さらに切る!見ただけで食べやすさを感じる
逐一、勝手がちがう。様子を見つめながら、つい顔が鉄板に近づいてしまった。


食べてみた感想を率直に言うと、はじめて食べるのにはじめてじゃない感じだ。
やわらかいソースせんべいみたいな感じか?いや違うか。
マヨネーズを載せてみたら、マヨネーズだけが別の世界から来たみたいになった
マヨネーズを載せてみたら、マヨネーズだけが別の世界から来たみたいになった
味は濃いめなのにさっぱりしていて、たくあんは状況に馴染みすぎなんじゃ?と思うくらいによく合ってる。むしろ、今まで入れないでいたのはなぜなんだろうと、思うくらいだ。
うまい!
うまい!
口内で、たくあんを察知するとすごくうれしい!
口内で、たくあんを察知するとすごくうれしい!
ちなみにどちらのお店も、たくあんは創業時からずっと入っているそうだ。入れるようにきっかけはおそらく、近隣にたくあんをつくる農家があったからではないか?との話も聞けた。

お好み焼き以外の部分でも興奮した

お店のお好み焼き以外の特徴も、なかなか楽しかったのでいくつかお伝えしたい。
① 焼きそばの麺がまっすぐ
見慣れないまっすぐさなのだ
見慣れないまっすぐさなのだ
聞いたところ、棒状の乾麺を使っているんだそうだ。もしや、この地域で食べられている焼きそばのすべてがそうなのかと思いスーパーに足を運んでみたが、そういうわけではないみたいだ。
お好み焼きの生地に焼きそばをつつんだ「ちゃんぽん」というメニューもある
お好み焼きの生地に焼きそばをつつんだ「ちゃんぽん」というメニューもある
お好み焼きも焼きそばも1人前くらいあるので、約2人前分のボリューム。でっかい!
お好み焼きも焼きそばも1人前くらいあるので、約2人前分のボリューム。でっかい!
② お菓子の出現率が高い
この近辺のお好み焼きは、もともと駄菓子屋さんのメニューとして発足しているのだけど、今でも引き続き駄菓子・お菓子などが置かれていて、なんだかうれしくなってしまう。
ガラスケース右下の物体は、ふ菓子なんだそうだ
ガラスケース右下の物体は、ふ菓子なんだそうだ
当初、不思議な物体だなぁと思っていたのだが、どうやらこの近辺のふ菓子は、こういう形状らしい。食べてみた感想は「どでかい雛あられ」だった。思わぬ方向からも独自文化を知れてしまった。
③ サイドメニューが楽しい
しれっと、ところ天があったりする
しれっと、ところ天があったりする
とくに「お好み焼き大石」さんのサイドメニューの幅の広さには目をみはった。
かき氷の種類、多くないか?ピオーネとか(真ん中いちばん下)
かき氷の種類、多くないか?ピオーネとか(真ん中いちばん下)
ところ天とギネスとごはんが並ぶ壮観な世界。ごはんは、もの足りなかった人が追加で何か食べたい時などに注文するらしい
ところ天とギネスとごはんが並ぶ壮観な世界。ごはんは、もの足りなかった人が追加で何か食べたい時などに注文するらしい
さて、お店をまわって「なるほど!」となったところで、現地の人の見解もぜひ聞いてみたい。家のお好み焼きにもやっぱり、たくあんは入れるのだろうか?
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浜松在住経験者に聞こう

静岡県掛川市在住のライター・鈴木さん親子と待ち合わせた。
街なかで、ハトを被ってくれた鈴木さん母の寛大さよ
街なかで、ハトを被ってくれた鈴木さん母の寛大さよ
鈴木さんのお母さまは福岡で産まれ、中学生の頃に浜松に移住してきている。でも、たくあん文化に違和感を感じた!という強い記憶は特にはなく、いつの間にか自宅のお好み焼きにも入れるようになっていたんだそうだ。
初対面でいきなりお好み焼きをつくってもらってしまった。鈴木さん母:「もんじゃ焼きみたいにしゃびしゃび(水っぽい)!」
初対面でいきなりお好み焼きをつくってもらってしまった。鈴木さん母:「もんじゃ焼きみたいにしゃびしゃび(水っぽい)!」
「(親の)転勤が多かったから、それぞれの地域の食文化を吸収しやすい人間になっていたのかもしれないですね。」

――(なるほど!)家でお好み焼きを作る時も、たくあんは入れるのですか?

「わざわざ買ってきては入れないけど、あったら入れます。丸く輪切りにしてあるたくあんを、もっと細く千切りにして。」

――千切り!

「味というよりも歯ごたえを楽しむ感じ……?ちなみに、高校の頃の友人にも確認してみたのですが、たくあん・紅しょうが・豚ひき肉を入れて、たまごは入れないって言っていました。それで、生地はしゃびしゃび(水っぽいかんじ)にするって。」

――豚ひき肉!

そうか。お好み焼きの具って、もっともっと冒険していい場所だったような気がしてきた……!

街頭で調査もしてみる

さらに、街の人にもちょっと確認をしてみたい。浜松駅前は人通りがほどよく多い。方法は、先日尾張さんが書いていた記事の教訓にならおうと思う。

「アンケートをするならばアンケートボードを作りなさい」
現地でつくった
現地でつくった
聞いてみると、おもしろい傾向があった。ふたり連れに声をかけると、なぜか「入れる」と「入れない」に二分化されることが多いのである。わたしもびっくりしたが、ふたり連れの人たちも、お互いの意見にびっくりしていた。
女性:「入れます!」男性:「えっ」って会話が交わされてた
女性:「入れます!」男性:「えっ」って会話が交わされてた
そして、10代20代あたりでは「知らない!」という声が激増する。中高年世代は即答で「常識よっ」と切り返してくれることも多いのだが、この差はなんなんだろう。
10代の若者たちと久しぶりに会話を交わした気がする
10代の若者たちと久しぶりに会話を交わした気がする
「浜松のお好み焼きって、たくあん入っているみたいなんです」と告げた途端、きょとんとした表情に変わったり、目を見開いていたりする浜松出身者も数人いた。

地元の知られざる姿を、突然あらわれた怪しい人(わたし)に聞かされるって、一体どんな気持ちなんだろう。
結果。みどりが浜松市内の人で、あおが市外の人。唯一市外で「はい」と答えたのは、静岡県内の人だ
結果。みどりが浜松市内の人で、あおが市外の人。唯一市外で「はい」と答えたのは、静岡県内の人だ
おお。入れない浜松市民もけっこう多いぞ……!
聞いたまとめ
・ 中高年層と若者とで、認識度合がかなりちがう。
・ 浜松から少し離れるだけで「知らない!」っていう人が激増する。
・ 入れる人も、「入れねば!!」という強いこだわりはなさそうで、「入れたい人は入れる」「入れる時は入れる」的なフラットさを感じる。たくあんって、家に常にあるとは限らないからだろうか。

最近たくあんを入れ出したお店もある

と、話がちょっとひっくり返りそうになりかけているところで、さらに別見解のお店にも出会ってしまったので最後にお伝えしたい。
浜松駅から自転車でちょっと行ったところにある「ほっこり」。駄菓子のあるお好み焼きやさんだ
浜松駅から自転車でちょっと行ったところにある「ほっこり」。駄菓子のあるお好み焼きやさんだ
こちら、先代の頃からずっとお好み焼きを焼いているけど、長らくたくあんは入れてなかったんだそうだ。衝撃である。入れ始めたきっかけは、お客さんからのリクエストらしい。
関西風のお好み焼きがメインのお店(左上)
関西風のお好み焼きがメインのお店(左上)
生地は、関西風お好み焼きで利用している山芋入りのを薄めて使っているんだそうだ。これがたくあんと合う!
生地は、関西風お好み焼きで利用している山芋入りのを薄めて使っているんだそうだ。これがたくあんと合う!
古くからの伝統も良いものだし大事だけども、たくあんとの共存の仕方にはまだまだ色んな方法がありそうな気がしてきてしまった。

たくあんをもっと摂取したい

わたしも、今後お好み焼きを家でつくる時の具の選択肢に、たくあんを仲間入りさせてみたい衝動にかられている。まずはホットプレートが欲しい。

余談だが、インタビュー時に付けていたピアスを「それ、たくあんとかけてますか?」と聞かれたのだけど、そんな器用なことは全く考えてなかったぞ!と思った。
偶然
偶然
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