特集 2016年9月2日

40円ラーメンのおばちゃんからのメッセージ

40円のこぶつゆラーメンはなくなりましたが、駄菓子屋としてまだまだ元気に営業中でした。
40円のこぶつゆラーメンはなくなりましたが、駄菓子屋としてまだまだ元気に営業中でした。
東京都足立区の新田という場所に、「こぶつゆ」という40円のラーメンを出す店があった。400円じゃなくて40円。

こう書くとすごく昔の話みたいだが、私が取材したのは去年のことで(こちらの記事)、先日ネットのニュースでその終了を知り、個人的にモヤモヤするところがあったので、おばちゃんから話を伺ってきた。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:市販されているキノコの研究

> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

一年振りにセキノ商店へ

私の中では伝説と化している40円のラーメン、「こぶつゆ」を出しているのはセキノ商店という駄菓子屋さん。火を使うから届出としては喫茶店。

去年、友人とあやふやな情報を元に訪れた時は、40円のラーメンってどんなのだろうと不安もあったが、出てきたラーメンをみて、なるほどこれは最高の40円ラーメンだと感動したのを覚えている。
これが「こぶつゆ」と呼ばれる40円のラーメン。昆布を漬けこんだ醤油のつゆなので、こぶつゆ。
これが「こぶつゆ」と呼ばれる40円のラーメン。昆布を漬けこんだ醤油のつゆなので、こぶつゆ。
店主のおばちゃんがとてもチャーミングな方で、なにかの機会にでもまた来ようと思いつつ、路線バスに乗らないと来られないという立地のため、2度目の来店はこぶつゆが終わってからとなってしまった。

一年振りのセキノ商店は、相変わらずやってるんだかやっていないんだかの店構えだった。
看板も何もないですが、中央部分がセキノ商店です。
看板も何もないですが、中央部分がセキノ商店です。
たしかおばちゃんは80歳を超えていたので、自慢のこぶつゆをやめたということは、身体になにかあったのかもしれない。

かなり緊張しながら店に入ると、そこには私の記憶よりもちょっと若返ったおばちゃんがいた。ぜんぜん元気そうだ。

駄菓子屋としては今も営業しているようだが、やっぱりこぶつゆはなくなっていた。それがわかった上で来たのだけれど、昆布醤油スープの大鍋がなくなった店内は、ちょっとさびしく見えた。
83歳だそうですが、お元気そうでなによりです。
83歳だそうですが、お元気そうでなによりです。
ここに昆布醤油の入った大鍋があったんですよね。
ここに昆布醤油の入った大鍋があったんですよね。
こぶつゆは2016年8月29日で終了したそうです。ちなみに取材日は9月1日。
こぶつゆは2016年8月29日で終了したそうです。ちなみに取材日は9月1日。

おばちゃんからお話を伺いました

私がいったときは子供のお客さんもいなかったので、おばちゃんからゆっくりと話を聞かせてもらうことができた。

――こぶつゆがなくなったという話を聞いて、どうしたのかなと思いまして。

おばちゃん「もう歳だからね。悲しがってくれる人もいるけど、私の体が持たない。もし転んで子供にお湯でも掛けちゃったら大変だからね、こぶつゆだけはやめさせてもらいました。麺を仕入れていたところも年でやめるっていうから、私も潮時だなって。ちょうどいいのよ」

――残念ですけど、っていうほど来てないですけど、仕方ないですね。

おばちゃん「高校生なんかにも泣かれました。親の代から来てるでしょ。だから寂しがられてね。でも自分の体は自分で守らなきゃならないから。代わりに70円でカップラーメンを仕入れたから、よかったら食べていってね」
60円で仕入れて70円で売っているというブタメン。
60円で仕入れて70円で売っているというブタメン。
――おお、ブタメンだ。じゃあ前にここで食べた懐かしのとんこつ味をお願いします。

おばちゃん「なんでかしら、とんこつばっかりでるわね」

――セキノ商店といえば、こぶつゆととんこつだからですかね。ちなみにあの白い粉の正体、なんだったんですか?

おばちゃん「あれはね、教えたってしょうがないでしょ。真似したくってウズウズしている人がいっぱいいて、やめたんなら教えてくれっていう電話があったりするのよ」

――でも秘密にすると。なんだかその方がミステリアスでいいかもしれないですね。ここで食べるからこそのとんこつだったし、あの白い粉は伝説のままということで。
セキノ商店のとんこつは、こぶつゆに謎の白い粉を入れたもので50円だった。
セキノ商店のとんこつは、こぶつゆに謎の白い粉を入れたもので50円だった。
そこへ友達らしきおばちゃんが登場

友達のおばちゃん「うちの娘がさ、セキノさんこぶつゆやめたんだってねって。何で知っているのっていったらLINEにでるんだって」

――ネットでちょっとしたニュースになってましたね。

おばちゃん「話題になってるの?昨日もネットでみたという人がきてくれたわ。みんなから教えてもらったけど、私は機械も持ってないから。なんとかチューブだかキューブだかなんだ、知らん。わかりません!」

友達のおばちゃん「すごいわね。もう日本のセキノじゃなく、セカイのセキノなんじゃない。あっはっは」

――コチラの方は地元のお友達ですか?

友達のおばちゃん「私はハワイよ~。あっはっは」

通りがかった小学生「おばちゃーん、ちょっと休憩したんですけど~」

おばちゃん「そこにイスがあるから座っていきなさい」
一休みする小学生。これから塾にでもいくのだろうか。
一休みする小学生。これから塾にでもいくのだろうか。
新たなセキノ商店のラーメン。これはこれでうまいんですけどね。
新たなセキノ商店のラーメン。これはこれでうまいんですけどね。

ネットで話題になりすぎたから終了という訳ではなかった

――テレビの取材なんかも最近はあったみたいですね。

おばちゃん「もう年中よ。この前も連絡が来たんだけど、もうこぶつゆはやめさせてもらったから、駄菓子だけの撮影があるの」

――こぶつゆをやめるということでちょっと気になったのですが、ネットやテレビに紹介されて、大人のお客さんが一気に来たりして、それが負担になったというのはありますか?

おばちゃん「別にネットの人なんてめったに来ないから。一人か二人くらい来たのかな。遠くから来てくれる人もたまにいるけど、40円とか50円のラーメンのために、交通費を掛けてわざわざ来てもらうのも悪いでしょ。こぶつゆは一日15~20杯くらい、ほとんど子供で大人なんかほとんど来ません」

――なるほど。ネットで話題になっても、実際に足を運ぶタイプの店じゃないかもしれないですね。それにしても儲からなそうな商売ですねー。

おばちゃん「昔っから子供が好きだったからね。儲けようと思ったらとんでもない。だって40円のが15杯売れたって、いくらか計算してごらん。帳面みせてもいいくらいよ」

――わー、普通のラーメン一杯分だ!

おばちゃん「それに駄菓子でしょ。一日数千円で終わっちゃうわ。でもいいの、子供が喜んでくれれば。もう最高。なんっともいえない!喜んでもらえたらお金よりもありがたい!」
おばちゃんが書いた「たくましい今の子供達」という手書きのコラムは、子供への愛でいっぱいだった。
おばちゃんが書いた「たくましい今の子供達」という手書きのコラムは、子供への愛でいっぱいだった。
おばちゃん「子供がみんな、おばちゃん、おばちゃんっていって、アメくれたり、お煎餅くれたり、荷物を取ってくれたり。いい子ばっかしなんですよ。子供からエネルギーをもらっていると思うから、全然悔いはない。テレビもいっぱい出してもらったしね」

――駄菓子屋はまだまだ続けるんですよね。

おばちゃん「こぶつゆはやめちゃったけど、死ぬまで頑張りますから、駄菓子をよろしくお願いします!」
話の流れで昔の写真を見せていただいた。右が若き日のおばちゃん。
話の流れで昔の写真を見せていただいた。右が若き日のおばちゃん。
以上、ネットをやらないおばちゃんからのメッセージという意味も込めてお伝えしました。

ここに書いた以外にも、おばちゃんの出身地の話、学校を卒業してからの話、演劇をやっていた話、ゲートボールで区長賞をとった話、赤いバイクに乗っていた話など、たくさんの想い出を聞かせていただき、すごい特をした気分。

しょっちゅう病院に通っていると言いつつも、「今もカラオケやったり、民謡や踊りをやったりで、もう遊ぶのがなくちゃったから、また新しい遊びを見つけなきゃ!」といっていたくらいなので、まだまだ元気に駄菓子屋をやっていくのだと思う。
セキノ商店
住所/東京都足立区新田3-15-10
定休日/不定休

私はセキノ商店には滅多に来ない部外者なのだが、こぶつゆがなくなると聞いて、勝手に寂しいと思った。お金を落としてないので何かを言える立場ではないのだが。

私だけではなく、こぶつゆを続けてほしいという気持ちはみんなにあるのだろうけれど、もし続けることで大好きな子供に小さな火傷でもさせてしまったら、せっかく何十年もやってきたおばちゃんに悔いが残るだろうし、きっとベストの引き際だったのだろう。

大切なのは40円のラーメンを守ることではなく、近所の子供が一息できる場所が残ることなんだろうなと、ブタメンのスープを飲みながら思った。
ツーショットを撮ってもらいました。おばちゃんの服、リオオリンピックのマークみたいだ。
ツーショットを撮ってもらいました。おばちゃんの服、リオオリンピックのマークみたいだ。
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