特集 2016年9月15日

回文ブルースさんと行く回文の里ツアー

ブルースの代表作
ブルースの代表作
阿佐ヶ谷の飲み屋で「回文でライブをする」という男に出会った。名前は回文ブルースさん(37歳)。

本業はIT営業だが、メロディに乗せて回文を叫ぶライブや、結婚式や誕生会などの祝いに回文を贈る「祝い!ワイワイ!(いわいわいわい)」と称した活動も行っているそうだ。

そんな彼が「気になっている町がある」と言った。OK、いっしょに行きましょう。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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「シルクロード」を逆から読むと「道路苦し」

回文の作り方については、過去に馬場さんが記事にしている。しかし、今回は回文の旅である。

当日、回文ブルースさん(以下、ブルース)は集合場所に30分遅れてきた。聞けば、「すみません、さっきまで飲んでて」とのこと。大丈夫だろうか。
朝日がまぶしそうなブルース
朝日がまぶしそうなブルース
ホームの待ち時間で、ブルースが回文を作るようになったきっかけを聞いた。

「小学生の頃、テレビで『シルクロード』を逆から読むと『道路苦し』になるってやっていて『へえー』と思ったんです。それが頭の隅に残っていて、大人になってバンドをやろうとなった時に、じゃあ回文でという流れですね」

列車が到着した。二人で東北新幹線に乗り込む。席に着くと、ブルースがなにやら取り出す。
売店で買ったという「ごまたまご」
売店で買ったという「ごまたまご」
「商品名が回文でしょ。『のもの』という地域の商品を売る店や、八王子アトレに入っている山梨と多摩の物産店『やまたまや』とか、JRはけっこう回文押してる感があるんですよ」
代表作のひとつを見せてくれた
代表作のひとつを見せてくれた
これは、東北復興ライブで岩手の大船渡を訪れた際に作った回文だそうだ。「人間、その尊厳に」という回文で熱いメッセージを挟み、全体で長い回文に仕立て上げている。すごいよ、ブルース。チューハイ飲んでるけど。
ライブの様子。バンド名は「聖なる回文ブルース」
ライブの様子。バンド名は「聖なる回文ブルース」
さて、目的地に着いた。
仙台駅から在来線に乗り換えて約40分
仙台駅から在来線に乗り換えて約40分
作並温泉を中心とした作並地区。この町こそがブルースが「気になっている」という回文の里なのだ。山あいの町だが、一応仙台市青葉区。今回の旅、二人だけでは不安なので、とくべつに現地ガイドをお願いしている。
佐藤照彦さん(52歳)
佐藤照彦さん(52歳)
佐藤さんは、仙台・作並回文の里づくり実行委員会の事務局員なのだ。車がないと身動きが取れない町だと知り、ガイドをお願いして本当に助かった。

19年前から回文による町おこしが始まった

駅に着いたのはお昼過ぎ。「お腹が空いてるでしょう」と案内してくれたのは「満月」という焼肉店。
お昼から開いている名店
お昼から開いている名店
料理が運ばれてくるのを待つ間、回文の里について話を聞いた。
佐藤さんの趣味は将棋で、好きな戦法は棒銀
佐藤さんの趣味は将棋で、好きな戦法は棒銀
作並が回文の里になったきっかけは、江戸時代に現在の仙台市内で麹屋を営んでいた仙台庵(本名・細屋勘左衛門 1796~1869)が詠んだ回文。
みな草(くさ)の名(な)は百(はく)としれ薬(くす)りなり すくれしとくは花(はな)のさくなみ
意味は「花は百種類ほどもあろうか、みな薬である。その優れた効き目は花の盛んに咲き乱れる作並のようだ」。
なるほど
なるほど
「彼は早々に家業を任せて楽隠居した人物。酒を飲みながら当意即妙な回文を作って、人々を楽しませていました。回文師としての名声は遠く江戸まで届いていたそうです」

これに目を付けた作並の有志によって、19年前から回文による町おこしが始まった。毎年、回文コンテストが開催され、18回めを数える今年は全国から約560作品が寄せられたという。また、全校生徒数が16人の作並小学校でも回文の授業を行っている。
12歳の子も粋な回文を作る
12歳の子も粋な回文を作る
ブルースも負けてはいられない。自分の作品をテーブルの上に広げると、佐藤さんから「おお、すごいじゃないですか」という感嘆の声が上がった。
ミュージシャンらしい作風である
ミュージシャンらしい作風である
なお、今回は新幹線の車内で「『作並』を入れ込んでひとつ作ってください」と頼んでおいた。ブルースにそう水を向けると、「ちょっと納得がいってないんですが…」と前置きしてスケッチブックに書いてくれた。
ほろ酔いの渾身作
ほろ酔いの渾身作
轍(わだち)の意味(いみ)無(な)くさない些細(ささい)な作並(さくなみ)命(いのち)だわ
「意味を成していないから、僕の美学に反するやつです」

たしかにそうだが、無理やり解釈すれば成立するような気もする。これはこれですごいと思った。
冷麺800円
冷麺800円
ちなみに、僕が注文した冷麺は相当美味しかった。ブルースが食べている豚ホルモンランチ750円も「めっちゃ美味いっすよ」とのこと。「豚ホルモンランチで詠めますか?」と聞くと、「無理っすよ」と即答だった。
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岩肌がゴリラの横顔に見えるゴリラ山

店を出ると、「せっかくだから作並の町をご案内しますよ」と佐藤さん。まず向かったのは仙台庵の回文碑。「生涯で1000を超える回文を作った」とある。
仙台庵に思いを馳せるブルースと佐藤さん
仙台庵に思いを馳せるブルースと佐藤さん
続いて車は「La楽リゾートホテル グリーングリーン」に到着。
虹色に輝く大露天風呂が有名
虹色に輝く大露天風呂が有名
ここは回文コンテスト交流会の会場でもあり、館内に優秀作品のパネルが展示してあった。
ふむふむ
ふむふむ

第17回作並温泉賞は「湯知れば淀みなく栄しことは永久か作並と呼ばれし湯」。これは支配人も喜ぶだろう。
奥が喜んだであろう支配人
奥が喜んだであろう支配人
さらに、「回文には関係ないんですが、一応作並名物なので」と言って案内してくれたのが通称「ゴリラ山」。
岩肌がゴリラの横顔に見える
岩肌がゴリラの横顔に見える
本当の名前は「鎌倉山」で、ロッククライミング愛好家に人気の山だそうだ。車を運転しながら佐藤さんが言う。

「話は変わりますが、田舎のせいか結婚できない若者が多くて。いま地元で仲人的なシステムを作ろうとしています。この後もそれの打ち合わせに行かないと」

佐藤さんの本業は青葉区役所の職員なのだ。
街道沿いのレストラン「ルート48ドットコム」
街道沿いのレストラン「ルート48ドットコム」
気になったので東京に戻ってから検索すると、「美味しくなさそうな雰囲気が漂っていますが、じつは本格的なイタリアン・レストラン」というレビューがあった。

蒸留所の住所は「仙台市青葉区ニッカ1番地」

旅の締めは、もはや回文とはまったく関係のない場所だが、佐藤さんいわく「作並といえば温泉とニッカウヰスキーなんです」。
「にっかばし」を渡るとニッカの蒸留所
「にっかばし」を渡るとニッカの蒸留所
ニッカウヰスキーの前身は1934年に設立した大日本果汁株式会社。その後、1952年に現在の社名に変更し、1964年、ここ作並に仙台工場宮城峡蒸留所が完成した。
工場見学に訪れた人々
工場見学に訪れた人々
橋の名前は「にっかばし」だし、住所もなんと「仙台市青葉区ニッカ1番地」。地元の歓迎ぶりがすごい。
館内のショップ
館内のショップ
ウィスキー工場だが有名な観光スポットなのだろう。子供連れの家族の姿も見える。
1940年に作られた第1号のニッカウィスキー
1940年に作られた第1号のニッカウィスキー
中身が半分ほどに減っているのは、「たぶん長い時間を経て蒸発したんじゃないでしょうか」と佐藤さん。
うかつにテイスティングもした
うかつにテイスティングもした
12年貯蔵のテイスティングセットは3杯で1000円。ブルースの目がキラリと光る。
回文できました
回文できました
ニッカうかつに
うん、いいと思います。

佐藤さんに丁重にお礼を言って作並を後にした。ちなみに、ブルースが東京駅で買った「ごまたまご」は佐藤さんへの手土産だった。酔っていると思いきや、僕よりしっかりしていた。

カッコイイ男性いないィ?仙台行こっか!

数日後、ブルースから「追加で作並回文を作りました」というメールが届いた。佐藤さんから聞いた婚活ネタも盛り込んでくれている。

ぎゃ!宮城!

脱げ!アタシの死、嬉しい?もぉ、思い知れ!牛の舌あげぬ!

カッコイイ男性いないィ?仙台行こっか!


作並の居酒屋では夜な夜な酒を酌み交わしながら、仙台庵よろしく回文を披露し合っているのだろうか。そうだとしたら、ぜひ参加したい。
作並駅の売店で買った「回文かるた」
作並駅の売店で買った「回文かるた」

<回文ブルース出演情報>

9/18(日)『赤い薔薇の部屋』阿佐ヶ谷MUSWELL
9/22(木)『回文キング』東京テレポート東京カルチャーカルチャー
9/24(土)『ライブタイトル未定』阿佐ヶ谷MUSWELL 10/30(日)『ライブとミニ回文講座(仮)』池袋みらい館大明
11/26(土)『西口フリーマーケット ミニライブ』池袋西口公園
12/4(日)『回文ワークショップ』池袋みらい館大明

<取材協力>

■回文ブルース
ブログ http://blog.livedoor.jp/kaibunblues/
ツイッター @KaibunBlues

■作並温泉
回文の里 作並温泉 http://kaibun.mcpu.jp
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