とくべつ企画「スーツで行く絶景」 2016年9月20日

絶景のダムとダム湖上の駅

取引先の最寄駅がここというサラリーマンもいるかも知れない
取引先の最寄駅がここというサラリーマンもいるかも知れない
編集部より、とっておきの絶景を紹介する記事を書くよう指令が入った。僕に話が来たということは絶景のダムを期待されているのだろう。

しかし、ダムを紹介する記事はこれまで何度か書いている。できれば初めてのダムを紹介したいし、ダムだけでもいいけどプラスアルファの要素も入れたい。どこかいいところがないかと悩んで、ひとつ候補を思いついた。

巨大ダムと、そのダム湖に架かる橋の上にある駅に行こう!

※この記事はとくべつ企画「スーツで行く絶景」の1本です。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:「節水にご協力ください」の意味とは?

> 個人サイト ダムサイト

まずはダムを愛でよう

僕が今回選んだのは、静岡県を流れる大井川の中流に造られた長島ダムである。洪水調節や下流への水の供給などの役割を持ち高さが100mを超える巨大ダムで、2002年完成と新しく、国内有数の急流、大井川を治める迫力の堤体だ。

そしてなにより、事前に申し込みをしておけば、ふだん見られないダムの中を職員さんによる案内で見学できるのが魅力。

…僕は人見知りが激しいので営業職とか向かないと思っているけれど、ダムのセールスだったら多少は生きていける気がする。そんな求人ないだろうか。
大井川をせき止める迫力の堤体、長島ダム
大井川をせき止める迫力の堤体、長島ダム
およそ10年ぶりの来訪で撮影にも熱が入る
およそ10年ぶりの来訪で撮影にも熱が入る
ここに来たのはおよそ10年ぶりだけど、長島ダムは多少年季が入って黒ずんだ以外、特に変わったところもなく迎えてくれた。
などと書くと10年前に辞めた元職員、みたいな感じになる
などと書くと10年前に辞めた元職員、みたいな感じになる
長島ダムは、さまざまな場所から巨大な堤体を愛でることができるのも特徴。
近くで見ると迫力はさらに増す
近くで見ると迫力はさらに増す
改めてダムってでかいよね
改めてダムってでかいよね
その中で、僕のいちばんのオススメポイントはダムのすぐ下流に架かる橋の上だ。放流していると水しぶきがかかる距離にあって、その名もしぶき橋。堤体を正面から眺めることができる、相撲で言えば砂かぶり席である。
その橋に行くためにはこのトンネルを抜ける
その橋に行くためにはこのトンネルを抜ける
しぶき橋に行くには、ちょっと不気味なトンネルを通らなければならない。このトンネル、以前ここを通っていた大井川鉄道のもので、ダムを建設するときに迂回させた線路の跡を遊歩道の一部にしてあるのだ。
このトンネルの向こうからスーツの人来たら僕は気絶すると思う
このトンネルの向こうからスーツの人来たら僕は気絶すると思う
トンネルを抜けるとしぶき橋に到着
トンネルを抜けるとしぶき橋に到着
目の前に高さおよそ100mの迫力ある堤体がそびえ立つ、しぶき橋からの眺めは絶景である。長島ダムの堤体デザインは、ちょっとSFっぽい要素も入っていると思うので、そういった趣味の人にもぜひ見てもらいたい。

個人的にはガンダムに出てくるホワイトベースっぽい、と思っていたら、あとで中を案内してくれた職員さんが「ホワイトベースとほぼ同じ高さなんです」と言っていた。でかいなホワイトベース。
最大で毎秒5000立方メートル放流できるらしい(このとき毎秒約9立方メートル)
最大で毎秒5000立方メートル放流できるらしい(このとき毎秒約9立方メートル)
建設に携わっていた人が久しぶりに来て記念撮影、という感じ
建設に携わっていた人が久しぶりに来て記念撮影、という感じ
さて、そろそろ内部見学をお願いしてある時間だ。ダムの上にある管理所に向かおう。
と言いつつ横にある公園で遊んでしまう
と言いつつ横にある公園で遊んでしまう

ダムの内部見学へ!

今日案内してくれる職員さんと合流し、いよいよダムの内部見学だ。まずは管理所1階にある資料館で簡単な説明を受けたあと、ヘルメットをかぶりエレベーターでいよいよダムの中へ。
超立派な管理所の建物
超立派な管理所の建物
エレベーターの箱の中が古代エジプト柄だった
エレベーターの箱の中が古代エジプト柄だった
現場に慣れていない政治家や役人が視察してるみたいな雰囲気
現場に慣れていない政治家や役人が視察してるみたいな雰囲気
ダムの中にはさまざまなセンサーや装置が組み込まれていて、それらを結ぶようにトンネルが通っているのだ。

長い通路を歩いて、たどり着いたのはコンジットゲート室。コンジットゲートとは堤体の下の方に設置されている水門のことで、通常の洪水調節で放流するときに使うものだ。

長島ダムのコンジットゲートは、1門あたりの最大放流量が毎秒1000立方メートルという日本最大級のものを6門も装備している。コンクリートで囲まれた部屋の中に鎮座した巨大な赤い水門。この非日常感は興奮する。
現在この奥にいます
現在この奥にいます
そしてそこにあるのがこの巨大水門
そしてそこにあるのがこの巨大水門
この水門の向こう側はダム湖の中。30気圧もの力がかかるので頑丈に作ってあるのだそうだ。これが開いて放流するところも間近で見てみたいけど、音と風圧できっと大変なことになるだろう。
開くときは真ん中の黒い蛇腹の中のシリンダーで水門を引っ張り上げる
開くときは真ん中の黒い蛇腹の中のシリンダーで水門を引っ張り上げる
やる気はあるけど理解してない、みたいな雰囲気
やる気はあるけど理解してない、みたいな雰囲気
その後も、いろいろな説明をしていただきつつ、ダムの中の通路を通って堤体の上に戻ってきた。
視察をして仕事終わった気になっている、みたいな雰囲気
視察をして仕事終わった気になっている、みたいな雰囲気
ここまでおよそ1時間、案内していただいた職員さんにお礼を言って別れ、長島ダムのすぐ横にある大井川鉄道の長島ダム駅に向かった。ここから列車に乗って、長島ダムのダム湖に架かる橋の上に造られた絶景駅に向かうのだ。
ふつうに駅で電車をまっているサラリーマン
ふつうに駅で電車をまっているサラリーマン

絶景の湖上駅へ

やがて列車がやってきた。ここを通る大井川鉄道井川線は、ふつうの私鉄やJRなどに比べて車両がひと回り小さいトロッコのような雰囲気。さらに、長島ダムを迂回するために急勾配を上る必要がり、線路のレールとレールの間に敷かれた歯のついたレールに、車輪の間につけられた歯車を噛ませて進むという、現在は全国でも唯一のアプト式を採用している珍しい路線。この区間だけ、アプト式専用の機関車がつけられる。
あ、列車来た!
あ、列車来た!
連結したり切り離したりしてるとこ気になる
連結したり切り離したりしてるとこ気になる
平日ということもあって列車は空いていた。部分的に、窓がなく完全にトロッコのようなオープンエアになっている席があって気持ちよさそうだったけど、そこに座っていたお客さんに「なぜここでこんな服装なの…」みたいな目で見られたので大人しく空いている車内に座った。
観光列車に乗っている犯人を尾行、みたいな雰囲気
観光列車に乗っている犯人を尾行、みたいな雰囲気
しかしそれでも楽しくなって、窓を開けて外を眺めていたら完全に仕事から逃げてきて何もかもどうでもよくなった人みたいな雰囲気になった。
あーもう会議とかどうでもいいや…
あーもう会議とかどうでもいいや…
そうこうしているうちに、列車は2駅先の絶景駅、奥大井湖上駅に到着。ほとんどのお客さんが降り、僕もそのあとに続いた。
ここかー
ここかー
ワケありサラリーマン秘境にあらわる
ワケありサラリーマン秘境にあらわる
ふつうの服装の人と一緒にいると違和感が出ることがわかった
ふつうの服装の人と一緒にいると違和感が出ることがわかった
奥大井湖上駅は長島ダムのダム湖に突き出した尾根の上に造られていて、前後をダム湖を渡る橋に挟まれている。まさに陸の孤島だ。駅から外に出るには、線路の横に設置された歩道で橋を渡って行かなければならず、渡った先も特に何もない。

ほとんどこの絶景を見るために存在していると言っていいだろう。
しかし東京で地下鉄を待っているときと同じように振舞ってみる
しかし東京で地下鉄を待っているときと同じように振舞ってみる
しかしこの場所でこの服装はやや不適切であることが分かった。上の写真のように違和感を出そうとがんばっているときはまだいい。ふと気を抜くと思い詰めてやってきてしまった人のようになってしまうのだ。
まさかEU離脱するとはなぁ…
まさかEU離脱するとはなぁ…
上場したとき鐘、鳴らしたなー
上場したとき鐘、鳴らしたなー
駅の真ん中に立っていた鐘は「風の忘れもの」と書かれていた。いろいろなことを忘れて風になってしまいそうな男が鳴らした鐘が、絶景の駅の空に虚しく響いた。

そして僕以外、誰もこの鐘を鳴らさなかった。

そうこうしているうちに列車がやってきた。これに乗って現実の世界に帰ろう。
早く家に帰って着替えたい
早く家に帰って着替えたい

スタンスが決まらない

「スーツで絶景の場所に行ってほしい」と言われて出かけた絶景ダムと絶景駅。違和感は外見だけでなくスーツの中の自分のメンタルにも及んでいて、何しにここに来たのか、どういう設定でレポートすればいいのか、最後まで肩の力が抜けずにブレブレだった。

けどそれはもしかしたら僕がスーツを持っていなくて礼服で行ったせいかも知れない。
それはそうと途中の峠の霧がすごくてあの世っぽかった
それはそうと途中の峠の霧がすごくてあの世っぽかった
シートベルト、してればなー
シートベルト、してればなー
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