特集 2016年10月3日

日曜も営業している魚屋はクオリティが高かった

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近所の魚屋は日曜が定休日だ。いや、近所のに限らず日曜に休む魚屋は多い。魚市場の多くは日曜が休市日のため、仕入れができないからだろう。

しかし、それでも日曜に店を開ける魚屋がある。よほど勤勉なのか、休んでいられないほど需要があるのか。いずれにせよ、きっと商売熱心で良い魚屋に違いない

そう思って日曜の魚屋を巡ったら、本当にひと味違うお店ばかりでびっくりしました。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

上野の老舗「吉池」

まずやってきたのは御徒町駅前にある「吉池」(東京都台東区上野3-27-12)。最近建て替えられた新しいビルだが、創業96年の老舗だ。 日曜もやっているどころか年中無休である。

駅側から見るとユニクロの店舗が入っているため、ここが魚屋だと気づかない人もいることだろう。僕も、ついこないだまで普通のファッションビルだと思っていた。
ビルは2014年にできたばかりで新しい
ビルは2014年にできたばかりで新しい
ユニクロの奥に魚屋「吉池」はある。マネキンの向こうに「根室沖さんま」ののぼりが見える
ユニクロの奥に魚屋「吉池」はある。マネキンの向こうに「根室沖さんま」ののぼりが見える
上野・御徒町エリアではアメ横ことアメヤ横丁にも多くの魚屋がある。余談だが筆者が埼玉の中学生だったとき、我が地元ではなぜか服を買うのは渋谷や原宿ではなくアメ横へ繰り出すのがオシャレとされていて(もしかしたら僕らのグループだけだったかもしれないが)、僕もそんな謎のしきたりにならい激安のマグロや冷凍のカニを売る魚屋の横にある古着屋で生臭いスカジャンを買った。2~3年は着続けたが、最後までニオイはとれなかった。

ユニクロと吉池は入口も別々で完全にセパレートされているのでニオイはつかないが、洋服の横で魚を売るというのは、界隈の伝統なのかもしれない。
そんな吉池はとにかく品揃えが豊富だ。錦織圭選手の大好物のどぐろや
そんな吉池はとにかく品揃えが豊富だ。錦織圭選手の大好物のどぐろや
天然クエのかぶと、とかもある
天然クエのかぶと、とかもある
吉池の売りは、プロの料理人が求める水準の鮮度と品揃えを「市場価格」の安価で提供していること。すなわち、仕入れの腕がいいのである。これぞ魚屋の仕事、真骨頂という感じがする。大衆魚から高級魚、珍魚まで、全国津々浦々の鮮魚が集まり、小さな築地市場みたいだ。

そして、吉池は特に「鮭」に力を入れているようである。
鮭の番付表みたいなのがあった。横綱は有名な「鮭児」。時価
鮭の番付表みたいなのがあった。横綱は有名な「鮭児」。時価
振り返ると鮭がいた。ギョっとした
振り返ると鮭がいた。ギョっとした
また、地下階はスーパーマーケットになっていて、オリジナルの水産加工品も豊富に揃う。
北海道近海産のいかを使ったいかめし
北海道近海産のいかを使ったいかめし
特に心くすぐられたのは、紅鮭を使った鮭フレークだ。
ええっ、あのマツコが??
ええっ、あのマツコが??
買うよね
買うよね
ほかにも気の利いたおかずが多数。左上から時計回りに「照り焼きいい蛸」「うにほたて」「しそ白魚」そして「紅鮭フレーク」。全部で1000円いかない驚くべきリーズナブル
ほかにも気の利いたおかずが多数。左上から時計回りに「照り焼きいい蛸」「うにほたて」「しそ白魚」そして「紅鮭フレーク」。全部で1000円いかない驚くべきリーズナブル
おお、いつもはわびしい我が家の食卓が宝石箱のようだ。では、あの人が絶賛したという鮭フレークをアツアツのごはんにぶっかけて食べてみよう。
ぱく
ぱく

うますぎるだろ

正直、鮭フレークってパサパサしていて苦手だったのだが、吉池の鮭フレークはとてもしっとりしている。細かいほぐし身にしっかり脂がのっていて旨みが濃厚だ。つまり、めちゃくちゃウマイ。さすが北海道の直営工場でつくったというだけのことはある。それはそれは手塩にかけて加工されたのだろう。塩鮭だけに。
美しい...うつくしすぎる鮭フレークだよ君はまったく
美しい...うつくしすぎる鮭フレークだよ君はまったく

錦糸町南口の名店「魚寅」と、その分家「魚錦」

日曜もやっている魚屋はやはり凄いのかもしれない。他の店ものぞいてみよう。

錦糸町駅前には南口に2軒、日曜営業の魚屋がある。まずは「魚虎」(東京都墨田区江東橋3-9-14)。三崎港のマグロ問屋が営んでいる。
いかにも商売繁盛してそうな外観
いかにも商売繁盛してそうな外観
2階は鮨屋になっている
2階は鮨屋になっている
「魚屋が営む鮨屋にハズレなし」と、かの魯山人はべつにいっていない。僕が勝手に思っているだけだ。だって絶対いい魚使っているし、鮨屋をやるからには目利きに自信があるに違いない。

それはさておき、この魚屋も品揃え豊富かつ、安い。でっぷりとした肉厚のウナギが1000円である。

そして、なんといってもマグロだ。専門問屋直営だけに、マグロの品揃えは吉池をしのぐ充実ぶりだ。
こんなにでっかいウナギが1000円。うなぎ好きとして錦糸町住民がうらやましすぎる
こんなにでっかいウナギが1000円。うなぎ好きとして錦糸町住民がうらやましすぎる
そんな魚寅の名物といえば「まぐろぶつ切り」の量り売りである。
そんな魚寅の名物は「まぐろぶつ切り」の量り売りだ。たこより安いというのもマグロ問屋ならでは
そんな魚寅の名物は「まぐろぶつ切り」の量り売りだ。たこより安いというのもマグロ問屋ならでは
一方、少し駅寄りに店を構えているのが「魚錦」。元々は魚虎の傘下だったらしいが20年前に惣菜部が独立。焼き魚や弁当、フライなどを売っている。
主に魚を使った惣菜を販売している
主に魚を使った惣菜を販売している
さんまの塩焼き特大サイズが2本で300円。秋になって価格が落ちついてきたとはいえ、このサイズにしては安い
さんまの塩焼き特大サイズが2本で300円。秋になって価格が落ちついてきたとはいえ、このサイズにしては安い
イカの丸焼きやら色々入った詰め合わせは1000円。中身は後ほど
イカの丸焼きやら色々入った詰め合わせは1000円。中身は後ほど

住宅街の繁盛店「野口鮮魚店」

さて、買ったものはあとで紹介するとして、もう一軒べつの店に向かおう。魚屋の店じまいは早いのだ。

やってきたのは東京スカイツリーのおひざ元・東駒形。駅前でも商店街でもなく、人気の少ない住宅街である。こんな立地条件で日曜もやって商売が成り立つなんて、相当気合の入ったお店であろう。
静かな通りの一角に、日曜もお客の絶えない魚屋があるという
静かな通りの一角に、日曜もお客の絶えない魚屋があるという
「小さな魚がし 野口鮮魚店」(東京都墨田区東駒形4-6-9)は、築地のまぐろ屋直営店。築地の休市日(になることが多い)水曜に合わせてかこちらも水曜定休だが、日曜は元気に営業している。しかも、めちゃくちゃ繁盛している。表には人が全然歩いていないのに、店内だけ凄い人口密度である。
「築地まぐろ屋直営」。思わずひれ伏してしまいそうなほど堂々たる響きだ
「築地まぐろ屋直営」。思わずひれ伏してしまいそうなほど堂々たる響きだ
人気の理由は新鮮なマグロを中心に切り身や刺身が安く買えることももちろんあるが、なんといっても店の奥にある食事スペースだろう。豪華な海鮮丼がバカ安い値段で食べられる。
豪華なネタがぎっしりの刺身盛り合わせはタイムセールで1600円
豪華なネタがぎっしりの刺身盛り合わせはタイムセールで1600円
なんせ、これが1430円である。
海鮮ちらし上(汁物付)1430円。や、やす~
海鮮ちらし上(汁物付)1430円。や、やす~
中トロ、大トロ、ウニ、イクラ、海のスターをこれでもかと敷き詰めたちらしがこの値段。とある海沿いの観光地で食べた海鮮丼はこれの半分くらいのネタの種類で、ネタ自体もぜんぜん貧弱だったのに3000円とられたぞ。

シャリの酢はほんのり香る程度。酢飯が主張しないので上質なネタの味わいを存分に楽しめる。3000円レベルの満足感だ。
写真では伝わりにくいがカキフライもでかい。生臭さなど微塵もなく、プリプリの身を噛みしめると肉汁ならぬ「カキ汁」が口の中に溢れる
写真では伝わりにくいがカキフライもでかい。生臭さなど微塵もなく、プリプリの身を噛みしめると肉汁ならぬ「カキ汁」が口の中に溢れる

食通もご満悦

僕の隣にいた2人組のおにいさんたちは常連のようで、海鮮丼を頬張りつつこの店が近所にあることへの感謝をしみじみ述べていた。

2人はずーっと食べ物の話をしていて、最初は「ネタとシャリの間に敷いてあるネギがいい仕事してるね」とか、「この銀ダラの煮付け方は神だね」とかお店への賛辞だったが、しまいには「昆虫は食材としてなぜ広まらなかったか」という日本の食文化の考察にまで展開。食べることが本当に好きなんだなあと微笑ましくなってしまった。そして、そんな食通のおにいさんたちが通うこの店が名店であることを改めて確信した。

ちなみに、昆虫食が広まらなかったのは捕獲の労力に対し1個体あたりのエネルギー量が少なく、栄養素として効率が悪いからではないか、というのがおにいさんたちの見解であった。僕は単純に気持ち悪いからじゃないかなとディベートに参加しそうになったが、それはやめておいた。
アルコールもあり、ボトルキープもできる
アルコールもあり、ボトルキープもできる
というわけで、推測通り「日曜もやっている魚屋」は名店である(確率が高い)ことが分かった。漁港近くの問屋直営、あるいは独自のルートで新鮮なネタを安く仕入れ、これぞという目玉がある。魚のおいしさを引き出す調理の腕前も一級品だ。

なお、今回の戦利品はこちらである。
魚寅名物「まぐののぶつ切り(100g)」270円。赤身の中にトロが混じっていたときの喜びたるや
魚寅名物「まぐののぶつ切り(100g)」270円。赤身の中にトロが混じっていたときの喜びたるや
野口鮮魚店「刺身盛り合わせ」1600円。見るからに漂う「いいネタ感」。特大の甘エビ2本がなんとも華やか
野口鮮魚店「刺身盛り合わせ」1600円。見るからに漂う「いいネタ感」。特大の甘エビ2本がなんとも華やか
魚錦「詰め合わせ」1000円。ホタテにツブガイ。素材を活かしたやさしい味付けだが、ちょっと薄く感じられる人にはウナギのタレが頼もしい
魚錦「詰め合わせ」1000円。ホタテにツブガイ。素材を活かしたやさしい味付けだが、ちょっと薄く感じられる人にはウナギのタレが頼もしい
これだけの豪華な晩餐で3000円かかっていない。居酒屋で頼んだらそれぞれ倍の値段はとられそうなクオリティである。これから日曜は外で飲まずに魚屋でつまみを調達しよう。

日曜は魚屋へ行こう

ふだんはスーパーばかりでほとんど行かない魚屋の魅力、日曜も営業している商売熱心なお店は最高であることがわかった。板橋のほうには魚屋なのにピザを売るお店があるという情報も入手している。女将手製のあん肝も絶品らしい。もちろんそこも日曜営業である。
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