チャレンジの日曜日 2016年10月16日
 

書き出し小説大賞 第109回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

先ほど誰かのリツイートで「トランプさんて、虎の屁みたいだね。虎んプ、ってか(笑)」というつぶやきが流れてきた。茂木健一郎氏のツイートである。自分のアカウントで拡散するのも恥ずかしいので、ここで報告しておきます。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう!

書き出し自由部門

唐突に、赤飯の胡麻塩を感じた。
TOKUNAGA
貝殻を貝のお金にするのは族長の孫娘の役目だ。
prefab
ニュースは体を通り過ぎ、言葉にならないものだけ置いていった。
正夢の3人目
この地方では、天気雨のことを「姑の溜息」と呼ぶ。
ウリムク
ビンタは往より復のほうが痛かった。
ウリムク
噴水の真上で腕組みをしているのが父です。
茂具田
ピエロから風船を受け取った子どもたちは次々と空にさらわれていった。
Mch
ダム湖から引き揚げられたとき、その招き猫は深い緑色をしていた。
Mch
クレーンの森のずっと奥に、重機の神様はいた。
Mch
この絶景に飽きて四日になる。
ふじーよしたか
土砂降りの中、不誠実なバスを待っている。
merumo
Mr.ホットドッグのハーモニカは、美しく気高い。
いがそ君
一枚の紙のように寝静まった深夜の町を、パトカーのサイレンが切り裂いていった。
xissa
粉々になったチョークは、何ゴミなのだろう。
もろみじょうゆ
あとは出すだけの絵葉書が、小鳥の形に色褪せている。
ヌヨコ
もうだれの葬式も思いつかない。
小夜子
TOKUNAGA氏「唐突に〜」惣菜コーナーで売られている赤飯のポジションが以前から謎だった。赤飯というと普通祝い事で食べるイメージがあるが、惣菜コーナーでは日常的に売られている。ということは毎日どこかの家庭で赤飯に値するイベント、もっと言うと娘の初潮があるのだろうか、と思っていた。しかし実体は違うようだ。赤飯はむしろなんでもない日に、独身男が買ってしまうケースが多い。かく言う私も結婚前は、というか今も無性に赤飯を食べたくなるときがある。あの冷めて固まった、箸を刺すと丸ごと持ち上がる赤飯。胡麻塩はたいてい均等に掛からず、表面の一部をやけに塩辛くする。惣菜コーナーの赤飯にはしみじみとした孤独の味わいがある。
prefab氏「貝殻を〜」貝殻を水着にする女性もいいが、こちらの孫娘も捨てがたい。ウリムク氏「姑の溜息」由来になったエピソードも知りたい。Mch氏の三作品はどれも秀逸。クレーンの森からの重機の神様。なんという独創的なイメージ。

続いては規定部門。今回のモチーフは「切ない」であった。一挙27連発の切なさに胸を押し潰されてください。

書き出し規定部門・モチーフ「切ない」

なすすべもなく、レンゲがスープに沈む。
紀野珍
スープ無くなり次第終了の店は今日も遅くまで開いていた。
哲ロマ
見たことある手品だった。
よしおう
その別れ話、次の雨まで待っていただけませんか。
ぴすとる
僕はそっと、君の軌道からはずれた。
ぉっさん
私にはその糸が赤く見える。というだけのお話。
けー
自分で灯したローソクを吹き消し、自分で電気を点ける。
うにねこ
母が作るキャラ弁はちょっと古い。
ぐるりん
足は生えないまま、尻尾ばかり短くなる。
義ん母
この村の道は車が通らないが、時間になると街灯がついた。
ヘリコプター
流出した私のプライバシーは、いっさい拡散せずに消えた。
suzukishika
私が思いつく限りの全てが、説明書で否定されている。
terayo
風俗店の灯々が、夜学の帰り道を照らしてくれる。
ボーフラ
酎ハイは水になって終わる。
まじいい
とてつもなくエロい夢だった。目が覚めると、泣いていた。
八重樫
余り物だと言われて貰うパンの耳は、いつも温かった。
雨の日は寝る
酔った父が知らない演歌歌手の同じCDを五枚買ってきた。
g-udon
同じ雑巾をずっと絞っている。
井沢
初めてのチヤホヤを与えてくれたギプスが今、切られようとしている。
うぃけっと
自分が捨てられたということに「師匠」はまだ気づいていない。
suzukishika
駅前で待ち続けたストーカーは、ついに銅像になった。
タクタクさん
台風のあと、一夏を越えた蜘蛛の巣はそこになかった。
九官鳥級艦長
海鮮丼だらけのインスタグラムをみている。
TOKUNAGA
その相撲中継は、ドローンによるものだった。
にら将軍ハルナ
胸が締め付けられるたび、色んな工具がよぎる。
それでも嬉しかった
ワラを様々な富に交換して行き、また最後にワラと取り替えてしまった。
あつし
相田みつをがビジネス書の棚にささっている。
xissa
大量の投稿作を読んで「切なさ」とはつまり、あらゆる感情のブレンドではないかと思った。切なさというカクテルの中には喜怒哀楽そのほかモロモロの感情が混じり合い、その配合や割合は人それぞれ違う。
哲ロマ氏「スープが無くなり次第終了〜」今日もの『も』が切なさを倍増させる。義ん母氏「足は生えないまま〜」切なさも行き過ぎるとホラーの領域に届く。ボーフラ氏「風俗店の灯々〜」いまどきのセツナ系とは対極にある硬派な切なさ!八重樫氏「とてつもなくエロい夢〜」分かる。イキ過ぎると切なくなる。suzukishika氏「自分が捨てられた〜」弟子視点にすることで切なさにサスペンスの要素が加わった。にら将軍ハルナ氏「その相撲中継は〜」ドローンによる相撲中継が切ないという、全く新しい切なさに感動。切なさのツボって本当に人それぞれだなと思った。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「アート」
美術や芸術ではなく敢えて『アート』にしたのは、そこから漂う軽さや、いかがわしさも含めたかったからである。世間にはとりあえずアートと言えば許される風潮がある。また生活にアートを取り入れる、アートで町おこし、などアートは昔に比べずいぶん便利に使われている。そんなアートの可能性を書き出し小説でさらに広げてみたい。作品の中にオリジナルのアート作品を出すもよし、アートだと感じた光景、瞬間を書くもよし、それぞれのアートを活写して欲しい。締め切りは10月28日正午、発表は30日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募して欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

Yuzie/吉田髑髏/東ことり/お皿が乾くの3時間/桃アパートおばけ/十口山鳥/すふれ/
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