チャレンジの日曜日 2016年10月30日
 

書き出し小説大賞 第110回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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ハロウィンである。ハロウィンといえばトリックオアトリート、翻訳するとお菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!つまり食料をくれないと暴力に訴えるぞ!というバイオレンスな行事である。仮装どころではない。今年も渋谷は完全武装の若者たちでマッドマックスなみの無法地帯と化すことだろう。外出は極力控え、書き出し小説の熟読をオススメする。

書き出し自由部門

晴れた歩道橋の上から年末を望む。
xissa
余計な毛ほど伸びる。だから何も考えない。陸橋の上でそう決めた。
g-udon
右下の引き出しは、少し出てきて止まった。
まじいい
銀河鉄道のローカル線は一年に一本しか電車が来ない。
kwsk
タイムカードを押して森に入る。
梅肉
「まっすぐな線を引くコツは息を止めることだよ」と教えてくれた田中くんの言葉に小学生の頃から縛られている。
あだんそん
あの擦り傷に、鈴虫の音が染みてきた。
merumo
独裁者も気になれば自らテーブルを拭く。
高田
念願の腕枕。肘から先の感覚はとっくにない。
紀野珍
零時。時計塔の頂上から舞う彼はムササビのようだった。
けー
バンズからずり落ちると思われたピクルスは微かに震えると再び中に潜り込んでいった。
サタヤラ
知らない街の肛門科へ行く。
ヘリコプター
前方後円墳の前で、やっていいことと悪いことがある。
morin
ねえ先輩、あの日みたいな月ですよ。明朝体のはらいのような。
猫背脱却物語
空港で首にかけられたレイを食いちぎる父の写真が飾られていた。
井沢
私の吐瀉物を鴉が啄み、それを息子が見ている。
muddom
突如始まったフラッシュモブは三人以降増えなかった。
お皿が乾くの3時間
初恋は遅ければ遅いほど良い。遅いほど美談に聞こえる。
くずきり
薔薇のように盛られた牛肉越しに咎められていた。
TOKUNAGA
神がVRゴーグルを外すと、世界は消えた。
紀野珍
噎せるために、端っこに移動した。
義ん母
死ぬまでに一度は見てみたいと思っていた360度の水平線を、まさに死ぬ直前に見た。
Mch
xissa氏「晴れた歩道橋の〜」頭上に広がる高い空と、活気の中にもセンチメンタルを潜めた街並みが浮かぶ清々しい作品。一方g-udon氏の「余計な毛ほど〜」もまたアホらしい気づきと決意が妙な清々しさを生む秀作。歩道橋と陸橋という似たシチュエーションで赤の他人がそれぞれの想いを馳せる。毎回届く大量の作品の中には時折こうしたシンクロニシティがあるのが面白い。 kwsk氏「銀河鉄道のローカル線〜」無人駅ならぬ無人星で到着を待つアンドロイドなど想像がふくらむ。けー氏「零時〜」マントの下は全裸の変態ムササビ男が浮かんだ。ヘリコプター氏「知らない街の肛門科〜」主人公になったつもりで再読すると、不安の中にも否定しがたいときめきを感じるのはなぜだろう。morin氏「前方後円墳〜」どうでもいい話だが前方後円墳を紹介する図版はたいてい後方にあるはずの円墳部分が上に描かれている。ということはアレは前円後方墳ではないか? 井沢氏「空港で首に〜」muddom氏「私の吐瀉物〜」両方とも独特の「イヤな感じ」がある。昨今ミステリ界ではイヤミスと呼ばれるジャンルが流行っているという。書き出し小説にもイヤダシとも呼べる一群があるようだ。

続いては規定部門。今回のモチーフは「アート」だった。画廊に並ぶ絵画のように鑑賞して欲しい。

書き出し規定部門・モチーフ「アート」

念願の第一子に「無題」と名付けた。
八重樫
その作品に躓いた時、僕はアートの一部になった。
純鈍
保護フィルムに浮いた気泡は私だけの名作。
スーパーおもしろワールド
アートへの全幅の信頼が、彼に下着を脱がせた。
紀野珍
君のそれはアートではない、空き巣だ。
哲ロマ
夜逃げを頼んだら、アートな引越し業者がやってきた。
吉田髑髏
「葛飾北斎は生涯で九十三回引っ越しをした。だから引っ越しとアートは関係が深い」と男は言った。
ぐるりん
母親が作ったティッシュケースがフランスで評価された。
もんぜん
早退の理由にアートと書いた。
まじいい
ここまでがアートで、ここからは台だ。
まじいい
陳列されたどの作品も「こういうことでしょ?」と語りかけてくる。
紀野珍
説明を聞かなければ、死んだ猿がパイプ椅子に座っているだけである。
ボーフラ
濁り切ったコンタクトは世界をゴッホにする。
義ん母
この牛カルビのオブジェを見るために、千恵子はわざわざ東京まで足を運んだのだ。
タクタクさん
誰もが初期を語りたがる。
terayo
私の作品のほとんどがこの老人とカップ酒で交換したものだった。
サタヤラ
「全部、わざとです」
TOKUNAGA
印象派のくせに。
局長
最先端すぎて理解されないとうそぶいた本人も、さんざんけなした評論家も、みな後世の評価を知ることなく逝ってしまった。
Mch
あの像だけさっきから勃起している。
小夜子
絵描きが赤い作品を発表するたびに、村から一人ずついなくなった。
東ことり
押収品の並べ方で一悶着あった。
けー
初めての作品は兄の葬式だった。
suzukishika
床から壁、天井まで一面に「最後の審判」が描かれた大広間のいちばん奥に、まっしろなキャンバスが掛けられている。
東ことり
オカンのセロハンテープ作品群は哀愁をテーマにしているらしい。
みけねこ
皆、おれを認めてくれ。
K
八重樫氏「念願の第一子〜」これほどなにも言い返せない命名もない。無題目線の続編も読みたい。スーパーおもしろワールド氏「保護フィルム〜」アートはつくり出すより見出すものかもしれない。哲ロマ氏「君のそれ〜」アート悪用の一例。吉田髑髏氏「夜逃げを頼んだら〜」はスマートはアート引越センターネタ、ぐるりん氏「葛飾北斎〜」も同じネタを違う角度で料理してくれた。うっかり信じてしまいそう。まじいい氏「ここまでがアートで〜」多くの人が現代美術に感じている胡散臭さを見事に皮肉っている。紀野珍氏「陳列されたどの作品も〜」はさらに冷たいメスで本音をえぐる。そうそうこの感じが苦手だったんだと、いままで片づかなかった感情の整理がついた。感謝。義ん母氏「濁りきったコンタクト〜」これで写真をゴッホ風にするアプリはいらない。けー氏「押収品の並べ方〜」下着の陳列にはとくにこだわりたい。K氏「皆、〜」ひと言で言えばそういうことかもしれない。通読し、芸術がなにかを超越したものなら、アートは一線に留まり、その境界に生まれるモノの見方や価値観ではないだろうかと思った。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「ぼっち」
最近では孤独な状態のことを「ぼっち」と言うらしい。友達や恋人がいない状態だけでなく、ひとりでごはんを食べることを「ぼっち飯」ひとりで映画をみることを「ぼっち映画」と呼ぶなど、いわゆる「孤独」よりはライトに使用されているようだ。さまざまなレベル、状況のぼっちを考えられると思う。また必ずしも悲観的ではなくぼっちの楽しさが伝わる作品にも期待したい。締め切りは11月11日正午、発表は11月13日を予定している。下記のフォームから自由部門、規定部門を選択して応募ください。力作待ってます!
最終選考通過者

もちを/unnnunn/たこフェリー/よしおう/イワモト/卯村/菅原 aka $UZY/それでも嬉しかった/五捨六入/トミ子/モーネル/prefab/夏猫/morin/茂具田/ねもっ血風クン
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