特集 2016年11月27日

書き出し小説大賞 第112回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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先日のアメトーーク!での紹介以降、Amazonでは売り切れが続いてる単行本『挫折を経て、猫は丸くなった』ですが今週中には重版が、また12月9日にはkindle版が配信になります。連載ももちろんですが、単行本はさらに厳選された上、作品も縦書きになってますのでまた新しい魅力に触れて頂くことができると思います。

それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

兄は流れ星を追って消えた。
夏猫
無職になって駅への近道を見つけたよ。
へリコプター
母は空き巣のこともちゃん付けで呼んだ。
もんぜん
美沙には教会に行く理由が名前以外にもあった。
g-udon
新人賞をとった友人の短いWikipediaがかわいらしい。
桃アパートおばけ
県境での反復横跳びは、得も言われぬ背徳感を伴った。
八重樫
塩をたっぷりかけて揉み込むと、タコはギュッと鳴って動かなくなった。
朝から
「1万なら貸すよ」と私が言ってから、彼は咳をしなくなった。
それでも嬉しかった
メトロノームを拾って、迷って、捨てた。
義ん母
ふまじめに灯る明かりがなぜ優しい。
雨の日は寝る
孫の手のない世界は優しさで溢れている。
terayo
「ここ、昔のコンビニ」「昔の女」と言うかの如く、松崎は吐かした。
ふくしまの
諭すように三つあみを編んだ。
TOKUNAGA
噂だけで辿り着いた風俗街は、茶畑が地平線まで続いていた。
ボーフラ
デパートの屋上遊園地、銃のないアメリカというファンタジー。
ミミズグチュグチュ
世界は一人の天才、三匹の豚、七体のラブドールで構成されている。
吉田髑髏
会議中、社内のタブーに触れて発言した山下は今、南アフリカで干し肉となっている。
高田
まるで映画のワンシーン。そう思った時点でもはや私は登場人物ですらない。
七世
神主は鈴をアンプに繋げた。
ウチボリ
盆地の子供に夕日は当たらない。
xissa
夏猫氏「兄は流れ星~」潔い。兄は、とあるので語り手は弟か妹だろう。兄弟の微妙な関係性と距離感が伺える。へリコプター氏「無職になって~」語末の「よ」に無職の自由さとあどけなさが込められている。g-udon氏「美佐には~」よくよく読めばただのダジャレながら、ミステリアスな美佐のキャラが浮かび上がる。見事。桃アパートおばけ氏「新人賞をとった友人~」短いWikipedia。世界にまたひとつ可愛いモノが追加された。朝から氏「塩をたっぷり~」このタコもなんか可愛い。義ん母氏「メトロノームを拾って~」おそらくメトロノームを拾った人の大半が同じ行動をとるのではないか、と思わせる不思議な説得力。ボーフラ氏「噂だけで辿り着いた~」この徒労感は猿の惑星のラストに匹敵。ミミズグチュグチュ氏「デパートの屋上遊園地~」感性を伝えるのに文章としての体裁にこだわる必要なない。xissa氏「盆地の子供に~」この文章から浮かぶのは風景というより理科の教科書にあるような「図」である。なのに叙情的ですらある。名作ではないだろうか。書き出し小説だからこそできる「冒険」を改めて感じた回でした。

続いては規定部門。今回のモチーフは「賭け」であった。書き出しギャンブラーたちの勝負作をどうぞ!

書き出し規定部門・モチーフ「賭け」

父がギャンブルをやめるはずない。これは血筋なのだ。賭けてもいい。
g-udon
携帯の充電は残り2%、なのに私はこの文章を打っている。
ぽよりん
ゴール間際で、騎手は自分の尻を叩き始めた。
夏猫
2番人気を複勝で。シマウマは無視だ。
炎の文房具屋さん
馬名に下ネタが3つも入っていた。
大伴
万馬券の味を覚えたヤギは危険だ。
もずく酢
このフライがイカかオニオンなのか、オニオンなら私の勝ち、イカなら弁当の勝ちとなる。
八王寺義昭
ポットのお湯が残り少ないとは知っていたけれど、それでもカップ麺に注ぎ始めた。
ヤ・グーラ
賭け麻雀で停学になった先輩が、屋上でトランペットを吹いている。
ボーフラ
あの日、右拳にある黒子が可愛くて、僕は何も入っていない方を選んでしまった。
深草ユチ
ペンギンは眠った。私は賭けに勝ったのだ。
めの子
賭けに勝つ前の方が生命力があった。
高田
大胆に開いたドレスの背中に浮き出る運命の女神の背骨は、わずかに曲がっている。
寺庄拓也
どちらが美人か、一卵性の娘たちがまた賭けを始めた。
湯葉ばばあ
俺たちは互いの八百長を予想し合っていた。
suzukishika
ルーレットがなかなか止まらないので、気温や大統領の話をした。
八重樫
彼らが差し出す何の価値も無い人生を、私はいつものように黒いコインへと換える。
ナムル
屁であることを信じ、放った。
紀野珍
成り行きで捌いたふぐ鍋に、直感でもいだキノコをぶちこんだ。
Mch
僕がフラれるほうに賭けていた皆さん、おめでとうございます。
もんぜん
ぽよりん氏「携帯の充電は~」充電の残りより早く用件を!大伴氏「馬名に下ネタ~」競走馬の名前ってまったく下ネタでなくても下ネタに見えるときがある。八王寺義昭氏「このフライが~」最後の「弁当の勝ちとなる」がよい。相手あってのギャンブル。深草ユチ氏「あの日~」キュンときました。ある方を選んでいたらそこで終わっていたかもしれない。なにもない方から始まる物語もある。めの子氏「ペンギンは眠った~」どんな賭けだったのかも気になるしなにを賭けたのかも気になる。寺庄拓也氏「大胆に開いた~」どんなに短い文章にもそこには作者自身の世界の見方や価値観が投影される。面白い。ナムル氏「彼らが差し出す~」暗示的な文章の場合はちゃんとその意味を説明できなくても、その説明できない「なにか」を意識した方がいい。本作にはその意識が感じられる。もんぜん氏「僕がフラれるほうに~」人生を前向きにしてくれる作品。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「長谷川」
次回は久しぶりに名字ネタ「長谷川」です。名字ものは「吉田」「渡辺」に次いで三回目。ちなみに全国名字ランキングでは34位。それほど高くはないものお馴染みの名字ではないだろうか。変な先入観を持って欲しくないのでこれ以上の解説は省くが、アナタなりの長谷川キャラを創造して欲しい。もちろん実在の長谷川さんをモデルにしてもいいし実際の長谷川さんからの投稿も大歓迎です。締め切りは12月9日正午、発表は12月11日を予定しています。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選んで送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者

そうだ、イコウ/もろみじょうゆ/松っこ/ねもっ血風クン/五捨六入/哲ロマ/小夜子/えむ毛/merumo/タクタクさん/くずきり/井沢/東ことり/理不尽小王/小柳はる/お皿が乾くの3時間/日和/あだんそん/けー/菅原 aka $UZY/kwsk/マークパン助/正夢の3人目/morin/位相/prefab/茂具田/あひる/
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