ロマンの木曜日 2017年1月5日
 

戦車! 戦艦! 知られざる「ミリタリー陶芸」の世界

見たことないディテールの陶器がたくさん登場します
見たことないディテールの陶器がたくさん登場します
「陶芸」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。壺、皿、ろくろ……。いまあなたの頭の中にある陶芸のイメージは、この記事でまるっと書き換えられるはずだ。

日本六古窯(ろっこよう)のひとつ、滋賀県・信楽の地において、異色の「ミリタリー陶芸」活動を営む、息吹フレイルさんの元を訪れた。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。
> 個人サイト NEKOPLA Tumblr

普通じゃない陶芸作品

今回ご紹介するのは「ミリタリー陶芸家」である。似たような活動をしてる方はいないらしく、おそらく日本で唯一の肩書きになる。以前、記事で紹介した「室外機フィギュア」を作って下さった方でもあり、それが縁で話を聞かせてもらえることになった。
最初に言っておくと、そんじょそこらの陶芸ではない。見よ、この戦車を!
最初に言っておくと、そんじょそこらの陶芸ではない。見よ、この戦車を!
陶器のイメージを覆す、この細部にまで行き届いた表現力
陶器のイメージを覆す、この細部にまで行き届いた表現力
整ったフォルムもさることながら、あくまでも陶器なのだ。質感が素晴らしい
整ったフォルムもさることながら、あくまでも陶器なのだ。質感が素晴らしい
戦車だけではない。この戦艦大和の迫力を見よ
戦車だけではない。この戦艦大和の迫力を見よ
機銃の作り込みがすごいことになっている。これが全て陶器だなんて
機銃の作り込みがすごいことになっている。これが全て陶器だなんて
こちらが作者である、陶芸家の息吹フレイルさん。さっそく、本職による正真正銘の「ろくろを回すポーズ」を見せてくれた
こちらが作者である、陶芸家の息吹フレイルさん。さっそく、本職による正真正銘の「ろくろを回すポーズ」を見せてくれた
と言いたいところだが、このポーズは私からリクエストしてやってもらった。やらせである。
実は私、ろくろがド下手でして……。普通の陶芸家でしたら、やはり皿とか壺を作るんですけど、何度かやってみて、あーこれは向いてないなと思いましたね
そうなんですか。身近にある陶器って、やはり食器になるので、どうしても陶芸家=ろくろという変な先入観があって
一般的にはそうなんですよ。じゃあ、そんな世間のイメージを覆してみようかな〜って。そういう意識もあって、いまの活動を始めました
普通の陶芸へのカウンター精神から、独自の方向へと邁進していったフレイルさん。それでは詳しい話をうかがいながら、「ミリタリー陶芸」の神髄に迫っていきたい。

パーツを組み合わせて作る陶器

フレイルさんの陶芸作品は、細かなパーツの組み合わせによって形づくられている。この時点で、頭の中には「???」が浮かんでしまうのだが、実際に見てもらった方が話は早い。
作品を見せて欲しいとリクエストしたところ、大きなダンボールを取り出し始めるフレイルさん
作品を見せて欲しいとリクエストしたところ、大きなダンボールを取り出し始めるフレイルさん
中には大量の「紙に包まれたなにか」が入っている。固唾をのんで見守る私の前に差し出されたのは……
中には大量の「紙に包まれたなにか」が入っている。固唾をのんで見守る私の前に差し出されたのは……
「これは戦車の本体ですね」ドンッ!
「これは戦車の本体ですね」ドンッ!
「キャタピラはこっちです。こうやって横から本体にくっつけます」ドンッ!
「キャタピラはこっちです。こうやって横から本体にくっつけます」ドンッ!
「最後に砲塔です。こうやって上に乗せます」ドドンッ!
「最後に砲塔です。こうやって上に乗せます」ドドンッ!
そうして出来上がったのは、こんなにも見事な戦車であった
そうして出来上がったのは、こんなにも見事な戦車であった
く、組み立て……? 私の第一印象はそんな感じだった。分解されていたパーツ(陶器)を合わせると、あっという間に戦車が完成してしまった。
全部一体化して焼いちゃうと、歪みが出るんですよ。特に砲身はまっすぐじゃないと、かっこよくないですから
それぞれのパーツをよく見ると、さらに細かいパーツから構成されていることが分かる。
例えば、キャタピラのパーツ。いくつもの丸い車輪があり、その周りに履帯が付いている。本物の戦車と同じ構造だが……よく考えて欲しい、これは陶器なのだ。どうなってるんだ一体
例えば、キャタピラのパーツ。いくつもの丸い車輪があり、その周りに履帯が付いている。本物の戦車と同じ構造だが……よく考えて欲しい、これは陶器なのだ。どうなってるんだ一体
これは車輪ごとに、細かいパーツに分けて作ってます。ほとんど製造工場みたいな感じなんですよ
製造中に撮った写真を見せてもらう。ひとつずつ、車輪部分をきちんと車輪の形として成形し、
製造中に撮った写真を見せてもらう。ひとつずつ、車輪部分をきちんと車輪の形として成形し、
それら車輪をかみ合わせる
それら車輪をかみ合わせる
履帯の方は側面を作って形を決めてから、
履帯の方は側面を作って形を決めてから、
細かい帯や模様をせっせと付けていき、
細かい帯や模様をせっせと付けていき、
それを車輪のまわりにグルッと巻いたら完成
それを車輪のまわりにグルッと巻いたら完成
理屈は分かるのだが、陶器でここまでディテールを出すことができるとは。パーツだけ見るとプラモデルのようであり、粘土で細かいパーツを作る作業は、さながらフィギュアのようだ。陶器の持つポテンシャルの高さもさることながら、フレイルさんの技術力が突出していて、いきなり驚きっぱなしの私である。
このキャタピラの場合、製造時間はどれくらいかかるんですか?
これ一個だけで、一週間はかかってしまいます。時間はかかりますけど、やっぱり組み上がったときは快感ですよ
それにしても、陶器でここまで細かい作業ができるとは。こういう製法で作ってる方って、他にいるんでしょうか
正直、ここまでやってるのは見たことないですね。参考にしようと思って探したんですが、誰もいないな〜と。じゃあ自分でやってしまうか! てな感じです
陶芸の新境地を切り開いた、まさにパイオニアじゃないですか!
プラモ的であり、フィギュア的でもあるミリタリー陶芸。しかし、できあがった作品は「陶器」そのものなのだ。ブツ取り好きの私に言わせると、こんなに写真映えする物は滅多にお目にかかれないぞ、ということで写真を撮りまくってしまった。
それにしても、この風合いである。粘土に塗る釉薬(ゆうやく)を変えることで、微妙に色合いを調整していくらしい
それにしても、この風合いである。粘土に塗る釉薬(ゆうやく)を変えることで、微妙に色合いを調整していくらしい
裏を見ると、確かに陶器であることが分かるのだが、
裏を見ると、確かに陶器であることが分かるのだが、
表を見ると、どの戦車も私が想像する陶器を超えている。プラモよりも重厚感があり(実際にずっしりと重い)、戦車というモチーフにはピッタリの素材である
表を見ると、どの戦車も私が想像する陶器を超えている。プラモよりも重厚感があり(実際にずっしりと重い)、戦車というモチーフにはピッタリの素材である

角が尖り、面が平坦な陶器

見てすぐに分かるミリタリー陶芸の特徴は、他にもある。
これだ。鋭利な「角」、そしてどこまでも平坦な「面」である
これだ。鋭利な「角」、そしてどこまでも平坦な「面」である
陶器と言えば、大体はこのタヌキみたいに丸っとしているものを想像しないだろうか。ろくろや手びねりで作ると、そこまでビシっとした角や面は出せないはずなのだ
陶器と言えば、大体はこのタヌキみたいに丸っとしているものを想像しないだろうか。ろくろや手びねりで作ると、そこまでビシっとした角や面は出せないはずなのだ
それがフレイルさんの作品では、こうなってしまう。モチーフはゲーム「アーマードコア」のロボット。メカメカしいボディが見事に陶器で再現されており、しかも当たり前のように自立している
それがフレイルさんの作品では、こうなってしまう。モチーフはゲーム「アーマードコア」のロボット。メカメカしいボディが見事に陶器で再現されており、しかも当たり前のように自立している
見ていると「陶芸」とは何なのか、頭が混乱してくる
見ていると「陶芸」とは何なのか、頭が混乱してくる
ここまでキレイに角や面が出ていると、もはや陶器には見えないですね。表面のテクスチャも相まって、戦車なんかは本当に金属みたいに見えます
粘土にあるまじき角ばり方をしてますからね。普通の陶器は暖かい感じがしますけど、私のは思いっきり四角い。いわゆる「たたら作り」という製法の一種ですが、その中でもかなり特殊です
一体どんな方法でこの直線を……
「この道具が命です」そう言って見せてくれたのはカッターだった
「この道具が命です」そう言って見せてくれたのはカッターだった
普通の陶芸家とは動きが違うんですね。カッターでシュッとやって、それで板状の粘土を切るんです。それで形を作ったあとは、またカッターでシュッとやって、面を整えていきます。面だしが一番大事です
さきほども、プラモ? フィギュア? という感じだったけれど、カッターが出てきたことで、よりいっそう陶芸のイメージから乖離してきた。しかもカッターで面だしとは……よもや粘土も、こんなに角ばった形に成形されるとは思ってもみなかっただろう。
どんな形にもなるのが粘土の強みですからね。正直、誰もやりませんけど。まだまだ可能性はありますよ。まだまだ新しい形が作れます
せっかくなので、普段使っている道具も見せてもらうことに。
まずは原型となる板状の粘土。こねてある状態で買ってくるとのことで、山に土を取りに行ったりはしないらしい(間違った陶芸家のイメージ)。これを叩いて伸ばして、切って貼ると作品ができる
まずは原型となる板状の粘土。こねてある状態で買ってくるとのことで、山に土を取りに行ったりはしないらしい(間違った陶芸家のイメージ)。これを叩いて伸ばして、切って貼ると作品ができる
そのほかの道具たち。丸いものはクッキー型みたいに、車輪を切り抜くときなどに使う。割り箸やギザギザしたもの、硬貨などは、細かい模様を書き込むのに役立つ。とにかく使えるものは何でも使うとのことで、道具だけ見ると完全に「モデラー」である
そのほかの道具たち。丸いものはクッキー型みたいに、車輪を切り抜くときなどに使う。割り箸やギザギザしたもの、硬貨などは、細かい模様を書き込むのに役立つ。とにかく使えるものは何でも使うとのことで、道具だけ見ると完全に「モデラー」である
モデラーの使うエアブラシに相当するもので、陶芸家はこの道具で釉薬(表面の色や質感を出すための液体)を塗る。人力で吹き付けるため、大きい作品の制作時には貧血を起こしたこともあるという
モデラーの使うエアブラシに相当するもので、陶芸家はこの道具で釉薬(表面の色や質感を出すための液体)を塗る。人力で吹き付けるため、大きい作品の制作時には貧血を起こしたこともあるという
そして最後は接着剤。粘土を水で溶いたもので、パーツをつなぎ合わせるのに使う大事なもの。これらの道具に支えられて、ミリタリー陶芸は完成するのだ
そして最後は接着剤。粘土を水で溶いたもので、パーツをつなぎ合わせるのに使う大事なもの。これらの道具に支えられて、ミリタリー陶芸は完成するのだ

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