ひらめきの月曜日 2017年1月16日
 

薬剤師に論破されたい

論破される心地よさよ
論破される心地よさよ
専門職の人というのは一般の人が思う以上に、自分の仕事についてよく考えている。したがって一般の人が「その道の人にこんなことを聞いたら失礼かもな」なんて思うようなことに対しても意外と冷静な答えを持っていたりするものだ。ぼくは指圧師だが、自分にそんなところがあると思う。

それだったら、専門職の人に思いっきりバカで失礼な質問をぶつけてみたらどうだろう。きっと冷静に一つ一つ論破してくれるに違いない。
1982年、栃木県生まれの指圧師です。自分で企画した「下北沢ふしぎ指圧」で施術しています。何をしているときでも「みんなが自分の治療院に来てくれるといいな〜」って思っているのですが、ノイローゼでしょうか。
> 個人サイト 下北沢ふしぎ指圧

今回ぼくを論破してくれる池田さん。好きな薬は「リリカ」(鎮痛薬)だそう
今回ぼくを論破してくれる池田さん。好きな薬は「リリカ」(鎮痛薬)だそう
というわけで今回来て貰ったのは薬剤師の池田さんだ。

池田さんはデイリーポータルZの読者で、イベントに来ていて知り合いになった。きっとヘンな企画にも理解があるだろう。実際お願いしたら、二つ返事で来てくれた。読者ありがたい。
頼んでもいないのに撮影用に白衣用意してくれた。なんでこの人撮影慣れしているんだろう
頼んでもいないのに撮影用に白衣用意してくれた。なんでこの人撮影慣れしているんだろう
斎藤:事前に説明していた通りぼくが「失礼な質問」をするので、思う存分論破していただければと思います!

池田:楽しみにしてました。お手柔らかにお願いします!

斎藤:池田さんってふだんはどういう仕事をしているんですか?

池田:そこからですね。私が勤めているのは「調剤薬局」です。病院もしくはクリニック医院の医師から処方された、処方箋を持って行ってお薬をもらうところですね。
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斎藤:あれですか! 早速なんですが、病院で受診した後、いちいち調剤薬局に行って薬を受け取るの、メチャクチャめんどくさいんですけど! 無駄としか思えないです。

池田:それは「医薬分業」が進んできた結果ですね。
失礼な質問をぶつけるので、ナチュラルローソンで高そうなお菓子を買ってきた
失礼な質問をぶつけるので、ナチュラルローソンで高そうなお菓子を買ってきた
斎藤:なんですかそれ。昔は病院内で受け取れましたよね? こっちは風邪ひいてるのに、いったん外に出て、また会計するの、鬼かって思います。

池田:患者様がわざわざ出なくちゃいけないっていうのは……それは本当に不便なことなんですよね。 ただ、これはダブルチェックみたいな意味があります。
昔と比べて今は薬の種類がすごく増えているんです。薬の管理って莫大な処理があります。
ドクターが病院で薬を出してしまうと、本来の仕事である「治療」にさしさわってしまうんですよ。正直「治療」と「薬を出す」ことは大変すぎて一人の人間がやるべきことじゃないですね。


斎藤:そうなんですか? 一人で全然できると思ってました。
高そうなお菓子はめちゃめちゃうまかった
高そうなお菓子はめちゃめちゃうまかった
池田:ドクターの仕事を看護師さんが手伝うのって当たり前のことじゃないですか。それと同じように、ドクターの仕事を薬剤師が手伝っていると思っていただければ、と。

斎藤:……なるほど。

池田:江戸時代なんかだと「薬師」なんて人がいて、その人が一人で全部やっていましたけどね。今はそうはいかないです。技術革新によって増えた仕事を、それぞれの専門職に割り振っていきましょうということです。

斎藤:フーム。

池田:もっというとドクター、看護師、薬剤師、ケアマネジャーさん、いろんな人が対等に話し合って患者様中心の医療にしていこうっていうのが、今一番の流れになっています。医薬分業はその一環です。

斎藤:うーん。すごい大きな流れなんですね。じゃあしゃあないですね! いや本当に「しゃあない」ってなりますね。完全に論破されました。

池田:ちなみに「医薬分業」が始まった当初は、ドクターが薬剤師を全然信用していなかったそうです。ドクターが抜き打ちで薬局に検査に来たり、患者様に「本当に処方通りの薬が渡っているか」ってチェックをしたり。
その時に私はまだ薬剤師の仕事に就いていなかったので、そういう様子も先輩薬剤師から聞いているだけですが。
「医薬分業」は、時間をかけてだんだんと薬剤師が信頼を勝ち取ってきた結果でもあります。


斎藤:なるほど……。
論破されるとすごくのけぞってしまう
論破されるとすごくのけぞってしまう
いきなりぐうの音も出ない。それにしても薬局きっかけで知らないことが芋づる式にポンポン出てくる。これが論破される者の心地よさ。期待していた通りだ。
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斎藤:それじゃあ、次行きます。薬局ってめちゃ儲かっていますよね?

池田:そんなに儲かっていないですね。

斎藤:でも今やたらと薬局多くないですか? この間うちのすぐ近所に調剤薬局ができたんですが、そんな使わないし、別に要らないです。それよりコンビニを建ててほしい。うちの近くにコンビニがないんです。
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池田:うーん。大手チェーンは効率化されているから、利益は出ていると思うんですが。ほとんどの薬剤師は経営のことを知らないで世の中に出ちゃうので、うまくいかないパターンも多いです。潰れているところも全然あります。

斎藤:えっ。そうなんですか……。

あー。これは指圧師であるぼくもよくわかる。けっこうみんなお金のことを考えないで、情熱だけで独立してしまう。そして失敗……。どこの業界も同じかあ。
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斎藤:ドラッグストアにも薬剤師っていますよね? ああいうところって仕事ラクなんじゃないですか? 要はレジ打っているだけだし。
カメラ係をしていた編集部の古賀さんも思わず「お前それ失礼すぎるだろう」
カメラ係をしていた編集部の古賀さんも思わず「お前それ失礼すぎるだろう」
池田:いやいや! 大変だと思いますよ。調剤薬局で作る薬って成分が2〜3種類くらいなんですが、一般薬(市販されている薬)って成分が5〜6種類くらいあるんです。レジに2つ薬を持ってこられて「これとこれ一緒に飲んでも大丈夫?」って聞かれると、大変なんです。

斎藤:そうか。組み合わせが複雑になるんだ。

池田:お薬手帳も持ってきていない人がほとんどだし、なかなか無茶ぶりされていることも多いと思います。そのための研修をいっぱいしているはずですよ。マニュアル覚えたりして。

斎藤:なるほどー。完全に論破されました! 大変なんですね。ふつうに綿棒なんかを買って薬剤師さんに会計させてるの、あれ申し訳なかったです。

池田:それはそれでいいんじゃないですかね……?
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斎藤:あっ。さっきお薬手帳が話に出ましたけど、あれは薬局が儲けるための点数稼ぎですよね?

池田:いや、今はお薬手帳を持って行ったほうが安くなりますよ。それまでは確かにお薬手帳を持っていった方が高かったんですが、それはおかしいよね、ってことになりまして。法律が昨年(2016年4月以降)変わりました。ぜひ持ってきて下さい!

斎藤:なんだ。これはふつうに聞いてよかったです。
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斎藤:そういえば、これは薬局で働いている販売員の人に聞いたんですが「風邪ひいたときにユンケルと小児用ジキニンを一気飲みすると治る 」ってウワサあるそうですよ。実際それを買いに来る人も多いとか。

池田:なんですかそれ。初めて聞きました。
スマホでウワサが書いてあるページを見てもらいました
スマホでウワサが書いてあるページを見てもらいました
池田:もはやグーグルで「小児用ジキニン」って検索すると「小児用ジキニン 一気飲み」ってサジェスト出ますね……。

斎藤:ふつうの風邪薬よりこっちの方が成分がいいらしいですよ!

池田:これで健康被害があっても、何一つ保証されません。あくまでも自己責任になってしまうので……。用法容量を守ってもらえないのは、心が痛い。

斎藤:やっぱりダメですよね。販売員の人も困ってるそうです。有名作家のエッセイに昔書いてあったらしくて、未だにそれがネットに連綿と転載され続けているみたいなんですよ。

池田:薬ってまれに「本来の使い方と違う」処方をすることってあるんですけれどもね。でも、やっぱりこれはダメですね。
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斎藤:根幹から薬剤師を否定させてもらいますね。そもそも薬を使うなんて発想がおかしい! 人間には自分で自分を治す力があります。薬なんて不自然です。
論破されたくてこんなことを言ったが現実にはわりとよくパンシロンを飲む(胃弱)
論破されたくてこんなことを言ったが現実にはわりとよくパンシロンを飲む(胃弱)
池田:それは本当にそうです。

斎藤:えーっ?! 肯定するんですか。

池田:薬はできれば使いたくないというのが本音ですし、ドクターも薬剤師もできるだけ薬を減らそうと努力をしています。

斎藤:いや、そういう話じゃなくて、ポリシーとして「薬一切NG」ってことです。

池田:それはその人の人生ですよ。決めるのは本人なので、そういう考え方もアリです。人生をかけて「薬を飲まない」って方針を貫く方は実際いるんですよ。それはその人の人生だから「貫いたんだな……」って思いますね。
人生かー
人生かー
なるほど。そういう考え方なのか。今までのある論破はある意味予定調和だったが、肯定されると、逆に本当に論破された気分になる。

斎藤:薬剤師の話からはそれますが、たとえば、輸血を拒否するポリシーを持っている人も「その人の人生」って思いますか?

池田:輸血拒否については、もうマニュアルができています。チャートになっていて、本人の年齢や自己決定ができる能力があるかどうかを加味して、どうするかを決める書類があるはずです。

(あとで調べたら医師会が作ったガイドラインにそって、病院がマニュアルを作って普通にネットに公開してました)

斎藤:あー。そうか。基本的に意思を尊重するんですね……。

池田:誰にでも「望まない治療」ってあると思うんです。つい最近、私も副鼻腔炎になって病院に行って検査をしたんです。そしたら会計の時にその検査が予想外に高額だってことがわかって。「そんな大げさな検査しなくてもなー」なんて思っちゃいました。これは小さい例ですが。

斎藤:医療従事者でもあるってことか……。うーん。

わりと軽い感じで語ってくれているけれど 、この一連の論破は池田さんが「医学がどれだけ人間の役に立つか」ってことを、ずっと考え続けた結果が詰まっているんじゃないか。長く仕事をしていると「薬や医療で解決できなかった問題」がきっと山のようにあったんだと思う。

斎藤:最後に薬剤師について言っておきたいことってありますか? 論破関係なしで。

池田:薬剤師って患者さんにとってとっても身近な存在なんです。ドクターには話しにくいようなことも、たくさん相談してほしいですね。

斎藤:そう考えると、本来論破する必要なんてないってことですね。なんかうまくまとまった!

論破するの楽しいそうです

やってみてどうだったか池田さんに聞いてみたら「やる前はすごく緊張したけど楽しかった!」とのこと。仕事のことってずっと長い時間考えているのに、表現する機会ってあまりないのかもしれない。
ぼくも当初の想像通り完全に楽しかったので良かったです!
真剣な話した後に「編集部の古賀さんと服が被った」と喜んで記念写真を撮る池田さん
真剣な話した後に「編集部の古賀さんと服が被った」と喜んで記念写真を撮る池田さん
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