特集 2017年1月25日

現存日本最古の円形校舎の中はどうなっているのか?

円形校舎の内部はこんな感じだ
円形校舎の内部はこんな感じだ
現存する円形校舎で、日本最古のものが鳥取県倉吉市に存在している。

数年前まで、老朽化のため解体される。という話だったのだが、なんやかんやあって、解体されることはなくなったらしいが、いったい、いまどうなっているのだろう?
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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地震はどうだったのか

みなさん、もうすでにきれいサッパリお忘れだと思うが、倉吉市は2016年10月21日にかなり大きい地震に見舞われた。
さいわい、死者はでなかったものの、白壁土蔵の壁がはがれ落ちたり、市役所の一部が壊れるなどの被害が出た。
すでに故郷を離れて20年経つとはいえ、生まれ育った町が大きな地震に見舞われたとなると、さすがに気になってしまう。
市役所の崩れ落ちた階段の手すり部分は修復中
市役所の崩れ落ちた階段の手すり部分は修復中
土蔵の崩れ落ちた部分は復旧工事中
土蔵の崩れ落ちた部分は復旧工事中
ショッピングセンターは壁のひび割れをガムテで補修。アメリカンだな
ショッピングセンターは壁のひび割れをガムテで補修。アメリカンだな
なかでも、「円形校舎」がどうなってるのか心配だった。

「円形校舎」とは、その名の通り円筒状の学校の校舎のことで、1950年代に日本各地で建てられた。いわゆる「モダニズム建築」とよばれる建物のひとつだ。
こんな感じの建物だ
こんな感じの建物だ
昭和時代に建てられた円形校舎は現在、老朽化が進み、そのほとんどが解体されているなか、倉吉市の旧明倫小学校の円形校舎は、現存する円形校舎では日本最古のものである。

以前より、この奇妙な形の建物が気になっていたのだが、このたび思いきってお願いして中を見せてもらうことにした。

日本で三番目に造られた円形校舎

円形校舎の中を見せて下さったのは、株式会社円形劇場の稲嶋正彦さん。

稲嶋さんは円形校舎の卒業生だ
稲嶋さんは円形校舎の卒業生だ
稲嶋さんは、この円形校舎が小学校として使われていた当時、ここに通った生徒のひとりだ。

円形校舎は、1955年(昭和30年)から1977年(昭和52年)まで小学校の校舎として使われたのち、地域の公民館として使用された。2006年からは老朽化のため、使用されておらず、そのまま手がつけられず放置されていた。

外観はそんなに古いようには見えないが、中に入ってみるとなかなか年季がはいっている。
当時玄関として使われていた入り口から中心の螺旋階段がみえる
当時玄関として使われていた入り口から中心の螺旋階段がみえる
ワクワクする感じの螺旋階段だ!
ワクワクする感じの螺旋階段だ!
わー、アンモナイトだー
わー、アンモナイトだー
円形校舎は建築家の坂本鹿名夫が考案し、当時、少ない資材で狭い場所に経済的に建てられるということで、1950年代に日本各地にかなりの数がつくられた。しかし、ベビーブームで子供の数が増えるにしたがい、建物を増築しにくいなどの理由から、1960年代以降は作られなくなってしまった。

明倫小学校の円形校舎は、全国で三番目につくられたものだが、先にできたふたつがすでに取り壊されたので「現存最古」ということになる。
扇形に仕切られた教室は窓が大きく、日当たりがよく、教室内はとても明るい。当時は、窓を背にして授業をおこなっていた。
扇形に仕切られた教室は窓が大きく、日当たりがよく、教室内はとても明るい。当時は、窓を背にして授業をおこなっていた。
窓枠がアルミサッシではなく、木枠だ
窓枠がアルミサッシではなく、木枠だ
円形校舎の歌だ
円形校舎の歌だ
教室の黒板には「ぼくらの校舎」という歌の歌詞が書いてあった。

稲嶋さんにきいたところ、これは校歌とは別に、当時この円形校舎の完成を記念して作られた歌だという。
おとぎのくにのごてん、へいわなまちのおしろ、言葉がいちいち昭和っぽくてたまらない。
黒板消し、20年ぶりぐらいにみたな
黒板消し、20年ぶりぐらいにみたな

とりあえず、保存することになった

ほんと窓でかいな
ほんと窓でかいな
稲嶋さんに、とくべつに屋上まで案内してもらった。

この建物は三階建だが、螺旋階段の最上部には屋上へ出られるペントハウスがついているのだ。
しかし、ペントハウスは、長期間放置されたため、ガラスは割れ、中はかなりひどいことになっていた。
割れ窓から鳩が侵入し、巣をつくっていた
割れ窓から鳩が侵入し、巣をつくっていた
天井には丸い採光用のガラスがはめ込まれている
天井には丸い採光用のガラスがはめ込まれている
ガラスが割れないようにベニヤ板で応急処置
ガラスが割れないようにベニヤ板で応急処置
窓枠や扉が木製で残っているのがすごい
窓枠や扉が木製で残っているのがすごい
おぉ、眺めはいいな
おぉ、眺めはいいな
地震で瓦が落ちた家のビニールシートがまだ目立つ
地震で瓦が落ちた家のビニールシートがまだ目立つ
ペントハウスの屋上
ペントハウスの屋上
この円形校舎、2014年に一度、取り壊しの予算も計上された。しかし、稲嶋さんをはじめ、地元の人達が保存運動を行い、2016年に一転、保存活用するということに決まった。

なんやかんやあって、市の持ち物であった円形校舎の建物は、稲嶋さんが代表をつとめる市民団体に無償譲渡されることになった。

そして、近々、フィギュアミュージアムとして生まれかわる予定になっている。

なんで急にフィギュア? と、お思いの方も多いかもしれない。実は数年前、倉吉市にグッドスマイルカンパニーのフィギュア工場が新設され、稼働している。急にフィギュアミュージアムなんて話になったのはそのためだ。

フィギュアミュージアムには、グッドスマイルカンパニーのフィギュアのほか、ガイナックスや海洋堂などのフィギュアも集めて展示する予定だが、展示だけではなく、ワークショップや、ちょっとしたイベントなどもできるような場所にするそうだ。
あの「ねんどろいど」に、メイドイン倉吉のものがあったとは……。
あの「ねんどろいど」に、メイドイン倉吉のものがあったとは……。
複数メーカーのフィギュアを常設展示している美術館や博物館というものはまだないので、完成すれば日本初ということになる。

自分の故郷の円形校舎が、まさかフィギュアのミュージアムになるなんて、ほんと、世の中なにが起こるかまったくわからない。

耐震補強工事はこれから

円形校舎は、このまま内装を改装してミュージアムに……というわけにはいかない。耐震補強工事も行わなければいけない。

しかしながらこの円形校舎は「老朽化と耐震強度に問題があり大変危険な建物」ということで、取り壊しが決まっていた建築物であるにもかかわらず、このまえの震度6の地震でもびくともせず、被害といえば、壁のコンクリートにうっすらひびが入っただけだった。
うっすら壁の漆喰にひびが
うっすら壁の漆喰にひびが
見た目の古さを思うと、思いのほかしっかりしている円形校舎だが、法律で決まっているものはきちんとクリアしなければならない。
螺旋階段も改修対象
螺旋階段も改修対象
螺旋階段も、手すりの縦の棒の間隔が大きすぎるため、安全基準を満たしてないらしい。
壁や柱を補強するだけでじゃなく、手すりの棒の間隔まで決まっているのだ。
これらの改修、改装の工事をおこなったのち、2018年にはフィギュアミュージアムとしてオープンする予定だという。


故郷がどんどん変わっていく

どんな形であれ、円形校舎が残ったのは喜ばしい。

フィギュアのミュージアムももちろん楽しみだけど、ここはぼくみたいな、古い建物物に興味があるひとたちも満足できるような、建物としての面白さも堪能できる施設になるといいなあと、思う。
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