とくべつ企画「鬼」 2017年2月2日
 

君は鬼まんを知っているか

鬼まん。
鬼まん。
愛知に鬼まんという食べ物がある。

鬼まんじゅう、略して鬼まん。

愛知県民ならばほぼ誰もが知っているであろう、そして他県のみなさんにおかれましてはほぼ知らないであろうこの食べ物について、今回はお伝えしたいと思います。

※この記事はとくべつ企画「鬼」の1本です。
1975年愛知県生まれ。行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。
> 個人サイト むかない安藤 ツイッター

鬼まんじゅうとの出会い

愛知にある実家の近所には「まんじゅう屋」があった。僕が小学生の頃の話である。

まんじゅう屋といっても当時は駄菓子をメインに販売していたように思う。お店の奥が工場になっていて、そこでまんじゅうを蒸していたので近所では便宜上「まんじゅう屋」と呼ばれていたのだ。蒸したまんじゅうは、たぶんどこかへ卸していたのだろう、お店では売られていなかった。

僕たちはよくまんじゅう屋で駄菓子だとか消しゴムだとかジャンプだとかを買っていた。

まんじゅう屋には「まんじゅう屋のおねえさん」がいて、当時たぶん20代の後半くらいだったと思うんだけれど、毎日お店を手伝っていた。蒸したまんじゅうの湯気でうなじに髪を張り付かせながら割烹着で働く「まんじゅう屋のおねえさん」は、大人に向かう僕たちの夢に幾度となく登場したものである。

先日、たまたま実家を訪れる用事があったので、近くの寺にある先祖の墓を詣ったのだ。その途中、ふとまんじゅうのにおいがした。
!

いまでも蒸しているのだ

時は流れ、あれからすでに30年である。まんじゅう屋は駄菓子販売業務はやめてしまっており、今では道に面した部分は普通の住宅に改築されていたのだが、奥からもれてくるにおいが明らかにまんじゅうであった。湯気も出ている。

まんじゅう屋のおねえさんがいるのかもしれない。

不意に胸の高鳴りを感じた。しかし10歳くらいだった僕がいま40歳ということは、だ。時の流れる速度がここでも同じであるとしたら、当時20代後半だったおねえさんは60に近いということになる。今まんじゅう屋のおねえさんに会ってしまったら、死ぬ間際に見るという走馬灯は上書きされてしまうのではないか。すまないおねえさん、自分勝手で申し訳ないが、それはいささか殺生である。

僕は当時抱いていた青い思い出を胸に、まんじゅうのにおいをふりはらいながら先祖の墓へと向かったのだった。

なんの話か。そうだ鬼まんだ。

そのまんじゅう屋で毎日何十何百と蒸していたのが「鬼まんじゅう」だったのだ。

そもそも鬼まんじゅうとは何か

「鬼まんじゅうは、薄力粉もしくは上新粉と砂糖を混ぜ合わせた生地に、角切りのさつま芋を加えて蒸した菓子である」とウィキペディアに書いてある。表面に突き出たさつま芋が鬼に見えることからそう呼ばれているのだ。「戦前は今より黒っぽい色で鬼のような不気味さがあった」とも書かれていた。

鬼まんはなぜか愛知を含む東海地方でしか見たことがない食べ物である。たぶん、これはこれで美味いけど、全国展開するほどでもないわな、と、みんな思っているのだろう。

芋と小麦粉、言ってしまえばやぼな食べ物である。しかし愛知では誰もが知っている食べ物なのだ。

そんな鬼まんじゅうが売られている様子を見てみよう。たとえば名古屋駅。
名古屋駅はすごくきれいになりましたよね。
名古屋駅はすごくきれいになりましたよね。
バレンタインデーが近いのでディスプレイも西洋風に。
バレンタインデーが近いのでディスプレイも西洋風に。
JR名古屋駅は僕が愛知を離れてから改装され、当時の面影がまったくないくらいきれいになった。僕が知っている名古屋駅は床に寝ている人がいたり外国人がテレカ売っていたりしたものだが、今では東京とか大阪なんかと比べても見劣りしないほどに洗練されている。

そんなキラキラとしたビルヂングだが、いったんエスカレーターで地下にもぐると、そこには鬼まんが売られている。
おかえり。
おかえり。
ただいま。
ただいま。
近未来的都市へとスマートに変貌を遂げた名古屋駅だが、太閤通口からエスカへ降りるとみそカツとか両口屋とかがあってほっとするし、桜通口から地下へ降りるとこの通り鬼まんが売られているのだ。

思うのだけれど、愛知の人って派手なことが好きなわりに鬼まんじゅうみたいな「里のおいしさ」もけっして忘れない。外で見栄を張る分、家ではホッとしたいのだ。

うちの親なんかも名古屋で買い物した帰りにわざわざ知立(ちりゅう)まで行ってあんまき買って帰ってきたりしてた。あんまきについてはこれもまた思い出深いので機を改めて紹介したい。

しかしこの鬼まん、僕たち愛知県出身者からすると、どこにでも売られているような気がしてならないのだけれど、あらためて探してみると意外とそうでもないのだ。

次のページでそのへんのことを話したい。

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