特集 2017年2月3日

節分VSバレンタインあと和菓子の鬼

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節分というものはかつてこんなに盛り上がる行事だっただろうか。

コンビニがしかけたとされる恵方巻商戦はコンビニを飛び出しスーパーにデパート、さらには寿司とは一切関係のない業種も巻き込む盛り上がりである。その力でもって「節分」という行事自体の市場規模をも拡大しているように見える。

恵方巻き由来でいまや洋菓子店は節分向けのお菓子としてロールケーキをぶつけるありさまだ。

気づけば2月は節分一色。あれ、バレンタインどこいった?

実は元々はわけあって鬼をかたどった和菓子を探して歩いていたのですが、節分VSバレンタインのデパートでの様相がおもしろかったので両方レポートします。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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節分VSバレンタイン

かつて、正月が終わればまちは一気にバレンタインであったように思う。

しかしここ10年くらいだろうか恵方巻フィーバーが盛り上がるにつれ正月の次は節分という機運が高まりを見せるようになってきた。
当サイト編集部安藤によると</a>12月22日(クリスマス前!!!)の時点でコンビニは恵方巻をアピールしていたらしい
当サイト編集部安藤によると12月22日(クリスマス前!!!)の時点でコンビニは恵方巻をアピールしていたらしい
こちらは編集長林のツイートから</a>、1月15日の時点であからさまに店を上げての節分推し
こちらは編集長林のツイートから、1月15日の時点であからさまに店を上げての節分推し
かつてからありすぎる超おなじみの、しかし地味といえば地味であった節分という行事が、「この日は太巻き寿司を食いましょうや」という一点突破で行事としての力を取り戻すさまは本当に胸のすくことである。

太巻き寿司がみんな食べたかったのだ。食べる理由が欲しかった。すごいことだと思う。
具が豪快にとびだしているのがトレンドか(おにぎり専門店にて)
具が豪快にとびだしているのがトレンドか(おにぎり専門店にて)
しかしバレンタインはたまったものではないだろう。2月はチョコレートではなく太巻き寿司を食べる月になってしまった。

これまで正月気分のほとぼりが冷め次第2/14当日までずっと世の中の雰囲気はバレンタインだったのが、なんと正月アフターから2/3までは節分、ということになってしまったのだ。

バレンタインは大丈夫だった

ご存知のとおり、コンビニはとにかく恵方巻きを売るのにいまや必死である。

では今回はデパートはどうかと見てまわった。この時期洋菓子店はこぞってロールケーキを恵方ロール等々と称して売ることが多いのではないか、そうなるとチョコレートが手薄にならないか。

結果、バレンタイン、大丈夫だったのだ。デパートは恵方巻にも力を入れつつこの時期は俄然バレンタインでした。
新宿タカシマヤ。ベルサイユのバラをフィーチャーし信じられないくらい力の入ったバレンタイン商戦
新宿タカシマヤ。「ベルサイユのバラ」をフィーチャーし信じられないくらい力の入ったバレンタイン商戦
恵方巻きのチラシがぺら1枚のカラーコピーである一方、バレンタインカタログの厚みたるや(6mmあった!)
恵方巻きのチラシがぺら1枚のカラーコピーである一方、バレンタインカタログの厚みたるや(6mmあった!)。池田理代子先生じきじきの薄い本のようでめちゃめちゃに緊張する
新宿小田急百貨店は恵方巻きはコピーではないがやはりペラいち。チョコは冊子
新宿小田急百貨店は恵方巻きはコピーではないがやはりペラいち。チョコは冊子
京王百貨店も同じく
京王百貨店も同じく
新横浜のタカシマヤフードメゾンは節分とバレンタインが一見同様の扱いのようだが、バレンタインの方が圧倒的にパネルの掲載場所が多かった
新横浜のタカシマヤフードメゾンは節分とバレンタインが一見同様の扱いのようだが、バレンタインの方が圧倒的にパネルの掲載場所が多かった
バレンタイン先輩、おそれいりました。デパートにとって節分はまだまだカウンターカルチャー(とあえて言う)のようである。
もちろん惣菜売り場と菓子売り場で様相も違うとは思うが、全館での力の入れ方でいうとそういうことだと思う。
しかし京王百貨店の陳列棚は6個中2個が節分。ここから来年、再来年が見ものです
しかし京王百貨店のショーケースは6個中2個が節分。ここから来年、再来年が見ものです
節分VSバレンタインはさらにこの先10年が見ごたえがあるのではないか。ぜひ来年も注視したい。
タカシマヤフードメゾン新横浜の節分フェア、わりと普通のそばと頑張ってるそばがあった
タカシマヤフードメゾン新横浜の節分フェア、わりと普通のそばと頑張ってるそばがあった

和菓子の店の練り切りの鬼

と、ここまでは余談の部分なのだった。

私が今回目をつけていたのは、和菓子のお店が「節分」とくに「鬼」とどう向き合っているか、だったのだ。

節分で盛り上がっているのはなんといっても恵方巻きである。

各デパート、恵方巻きのチラシを見ると太巻き寿司だけではなく洋菓子店のロールケーキが「恵方ロール」という名で亜種として掲載されることが多い。
こういうの
こういうの

洋菓子店はロールケーキで応戦しているということは、和菓子店はどうしてるだろうと思ったのだ。

なにしろ和菓子屋の宿命として豆そのものを売ったり豆にまつわるお菓子を出したりというのは恵方巻きにスポットが当たらないころからやっていたとは思うが、この節分の盛り上がりにさらなる応戦もしているはずだ。
ちなみにカステラの文明堂はあのかすてら巻きがここへ来て商材としての可能性を見せた。恵方巻きうんぬんというより、あのカステラまきの切ってないやつ!と思うと興奮する
ちなみにカステラの文明堂はあのかすてら巻きが商材としてのチャンスをしっかりとつかみぬかりない。恵方巻きうんぬんというより、あのカステラまきの切ってないやつ!と思うと興奮する
そこへなんと意外にも練りきりで作った「鬼」があちこちで売られているといううわさを耳にした。

そうきたか。
そのひとつをゲット!「ふるや古賀音庵」の節分上生菓子
そのひとつをゲット!「ふるや古賀音庵」の節分上生菓子
めちゃかわいい鬼とおかめさんの練り切りが
めちゃかわいい鬼とおかめさんの練り切りが
鬼はちょっと横を向いている…か、かわいー!
鬼はちょっと横を向いている…か、かわいー!
練り切りというと、お茶席でお濃茶の前に出される茶菓子というイメージ(=まじめに美しい)であるが、造形は自由なのでなるほどかわいいものが作れるのだ。

さらに見て行くと、和菓子屋の節分は

・そもそもが和の文化同士とあって節分と近しい
・近年の盛り上がりにフィットすべく(?)「カワイイ」要素も入ってきている
※かわいい系のお菓子を売る和菓子屋がどんどん増えてるという傾向も
・モチーフとしては鬼以上におかめさんが人気
・鬼としては怖い鬼もかわいい鬼もいる状況

と、ざっくりこのような状況のようだった。

「さすがに鬼慣れているな」という印象である。モチーフが洋菓子よりもフィットしやすいので各店いろいろな商品をとりそろえているようだ。

かわいい鬼からガチの鬼まで見ごたえあり

和菓子ファンとして状況をさらによく知るため、今回は「鬼の形をしたお菓子」に絞って少し買い集めてみた。

モチーフとしての鬼を扱い慣れているということは、つまりさまざまな鬼が見られるということである。節分の時期だからこその楽しみではないか。

というわけで、まずはめちゃめちゃかわいくなってしまった鬼から。
元町 高炉庵の「鬼しぐれ」パッケージからかわいさ十分
元町 高炉庵の「鬼しぐれ」パッケージからかわいさ十分
こちらのお店は「かわいい和菓子をたくさんとりそろえております」とお店の方が呼び込んでいた。かわいい和菓子、という文化があるのだ。
粒あんをきな粉で包んで焼いてある、ただのお饅頭とかじゃないのがちゃんとしたお菓子屋のすごいところ
粒あんをきな粉で包んで焼いてある、ただのお饅頭とかじゃないのがちゃんとしたお菓子屋のすごいところ
続いて小布施堂の「栗あん節分まんじゅう」
続いて小布施堂の「栗あん節分まんじゅう」
まゆ毛をつりあげて本人としては怖い顔をしているつもりなのがかわいい。
栗あんなのも、なんかこう、「かわいいなあ」と思ってしまう。
銀座かんらの「おにろーる」
銀座かんらの「おにろーる」
あ、ロールだ
あ、ロールだ
あん巻きにかわいい鬼の焼印。恵方巻を意識しているのかどうかもはや分からない。節分商戦自体が混沌としてきておりそんなの分からなくても別にいいみたいなところまできている感がある。
赤坂柿山の「節分さんの豆まき」。パッケージがおしゃれだなあ
赤坂柿山の「節分さんの豆まき」。パッケージがおしゃれだなあ
わりと昔ながらテイストを残しながらも
わりと昔ながらテイストを残しながらも
かわいい。
かわいい。
鬼というのはキャラクターであるから、元来怖いものであるとはいえデフォルメされてかわいくなるというのはやむを得ない。

なんでもかわいくしちゃうというのはクールジャパンの常套手段だ。かわいい鬼はクールジャパンなのかもしれない。

日本のKAWAII文化はタガをはずすことによってクールジャパンとして昇華するだろう。きもかわいい、夢かわいいといったかわいいだけでは終われない自意識はクールジャパンを支える大きな要素の一つである。

畏怖の対象である鬼をかわいくして甘いお菓子にするというのはもう鬼の面目もなにもない状況ではあるが、どうか鬼にはこれはクールジャパンだからということでご理解いただきたいものである。
豆源はもちろん豆菓子で気をはきつつこんぺいとうの枡に鬼が
豆源はもちろん豆菓子で気をはきつつこんぺいとうの枡に鬼が
ちょっと怖いのが良い
ちょっと怖いのが良い
両口屋是清の「立春大吉」
両口屋是清の「立春大吉」
豆とおかめさん、鬼のおまんじゅうとなんと金棒のサブレの詰め合せ
豆とおかめさん、鬼のおまんじゅうとなんと金棒のサブレの詰め合せ
金棒がかわいいにすぎる。遊び心め…
金棒がかわいいにすぎる。遊び心め…
買うついでにあちこちで聞いたが、どこも少なくともここ数年はマイナーチェンジはありつつも同様の商品を販売しているということであった。恵方巻き攻勢との関連性は追えなかったが、デパ地下のまじめな和菓子屋に節分でここまでお菓子のラインナップがあるのかというちゃんとした驚きはある。

そんなデパ地下だけあってちゃんと本気の怖い鬼もいて「鬼慣れている」を最大限感じさせてくれた。
新潟の丸屋本店「お干菓子詰め合せ」
新潟の丸屋本店「お干菓子詰め合せ」
ちゃんと怖い
ちゃんと怖い
これでいただくお薄はさぞうまかろう。

最後に今回私が一番これは、と思ったのが叶 匠壽庵の「多福雲門」という麩焼きせんべいの詰め合せ。

掛け紙からして訴えてくるのだが不思議と怖い感じはしない。ああ鬼の怖さみたいなものに自分は慣れているのだなと、大人だもんなと思った。いわゆる「子供なくぞ」というデザインである。
子供は泣くかもレベル
子供は泣くかもレベル
手のひら大のおおきなおせんべいが3枚入ってるのだが…鬼が…
手のひら大のおおきなおせんべいが3枚入ってるのだが…鬼が…
まめをぶつけられて「きゃ~」と逃げている…!
まめをぶつけられて「きゃ~」と逃げている…!
ファンシー方向にいかずして、しかし鬼のかわいさを出してくるとは。まるでその発想はなかった。

和菓子を通じ意外な鬼のかわいさにふれまさかの手ごたえであった。
さくさくすぎて写真がブレた
さくさくすぎて写真がブレた

節分を見守りたい

節分の思い出がない。

玄関から表に向かって、あとベランダから表へ「鬼は外」と煎り大豆をまいたような記憶はある。おそらく親やきょうだいと一緒だったろう。しかし誰がお面をかぶって鬼の役をやっただとか、そのあと何を食べただとか(豆は年の数食べたか…)ほとんど覚えていない。

それだけ、節分がインパクトのない行事だったのだと思う。

しかし今やどうだ。太巻きを、場合によってはどこかへ予約して買い、へたしたら黙って1本どこか決められた方向をむいて食べる可能性が出てきた。恵方ロールだといってロールケーキや洋食を食べることがあるかもしれない。鬼のお菓子もある。豆をまく以前に食卓からしてインパクト大である。

このあと節分はどこへ行くのだろう。太巻き寿司がうまい飯であるかぎり安泰だろうとは思うが、見守っていきたい。
渋い和菓子屋の代名詞、「宗家 源 吉兆庵」にもかわいい鬼のきんちゃくに入った和菓子セットがあった。クリスマスみたいなノリですよねもはや!
渋い和菓子屋の代名詞、「宗家 源 吉兆庵」にもかわいい鬼のきんちゃくに入った和菓子セットがあった。クリスマスみたいなノリですよねもはや!
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