土曜ワイド工場 2017年2月11日
 

デンキウナギを捕まえて、感電して、蒲焼きにして食べた

身体構造がすごすぎる

命懸けの電気風呂を体験した後、デンキウナギはキャンプへ持ち帰った。解体して内部形態を観察し、さらに試食することでその食味を知るためである。
生物の不思議を、味覚を含めた五感で知るのが僕のモットーなのだ 。
山刀でデンキウナギを捌く。とても発見の多い解剖となった。
山刀でデンキウナギを捌く。とても発見の多い解剖となった。
これまでの経験上、特異な生態を持つ生物というのはその形態や味までもが非常に特殊で興味深いものであることが多い。デンキウナギもその例に漏れないはずだ。
デンキウナギの顔
デンキウナギの顔
顔つきを他の魚に例えるならば、ウナギ科の魚よりもむしろヒゲの無いマナマズに近い印象である。

鼻管が突き出しているのは定期的に水面へ吻端を突き出して空気呼吸を行う習性に伴う形態だろう。いわばシュノーケルの役割を果たす器官だ。

また、顔周りにはミシン目のように点線が並んでいる。これ他の生物が発する微弱な電流や水流を感じ取る感覚器であるらしい。これで餌を探すのだ。雷撃武器だけでなくレーダーまで持っているとは…。

そして、さらに注目すべきは喉元である。何やら小さな穴が空いている。驚くべきことに、なんとこれは肛門なのだ。
なんと!肛門が喉元に!
なんと!肛門が喉元に!
つまり、せっかくこんなに細長い体型をしているというのに、内臓はすべて頭部の直後にある僅かなスペースへ無理やり押し込まれる形で収納されているわけだ。

人間に置き換えて想像してみると、これがどれだけ異常な構造か理解しやすい。
ご飯を飲み込んだら首元ですぐに消化吸収され、胸の上部に空いた肛門から排出される。
よだれかけ型の下着が必須となるだろう。
心臓も肝臓も膵臓も胃も腸も肺も喉にあるわけだから、どこかの具合が悪くなれば必ず「なんか喉が痛いなぁ…」と首に手をやることとなるのだ。これでは診察する医師もさぞ大変だろう。
内臓はすべて胸元に圧縮収納されている。
内臓はすべて胸元に圧縮収納されている。
…話を戻そう。では、こんなやり方で強引に省スペース化した胴体には内臓の代わりに一体何が詰まっているのか。

もったいぶっても仕方が無いので単刀直入に言う。発電機あるいは電池である。
この魚、体積のほとんどがバッテリーパックなのだ。デンキウナギを輪切りにすると、明らかに他の魚とは肉付きが異なっている。筋肉が異様に少なく、代わりに体積の大半を白濁した組織が占めているのだ。これこそがデンキウナギの発電器官、電池の集合体なのである。
デンキウナギの断面。背骨の周りに着いた赤い身が筋肉で、大半を占める白い組織は発電器官。
デンキウナギの断面。背骨の周りに着いた赤い身が筋肉で、大半を占める白い組織は発電器官。
どんな動物であっても、筋肉というのは収縮するたびに微弱な電気を発する。
デンキウナギの発電組織は筋肉がこの発電能力だけに特化した進化を遂げた成れの果てといえる。

発電組織は剥片の一つは+極と-極を持つ電池のような構造である。
これが規則正しく密に並んでいる様は、ちょうど大量の乾電池を直列つなぎでみっちりと並べたような状態なのだ。
餌を襲う際に、あるいは外敵に襲われたときにスイッチを入れると、この電池たちが一斉に放電、あの強烈な電撃が繰り出されるわけだ。

まともな筋肉はほとんど無いので、当然遊泳力は弱い。
他の生物たちが何よりも優先して進化させてきた内臓の発達も運動能力も、デンキウナギはそのすべてかなぐり捨てて驚異の発電能力を獲得したのだ。なんとロマン溢れる生物か!

デンキウナギは電気味!

そして、いよいよ「生体電池」とでも呼ぶべきこの生物を食べるときが来た。まずはありのままの、「素材の味」を知るべく刺身でいただく。輪切りから骨を除き、何もつけずに頬張る。
!?電気の味がする!アルミホイルを噛んだ時に感じるあの不快な酸味のような味だ!
!?電気の味がする!アルミホイルを噛んだ時に感じるあの不快な酸味のような味だ!
舌に広がるのは強烈な金臭さと、酸味に近い刺激的で不快な味。これは昔体験したことがある味…。そうだ、電気の味だ!

電気の味というのは、わかりやすく言えば「銀紙の味」である。銀紙(アルミホイル)を口に入れて、舌に嫌な味を感じた経験は無いだろうか。あの現象はアルミホイルと歯の詰め物やスプーンなどの間に電流が走ることで生じるものである。つまり、あの変な味は電気そのものの味なのだ。そして、デンキウナギの刺身の味はアレにそっくりなものだった。

美味いか不味いかで言えば、明らかに不味い部類であるが、そんなことはこの際たいした問題ではない。「デンキウナギは死してなお、刺身にされても電気を発している」という事実を舌で知れたことが重要なのだ。
揚げ焼きにしてみると・・・
揚げ焼きにしてみると・・・
金臭さと電気味は抜けた。しかし、ぶよぶよと水っぽい上に旨味も薄く、あまりおいしいとは言えない仕上がりに。他の手を考えなければ。
金臭さと電気味は抜けた。しかし、ぶよぶよと水っぽい上に旨味も薄く、あまりおいしいとは言えない仕上がりに。他の手を考えなければ。

蒲焼きはまるで豚の角煮!?

…さて、素材の味はよくわかった。
ではこの電気味の魚というろくでもない食材を、どうにか美味しく食べる方法はないものか。
思案の末、キャンプ地にあった醤油と日本酒代わりのラム酒、そしてみりんの代わりにコーラを用いて蒲焼を作ることにした。デンキウナギの蒲焼。長い日本食の歴史の中でも、おそらく初となる試みではないか。
ジャングルの中にたたずむ集落で揃えた調理器と調味料で、挑むぜデンキウナギの蒲焼き(的なもの)!
ジャングルの中にたたずむ集落で揃えた調理器と調味料で、挑むぜデンキウナギの蒲焼き(的なもの)!
醤油だけは都市部で買ってきたのだが、日本酒や味醂は手に入らず。というわけで、ラム酒とコーラで代用。勝算?無いよ。
醤油だけは都市部で買ってきたのだが、日本酒や味醂は手に入らず。というわけで、ラム酒とコーラで代用。勝算?無いよ。
フライパンで焼き上げられた蒲焼きは香ばしく、やけに分厚い。火を通したので発電組織は変性し、電気の発生は止まっているはずだ。生の状態と比べて、味も変わっているだろう。
フライパンで焼き上げられた蒲焼きは香ばしく、やけに分厚い。火を通したので発電組織は変性し、電気の発生は止まっているはずだ。生の状態と比べて、味も変わっているだろう。
熱いうちにかぶりつく。
ぷるぷると柔らかな発電器官はやわらかく、舌の上でとろける。
おおお!!
おおお!!
これは…豚の角煮だ!コーラを用いた甘辛い味付けもあるだろうが、食感が豚角煮の脂身にそっくりなのである。
おおぉ……?
おおぉ……?
「これはイケるぞ!」と喜んだのも束の間だった。デンキウナギの身はほとんどが発電器官で構成されているため、その後も延々と「角煮の脂身」だけを食べ続けるという拷問のような夜を過ごす羽目に陥ったからだ。

しかし感電にせよ試食にせよ、実に得るものの多い一匹であった。
だって捕まえた後、嬉しすぎて泣いちゃったもんね。三十路なのに。
泣いているところをずっと動画で撮られていた。いまだに当時の同行者に会うとこの時のことをからかわれる。
泣いているところをずっと動画で撮られていた。いまだに当時の同行者に会うとこの時のことをからかわれる。

エピローグ : 一番危険なのはやっぱり人間

そんなこんなで意気揚々と市街地へと帰還した僕であったが、なんとここでもとある危険生物の襲撃を受けて負傷してしまう憂き目に遭った。
そのデンジャラスアニマルこそ人間であった。
デンキウナギ捕獲の直後、首都・ジョージタウンで強盗に遭っちゃいました。
デンキウナギ捕獲の直後、首都・ジョージタウンで強盗に遭っちゃいました。
単独行動中、強盗の被害に遭ってしまったのだ。
ヨツメウオという珍魚を探して港町を散策している際に、自転車に乗った三人組の若者に抑え込まれてしまった。
だが幸い、こんなこともあろうかと所持品は壊れかけの予備デジカメと空のSDカードだけだった。
物的な被害は最小限で済む。

抵抗してもかえって危険なだけであるから、即座にカメラを渡す。
ところが!せっかくのカモである日本人旅行者を捕獲したのに、結果としての収穫が微々たるものだったことに腹を立てたらしい。
「これだけ?」「ウソだろ!」「現金は!?」的なことを焦ったようにつぶやくのが聞こえた。
そしてその後数分間、怒りの形相で殴る蹴るの暴行を受けることになってしまった。
暴力を避けるために自らカメラを差し出したのに、完全に殴られ損である。
今度から海外の街を歩くときは強盗さんへのチップとして多少の現金を持つようにしようと思った。
ベッタベタな締めで申し訳ないが、
「地球上で最も恐ろしい生物は人間である」ということを思い知った旅の終わりであった。
デンキウナギの電撃なんて、悪意が無いだけかわいいもんなのだ。

次はデンキナマズ

やはり、実際に体験する野生動物の特殊能力はすごい。想像を絶する。
またいつか、こういう「シビれる」出会いを経験したいものである。
…次はやっぱりアフリカでデンキナマズかな?
本当にいい魚だったなぁ。強盗に遭ったことなんか屁でもないことに思える。
本当にいい魚だったなぁ。強盗に遭ったことなんか屁でもないことに思える。

<もどる▽デイリーポータルZトップへ  

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓