チャレンジの日曜日 2017年2月12日
 

書き出し小説大賞 第116回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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節分とバレンタインの間ってクリスマスと正月の間みたいなソワソワ感ない? といままで一度も思ったことがないことを、さも前から思っていたように書いてみました。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

二次曲線みたいな背伸びして、タマが小さく鳴いた。
terayo
冬枯れの枝は、雪空を掴むようにその手を伸ばしていた。
夏猫
風呂上がりで車に飛び乗り、全ウィンドウが曇る。
suzukishika
屋上。聴こえるピアニカの音を払うように求人誌を開いた。
けー
絡まったパラシュートを解いてやると、父は大人しくなった。
あや幹部
恥ずかしいほど反りかえって、提出した貼り絵が戻ってきた。
TOKUNAGA
境目の話でケンタウロスと人魚は盛り上がっていた。
どんちょう
朝ドラの幼少期のように、ひたすら過ぎるのを待った。
大伴
生まれたばかりの子どもたちが朝の光を食べている。
あひる
その男とは波長は合わないが位相は合う。
君と僕と雨
私は私のまま、私じゃなくなりたい。
ねこがたの
夜な夜なに、彼女は彼の文章に入り込む。
トミ子
金色の御神輿を担ぐ人、陽気に太鼓を叩く人や笛を吹く人、それらを笑顔で取り囲む観客達。この人達は皆、悪い事をした人達だ。
魚子
かつて少女とロボットだった、老婆と置物。
正夢の3人目
競輪のCMだけを残して、人類は滅亡した。
もんぜん
コールドスリープ明けの体操で身体をほぐす。
紀野珍
書き出し小説は各々が、小説の書き出しを考える企画だが、こうして採用作を並べると各作品が微妙にリンクしているように感じるときがある。直接ストーリーとしての繋がりはなくても例えば、猫が二次曲線のような背伸びをしたその頃、飼い主は枯れ枝越しの雪空を仰いでいた。とか、主人公が求人誌を開いたその屋上に、父がパラシュートで降りてきた。とか、私のまま私じゃなくなりたいと願った女の子は、毎晩彼の文章に入る込む。といった具合にいくつかの作品を頭の中でミックスし、同じ世界の中で起こったこととして読むもの愉しいと思う。競輪のCMだけを残して滅亡した世界で、コールドスリープから目覚めた男の行く末など、なかなか想像しがいがあるのではないだろうか。

つづいては規定部門。今回のテーマは「バレンタイン」であった。チョコの代わりにビターなセンテンスをどうぞ。

書き出し規定部門・モチーフ「バレンタイン」

チョコも上履きも無かった。
TOKUNAGA
母と祖母からのも含めると、今年は2個貰った。
五捨六入
靴箱からこぼれたチロルチョコが、すのこの下に転がり込む。
紀野珍
チョコレートが溶けるのに合わせて初恋は終わった。
七世
妻がただ自分の食べたい高級チョコを買ってくる日が訪れた。
g-udon
バケツの中のドロドロに溶けたチョコレートを、柄杓で亡夫の墓にかけた。
イワモト
「あんだけ手伝ってもらったんだからお父さんにもあげなさい」妻の声が聞こえる。
山本ゆうご
日付が変わるまでは諦めない、という声を背中で聞きながら、後ろ手でドアを閉めた。
てててて
教室に着くと、僕の机の上でチョコフォンデュタワーが稼働していた。
くのゐち
まわしの中に違和感を覚えたのは、取組を終えてからだった。
けー
飛び交うチョコが彼の眉間を撃ち抜いた。
小夜子
起きてください。起きて私にチョコをください。
xissa
老舗和菓子屋の跡取りというポジションが、毎年この日を微妙なものにする。
園芸係長
ビッグデータによると、君は僕にチョコを渡さない。
あひる
神棚に飾っていたおととしの義理チョコが、いよいよ最後の食糧となった。
Mch
週刊バレンタイン、創刊号はカカオの種。
東ことり
心を込めたチョコの3Dデータ、あの人は出力してくれるだろうか?
タクタクさん
「ボランティアなんだからねっ」とボランティアの人が言う。
あや幹部
彼女からのチョコを手にした中山は、初めてゼロに気づいたインド人と同じ目をしていた。
ナギナギ
特別な義理だってあるだろう?
もんぜん
以前クリスマスを取り上げたときもそうだが、こうした「モテ」が明暗を分かつテーマでは、圧倒的に非モテの作品が面白い。恋愛ドラマは成就した瞬間に終わる。そういう意味でモテない限り物語はつづく。ただしこじらせるとファンタジーの住人となり戻って来れない危険がある。
TOKUNAGA氏「チョコも上履きもなかった」泣きっ面に蜂系の新しい慣用句として採用したい。イワモト氏「バケツの中の〜」深すぎる愛は傍目にはグロテスクに見える。くのゐち氏「教室につくと〜」モテの完成形と言えるのでは? けー氏「まわりの中に〜」相撲BLに新たな名作。xissa氏「起きて下さい〜」まずこの台詞がどんな状況でなされたのか。妄想は尽きない。あひる氏「ビックデータによると〜」これほど力強い否定で終わる文章も珍しいのでは。あや幹部氏「ボランティアなんだからねっ〜」うん、としか言えない。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「端役」
次回は物語の端役にスポットを当ててみたい。ドラマにおける端役とは、ストーリーに直接関係ない、台詞もあってひと言くらいの役柄である。刑事ものにおける聞き込み先のアパート十人、主人公の立ち寄るコンビニの店員役などをイメージしてもらえればよいだろう。端役は物語に登場しながら、どこかそれを遠巻きに見ているような雰囲気がある。端役を視点にすることでドラマの新しい側面が見えてくるかもしれない。締め切りは2月24日正午、発表は26日を予定している。力作待ってます!下記の投稿フォームから自由部門、規定部門を選んで送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

prefab/くずきり/恋人はサウスポー/いがそ君/反骨心のアップリケ/早計層/かがりきょう/マークパン助/セッドあとむ/猫背脱却物語/くのゐち/morin/まじいい/ビールおかわり/茂具田/きょうこ/井沢/石川セグウェイ/この村の長毛/そうだ、イコウ/ぐるりん/ピカ太郎/iahon/ろっさん/義ん母/思ひ出せない/もろみじょうゆ/しょうがぱん/
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