特集 2017年2月22日

伝説の深夜番組『たほいや』が復活した夜

あの伝説の深夜番組『たほいや』が復活した
あの伝説の深夜番組『たほいや』が復活した
そのむかし、『たほいや』という深夜番組があった。

辞書を使ったゲーム、『たほいや』の番組で、カルト的な人気を集め、根強いファンが多かったものの、わずか半年ほどで番組は終了した。

そんな『たほいや』が、イベントとして復活した。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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24年ぶりの復活

『たほいや』は、1993年フジテレビの深夜番組として放送された。わずか半年ほど放送されただけだが、その知的な駆け引きの面白さから、熱心なファンが未だに復活を望む声が多い番組のひとつである。

それが今回、当時番組に出演していた大高洋夫さん、松尾貴史さんを迎え、イベント『たほいや甲子゛園(たほいやこうじえん)』として復活した。
右から、眞形さん、能町さん、松尾さん、大高さん、藤澤さんの5人
右から、眞形さん、能町さん、松尾さん、大高さん、藤澤さんの5人
今回行われる『たほいや』に挑戦するのは、イベントを企画した眞形隆之さん、能町みね子さん、松尾貴史さん、大高洋夫さん、藤澤仁さんの5人。

松尾さん、大高さんは『たほいや』を行うのは、番組終了以来らしい。

さて、すでにこの記事をここまで読んでいる方々には、いまさら『たほいや』とは何か? ということはわざわざ説明しなくても大丈夫だとは思うが、いちおうざっくり『たほいや』というゲームを説明しておきたい。

『たほいや』は、もともイギリスで考え出された辞書を使ったテーブルゲーム「ディクショナリー」が元になっている。

このゲームは、辞書(『広辞苑』の場合が多い)に掲載されている言葉をお題として出題し、参加者が考えたウソの語釈と辞書に書いてある本当の語釈を混ぜ、その中から本当の語釈をあてる。というゲームだ。

ちなみに『たほいや』とは、もともと「イノシシを追うための小屋」という意味の言葉だが、そのインパクトの強さから、日本ではそのままゲームの名称として親しまれている。

当サイトでも、偶然にもウェブ版『たほいや』を先々週から始めているので、興味がある方はそちらもご覧いただきたい。

意表をつく語釈にわく会場

ゲームは、5人が持ち回りで親(お題の出題を担当)を務め、一巡で一ラウンド終了。計2ラウンド行い、チップの多さで成績を決める。

第1ラウンド最初のお題は眞形さん出題の「おたばこぼん」。
「おたばこぼん」とは?
「おたばこぼん」とは?
「おたばこぼん」に対し、次の5つの語釈が出された。
お題「おたばこぼん」
(1) 少女の髪の結い方。
(2) 煙草盆の丁寧な読み方。
(3) 刻み煙草についての本。
(4) 遊郭で使われたキセルをすてる盆。
(5) 芝居小屋で配られるキセルを使うための炭入れ。
「おたばこぼん」といえば、漢字で書けば「御煙草盆」だろうか?
会場では(2)の語釈がいちばんウケていたのだが、その気持もわからなくはない。そのままじゃねーか。というところだろう。
このお題での解答は、藤澤さん(5)、大高さん(4)、松尾さん(1)、能町さん(3)と見事にバラけたが、松尾さん以外は、すべて「煙草盆」に関する言葉だと予想した。はたして、実際に広辞苑に載っている語釈はどれか?
おたばこぼん=少女の髪の結い方
おたばこぼん=少女の髪の結い方
なんと(1)番の「少女の髪の結い方」である。まったく想像がつかない、意表をつく正解に会場がどよめく。松尾さん以外は、全員、広辞苑に騙されたのだ。第1問からいきなりこのレベルですごい。
いきなり正解する松尾さん
いきなり正解する松尾さん

さらに上をいく問題を出題

続いての出題は大高さん、「もろせ」である。この問題がヤバかった。
やばい問題「もろせ」
やばい問題「もろせ」
お題「もろせ」
(1) 両岸が浅くなった河岸。
(2) 向かい合った川岸。両岸。
(3) 江戸の町火消二番組の、も組・ろ組・せ組。
(4) 背表紙の厚み。
(5) 背中を大きく露出すること。
まったくなんなのか想像できない語感の「もろせ」、さいごの「せ」が「瀬」なのか「背」なのか悩むところだが、そのなかでも3番は完全に、だれかがてきとうにでっち上げたウソ語釈にしかみえない。大高さんが3番の語釈を読んだ瞬間、会場からおおきな笑いが起きた。
出演者は、藤澤さん(1)、松尾さん(2)、能町さん(5)、眞形さん(2)という解答。

さて、正解はいったいどれか。
もろせ=江戸の町火消
もろせ=江戸の町火消
まさかの3番である。

江戸の町火消の二番組の三つをわざわざ言い表す言葉が、わざわざ広辞苑に載っている。なんなんだ広辞苑。

能町さんは「3番かな? とも思ったけれど、3番に行く勇気がなかった」と言っていたが、「たほいや」は、知識量よりも、勇気が必要かもしれない。

もちろん、こんな言葉をみつけてきて出題する大高さんもさすが「レジェンド」と言われるだけある。
勇気が必要かもしれない
勇気が必要かもしれない
その後「れっぺ」「ねこおろし」「とおお」などの問題が出題され、最終的にチップは大高さんがトップで第1ラウンドは終了。
大高さん、断トツのトップ
大高さん、断トツのトップ

ストレートが逆に難しい

さて、しばらくの休憩を挟んで第2ラウンドがスタート。

まず最初の出題が能町さんの「けるい」。
けるい?
けるい?
お題「けるい」
(1) 毛皮織物の総称。
(2) 土嚢で水を堰き止めた路肩。
(3) 軽薄。かるい。
(4) けだるい。
(5) 軽いの訛り。
「けるい」漢字のあてかたによっては、名詞っぽくもあるが、形容詞のようにも見える。出てきた語釈も傾向がバラバラで、判断がつきにくい。出演者は、藤澤さん(4)、大高さん(4)、松尾さん(5)、眞形さん(2)という回答。

藤澤さんは「けだるい」を「けるい」と略すのは切れ味があるから4番。
大高さんは、3番、4番、5番で迷って、軽薄は名詞なので、形容詞の軽いと意味が合わなくなるので、4か5で迷って4番に。
松尾さんは、ごく自然に考えると1番かなあと思うけれど、毛皮言い表すなら「毛織物」とまとめて言うだろう。ということで外して5番に。
眞方さんは、1番と2番の語釈がいい加減ではなく、やる気があるように見えたので、そのなかでも最もやる気がありそうな2番に。

果たして正解はどれか……正解は。
けるい=毛皮・毛織物の総称
けるい=毛皮・毛織物の総称
1番だ。全員不正解!

毛皮・毛織物の総称、ということは「毛類」だったということだ。

正解が、わりと語感からストレートに感じ取れそうな意味だったのに「おたばこぼん」や「もろせ」で騙されてきたため、ちょっとひねった語釈を答えてしまって、まんまと全員騙されるパターンである。

そんなことばある?

たほいやも佳境に入ってきた。藤澤さん出題の「すおみ」、大高さん出題の「ちちんこ」と続き、眞形さんの出題は「まんすじ」。

ざわめく会場。
「まんすじ」
「まんすじ」
読者諸兄におかれましては「佳境に入ってきた」の意味がおわかりいただけたと思う。

「まんすじ」、広辞苑にしっかり掲載されている言葉である。
お題「まんすじ」
(1) 一途、一本気。
(2) 八幡筋の略称。
(3) 岩手県盛岡市にある古刹。
(4) 二本ずつ色のちがった経糸を配列した竪縞。
(5) 女性の陰部にそって衣服等に生じるすじ。
出演者の解答は藤澤さん(1)、大高さん(3)、松尾さん(3)、能町さん(1)との答え。

藤澤さんは5番をまっさきに外して、消去法で1番。
大高さんは「万寿寺」という寺の名前だと考えればありえるということで3番。松尾さんも、寿の発音を東北訛りで「す」と発音して親しまれた寺ではないか? ということで3番。
能町さんは、語感から思いつかなさそうなものを選んで、1番に。

はたして正解はどれか?
まんすじ=竪縞のことでした
まんすじ=竪縞のことでした
正解は4番。全員不正解!

地名や施設名みたいな固有名詞ではなく、織物の模様の名称であった。語感のインパクトは充分だが、語釈はいたってまじめである。

しかし気になるのは、どストレートな5番の語釈はいったい誰が書いたのか。ということ。いちばん書きそうな眞形さんは出題なので、語釈を書いていないのだ。
眞形さんは出題なので5番を書いてない?
眞形さんは出題なので5番を書いてない?
5番は、実は能町さんが書いていた。
実は能町さんでした!
実は能町さんでした!
能町さん曰く、眞形さんが親だから、眞形さんが書きそうな語釈をわざと書いて当てさしたら超気持ちいいんじゃないか? と思って、どストレートな語釈を書いたという。

誰かが書きそうな語釈をわざと書いて、判断を混乱させる……という作戦だったようだ。心理戦、もはや戦争である。

なんとレジェンドが敗退

藤澤さん出題の最後の問題「さいぎる」がおわり、第2ラウンドも終了。チップを精算すると、藤澤さんと能町さんがほぼすべてのチップを山分けするような形で大勝していた。
レジェンド相手に健闘した藤澤さん
レジェンド相手に健闘した藤澤さん
トランプタワーのようにチップが積み上がる能町さん
トランプタワーのようにチップが積み上がる能町さん
というわけで、『たほいや』復活第一回の優勝は、レジェンドを退けて、能町さんと藤澤さんが同点優勝ということになった。

すでに次回も決まっている

実は『たほいや甲子゛園』、次回の開催が決まっている。
3月27日に二回目があります
3月27日に二回目があります
まだ出演者は確定していないものの、トーナメント形式で年間チャンピオンを決める。という構想らしい。

入院におすすめ「広辞苑」

今回のイベントを企画して開催にまでこぎつけた眞形さんは、入院中したおり、広辞苑を持ち込んでずっと読んでいたらしい。
「雑誌なんかはすぐに読み終わっても、広辞苑は次から次へと新しい言葉が載っており、なかなか読み終わらないから、入院におすすめ」だという。

ずらっと並んでいる情報のなかから、気になったものを拾い出して読んでいくという行為は、まとめサイトやSNSのタイムラインをながめてひまつぶしするのに似ている。

「たほいや」は、そこにゲーム性を加えたものではないだろうか。

このゲームは、未知の言葉を知ることができるというだけではなく、駆け引きの面白さや、言葉選びのセンスの面白さなど、かなり奥が深いゲームである。

いち辞書好きとしては、このゲームがはやって、みんなが国語辞典を買うようになったら面白いなー。と思っている。
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