特集 2017年2月28日

群馬の「上毛かるた」には熱い全国大会がある

群馬から日本規模へ
群馬から日本規模へ
群馬県には「上毛かるた」という郷土かるたがある。
そしてこのかるたには、県境をこえた「日本一決定戦」が存在している。

……えっ!

当方群馬出身者だが、はじめて聞いた時には脳がまったく追いつかなかった。だが、これはまぎれもない事実な上に開催は5回目を数えるのだという。会場は板橋区、堂々の首都開催である。

行ってみたところ、それはもう熱気と熱情がごりごりと四方八方から押し迫ってくる、日本一決定戦の名にふさわしすぎてしまうすんごいイベントだったので、報告をしたい。
1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

前の記事:セーブオンがローソンになっても変わらずにいてほしい8つのこと

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上毛かるたとは

とはいえど最初は「朝から晩までずっとかるた競技を眺める」という状況がまったく想像できてなかった。行ってみてもまだ、どんなイベントだったのかが簡潔なひとことには、全然まとめきれない。

と、今回の記事はその大会のレポート記事なのだけれど、まずは上毛かるたの説明からはじめたい。
上毛かるた、こちらです(知っている人は、ここから数行は飛ばし読みしていただいても!)
上毛かるた、こちらです(知っている人は、ここから数行は飛ばし読みしていただいても!)
これは、「あ」から「わ」までの計44枚を群馬の様々な魅力を高らかにうたいあげる、隅から隅までのすべてが群馬愛にあふれたかるたである。「群馬県出身者は、上毛かるたの読み札をぜんぶ暗唱出来る」という逸話もあるのだけど、現にわたしもほぼ暗唱できる。
仮にぜんぶは暗唱できなくても、「つる舞う形の群馬県」「力あわせる二百万」「縁起だるまの少林山」あたりはさらっと暗唱できる
仮にぜんぶは暗唱できなくても、「つる舞う形の群馬県」「力あわせる二百万」「縁起だるまの少林山」あたりはさらっと暗唱できる
県民は皆、上毛かるた大会に出場することになっているという逸話もある。これに関してはじゃっかんの地域差があり、大会未経験者は存在している。だが、かつて公民館や自宅などでかるたを営んだという県民は、圧倒的すぎる多数だ。

そんなかるたの「日本一決定戦」が開催されるという。
!
ことの発端は1週間前、当サイトの先輩群馬県人ライター・乙幡さんから届いたメッセンジャーだ。

「今週末に上毛かるたの日本一決定戦がある」
「自分は残念ながら所用でいけない」
「ネッシーさん、もし行きたかったら取材どうでしょうか」

脳の情報処理が追いつかないまま、添付されていたURLを辿ったところ、そこにはしっかりと、「日本一決定戦」と記されていた。

見間違えていない!

そして当日

板橋区に来た
板橋区に来た
やはりあなたも、いらっしゃっていたのですね
やはりあなたも、いらっしゃっていたのですね
開会式がはじまった。群馬料理居酒屋「ナルカミ」マスターからの「鳥めし風弁当(竹)」の差し入れの発表に歓喜する一同
開会式がはじまった。群馬料理居酒屋「ナルカミ」マスターからの「鳥めし風弁当(竹)」の差し入れの発表に歓喜する一同
と、いきなり局地的な文化の話を説明いれずに盛り込んでしまってすみません!「登利平の鳥めし(竹)」の説明をせねば。

おそらく横浜で言うところのしゅうまい弁当である、と言っておこうか。群馬のイベント会場で出る弁当といったらほぼこれなんだが、県外に出るとなかなか食べる機会に恵まれずにいるわたしたちにとっては、視界の中にあるだけでもう歓喜喝采の中毒性のひじょうに高いお弁当である。
細かい話だが、「松」より「竹」を好きな人ばかりだ
細かい話だが、「松」より「竹」を好きな人ばかりだ
それを大量に自作しているってどういうこと……!数が選手の分のみなので、食べている途中に割り込んで撮らせてもらった(ありがとうございます)
それを大量に自作しているってどういうこと……!数が選手の分のみなので、食べている途中に割り込んで撮らせてもらった(ありがとうございます)
前回大会までを3連覇ののちに引退を発表、殿堂入りを果たしたという阪本さんが表彰されていた。既に殿堂入り者もうまれているという衝撃
前回大会までを3連覇ののちに引退を発表、殿堂入りを果たしたという阪本さんが表彰されていた。既に殿堂入り者もうまれているという衝撃
とつぜんのJOYから阪本さんへの応援メッセージ放映。ぐんまちゃんの座りにくそうさがいじらしい。はじまってまだ10分ちょっとだが、会場の群馬濃度の高さに既にくらくらしている
とつぜんのJOYから阪本さんへの応援メッセージ放映。ぐんまちゃんの座りにくそうさがいじらしい。はじまってまだ10分ちょっとだが、会場の群馬濃度の高さに既にくらくらしている
ところで話を聞いた当初、どうしても気になっていたことをずばり、失礼を承知のうえで直球に言ってしまいたい。

このイベント、群馬県の人以外の人は参加しているのだろうか?

これはあの、他県の事情を実感としては理解出来ていないからゆえの不安感情だと弁明したいのだが、こたえはすぐにわかった。メンバー紹介にはいったとき、飛び出してきたのは、まさかの「兵庫から来ました!」だったからだ。
右の人が兵庫。ちなみにチーム編成は、彼らのような3人1組が1チームである。総勢24チームでぶつかりあう
右の人が兵庫。ちなみにチーム編成は、彼らのような3人1組が1チームである。総勢24チームでぶつかりあう
彼ら「山頂crew」は、声優・内田彩さんを通して群馬を知ったのだそうだ。群馬出身の内田さんが「上毛かるたとは何ぞ」ということを発信した結果、興味をいだいた彼らは独学でかるたを学び、さらには絵札で見た景色と実際の景色を照らし合わせる旅をしたりもしているという。本気の度合いが高い。
左男性「四万温泉(「よ」の札で読まれている温泉)、行きました!」
左男性「四万温泉(「よ」の札で読まれている温泉)、行きました!」
わたし「絵札と比べてみて、どうでしたか?」
左男性「札、ちょっと盛っていますね」
ですよね。男湯がこの状況だったら、それはそれで問題だな
ですよね。男湯がこの状況だったら、それはそれで問題だな
ちなみにこの「よ」の札だが、この風貌ゆえ、小学生男子にとっては見るのも取るのも、照れくささ満点の札として名高い。

左男性「そういうかるたにまつわる文化もふくめて、面白いなと感じました。」

右男性「ぼくは、絵札に書いてある場所を、ネットで検索して『行ってみたい』と思ったりしています。滝とか。」

わたし「おお、それはもしや『た』の札でしょうか!『滝は吹割、片品渓谷』!」

なお、このとき興奮して思わず札を暗唱したはいいが、「ふきわれ」と読むところを、「ふきわり」とさらさら誤読してしまっていたので、なかなか恥ずかしい。
「(試合スタートの)3分前」とアナウンスがかかった途端、会場は一気に静まりかえった
「(試合スタートの)3分前」とアナウンスがかかった途端、会場は一気に静まりかえった
畳には、ビニールテープががっしりと貼られている。お互い、札半分ずつ、自分とちょっと近い距離にあって取りやすくなっている
畳には、ビニールテープががっしりと貼られている。お互い、札半分ずつ、自分とちょっと近い距離にあって取りやすくなっている
始まったら始まったで、札を取る時に畳をこする「ぱしっ」という音の速さに、いちいちどきどきした。取った後に少しだけおこる歓喜や笑い声にほっとするのだけども、それはつかの間、次の読み札が読まれ始めるやいなや、またぴんと張りつめた空気が再来して……が繰り返されていく。
あの、なんというかこれは、想像していたよりもずっとずっと「競技」!
あの、なんというかこれは、想像していたよりもずっとずっと「競技」!
以前、かるたのクイーン戦がすごすぎたという尾張さんの記事を読んだ時に「かるた大会ってそんなにすごかったのか!」とびっくりしていたのだけども、目の前でおこっているともう、さらにさらに、びっくりしっぱなしだ。

手の動きは肉眼でまったく追いきれていない。

何かにどうにか例えるとしたら、テニス、バトミントン、バレー、卓球、野球あたりが思い浮かんだ。なんだこれは。なんだなんだ。もう、わけがわからなくて、語彙がすりきれる……!
「VAN」は、初出場だそうだ。っていうかちょっと待ってほしい。そのTシャツ
「VAN」は、初出場だそうだ。っていうかちょっと待ってほしい。そのTシャツ
「メンバーたちに好きなかるたの文字を調査して、こっそり注文しました!」

その熱情もすごいのだけども、つまりそのTシャツって44種類もあるのか。

ちなみにこの3人は、初出場どうしようどうしようといいながらも、自分の背に書いてある札のうちの2種類はがっつりと死守していた。
ついつい、「彼女たち、Tシャツと同じ札は死守するのだろうか、やはり」という視点でずっと眺めてしまった
ついつい、「彼女たち、Tシャツと同じ札は死守するのだろうか、やはり」という視点でずっと眺めてしまった
自分はといえば、すっかり競技にのめり込んでいて顔の筋肉全体が、試合の状況にあわせて機敏に動いていた。と、文字で書くよりも自画撮りをしておいたほうがわかりやすいんじゃないかとも思ったけど、いや、自分に向けてなんぞシャッターを押している余裕がないぞと、撮る前にやめた。
お腹がすいたので近所のお店でビビンバ食べたのだが、思っていた以上に量が多くなかなか食べ切らない。はやく会場にもどって、試合のつづきが見たい
お腹がすいたので近所のお店でビビンバ食べたのだが、思っていた以上に量が多くなかなか食べ切らない。はやく会場にもどって、試合のつづきが見たい
見ているほうも、集中力をしぼりきって見つめねばという使命感が芽生えてくる。試合が終わると、集中力の糸がぷつっと切れる。見ているだけでこれなんだからもう、選手の人たちはいったいどんな気持ちなんだ。
と、糸の切れた風船のような気持ちでふわふわしていたところに、5本指ソックスの群衆が通り過ぎた
と、糸の切れた風船のような気持ちでふわふわしていたところに、5本指ソックスの群衆が通り過ぎた
靴下に気を取られていたが、よく見るとTシャツもそろい支度だ
靴下に気を取られていたが、よく見るとTシャツもそろい支度だ
話しかけてみたところ「まあ座って座って」とコーヒーをもらったうえに
話しかけてみたところ「まあ座って座って」とコーヒーをもらったうえに
「まあ、いちごでも」といちごもらった
「まあ、いちごでも」といちごもらった
いきなり、親戚のうちに通されたかのようなことになったんだけれど、ここはれっきとした、会場内のはしっこである
いきなり、親戚のうちに通されたかのようなことになったんだけれど、ここはれっきとした、会場内のはしっこである
このポットは、もしや持参品……?
このポットは、もしや持参品……?
ポットどうしたんですかと聞いたところ、いちばん近所の人が持って来たのだという。大会の過ごし方が熟練している。強豪のかおりがする。「上毛かるたチームす・も・の」さん、チーム名だけを見て「おお!」と直感で何かを感じた人は、かなりの上毛かるた上級者だ。
写真撮りたいて言ったら集まってくれた。人数の多さ!
写真撮りたいて言ったら集まってくれた。人数の多さ!
水も飲みたいぞと思って外に出たら、壁に並んで話し込んでいる3人組に会った。大学生のサークル仲間なのだそうだ。
肩から動かすよりも、肘から動かした方が早く動かせるんだろうなとか、試合中に相手のフォームについて研究していたらしい。探究心が高い
肩から動かすよりも、肘から動かした方が早く動かせるんだろうなとか、試合中に相手のフォームについて研究していたらしい。探究心が高い
チーム「からっ風を追い風に」。左から2人は、去年のちょうど今日、受験生だったそうだ
チーム「からっ風を追い風に」。左から2人は、去年のちょうど今日、受験生だったそうだ
群馬から偵察にきている高校生もいた
群馬から偵察にきている高校生もいた
高校生版の上毛かるた大会を企画運営をするらしい。そのための単身乗り込み取材なんだそうなんだが、なんとアグレッシブな。

ところで試合の編成だが、まずは4ブロックに分かれて、ブロック内の各チームと戦い、その結果上位になった全8チームが、最終トーナメントに出場できる。

さっきまでで既に速さに驚いていたのに、この残った8強というのが、高校野球のベスト8のごとく強豪そろいぶみな状態になっておりましてですね……。
挑む姿勢が、陸上でいうところのクラウチングスタートみたいなことになっています
挑む姿勢が、陸上でいうところのクラウチングスタートみたいなことになっています
見ているだけで、歯をくいしばってしまう
見ているだけで、歯をくいしばってしまう
読み札、ほぼ最初のひと文字目で手が動きあうような状態
読み札、ほぼ最初のひと文字目で手が動きあうような状態
選手の方が体を支えるのにかなり全身に力を込めているのが見てとれてしまう。筋肉のふるえが
選手の方が体を支えるのにかなり全身に力を込めているのが見てとれてしまう。筋肉のふるえが
この体勢にしても、全員ジャージ着用というあたりも、これはかなり本気度合い高い。優勝候補なのだろうか。
と、思っていたら彼らがほんとうに優勝した!チーム「5レンジャー」
と、思っていたら彼らがほんとうに優勝した!チーム「5レンジャー」
競技中のフォームについて聞いてみたところ、小さい頃に地元で教えてもらったものなだそうだ。近所に、かるた大会にあついおじさんがいて、そのおじさんの指導のもとで頑張っていた時代があるのだという。

「頑張るとおじさんがよろこぶから、頑張っていました!」

彼らは5人兄弟の3番目から5番目である。ほんとうは長男がでる予定だったが、急遽仕事が入ってしまったがために当日の当日に、ピンチヒッターとしての3番目の出場が決定したのだそう。
え、でもおねえさん(3番目)、大量に札とっていましたよね
え、でもおねえさん(3番目)、大量に札とっていましたよね
試合中には張りつめた空気をここぞと出しているのに、終わったあとはひたすらにこにこしていて、兄弟が仲良さそうなすがたが微笑ましすぎる。

なんだろうこの空気の良さみたいなもの。そういえば。試合が終わると、審判と選手がなごやかに会話をはじめるところにも何度か遭遇している。
「誰にも失敗はありますから」と、聞こえてくる審判員さんの声がやさしい
「誰にも失敗はありますから」と、聞こえてくる審判員さんの声がやさしい
ちなみに強豪ぞろいで競り合う中ではあるのだけど、「1勝だけでもしたい」という、ゆるやかな目標を掲げながら挑んでいるチームもあったんだということを、個人的にはごり推ししときたい。
毎年、一勝もできなくてもめげずに出場をつづけているという司会者兼競技者(右)「ヤブキサドヤ」
毎年、一勝もできなくてもめげずに出場をつづけているという司会者兼競技者(右)「ヤブキサドヤ」
品川のゲストハウスからやってきた「チーム品川宿」も、念願の一勝を達成
品川のゲストハウスからやってきた「チーム品川宿」も、念願の一勝を達成
みんながみんな最高峰の高みを目指しているわけではないというのも、この大会に厚みを加えているんじゃなかろうか。単にわたしが、一方的にシンパシーを感じているだけでもあるのだけども!

もう1回言うが、これは全国大会である。すべての大人には参加資格があるのだ。どうぞどうぞ、少しでも気になった人には次回以降の大会を検討してみてほしい。というか、自分が参加したいので、まずは仲間をさがしたい。

ジャージで試合するのをおすすめしたい

ここさいきん特に地方復興が叫ばれ出しているけど、「群馬を盛り上げたい!」という気持ちの人がたくさんいるのだなぁということを、かなり具体的に感じた気がする。
殿堂入りした阪本さんは、「もっと色んな人に大会を楽しんで欲しい」という気持ちもあって、身を引いたらしい。連覇をしていたころ、緊張でごはんが喉をとおらなかったことも、あったんだという。「でも、今年は食べましたよ!」と笑顔で言っていたので、それはよかったなぁ。
群馬テレビのカメラマンさん(たぶん)と「すごいですね!」と顔を見合わせたとき、なんだかうれしかった
群馬テレビのカメラマンさん(たぶん)と「すごいですね!」と顔を見合わせたとき、なんだかうれしかった
もし今後出場したい人がいたならば、ジャージ着用をおすすめしたい。あと、例年ずっと兄弟が優勝しているので、3人以上の兄弟は有利かもしれないぞ!
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