ずっと気になってた蔵前駅「元楽」
この企画を思いついたのは、乗り換えでたまに利用する都営浅草線の蔵前駅にあるラーメン屋の広告看板がきっかけ。
そのシンプルなデザインと、どこか時代を感じさせる看板を見るたびに、行ってみたいなと思っていたのだ。
あおり文句もなく、シンプルでいい
訪れてみると、無駄に飾ることのない、居酒屋さんのような落ち着いたたたずまいだった。中も昭和な感じで、期待を裏切らない。
夜は17時に開店。私は10分くらいについたのだけどすでに常連さんらしき地元の客が数組入っていた。作ってくれたのはベテランの風格ある大将だ。
蔵前駅からすぐ。もっとこじんまりとしてるかと思っていたがけっこう広め。
店に貼られたチラシを見る。どうやらここは背脂たっぷりの豚骨スープと、持ち帰り販売するほど人気のとろとろチャーシューがウリのお店らしい。
看板と同じものを食べたいと、券売機で「特製 元ラーメン」を購入。特製と名がついてるし、広告費分高いのではと覚悟していたが650円。お手頃で嬉しい。
お、美味しそう! 3日間煮込んだという濃厚スープ。看板写真からはわからなかったが大量の背脂が浮いている。
勝手にサラリとしたツユの醤油ラーメンを想像していたのだけれど、出てきたのはドロリとしたツユ。太麺をもちあげるとコラーゲンたっぷりの背脂が一緒についてくる。
味も重ためかな、と思いきや、甘めの醤油だれが意外とすっきりとしていて嫌なくどさは無い。厚めに切られたチャーシューが麺と共に口の中でトロけ、、文句なくうまい!
完全に期待を超えたうまさ。
プラス240円で、「小豚めし」もつけられる。特製チャーシューが乗っており、タレとごま油をかけて混ぜていただく。
店の奥にはごま油絞り機があった。しぼりたてごま油を豚めしにかけるとさらに旨い。
情報が少なかったのが逆に楽しい
広告看板から想像していた店の雰囲気と味。それに近かったなと思う部分もあるけれど、シンプルなあの看板からは予想できなかった情報がどんどん付け足されていく。
最近はつい口コミを読んでから店に入ることが多いけど、今回みたいに写真でちょっとだけヒントをもらい、自分で想像をふくらませた後に答え合わせする感じ、すごく楽しい。
東洋で一番古い地下鉄、銀座線でやってみる
一日じっくり銀座線を旅しよう。都営メトロ24時間乗り放題切符(600円)をゲット。
という訳で、たまには食べ物広告に釣られてみるのも面白い、と気づいたので、色んな駅で探すことにした。
しかし、あてもなく探し回るとキリがない。そこで、東京メトロ銀座線に絞って周ってみることに。なにせ東洋一古い地下鉄路線だ、良い広告がありそうじゃないか。
いったいどんなお店にめぐりあえるだろう?
ガーン…リニューアル工事中!
意気揚々と銀座線の始発駅である浅草駅のホームに降り立った。さてホームにはどんな広告看板があるのかな、と期待して見てみると、あれ?! 壁全体が覆われちゃってるじゃん!
なんてこった! 広告看板が並ぶはずの場所が覆われちゃってる。
そうだった、銀座線はいま大規模なリニューアルを進めているのである。広告看板の代わりに、あちこちにリニューアル後のイメージ図が貼ってあった。
今はホームの古い様子がまだ見られるけど、
秋にはこんなにきれいになっちゃうのだ。ホームドアがつくようになり安全性アップ。
急に寂しくなってきた。銀座線の浅草駅の、あの暗く、いつでも生ぬる~い空気に満ちたホームが変わってしまうのか。古い駅らしさが出て好きだったのに、寂しい…。
広告がなかったうえに、懐かしい風景もなくなっていく。ダブルショックである。
いかんいかん、気を取り直してホーム以外の所で食べ物看板をさがそう。それにリニューアル後も生ぬるい空気は変わらないかもしれないし。
改札を出た通路で見つけた看板。浅草にはウナギ、天丼、和菓子、もんじゃなどたくさんの食べ物看板があった。ほか、チェーン展開しているラーメン店や寿司屋の看板も。
で、寄ってみることにしたのはこちら。あわぜんざいで有名な「梅園」。この看板も多くを語らずいい感じ。
ベタでも堂々と立ち寄るきっかけになる
たくさんありすぎて迷ってしまうが、前から気になっていた「あわぜんざい」を食べにいくことにした。有名すぎて逆に入らなかったお店に立ち寄るきっかけとなるのも、この企画の良いところである。
梅園は浅草のガイドブックには必ずといっていいほど出てくる和菓子店。あわぜんざいの元祖だ。
仲見世通りの隣の通り沿いなので、これまで何度も見かけてはいたが、入るのは初。
店内は広く、テーブルも多いので並ぶことなく席につくことができた。
お椀サイズのあわぜんざい(777円)。予想より小さい。横にあるのはシソの実の塩漬け。
粟(あわ)ではなくて、餅きびをつかった餅に、こしあんを乗せている。約160年以上も前から食べられている。
名前から勝手に泡っぽい食感なのかなと思ってたけど、お餅だったのね。
写真では伝わりにくいけれど、お餅もあんこもあたたかい。ホカホカというより、アツアツといえる位だ。そのおかげもあって、餅はふっくら柔らか。
私はどちらかと言えば粒あんが好きなのだけど、餅の中に感じる餅きびのツブツブとした食感があるので、こし餡が正解! と一人納得しながら食べた。大変美味しかった。
さて、ひとつ進んで隣の田原町駅ホームへ。柱の汚れに歴史を感じるなー。
浅草はたくさん食べ物広告があったので余裕をこいていたが、その後は苦戦が続いた。隣の駅に移動しても相変わらず壁が隠れているのだ。
でもどこかに広告スペースが残っているかもしれない、とホーム両側を丹念に見て、各出口の通路もきっちり確認する。しかし、食べ物の広告は見当たらなかった。
広告を見ればその土地が見えてくる
田原町駅から稲荷町駅らへんは仏壇屋エリアなのでわかりやすく仏壇広告。看板を見るだけで土地柄が分かるのも面白いな。
浅草の隣の田原町の改札を出た通路には、仏壇やさんや包丁屋さんの看板があった。看板を見ればその土地柄が見えてくるものなのだとわかる。
写真に残したくなる風景
また、ここでもリニューアル後のイメージ図があちこちに貼られていた。すると古くからあったであろう光景が急に愛おしくなり、やたらとシャッターを押してしまう自分がいた。
レールの下には地下鉄らしく、染み出てきた水を排水するところがある。知らなかった。これが見えるのは銀座線だけ?
どこまで改装するのかわからないけれど、天井に露出されている配管なんかも見えないようになるかもしれない。
ふだんは視界に入れてなかった古い部分が見納めな気がしてつい写真を撮る。
明朝体とゴシック体が入り混じるこの味のある稲荷町駅の階段は残るのだろうか? まだ使える、と安心はできない。なぜなら、、
信号を渡った反対側の入り口は取り壊され、改築作業が進んでいるのだ。
図らずも、銀座線の記録を残しつつの旅である。次ページへ続く。
広すぎる上野駅
続いてやってきたのは上野駅。さすがターミナル駅だ。一足早くホームドアが設置されていた。
パンダ柄が可愛いホームドア。輝く黄色の新車両とポップな感じが合ってる。
こういう吊タイプの広告も。いつまで残るかな~
今後使われる天井や床の素材サンプルがあって、触ることができた。
銀座線のなかでも、浅草-上野間は昭和2年開通と最も古い。そして現在、その4駅の中で一番の要の駅といえばここ上野である。なにせ日比谷線、JR線、京成線と色んな路線が集まっているのだ。
だから、必然的に駅の地下通路が広い。とてもじゃないが全部は見きれないので、場所が少し離れるJRと京成線近辺以外を可能な限りまわることとした。
ターミナル駅は全部は周りきれないので「可能な範囲で見る」ルールとした。
人がたくさん行き来するだけあって、改札を出た後の地下道にある広告の量は一気に増えた。しかし、肝心の食べ物広告はひとつも見つからない。おかしいな……
見られるのは企業広告ばかりである。
かわいい企業広告。地元企業ではなく長野の会社だ。
次に進み、上野広小路駅の通路で見つけた食べ物広告。でもこれ、人形町が本店だ…。
ようやく見つけたと思ったら「人形町 今半」であった。柔らかそうな肉の写真を前にだいぶ悩んだが、本店ではない所に行くのも粋ではないな、と思って泣く泣くスルーした。
広告探しなら「島式ホーム」がありがたい
それにしてもこの広告探し、何がつらいって反対側にも渡らなきゃいけないケースだ。
銀座線のホームは2種類に分けられる。線路の両側にホームがある(ホームが2つの)相対ホームと、ホームの両側に線路がある(ホームが1つの)島式ホームだ。
浅草から末広町までずっと相対ホーム。これだと向こう側の出口付近の広告をチェックするのが一苦労。
相対ホームだと反対側の出口をチェックするために連絡通路の階段を渡ったり、時には連絡通路が無いため地上に出て信号を渡る羽目になる。
チェックしたあとは、また渋谷方面に戻るので、けっこう大変なのだ。まあ、この時はまだ元気だったのでそれも楽しかったのだけれど。
リニューアルの為に連絡通路が閉鎖されていたり、末広町駅のようにもともと連絡通路が無いため地上に上がらないといけないケースもある。
神田駅が無残なことに!
次の神田駅につくと、念願の島式ホームになった。
やった! と喜んだ直後、電車がいなくなると突如無残な状態の壁が現れて驚いた。昨年タイルを剥がした跡なのだそうだ。壁の覆いがなくなったのは嬉しいが今度は見せ過ぎである。広告ももちろん無い。
神田駅で電車がいなくなった後の衝撃よ…。
うわっ! と声が出た。
さらにむき出しになってる所もある。よく見ると奥に謎の扉が。
むき出しすぎが気になる神田駅だが、改札を出た後の通路はすでに新しくなっている所もある。
所々にパッキリと新旧が表れているところもあって面白い駅だった。
新旧分かりやすい床。
ようやく見つけた! 食べ物看板
次の三越前駅からはホームにしっかり広告が残っていた。そして浅草駅以来、ようやく食べ物の看板を見つけることに成功! といっても、海苔屋さんだったのだけれど。
他は企業広告ばかりで、改札を出た後は三越デパートの広告一色だった。
もっとガッツリ系がよかったけど、食べられるだけありがたい。皆さんご存知、山本海苔である。
駅からすぐ、本店が見えた。ちなみにあわぜんざいの梅園と同じく約160年も続いているそう。
店内には、たくさんの海苔商品が売られていた。中にはこんな高級な海苔も。に、2万円超え…
長年CMキャラクターをしている山本陽子さんの歴代写真も並んでいた。しかも最長CMキャラクターということでギネス取ったらしい。
色々と試食した末、「具付き海苔」というのを買ってみる。ひとつ約200円。
少しでも腹を満たしたいという思いから具付き海苔を買い、ホームの椅子で休みながらかじった。
驚いたのはそのパリパリ具合。いや、パリッパリッ具合だ。小さいツをたくさん入れたくなる位、小気味良く切れる。そして上にのったネギ味噌や鮭のフレークが美味しい。ツマミとしてもいけるけど、お店に白いご飯が置いてあれば最高だったなあ。
うまい!
さて、すでにここまで3時間半かかっているが、実はまだ半分も進んでいない。
次ページはスピードアップして、感動のフィナーレへ。
京橋でチョコレート!
高島屋の広告が多かった日本橋駅のチェックを終えたところで、本当にヘトヘトになってきた。
ここはひとつカフェみたいなところで疲れを癒したいなあ。。と生気を失いかけていると、京橋駅のホームにちょうどCafeの文字が入った広告を見つけた。やった!
カフェが併設されているチョコレート屋さんのようだ。休もう休もう。
「100%チョコレート」の広告である。バレンタインデー近くなるとこのお店のチョコを見かけるな、程度には知っているがこんなところにカフェがあったとは。
向かってみると、隣に明治の社屋があった。明治の系列店だったのだ。
明治って京橋にあったのか。そしてカフェやってたのか! ちなみにオープンして14年目らしい。
少し並んだ末にありついたのは、このお店名物のショコラドリンク430円
人気すぎてフードは終了
訪れたのは16時30分頃だが、すでにワッフルなどのフードはすべて終了してしまっていた。自慢のショコラドリンクも、3種飲み比べセット(500円)というのがあるそうだがそれも売り切れ。
オーソドックスなショコラドリンクをいただき、疲れをとった。容赦ない甘さが脳にしびれる。甘党に薦めたいお店だ。(ビタータイプや、3層に分かれたチョコティーなど色々あった)
56種類のチョコは常に販売。バレンタイン時期をのぞくと、ここでしか売っていないのだとか。
一休みして気合を入れたあと、銀座から渋谷もできるだけくまなく探した。
ほんとにちょっとだけ、食べ物の写真が入っている広告を見つけることはできた。けど、他の場所に本店があるようなお店だったり、デパートや高級ホテルの中に入っている敷居の高いものだった。
高級ホテルやデパートに入ったような高級料理店。なんか違う。
でもよく考えてみたら、浅草から渋谷に向かうほど主要駅が増え土地代も上がる。つまり広告費も値上がる。そんな中で、私が気軽に入れるような客単価の低い食べ物屋さんが広告を出すなど、難しいことなのかもしれない。
うむむ、そこまで考えが及ばなかった。
傾向が出すぎなエリアに突入
後半は、食べ物にありつけない代わりに駅ごとの広告の傾向が強くでてたのが楽しかった。
美術展の案内が多い銀座駅。お上品だ。
新橋から赤坂見附まではAGAや転職、新聞、婚活の広告が増えた。分かりやすすぎてちょっと笑ってしまう。
青山一丁目から表参道は整形外科や歯医者などクリニック系が多数。ここから見えるのは全部そうだった。
ちなみにこの日、全体を通してよく見た広告は、パロマや東京西川、東京新聞など。しかしダントツだったのはアパホテルだ。看板にいる社長と何度目が合ったことか。ていうか共に旅した仲間かと錯覚するくらいにほんとよく見た。
どこの会社が広告に積極的になっているのかが分かるのもおもしろい。
この日ダントツに多かったのはアパホテル。続いてパロマ、東京西川、新聞系。でも実際に数えてないので、正確かはわからない。単純に人が入っているから印象に残っているのかも。
海苔以来食事にありつく事なく腹ペコでゴール。しかも渋谷駅はまたしても壁が隠されていた。ガックシ…
こんなハズではなかった。食べ物系の広告はもっといっぱいある予定で、満腹で終わる予定だったのだ。
しかし読みが甘かった。銀座線は東京の都心を駆け抜けているのだ、広告費が高いのである。もっとローカルな路線を攻めればよかったのかもしれない。いやそもそも、浅草がやたら多かっただけで、食べ物広告はレアなのかも…
そんな事を反省しながら、気づけば出発地点の浅草駅に戻ってきていた。
浅草の隠し玉がありました。最後はここで一杯やるんだ! もうヘトヘトなんだ!
約9時間前に来ていた浅草に戻った。こんな事もあろうかと隠しもっておいた神谷バーの広告に、今こそ釣られようじゃないか。
やはりシンプル広告に惹かれるな。神谷バーは創業からおよそ140年ほど。
明治時代に創業者がつくった、ブランデーベースのカクテル「電気ブラン」が売りのお店だ。むかし店頭で電気ブランを買ってみた事は一度あるが、中に入るのは初だ。
電気ブラン(270円)とビーフシチュー(1250円)を。なんだかんだ最高の締めくくり。
バーというくらいだから大人な雰囲気かと思いきや、普通のファミレスのような店内と賑やかさで拍子抜けした。またしてもシンプルな広告からは想像しきれなかった答えで、来てみてよかったなと思う。
甘辛い電気ブランが20キロも歩いて疲れた体にキク。アルコール度数は30%だ。ビーフシチューの肉と同様、体全体が一気にとろけてしまった。
神谷バーから出たとこの夜景
変わりゆく銀座線と、共に旅したアパホテル
ただの食い意地から始まった企画だったのだが、今まさに変わりゆく銀座線を散策でき、情報を多く得られた楽しい旅だった。
実はこの翌日、今度は都営地下鉄で一番古い浅草線をまわった(ホームだけ)。浅草駅はやはり多かったが、あの蔵前のラーメン屋以外ほとんど無かった。食べ物広告は案外レアなのだ。かわりにアパホテルの看板はやはりやたらと多かった。