特集 2017年4月2日

書き出し小説大賞 第119回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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先週は突然の休載申し訳ありませんでした!急病でもなければ編集部の落ち度でもなく、完全に私が予定を一週間間違えておりました。Twitterで詫びを入れたところ、多分読者でもなんでもない方から「しっかりせい!」の喝をいただきました。二度とこのようなことは……とも言い切れない今後も含めてお詫びします。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

なごり雪は汚く溶けた。
八重樫
早退の背中を、大量の花びらが押していく。
あや幹部
親族が亡くなるたびに、トーテムポールの顔が増えてゆく。
伊勢崎おかめ
彼はフリマをめちゃくちゃにしていく。
悠祐ゆっけ
連行される父の姿は、やがて家紋になった。
えむ毛
酵母は死んだ。冬の光の中で。
井沢
高慢なマリーのピアノに鍵をかけてやった。トニーの前で恥をかかせてやる。
ボーフラ
皆さんここではどんどん想像妊娠しても大丈夫ですからね。
prefab
銀玉鉄砲が空を切り、マフィアは夕餉の時間に消えた。
こらん
助手席の水筒と日誌をどかす運転手の顔に悪魔を見た。
マークパン助
通販で買ったホレ薬を試しに飲んだら、瞳孔がハート型になっただけだった。
住民パワー
余ったコーヒー牛乳を抜けた歯で買う。
義ん母
その日私は仕事の必要に迫られ、海外から取り寄せた殺人ビデオを観ていた。
菅原 aka $UZY
独りで抱えるのには重すぎて、誰かと分かち合うには暗すぎる。彼女の闇はそんな代物だ。
ほしなは
焼香の間も気持ちは明後日の方を向いていた。明後日は火曜日だ。火曜日の約束が、僕らにはあった。
xissa
社交界の連中に長方形の花火を見せた。
早計層
バズーカを撃って二歩前進、バズーカを撃って二歩前進。敵は全くいない。
高田
待ち合わせにいつも遅れて来たのも、猫舌も、FXも、美容室嫌いも、全部ワザとだったんだ。
魚子
近づいてみると一糸まとっていた。
あひる
寸評。今回から●を入れて少しだけ読みやすくしておきました。●八重樫氏「なごり雪~」たしかに言葉はきれいだが、実際はそうでもないものがある。なごり雪は足場を悪くするか凍結して骨折の原因になる。●悠祐ゆっけ氏「彼はフリマを~」フリマという平和な光景が無残に破壊されていく。ただの狼藉者か幼い男子か。●えむ毛氏「連行される父~」子孫が逮捕されたときはこの家紋入りの羽織を被せたい。●prefab氏「皆さんここでは~」想像妊娠カフェ、だろうか?●住民パワー氏「通販で買ったホレ薬~」服用後も変化なく鏡をのぞきこんだときの気持ちを想像すると面白い。あとペンネームもなんかおもろい。●義ん母氏「余ったコーヒー牛乳~」バカも突き抜けるとハードボイルド的なかっこよさに達する。●あひる氏「近づいてみると~」一糸まとった部分を知りたい。

続いては規定部門。今回のテーマは「犬」であった。ハアハアしながらご覧ください。

書き出し規定部門・モチーフ「犬」

駄犬は駆ける、世界は優しい。
TOKUNAGA
「待て」と指示するとき、人間もまた待っているのだ。
紀野珍
校庭を走り回る犬を見ていた。試験が終わった。
morin
「ジョン」と呼ぶと、必ず田中が振り返る。
大西智子
山に野良犬を捨てに行ったが道に迷い、犬に先導されて帰宅した。 伊勢崎おかめ
エア犬が死んだ。
もずく酢
この家で首輪をしていないものは僕だけになった。
ミミズグチュグチュ
子猫を無事に帰宅させ、俺は署に戻った。
大伴
父のマーキングに飼い犬が上書きする。
terayo
五キロ先でご主人の車がぶつかる音、一キロ先で奥さんが買おうとしている野菜の腐った臭い、五十メートル先の翔太君の泣き声。「知ってるよ全部」ワタシは目を伏せた。
タクタクさん
犬はわたしの顔を確認してから噛んだ。
もんぜん
欲を言えば糸井重里に飼われたかった。
g-udon
思考の語尾ですら許可を求めた。
井沢
座っていた場所だけ扇状にきれいに掃かれている。
七世
あんなに嫌がるなら洗うのをやめてあげれば良かった。
チチカステナン号
それが自分の尻の毛束であることは重々承知していた。
よしおう
猛然と走る。そして戻ってくる。
xissa
俺が本気でキレるのは犬だけだ。 マークパン助
売れ残った私だけが、名前で呼ばれている。
オクムラマサナリ
持ち帰った糞をどうするかは飼い主の自由である。
はるまきひがし
これは、脳味噌が溶け始めているヤクザと、性根が腐っている少女と、超能力を使える犬が、車で北へ向かう話。 正夢の3人目
忠犬がまた一歩移動した。回転レストランのフロアで、主人のいる方角を向き続けているのだ。
東ことり
主人の帰りをじっと待つ小鉄は、ソープ街の名物犬だ。
ぴすとる
勝手に癒されてろ、と犬は吠えた。
あや幹部
マダムとブルドッグの影が交差し、肉感的なケンタウロスが浮かび上がった。
吉田髑髏
「待て」のまま、剥製になった。
義ん母
寸評。●TOKUNAGA氏「駄犬は駆ける~」やわらかな陽光の中、雑種が駆けるやさしい世界。これが野犬なら途端に厳しくなる。●紀野珍氏「『待て』と指示するとき~」視点の逆転が鮮やかな秀作。●大伴氏「子猫を無事に帰宅させ~」犬のおまわりさんをクールにノベライズ化。●terayo氏「父のマーキングに~」世界を嗅覚でとらえる犬にとってはまさに『上書き』●クタクタさん「五キロ先で~」これを読むと犬の方がよほど高性能な生き物だと思う。人間は知能だけ。●よしおう氏「それが自分の尻の~」シッポを追いかけ回転する姿を想像してください。●はるまきひがし氏「持ち帰った糞を~」使い方あってるか分かりませんが「みぞみぞ」しました。●正夢の3人目氏「これは、脳味噌が~」三木聡監督に撮って欲しいロードムービー●東ことり氏「忠犬はまた一歩~」忠犬の姿と回転レストランの外観、ふたつのカットが同時に浮かぶ技ありな作品。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「隣人」
次回のテーマは隣の人。アパート、マンション、一戸建て、ラーメン屋のカウンターで偶然隣になった人、面接の待合室で隣にいた人、ジャンル的にも日常的なものからホラー、スリラーなど様々な選択肢があると思う。隣はなにをする人ぞ。想像力を働かせて挑んで欲しい。締め切りは4月7日正午、発表は4月9日を予定している。下記の投稿フォームから各部門を選んで応募して欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

茂具田/Mch/あるいは倉田/きんめ鯛/なばた/ホウソウブ/雨の日は寝る/桃アパートおばけ/ねもっ血風クン/ぐるりん/ろっさん/三芳一麻/suzukishika/ミルワーム
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