特集 2017年4月4日
 

船を食う怪生物「フナクイムシ(タミロック)」は旨味のかたまりだった

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フナクイムシという生物がいる。
まるで船を食って沈めでもしそうなネーミングだが、彼らは本当に船を食い荒らす。マジで。ほとんど妖怪である。
自然とは、生物の進化とは恐ろしいものであるが、さらに驚くべきことに世界にはこのフナクイムシを食用にする地域があるというのだ。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。
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フィリピンの離島では船を食ってる虫を食ってる

船を食う虫を食う。やはり食う・食われるのヒエラルキーにおいてバーリトゥードな強さを発揮するのはいつだって人間である。
しかも、何がすごいってこのフナクイムシは見た目が非常にグロテスクなのだ。
90年代だったらテレビでダチョウ倶楽部や出川哲朗さんが食べさせられてそうなやつといえばニュアンスが伝わるだろうか。
やってきたのはボホール島。パラワン島ほど浸透してはいないが、ここでも一部の漁民はフナクイムシを食べるという。
やってきたのはボホール島。パラワン島ほど浸透してはいないが、ここでも一部の漁民はフナクイムシを食べるという。
しかし、その醜悪さに反して東南アジアの各地で(局所的ながらも)フナクイムシ食の文化は確かに存在している。
例えばタイの一部地域では「トアピエン」という名で珍重され、パラワン島を始めとするフィリピンの島嶼では「タミロック」と呼ばれて親しまれている。

…気持ち悪いのにわざわざ食べるということは、それだけうまいに違いない。そして、生物は普段食べているエサが味に大きく影響する。となると船、すなわち木材を食っているフナクイムシはどんな味がするのだろう。
気になるのでボホール島へと飛んでみた。
マングローブへ分け入るよ。今回は現地の漁師さんにお願いして、特に流木が多いエリアへ案内してもらった。
マングローブへ分け入るよ。今回は現地の漁師さんにお願いして、特に流木が多いエリアへ案内してもらった。
ボホールといえばいわゆるリゾートアイランド。真っ先に白い砂浜と青い海が思い浮かぶところであるが、今回はそこから一歩下がった河口部、鬱蒼と茂ったマングローブを目指す。
フナクイムシはここにいる。
なんと水中ではなく木の上に巻貝が!…と言ってもカタツムリみたいなもんだと思えばそう不思議でもないのかも。
なんと水中ではなく木の上に巻貝が!…と言ってもカタツムリみたいなもんだと思えばそう不思議でもないのかも。
…フナクイムシが船をバンバン食って漁民に本気で忌み嫌われていたのは船の素材が材木オンリーで、かつ塗装技術も発達していなかった時代の話である。
現代ではフナクイムシに起因する船の破損や海難事故はほとんどないという(打ち捨てられた木船に巣食うことはあるようだが)。

ならばフナクイムシたちはどこに棲んでいるのか。それはマングローブの林床に落ちている流木の中だ。
足元に転がる流木を集めていく。これにフナクイ虫が入っているというのだが…。
足元に転がる流木を集めていく。これにフナクイ虫が入っているというのだが…。
考えてみれば、どちらも海面を移動して岸にたどり着くというルーチンを繰り返すのだから木造船も流木もにたようなもんである。
かつてフナクイムシが船をよりどころとしていたのも、当然のなりゆきだったのだ。
狙う流木は満潮時に一部が水中に浸っていれば、干潮時に露出して乾いていようが完全に水没していようが構わないという。
狙う流木は満潮時に一部が水中に浸っていれば、干潮時に露出して乾いていようが完全に水没していようが構わないという。
フナクイムシはほどよく朽ちていて硬すぎない流木を好む。
極端に古くてガチガチに硬い芯しか残っていないような木には住まないので、その点に気をつけてめぼしい流木を拾い集めていく。
百発百中でフナクイムシが入っているわけではないので、とりあえず多めに集める(その後、結局ほとんど無傷のまま元の場所へ返しにいくことになるのだが)。
百発百中でフナクイムシが入っているわけではないので、とりあえず多めに集める(その後、結局ほとんど無傷のまま元の場所へ返しにいくことになるのだが)。
次は流木をナタで割っていく。流木はフナクイムシたちの食料であり、終の住処でもある。
フナクイムシ的に「イイ流木」であれば、内部に潜んでいるはずだ。
ナタで流木を割ると、内部は虫食い状のトンネルだらけ。これは…いるぞ!
ナタで流木を割ると、内部は虫食い状のトンネルだらけ。これは…いるぞ!
まず一本め。腕ほどの太さの木を縦に割ると、ムシが食ったような坑道がいくつも現れた。
あっ!いきなりアタリ引いた!これフナクイムシいるやつだ!

慎重に削り進めると、茹ですぎたうどんのような物体が坑道からデロリと垂れた。出たな!!
慎重に割り進めていくと、デロデロデロッと何かが出てきた!…衝撃的だった。
慎重に割り進めていくと、デロデロデロッと何かが出てきた!…衝撃的だった。
…念願のフナクイムシである。
が、宝物を掘り当てたような興奮に続いて「想像以上にでかいしキモいな…」というネガティブな思いが脳を駆け抜ける。
僕は割とこういう珍味を抵抗なく味見できるタイプなのだが、正直言って今回のコレはちょっとためらった。
これがフナクイムシ。現地での呼び名はタミロック。なんていうか…、すごい。
これがフナクイムシ。現地での呼び名はタミロック。なんていうか…、すごい。
ミミズやユムシ、ヒルなどに通じる、いわゆる「ワーム系」の生物であるが、流木内という環境に安住しているがゆえかそのハリのなさと動きの緩慢さはそれらの中でも特筆に値する。
それがなおさら…キモい…。

だが、さらなる衝撃がその直後にやってきた。注意深く引きずり出したその全貌は、小さいながらも完全に怪物の佇まいであったのだ。
フナクイムシの全貌。
フナクイムシの全貌。
体の前端には謎の球体。後端には謎のツノ。ボディーは泥が詰まった中空のうどん。

日本人の同行者からは「寄生獣で見た」「H・R・ギーガーが喜びそう」「モンゴリアンデスワーム」などといった賛辞の声が相次いだ。
大きなものだと40センチ近くにもなる。
大きなものだと40センチ近くにもなる。

「ムシ」とはいうけど二枚貝の一種

さて、フナクイムシがいかにインパクトのある姿であるが、お分かりいただけたかと思う。
ではそもそも、彼らの正体は何なのか。
異様に小さく、形状も妙だがちゃんと二枚の貝殻がある。ちなみに貝殻の付いているこちらが前側。
異様に小さく、形状も妙だがちゃんと二枚の貝殻がある。ちなみに貝殻の付いているこちらが前側。
体の先端にちょこんと付いている球体をよく見ると、それは二つに割れたからであることがわかる。
そう、フナクイムシはこんななりをしている、がれっきとした二枚貝の仲間なのである。
貝殻の表面には無数の溝が刻まれてヤスリ状になっている。これで木を掘り進んでいくのだとか。
貝殻の表面には無数の溝が刻まれてヤスリ状になっている。これで木を掘り進んでいくのだとか。
後端には石灰質のシカの角のようなものが生えている。これは尾栓というもので、トンネルの後方を塞ぐための器官らしい。尾栓の間にはアサリによく似た水管がある。ここが一番二枚貝っぽいかな。
後端には石灰質のシカの角のようなものが生えている。これは尾栓というもので、トンネルの後方を塞ぐための器官らしい。尾栓の間にはアサリによく似た水管がある。ここが一番二枚貝っぽいかな。
よくよく考えれば、ミルガイなんかも貝殻からほとんど全身がはみ出ているよな。そう考えるとだんだん普通の貝に見えて…は来ないね。

フナクイムシが貝殻をこんなに小さく、しかも特殊な形に変化させたのは流木の内部に暮らすという特殊な生態によるものだ。
そもそも、硬くて安全な木の中に潜り込むならば貝殻で身を守る必要はない。防具としての殻なんていっそ捨ててしまってもイイくらいだ。だが、フナクイムシは長い進化の過程で貝殻をヤスリのように変化させ、流木を削る掘削機として活用するようになったのだ。
生命の神秘を感じる。そして、なんかだんだんキモさを感じなくなってきたぞ。

実はシールド工法の元ネタ!

ここから一気に「フナクイムシ上げ」を始めようと思う。
フナクイムシはわれわれ人類の文明発展にも大いに寄与している。
彼らとの戦いの中で造船技術が向上したのももちろんだが、実はそれ以上に土木の現場に革命をもたらしたのである。
よく見るとトンネル内はすべすべしているぞ。
よく見るとトンネル内はすべすべしているぞ。
フナクイムシの掘ったトンネルを観察すると、内部がセメント状の物質でカチカチにコーティングされているのがわかる。
セメントで内壁が塗り固められているのだ。
セメントで内壁が塗り固められているのだ。
これはフナクイムシが分泌した体液が固まったもの。
流木が水を吸って膨張する際にトンネルが圧迫されてフナクイムシが押しつぶされるのを防いでいるのだ。

ゆるい地盤にトンネルを掘る際に用いられる「シールド工法」はまさにこのフナクイムシの掘削作業に着想を得たものなのである。パクった、とも言える。
すごいぞフナクイムシ。ありがとうフナクイムシ!

生で食べるのが一番おいしい!

さて、そろそろ食べてみようか。
現地の漁師さんに食べ方を訊ねると身振り手振りで「腹の中身(流木のクズすなわち糞)を指でしごき出して、あとは足元の水(薄めの海水)で軽く洗ってそのままGO(酢をつけてもよし)」とのことだった。
OK、心得た。
そのままだとちょっと泥臭い。食べる前にはさっと腹の中をさっと海水で洗うといい。
そのままだとちょっと泥臭い。食べる前にはさっと腹の中をさっと海水で洗うといい。
5秒で下ごしらえ完了。
5秒で下ごしらえ完了。
いただきます!…白目を剥いてるのは、さすがにちょっと抵抗があったからです。
いただきます!…白目を剥いてるのは、さすがにちょっと抵抗があったからです。
…うまい!いや、予想以上に!貝やイカに近いうまみ濃厚な味だ!!
…うまい!いや、予想以上に!貝やイカに近いうまみ濃厚な味だ!!
意を決してチュルッとすする。
シコシコとした歯ごたえに続いて口内に広がったのは、濃厚なアミノ酸のうまみと淡い磯の香りだった。
例えるならマテガイとイカの塩辛を足したような味わい。軟体動物特有の味だが、べらぼうに濃い。漁師さんたちは酒のアテにつまむと話していたが、心から納得である。
一本の木からこんなにたくさん採れた。せっかくだから生以外の料理も試してみることに。
一本の木からこんなにたくさん採れた。せっかくだから生以外の料理も試してみることに。
ためしに茹でてみたが、味も食感もぼんやりしてしまっていまひとつ。やはりフナクイムシは生に限る!あるいは大量に煮込めばいい出汁は取れるかもしれない。
ためしに茹でてみたが、味も食感もぼんやりしてしまっていまひとつ。やはりフナクイムシは生に限る!あるいは大量に煮込めばいい出汁は取れるかもしれない。

機会があったら試してみて

フナクイムシは見た目に反してなかなか美味しかった。
…ただ確かにおいしいのだが、いかんせん味が強すぎてあまりたくさんは食べる気になれない。僕は一、二匹で十分満足できてしまった。
フナクイムシ、まさに珍味と呼ぶにふさわしい生きものである。
今回はボホール島で取材を行ったが、フナクイムシは漁民以外には必ずしもメジャーな食材ではなく、存在を知らない島民もいた。しかし、パラワン島などでは居酒屋などでも供されることがあるようで、観光客でも食すチャンスを得られるとか。いつかそうした東南アジアの島々を旅行中に「タミロック」とか「トアピエン」という名が聞こえたら、ぜひトライしてほしい。
その時はほんのちょっとだけ洗って、チュルッとね!
フナクイムシの後に食べたハロハロ(紫芋のアイスやフルーツがたくさん入ったかき氷)が爽やかで実にうまかった。…決して口直し的な意味ではないので悪しからず。
フナクイムシの後に食べたハロハロ(紫芋のアイスやフルーツがたくさん入ったかき氷)が爽やかで実にうまかった。…決して口直し的な意味ではないので悪しからず。
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