特集 2017年4月19日
 

番地が「渡辺」という住所に渡辺さんのルーツを見に行く

住居表示板マニアと一緒にめずらしい住所をめぐった
住居表示板マニアと一緒にめずらしい住所をめぐった
「住居表示板」といってもわからないかもしれないけれど、街角にある住所が書いてある看板。といえば「あぁ、みたことある」となる人も多いかもしれない。

あの看板がとってもきになるので、住居表示板マニアの人と一緒に、珍しい住所をめぐってみた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。
> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

住居表示板がきになってしょうがない

住居表示板とは、こういうやつだ。
千代田区一ツ橋一丁目1
千代田区一ツ橋一丁目1
町を歩いていると、よく見かけるやつである。緑色だったり橙色のものもよく見かける。

ぼくは、地名の書いてあるものが大好きで、特に地名を表示するために設置されている看板である「街区表示板」も大好きで、ほんとうはひっぱがして家に持って帰りたいところだが、そういうことをすると手が後ろに回ってしまうので、こうやって写真を撮るにとどめている。

普通の住居表示板ももちろん魅力的ではあるのだが、特に、変なことになっている住居表示板を探すのが好きだ。たとえばこんなの。
丸の内公園の住居表示板。
丸の内公園の住居表示板。
ここがどこなのかよくわからない住居表示板である。ここは、左側の道を入っていった奥のほうに、「北の丸公園4」と「北の丸公園5」と「北の丸公園6」という住所があるため、道の入口に便宜的に設置されているものと思われる。ちなみに、この看板が設置されている住所は「北の丸公園3」である。
愛知県名古屋市熱田区一番一丁目
愛知県名古屋市熱田区一番一丁目
冒頭に出した「一ツ橋一丁目1」も1が多い住所だったが、名古屋市の熱田区には「一番一丁目1」という1が好きすぎる住所もあった。この住居表示板のある場所の住所は「一番一丁目1?1」である。
東京都港区新橋二丁目東口地下街
東京都港区新橋二丁目東口地下街
住居表示板は、基本的に住居表示された場所に設置される。(「住居表示」については後ほど)しかし、新橋の地下街にはなぜか住居表示板が設置されている。
本来なら、街区符号が書かれる場所に「東口地下街」と書かれている。
これ、なにがどんなふうに珍しいかわかりにくいかもしれないので、参考までに地上の住居表示板も載せておきたい。
こっちが通常の住居表示板
こっちが通常の住居表示板
いかがだろうか? 「なるほど、住居表示板とは、住所を示すための看板なんだな」とご理解いただければ、じゅうぶんである。

大阪のおもしろ住所を見に行く

ところで、インターネットを調べると、この住居表示板に、並々ならぬ興味をいだき、写真に撮って収集する人が、どうやらぼく以外にも少なからずいるということがわかった。

インターネットの奥ゆきの深さたるや、である。

そんな住居表示板マニアが大阪に居ることがわかった。

大阪には、珍しい住所が多い。そんな珍しい住所の住居表示板を、大阪在住の住居表示板マニアと一緒に巡ってみたい。
住居表示板マニアの吉村さん
住居表示板マニアの吉村さん
住居表示板マニアの吉村さんは、住居表示板の専門サイト「街区道」を運営している。

まずは、番地がアルファベットになっているという上町に向かいつつお話を伺った。
―吉村さんは、なんで住居表示板の写真を撮りはじめたんですか?
吉村さん「もともと地図と地名が好きだったんです。絵本よりも道路地図を眺めるほうが楽しいという子供で、そのうち、住居表示板がきになりはじめ、2000年頃から住居表示板を写真に撮って収集するようになったんです」

「上町」の矜持としてのアルファベット

上町は、谷町四丁目駅からあるいて5分ほどで到着である。普通の町である。
マンションが立ち並ぶ普通の町。上町
マンションが立ち並ぶ普通の町。上町
普通の街であるけれど、住居表示板を見てみると……。
あ、これですね
あ、これですね
街区符号、C。
街区符号、C。
―おぉ、ほんとにアルファベットだ。
吉村さん「上町は、街区符号の部分がアルファベットのA、B、Cなんです。街区符号がアルファベットなのは日本でもここぐらいじゃないでしょうか?」

―ここは、住居表示されてこうなったんですかね?
吉村さん「そうです。たしか1989年、東区と南区が合併して中央区になったんですけど、そのときに変更になりましたね」
番号のところがABCになってる
番号のところがABCになってる
ここで、住居表示について簡単に説明しておきたい。住居表示とは、ふだんよく見かける「東京都新宿区北新宿二丁目21-1」といった住所だ。

日本ではもともと、土地の登記のさい、土地一筆ごとに付けられた「地番」という番号を住所代わりに使っていた。今でも「◯◯町1530番」のような形の住所を使っているところがあるが、あれが地番である。

しかし、1962年に「住居表示に関する法律」が定められ、地番とは別に、住居表示と言われる座標のような住所を、順次付けられるようになった。

住居表示は、札幌や京都など、一部の地域を除いて日本全国ほぼ同じルールで「町名」「街区符号」「住居番号」という形で地名と番号が付けられていく。
町名、街区符号、住居番号
町名、街区符号、住居番号
町名と街区符号は、一定のエリアごとに割り振られ、住居番号は、建物ごとに付けられる。

というわけで、この上町のアルファベットは、ちょうど街区符号の部分が、A、B、Cとなっているわけである。
上町B
上町B
上町A
上町A
―しかし、なんでアルファベットになっちゃったんですかね? 昔はこうじゃなかったんですよね?
吉村さん「これはちょっと複雑な経緯があってですね、元々上町っていうのはこのABCの区域がそうだったんです」
1975年の大阪市の地図。上町筋の両側に上町が並んでいるここが昔からの上町
1975年の大阪市の地図。上町筋の両側に上町が並んでいるここが昔からの上町
吉村さん「ところが、上町の隣町だった東雲町や寺山町、広小路町なんかが住居表示で整理統合されてしまって、みんな上町一丁目になってしまったわけです」
上町1984/1984年の大阪市の地図、東雲町、寺山町、内久宝寺町、広小路などが消え、全て上町一丁目になった
上町1984/1984年の大阪市の地図、東雲町、寺山町、内久宝寺町、広小路などが消え、全て上町一丁目になった
―旧町名が一気に消えちゃいましたね。
吉村さん「消えました。で、東側の方を上町一丁目にしたから、西側の上町は上町二丁目にしてねって話になったんです。でも、もともと上町だったところに住んでる人たちが怒ったんです。こっちの方が昔から上町だったんだと、上町の元祖はこちらなのに、なんで二丁目を名乗らなければいけないのか? と」

―上町の矜持が二丁目を許さなかった。
吉村さん「でも、上町1と上町一丁目1があるとややこしい。という話になって、上町の方が、街区符号にA、B、Cを使うことでなんとか二丁目になることを回避した……ということらしいです」

―だから上町は一丁目しかないというわけか……。たしかにあやかって名乗ったほうなのに、しゃしゃり出てきてお前らは二丁目名乗っとけって、完全に頭イカれたジャイアンですよ。

街区符号が「渡辺」とはどういうこと?

続いて向かったのは「渡辺番地」と呼ばれる場所だ。
町名よりも目立つ「渡辺」
町名よりも目立つ「渡辺」
久太郎町四丁目渡辺
久太郎町四丁目渡辺
―ほんとに、渡辺ですね……。
吉村さん「住居表示の街区符号の部分が“渡辺”になってるわけですね」

―大阪は街区符号の部分がイレギュラーなこと多いですね。
吉村さん「大阪は、もともとそこにあった町名や地名をなるべく残す方向で住居表示を行っているところはありますね」

―「住居表示に関する法律」を額面どおり、真面目に運用して、旧町名をバンバン消していった東京とは違いますね。
吉村さん「大阪は、わりと融通をきかせて住居表示してますね」
さて、この渡辺。いったいなにがあるのか?
坐摩(いかすり)神社
坐摩(いかすり)神社
渡辺は「坐摩(いかすり)神社」という神社の敷地がまるごと「久太郎町四丁目渡辺」である。

―やはり、ここも由来が気になりますね……。
吉村さん「ここは、最初は“渡辺町”という町名だったんですね」
渡辺町だ
渡辺町だ
吉村さん「住居表示で、渡辺町が消えそうになったんですけど、ここは全国の渡辺さんから“ルーツの場所は残してほしい”という要望が殺到したため“久太郎町四丁目渡辺”として、街区符号で“渡辺”を残すことにした……ということらしいです」
久太郎町四丁目渡辺3。わたなべさん……
久太郎町四丁目渡辺3。わたなべさん……
坐摩神社は、陶器の神様がいる神社としても有名で、また、上方落語の寄席発祥地でもある。
上方落語の聖地でもあった
上方落語の聖地でもあった
社務所の方にお話を伺った。

社務所の方「渡辺という名字は、源綱(みなもとのつな)が、母方の出身地だった摂津国の渡辺津(わたなべのつ)に住んで、渡辺綱を名乗ったのがルーツとされています。その渡辺津というのが今の天満橋付近の石町付近で、この神社も昔はそこにありました」

―ということは、そこからこちらに移転したんでしょうか?

社務所の方「はい、豊臣秀吉が大阪城を築城する際に、ここに移転してきました。渡辺町という町名がついたのはそれ以降だと思います。渡辺氏は、代々坐摩神社の宮司を務めてまして、渡辺町保存の運動を行ったのも先代の渡辺宮司です」

住居表示されたとしても、旧町名がイレギュラーな形ででも残ったのは大阪らしいと言えば大阪らしい。
渡辺さんのルーツの神社
渡辺さんのルーツの神社

住居表示板そのものについて

ところで、住居表示板はだれがどのように設置しているのだろうか?

吉村さん「住居表示板は、法律で設置することが定められてるんです。ですから、各自治体が各自設置していますね。ですから、自治体ごとに色やレイアウトが違ってたりして、その違いを探すのも楽しいんです」

―違いってでますか?
吉村さん「でますね、例えば、大阪市内はさっき見てきた住居表示板みたいにかまぼこ型のプラスチック製だったりします」
―プラスチック製って東京都内だとあまりみないですね。
吉村さん「プラスチック製は、おそらく安いんでしょうけれど、耐久性が低くて、最近は少なくなってきています。すぐダメになるんです。あと、個人的には写真に撮るとき光が反射してすごく撮りづらい……」

―アルミプレートのものが一般的ですよね?
吉村さん「そうですね、大まかに、古いものから、鉄製、ホーロー加工されたもの、アルミの文字打ち抜きのもの、プラスチック製、アルミのプリント転写のものという形で進化してるといえますね」
ホーロー加工の住居表示板
ホーロー加工の住居表示板
アルミの打ち抜き
アルミの打ち抜き
アルミのプリント転写
アルミのプリント転写
―古いもの見つけると、テンションあがりますか?
吉村さん「あがりますね……やはり古いものは数がすくなくなりますから」

―やっぱり、そうか……。旧町名探しをしている人について行ったことがありますけれど、古いもの見つけると、ほんと「あったー」ってなりますもんね。

わかります。

そういう人もいる

興味の対象が、他人とは思えないほど似通ってるひとと出会えた。インターネットやっててよかった。と思う瞬間である。

ひとまず、住居表示板に興味がある人がいる。ということを皆さん覚えておいていただければ幸いである。
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