特集 2017年4月25日

71歳の路上パフォーマー、その芸は絶望から生まれたものだった

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井の頭公園では「アートマーケッツ」という制度があり、路上パフォーマンスやハンドメイドの商品の販売を許可している。

そこで出会った71歳の方がやっている「顔面紙芝居」というものが非常におもしろかったので、話を聞いて芸の誕生秘話を聞いてみた。子どもを喜ばせる明るい芸の誕生には暗い過去があった。まさに光があればそこには闇があるといった感じだ。
大学中退→ニート→ママチャリ日本一周→webプログラマという経歴で、趣味でブログをやっていたら「おもしろ記事大賞」で賞をいただき、デイリーポータルZで記事を書かせてもらえるようになりました。嫌いな食べ物はプラスチック。(動画インタビュー

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井の頭公園は路上パフォーマンスと手作り作品の出展が毎週ある

井の頭公園と言えばボートという印象が僕にはある。
井の頭公園と言えばボートという印象が僕にはある。
井の頭公園は僕の中ではデートスポットという印象がある。ボートに乗ることもできるし、歩いてフリーマーケットをみるだけでも楽しいし、動物園もある。そして少し歩けばジブリの美術館まである。

その井の頭公園では手作り作品の出展や路上パフォーマンスを許可制で行っているということを、僕はつい最近になって知った。というか僕は井の頭公園に行くのは初めてだった。なぜならデートしてくれる女の子など身近にいないからだ。この日も男2人で行った。
行ってみると親子連れや友達同士でレジャーシートを敷いて花見を楽しんでいる人も多かった。
行ってみると親子連れや友達同士でレジャーシートを敷いて花見を楽しんでいる人も多かった。
路上で手作りの商品を売っていて、個性的な商品が多く見ているだけでもおもしろい。
路上で手作りの商品を売っていて、個性的な商品が多く見ているだけでもおもしろい。
こちらの花瓶はすべて栄養ドリンクやお酒などのビンを熱で曲げて作っている。発想がすごいし、値段も一つ300円くらいとお手頃。
こちらの花瓶はすべて栄養ドリンクやお酒などのビンを熱で曲げて作っている。発想がすごいし、値段も一つ300円くらいとお手頃。
この許可証があると井の頭公園で出品ができる。
この許可証があると井の頭公園で出品ができる。
手作り作品の販売以外にも、路上パフォーマンスも許可証があれば行うことができる。都内でもきちんと許可制で路上パフォーマンスができる大きい公園は多くはないので貴重な場所だ。
玉を浮かせる本格的なマジック。見ている人からは歓声が湧き上がっていた。
玉を浮かせる本格的なマジック。見ている人からは歓声が湧き上がっていた。
バイオリンやギター、琴など色んな楽器を弾いている人がたくさんいた。
バイオリンやギター、琴など色んな楽器を弾いている人がたくさんいた。
紙芝居を全力で読んでくれる人もいた。これやってもらったけど腹がよじれるくらい笑った。公園中に声が響きわたるくらい熱演してくれる。
紙芝居を全力で読んでくれる人もいた。これやってもらったけど腹がよじれるくらい笑った。公園中に声が響きわたるくらい熱演してくれる。
公園を歩いていると、路上パフォーマンスを行っている人がそこら中にいる。しかも個性的なものが多く、観客もかなり集まっている。

そんな数ある路上パフォーマンスの中でも僕の目に止まったのは「顔面紙芝居」というものだ。いやもうね、歩いていて「顔面紙芝居」という文字を見つけた瞬間に興味がビンビンに湧きましたよ。
「顔面紙芝居」という異常に興味を惹きつけられるパワーワード。看板に小さく「商標登録済み」と書いてあるのも世界観がチグハグで笑った。
「顔面紙芝居」という異常に興味を惹きつけられるパワーワード。看板に小さく「商標登録済み」と書いてあるのも世界観がチグハグで笑った。

顔面紙芝居は子どもが夢中になる仕掛けが盛りだくさんだった

「路上でパフォーマンスをする人に話を聞く」ということをやろうと決めて井の頭公園に来たのだけど、まさかすぐにこんなおもしろそうなものが見つかるとは思わなかった。公園にきて2分でこのパフォーマンスを取材させてもらおうと決めた。

ということでまずはこの顔面紙芝居がどんなものなのか一度見てみることにした。
待っていると全身赤の服と青い帽子を被ったおじいちゃんがでてきた。この人がパフォーマンスを行うピカさんという方だ。
待っていると全身赤の服と青い帽子を被ったおじいちゃんがでてきた。この人がパフォーマンスを行うピカさんという方だ。
顔ハメパネルのように紙芝居から顔を出して進めていく。
顔ハメパネルのように紙芝居から顔を出して進めていく。
ショーが始まるとピカさんというおじいちゃんが元気よく登場する。NHKの歌のお兄さんくらい明るい。顔面紙芝居はその名前の通り、紙芝居から顔をだして行うようだ。

それだけ聞くと「え?それだけ?それだけだと子どもは喜ばないでしょ?」と思うかもしれないが、楽しませる仕掛けが盛りだくさんなのである。
紙芝居をやる前にクイズと歌のコーナーがある。これが子どもに大ウケしていた。
紙芝居をやる前にクイズと歌のコーナーがある。これが子どもに大ウケしていた。
クイズに正解すると「ピカさん特製のオリジナルグッズ」がもらえるので、見ている子ども達は一斉に手をあげていた。小さい頃って景品とか商品とかもらえると張り切っちゃうよね。
クイズに正解すると「ピカさん特製のオリジナルグッズ」がもらえるので、見ている子ども達は一斉に手をあげていた。小さい頃って景品とか商品とかもらえると張り切っちゃうよね。
クイズが始まると子ども達がみんな一斉に手を上げていて驚いた。今の子ども達ってデジタル世代って呼ばれているから、リアルなものに少し冷めた部分もあるのかなって勝手に思っていたのだけれど、やっぱりこういう古典的なものって時代は関係ないんだなと知った。
逆に、そういう機会を作ってくれるこういった公演って今の時代では貴重だなと思った。
クイズのあとは歌のコーナー。こちらは「おへそのうた」というのを歌っている。
クイズのあとは歌のコーナー。こちらは「おへそのうた」というのを歌っている。
こちらは「どろぼう」のうた。子どもだけでなく大人もゲラゲラと一緒に笑っていた。
こちらは「どろぼう」のうた。子どもだけでなく大人もゲラゲラと一緒に笑っていた。
クイズは子どもたちに大反響だったけど、さらに「みんなで歌をうたう」コーナーはもっと盛り上がっていた。

歌はピカさんのオリジナルのものなのだが、「おへそのうた」や「どろぼうのうた」などわかりやすいものが多くてものすごく耳に残る。
みんなで一緒に歌う場所もあるのだけど、リズムが覚えやすいのか、見ていた子どもたちは200ホーンは出ているんじゃないかというくらい大声でみんな歌っていた。

へそへっそ、へそへっそ、おーへーそーよー♪が頭から離れない…!
本編である顔面紙芝居は「チョコバットの大冒険」というオリジナルストーリー。チョコバットはあの駄菓子のチョコバットだ。
本編である顔面紙芝居は「チョコバットの大冒険」というオリジナルストーリー。チョコバットはあの駄菓子のチョコバットだ。
子ども達も笑っていたけど、僕もこの姿で出てきたピカさんをみた爆笑した。僕は心の中で勝手にコミカルおじさんと呼んでいた。
子ども達も笑っていたけど、僕もこの姿で出てきたピカさんをみた爆笑した。僕は心の中で勝手にコミカルおじさんと呼んでいた。
子ども達が飽きないように色んなキャラクターがでてくる。一人で10種類以上のキャラクターを演じていた。
子ども達が飽きないように色んなキャラクターがでてくる。一人で10種類以上のキャラクターを演じていた。
チョコバットの大冒険にも子ども達が参加する場面がいくつもあって、最後の方は全員が立ち上がるほど興奮して盛り上がっていた。顔面紙芝居すごいぞ!
チョコバットの大冒険にも子ども達が参加する場面がいくつもあって、最後の方は全員が立ち上がるほど興奮して盛り上がっていた。顔面紙芝居すごいぞ!
顔面紙芝居の本編である「チョコバットの大冒険」は最後まで大盛り上がりだった。こういったパフォーマンスって子どもが飽きてしまって、途中で見なくなったり、地面でなにか書いて遊んだりしてしまのをよく見るけど、ほとんどの子がかじりつくように1時間ずっと夢中になっていた。

27歳の僕がみても素直におもしろいと思えたのだから、これを自分が子どものときに見ていたらたまらなかっただろうなー!毎週のように「顔面紙芝居見に行こうよ!」って親にせがんでいたかもしれない。

顔面紙芝居の誕生秘話を聞いてみた

これだけ子どもたちをわかせる芸は一朝一夕で出来るものではないだろうなと思った。また「顔面紙芝居」という突飛な発想がどこから来たのか非常に気になった。だから直接聞いてみることにした。
顔面紙芝居の生みの親であるピカさん。71歳らしいが見た目もしゃべり方もまったく年齢を感じさせない。若すぎる。
顔面紙芝居の生みの親であるピカさん。71歳らしいが見た目もしゃべり方もまったく年齢を感じさせない。若すぎる。
――顔面紙芝居はどうやって生まれたのでしょうか?

ピカさん
「私はね、岩手出身なんだけど、若いときに実業家になりたくて脱サラしたら見事に失敗してね。
そこからバブルの時代だったからディスクジョッキー(DJ)なんかをやっていたんですよ。当時は人気があったからいっぱいやるとこがあってね。
ただやっていると、自分じゃない人の歌をかけるのはおもしろくないなって思って辞めたんですね。
そこから肉体パフォーマンスをやったり、一人芝居をやったり、コント劇団を立ち上げたり、TVモニターを使った新しいパフォーマンスをやったり、色々やったんですよ」
新しいことをやる度にテレビや雑誌に何度も取りあげられたらしい。TVモニターの芸は30年以上前にやっていたことなので、ある意味でyoutuberなどの動画配信の先駆け的な発想かもしれない。
新しいことをやる度にテレビや雑誌に何度も取りあげられたらしい。TVモニターの芸は30年以上前にやっていたことなので、ある意味でyoutuberなどの動画配信の先駆け的な発想かもしれない。
ピカさん
「ただ、どれも中身が薄くて内容がなくてね、話題にはなるんだけど続かないんですよ。大きい紙芝居をやってみよう!と思いついて原宿でやってみたんだけど、これもまったくうまくいかなくてね。

もうだめだ、アイディアが何もでない…と思って落ち込んでいるときに、地下の喫茶店になんとなく行ってみたんですよ。そのときにそのお店が暗くて、なんだが井戸の底にいる気持ちになってきたんですね。
そんなことを感じているときに、ふと「井戸の底から顔をだしたらおもしろいんじゃないか?」と思ったんですね。それで、それじゃあの大きい紙芝居で顔を出してやってみようと思ったんですよ。
だから絶望の中から生まれたアイディアなんですね。」
あんなコミカルなパフォーマンスが絶望という言葉と結びつくとは想像がつかなかった。
あんなコミカルなパフォーマンスが絶望という言葉と結びつくとは想像がつかなかった。
――アイディアが思いついてからはすぐに人気が出たのでしょうか?

ピカさん
「初めはまったくウケなかったんですよ。
初めの1年間くらいはビデオに録画して色んなマスコミに送って見たんだけど、まったく反応がなかったんですね。
それじゃあ路上でやってみようと思って、原宿でやってみたんだけどこれもまったくお客さんが見てくれなかったんですよ。」


――なぜ続けようと思えたのでしょうか?

ピカさん
「原宿でやっているときに遠くで見ている人がいて、その反応がなんとなく良かったんですよ。
それで話を聞いてみると雑誌の編集の方で、「続けたらウケる」と言ってもらえて続けようと思いましたね。

原宿だとバンド演奏が多かったので音が聞こえなくて、べつの場所を探していたら井の頭公園をその雑誌の人に紹介してもらったんですよ。ただ井の頭公園に来ても数回はお客さん0人という日が続きましたね。それでも続けていたら、マスコミに取り上げてもらう機会があってそのあとお客さんが増えるようになりましたね」
笑顔で語ってくれていたけど、かなり辛い時期が長かったことが伝わってきた。
笑顔で語ってくれていたけど、かなり辛い時期が長かったことが伝わってきた。
―― 顔面紙芝居はどのくらい前に思いついたのでしょうか?

ピカさん
「今から20年前くらいですね。だから井の頭公園では20年くらいこれをやっているんですよね。

初めは息子とやっていたんだけど、たいした儲けにはならないですし、息子が成長して手伝えなくなったのでそこからは女房に手伝ってもらっているんですよ」
奥さんとの連携もすごく取れていて、なかなか普通の夫婦にはできることじゃないなと思った。
奥さんとの連携もすごく取れていて、なかなか普通の夫婦にはできることじゃないなと思った。
―― 「チョコバットの大冒険」は20年やっているのでしょうか?

ピカさん
「いや、チョコバットの大冒険は4,5年くらい前からですね。
浜松の三立製菓という会社から「チョコバットの販売促進でなにかできないか?」ということで考えたものなんですよ。だからチョコバットという名前も許可をもらってやっているんですよ。
その関係で少し前はスカイツリーで1ヶ月くらい公演してたときもありましたね」
顔面紙芝居のネタは他にも500本くらいあるらしい。驚異のネタ数だ。
顔面紙芝居のネタは他にも500本くらいあるらしい。驚異のネタ数だ。
―― 先ほど「儲けはあまりない」と言っていましが、この公演を続ける原動力はなんでしょうか?

ピカさん
「子供と接することができるっていううれしさですかね。
昔は子どもが苦手だったんですけど、やり始めて3年くらい経ったときに、なぜか不思議なことに子どもが大好きになっていたんですよ。自分でもなぜかは分からないんですけど。
儲けにはならないですけど、やっぱりそのうれしさですかね」
「お金じゃない」ってキレイ事は口ではいくらでも言えるけど、有言実行出来ている人は多くないと思う。それを実際にやっているのだからすごい。
「お金じゃない」ってキレイ事は口ではいくらでも言えるけど、有言実行出来ている人は多くないと思う。それを実際にやっているのだからすごい。
一見ただの明るい公演に見えるかもしれないけれど、そこには辛い思いを乗り越えてきた過去があった。
お笑いとか芸事ってコミカルで単純に見えるけれど、なんにでも歴史があるんだなと改めてわかった。人に歴史ありだ。

顔面紙芝居というアイディアのおもしろさだけでなく、「子どもを喜ばせたい」というピカさんの思いや、明るい人柄もあって、見ている人も笑えるものになっているんだろうなと思った。

井の頭公園は他にもおもしろそうな公演が他にもやっていたので、毎週行ってみるのもおもしろそうだと思った。色んな人に聞いたら他にもおもしろそうな話がめちゃくちゃでてきそう。

ただ次は絶対に彼女を作って一緒にこようと思う。「男2人で来るのはこれで最後にしよう」とこの日一緒に井の頭公園に行った友人と固く誓いあった。
僕の写真を20枚くらい撮ってもらっていたのだけれど、逆光だし使い所がまったくなかったので最後に貼っておきます。
僕の写真を20枚くらい撮ってもらっていたのだけれど、逆光だし使い所がまったくなかったので最後に貼っておきます。
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