特集 2017年5月2日

あの日ぼくらが2時間かけて見に行った古墳は、古墳じゃなかったのかもしれない

この写真のどこかに古墳があります。
この写真のどこかに古墳があります。
先日、栃木県にある古墳を見に行った。ちょっとした小山だった。

僕はあまり古墳について詳しくないので正直見てもよくわからなかったのだけれど、それが昔の人のお墓だと言われると、なんとなくありがたいものに見えたものだ。

でもあの古墳、あとで調べると古墳じゃないかもしれないらしいんだよね。
行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

知らない土地で2時間ひま

ある春の日、ライターきだてさんの結婚写真を撮るため、栃木県にある撮影現場近くの待機所へ入った。しかし撮影が始まるまでに2時間くらい空きがあるという。

はじめて訪れる土地で2時間である。これは無駄に過ごすにはもったいないだろう。そのへんを歩いてみることにした。

問題はここからである。
果てしなさ。
果てしなさ。
都市部で2時間時間を潰せと言われたら本屋さんで本でも買ってドーナッツ屋さんでカフェオレ飲んだりするだろう。幸せである。ところがここは郊外、本屋さんもドーナッツショップも、見渡す限り、ない。

途方にくれてグーグルマップで周辺を調べていたら近くに「米山古墳」というのがあった。さらに調べると、この米山古墳、北関東最大規模の前方後円墳らしいのだ。地図を見ると今いる場所から約5キロ。

5キロということは歩いて1時間、つまり往復2時間である。いま出れば撮影が始まるまでに帰ってこられるじゃないか。僕たちは運命を感じてすぐに出発した。
同行者。
同行者。
いま急に「僕たち」と複数形になったのはライター地主くんも一緒だからである。一人だったらベンチで寝ていたかもしれないけれど(この日あさ6時の電車に乗ってきた)、ライターたるもの2時間あれば1本くらい取材できて当然!といきった手前、寝てもいられなくなってしまったのだ。

それにしてものどかな景色である。
日本って広い。
日本って広い。

徒歩で片道1時間

地主くんと僕のカメラに残された静かな写真を眺めていると、なにもなかった道中を思い出す。
無題。
無題。
電柱にも興味を示す。
なにもなさすぎて電柱にすら興味を示す。
知らない場所を歩くのは嫌いではない。歩けば何かしら発見があるし、天気もいい。空気も澄んでいて最高だ。
楽しいじゃん。
楽しいじゃん。
歩くのが楽しくなってきた頃、隣を見ると地主くんがいなくなっていた。
いつの間にかこのくらい引き離していた。
いつの間にかこのくらい引き離していた。
どうした地主、古墳見たくないのか。

「安藤さーん、そこ右折でーす。」

後ろの方から若干不満げな地主くんが道案内する。
え、こっち?
え、こっち?
知らなかったのだけれど、グーグルマップはこのくらいの農道も把握しているのだ。
確かにここを通ると近かった。
確かにここを通ると近かった。
歩いて約1時間。その間、コンビニやドーナッツ屋さんはなかった。クリーニング店さんがあったが閉まっていた。
そろそろ古墳があるはずなんだけどな。
そろそろ古墳があるはずなんだけどな。

そろそろないとやばい

しばらく行くと左手に小高い山のようなものが見えてきた。もしかしてこれだろうか。地図的にも時間的にも、これじゃなかったらあきらめて引き返そう、と決めた。
これだと思うんだけどな。
これだと思うんだけどな。
米山古墳(らしき小山)はコンクリートの擁壁で囲まれていた。どこかに入り口があるのだろうか。一周してみる。
実は途中で疲れて「コンビニがあったらゴールでいい」と決めていたのだけれど、なんと古墳とコンビニが同時に現れた。
実は途中で疲れて「コンビニがあったらゴールでいい」と決めていたのだけれど、なんと古墳とコンビニが同時に現れた。
擁壁を半周くらいすると、切れ目にお堂があった。
こ、これが古墳?
こ、これが古墳?

古墳でした

六紋銭の家紋が見えるのは、このお堂が戦国時代に真田家ゆかりの場所だったから(興味のある人は「犬伏の別れ」で調べてみてください)。

古墳はこのお堂の裏山、真田家とは特に関係ないみたいでした。
やった、古墳だ。
やった、古墳だ。
古墳への登り口。
古墳への登り口。
お堂のわきから登山口があった。人のお墓も何百年もたつと登られるようになるのだ。

ここまで来たら登りたかったが、1時間かけて歩いてきたので帰りもまた1時間かかるだろう。がまんして帰路についた。
とはいえ疲れ果てたのでヒッチハイクした。
とはいえ疲れ果てたのでヒッチハイクした。
タクシーが止まってくれた。
タクシーが止まってくれた。

衝撃の事実を聞くことに

帰りも30分くらい歩いてみたのだけれど、明らかに行きよりもペースが落ちていた。このままだと古墳を見たことできだてさんの結婚写真に間に合わなくなる。そうなると僕たちは栃木まで古墳を見に来ただけになる。

悩みに悩んで、止まってくれたタクシーで帰ることにした。

僕らを乗せたタクシーの運転手さんは言う。

「こんな場所で観光ですか?」

――はい。米山古墳を見に。

「ああ、あれね。最近になって調べたら、実は古墳じゃなかったって話ですよね。」

――え。

それを聞いた瞬間の二人。
それを聞いた瞬間の二人。

少年とコオロギ

子どものころ、飼っていたコオロギを死なせてしまったことがある。よく覚えていないが、たぶん日なたに出しっぱなしにしていた、とかそんな単純な原因だったのだろう。

少年は悲しくて死んだコオロギを庭に埋め、「こおろぎさんのおはか」という看板を建てた。しばらくのあいだ罪悪感に苛まれ、庭に出るたび「おはか」に手を合わせていた。

時は流れ、あれはたしか成人式かなにかで実家に帰った時のことだ。かつての少年は母に衝撃的な話を聞くことになる。

「あの時、あんたが埋めたコオロギ、あれ実はゴキブリだったのよ」、と。

話が長くなったが、知らずに記事にするより、すぐに知っておいてよかった、という話である。

古墳といえば古墳

米山古墳はあの小山全体が古墳だとみなされていたものが、調査の結果、ほとんどは自然の山であることがわかり、山頂とされる付近の一部から出土品が出た、ということみたいです。ならば古墳であること自体は間違いないのでは、といま自分に言い聞かせています。
きだてさんの結婚写真撮影には間に合いました。
きだてさんの結婚写真撮影には間に合いました。
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