特集 2017年5月24日

ベトナムは回転寿司じゃなくて回転鍋

みんなでわいわいたのしく!一人鍋。
みんなでわいわいたのしく!一人鍋。
ベトナムに回転寿司はないが、回転鍋ならある。

鍋が回るのか?否!寿司ネタではなく食材が回るのです。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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大人気・回転鍋チェーン!その名は「KICHI-KICHI」

寄ってますが、これ以上後ろに下がると車に轢かれます。
寄ってますが、これ以上後ろに下がると車に轢かれます。
そんな飲食スタイルを根付かせたお店がこちら、「KICHI-KICHI」。日本にもありそうな名前だけど、ベトナム・ローカルのお店。といってもこの運営会社は日本のチェーン店(たとえば大阪王将)とも組んでいるので、はじめから日本風は相当に意識している。店内に入っていくとー。
ででーん!
ででーん!
って、お客さんの背中でいまいち分かりづらいね。ごめんね。
こんな感じだーっ!!
こんな感じだーっ!!
カウンター席に囲まれるようにして動くベルトコンベアの上には、食材が。まさに日本でよく見る回転寿司スタイル。この「KICHI-KICHI」は日本の回転寿司のスタイルをヒントに、それを寿司ではなく鍋に置き換えてしまったお店。

回る食材はすべて鍋に入れ放題・食べ放題というビュッフェ形式。料金は月~金曜の昼だとおよそ1000円、土日・休日はおよそ1150円となる。

そのスタイルが、「おもしろい!」「料理を待つ必要がない!」とスマッシュヒット!一号店のオープンから8年が経つ、もはやベトナムでスッカリと定着した人気チェーン店なのだ。
そんなKICHI-KICHIへ友人のラムくんと食べに来た。
そんなKICHI-KICHIへ友人のラムくんと食べに来た。

お一人様のレイアウトだけどグループ客向け

鍋の食材が回る(運ばれる)ことは分かったけども、では肝心の鍋はどこ?どうやって調理するの??というと…。
席の前には鍋用の穴があり、
席の前には鍋用の穴があり、
目の前には調整つまみがある。
目の前には調整つまみがある。
穴から覗いて見えるものはIH調理器!ここに鍋をはめて自分で火加減を調整しながら調理する。日本であれば専用の設備をつくってしまいそう・つくらなければならないようなところがあるが、この少々強引なベトナムのDIY精神にはもはや可愛げすら感じる。

ズボッ
!?………可愛げすら感じる。
!?………可愛げすら感じる。
一人専用の鍋が楽しめるという意味では、レイアウトだけを見れば2年ほど前に日本でも流行った「お一人様ブーム」のそれがもっとも近いかもしれない。ただ、決定的に異なる点は、このお店に来ているお客さんのほとんどはカップルやファミリーなどのグループ客だという点だ。
ワッキャワッキャしながら食べてる
ワッキャワッキャしながら食べてる
ベトナムでも一人でご飯を食べる機会は当然あるが、そういうときは路上の大衆食堂が中心で、チェーン展開しているようなシッカリとしたお店は庶民にとってまさに「ごちそう」。価格もほぼ1000円を超えるため、現地ではかなり高価!我々日本人の感覚ならランチに3000~4000円掛けるようなものだ。

4000円のランチといえば、ちょっとした和食やフレンチのコースだって食べられる。そんな贅沢となれば、日本でも誰か大切な家族・恋人・友人たちと来る機会が多いだろう。が、自分の箸を使って好きな食材を食べたい鍋ともなれば、そこはやっぱり自分専用が良いよねという話なのだ。そもそも、どうしてそのまま寿司を持ち込まなかったの?と言うと、2009年開業当時寿司はそれほどメジャーじゃなかったからだろう。これからはあるかもしれない。
鍋のスープは4種類ある
鍋のスープは4種類ある
鍋のスープは4種類から選べる。ベトナムではメジャーなキノコ、わさび、トムヤムクン、ちゃんこ(醤油)。迷わずおいしいキノコ!…と言いたいが、わさびの方がおもしろいのだろうかと葛藤していたところ、ラムくんからの申し出で彼がわさびを体験することになった。マジありがとう。私、食には保守的で。

回る回る!ベトナムならではの食材たち

ベルトコンベアで運ばれてくる鍋用の食材はー、
キャベツやからし菜などの野菜に…
キャベツやからし菜などの野菜に…
エリンギや舞茸などのキノコに…
エリンギや舞茸などのキノコに…
魚や肉類に…
魚や肉類に…
カエル!
カエル!
カーーーエルッ!!
カーーーエルッ!!
つい先日ベトナムのカエル肉事情を取り上げたばかりだが、まさかチェーン店にも並ぶとは。地元でも人によってはまったく食べないとは書いたが、一方でカエル肉は鍋に入っているイメージもある。需要あってのことなのだろう。
インスタント麺もありました。 そう、ベトナムの締めはこれやフォーになるのです。
インスタント麺もありました。 そう、ベトナムの締めはこれやフォーになるのです。
回転鍋とは別に、ビュッフェ形式で揚げ物・巻き寿司・スイカなどのフルーツも食べられる。
回転鍋とは別に、ビュッフェ形式で揚げ物・巻き寿司・スイカなどのフルーツも食べられる。
この胸の高鳴りは懐かしのお子様ランチへの郷愁か?
この胸の高鳴りは懐かしのお子様ランチへの郷愁か?
という訳で、スタンバイ!食べる…食べるぞー!
という訳で、スタンバイ!食べる…食べるぞー!

ふつうにおいしい!だけどアク取りは大変

茹でて!
茹でて!
食べる!
食べる!
…
私「おいしいね!ふつうにいけるわ」
ラム「よかったです」
私「ただ、気になることがあってさ」
ラム「なんですか?」
私「食材を入れる前から…すごくアク浮いてない?」
はじめる前からこの状態。ラムくんは牛脂がどうのこうのと言っていた。
はじめる前からこの状態。ラムくんは牛脂がどうのこうのと言っていた。
私「ベトナムってアク気にしないの?」
ラム「いや、そんなことないと思いますけど」
私「でも専用の入れ物がないから平皿こんなんやで」
こんなん(左上)。
こんなん(左上)。
ラム「あー、そう言われると…ここはそうなのかな」
私「なるほどねぇ」

日本ほど、アクを邪悪と見る傾向は薄いらしい。

ベトナムでも存在した「上流の人取りすぎ問題」

私「ラムくんもたまに来るの?」
ラム「来ますよ、前回は僕の誕生日でした」
私「おー、ごちそうしてもらった?」
ラム「いや、5人分全員僕がおごりました」
私「?…あ、そうか!」

日本と違って、ベトナムでは祝われる側がごちそうする習慣があるのです。

私「そういうのってラムくんから言い出すの?」
ラム「いや、『誕生日なんだしおごって!』と言われて」
私「直球なんだね」
不意打ちで本来別料金の肉がサービスが入る。嬉しいけど。
不意打ちで本来別料金の肉がサービスが入る。嬉しいけど。
ラム「僕ね、もうここに家族で来れないんですよ」
私「え、なんで?」
ラム「父が激怒したから」
私「なんで!?」

ラムくんが家族で来たときに(ベルトコンベアの)上流にいる客が良い肉を取りまくっていつまでも手元に来ず、対応する気もない店員の様子にラムくんパパがおかんむり!「二度と来るかこんな店!」と激怒して以来、ここはラムくん一家・月に一回(以上)の日本食ディナーの選択肢から完全に外れてしまったのだ。

日本の回転寿司でも上流にいる客が良い寿司を取りまくるという問題はよく聞く話で、だからこそ個別に注文を受け付けている形式がほとんどだが、定着したとは言えまだこのスタイルに慣れていない人が多いからこそ起こったのかもしれないね。と伝えると、ラムくんからは「いや、」と異論が返ってきた。

ラム「偏見かもしれないけど…そのお客さんが、田舎から出てきた感じの人だったらいいんです。慣れてないならしょうがないと思えるから。ただ、そのお客さんは外国帰りっぽい雰囲気で、だからこそ父も怒ったんですよね」
私「外国に暮らしていたのなら自分がマナーが悪いことやってるって分かるだろ、っていうこと?」
ラム「そうです」

ベトナムは戦中戦後に思想の違いや財産の接収などの事情により、アメリカや日本などの外国に移り住むようになった人が多い。それがこの近年、ベトナムが豊かになるにしたがって、外国から戻ってくる人が増えている(逆に、戻って投資をする人が増えたから豊かになったとも言える)。それを背景として、先進国ならではのマナーを教えられて育ってきた人も多く、貧富差も手伝って、教養面においてはかなり格差が生じている。と言われている。
梅酒や日本酒もあるよ
梅酒や日本酒もあるよ
日本で暮らし、かつ回転寿司を何度も経験しているラムくんたちだからこそ、同じ外国帰りの人間の振る舞いを見て感じることがあったのだろう(外国帰りじゃない可能性もあるけど、確かに判別はつくと思う)。私もベトナムにいて、ベトナム人やほかの外国人なら気にしないけど、日本人ならすごく不満に感じることもある。たとえば、食事中に噛む音を立てる行為がそれだ。国は違っても「同族なら分かるだろ」的な不満は必ずあるのかもしれない。
お会計して外に出ると、向かいには「SUMO BBQ」というお店があった。
お会計して外に出ると、向かいには「SUMO BBQ」というお店があった。
ラム「あれも同じ系列のお店で、必ずKICHI-KICHIと隣接してるんですよ」
私「隣接?向かいじゃないの」
ラム「この店舗はお寺と幼稚園に挟まれているので建てられなかったんでしょうね」
私「へー、ふーん」
子どもとお坊さんも利用するのだろうか
子どもとお坊さんも利用するのだろうか

回転鍋によって生み出された新たなマナーの概念

単純におもしろ料理だと思って来てみたが、ラムくんの話を通して、おもいのほか外国帰りのベトナム人同士のおもしろい話が聞けた。「上流の人が肉を取りすぎる」なんて問題は、回転鍋が登場する前のベトナムには存在し得なかったテーマだ。KICHI-KICHIの存在は、ベトナムで新スタイルの食べ方を生み出したと同時に、新たなマナー(気遣い)の概念を生み出したと言えるのかもしれない。

あと、余談ですが、回転寿司はベトナムの食文化として定着していないだけで、ホーチミンの高島屋には沼津から来た「活けいけ丸」というお店があります。
ラムくんによると「わさび鍋はとんこつ風」とのことです。 写真は撮ってなかったので湯気越しのアクでお許しください。
ラムくんによると「わさび鍋はとんこつ風」とのことです。 写真は撮ってなかったので湯気越しのアクでお許しください。
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