特集 2017年6月1日
 

福島県の秘境「檜枝岐村」で江戸時代から続く歌舞伎を見てきた

山に閉ざされた檜枝岐村で、村人が見様見真似で始めた歌舞伎を見てきました
山に閉ざされた檜枝岐村で、村人が見様見真似で始めた歌舞伎を見てきました
福島県の南西端に檜枝岐(ひのえまた)という村が存在する。広大な湿原で有名な尾瀬の入口に位置しており、村域のほとんどは山林によって占められている。人口はわずか600人足らず、日本で最も人口密度の低い自治体だ。

寒冷な土地ゆえに稲作ができず、人々は蕎麦を栽培したり山菜を採って生きてきた。限られた食材の中でも特にユニークなのがサンショウウオで、以前に当サイトライターの伊藤さんがその漁の様子を記事にされている(参考記事「 山人(やもーど)と行く、檜枝岐のサンショウウオ漁」)。

そんなまさに秘境というべき檜枝岐村では、神社の舞台で歌舞伎が演じられている。なんでも江戸時代に村人がお伊勢参りの際、江戸で見学した歌舞伎を見様見真似で演じたのが始まりらしく、それが今もなお続けられているのである。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。
> 個人サイト 閑古鳥旅行社 Twitter

意外と行きやすい檜枝岐村

檜枝岐村へは電車とバスを乗り継いで行く。最寄り駅は野岩鉄道および会津鉄道の「会津高原尾瀬口駅」だ。

秘境というと、どうしてもアクセスに難儀するイメージがあるが、今年の4月から運行が始まった東武鉄道の特急「リバティ会津」ならば浅草や北千住から直通で行くことができる。奥会津も随分と身近になったものである。
というワケで、北千住駅から9時過ぎ発の「リヴァティ会津」に乗る
というワケで、北千住駅から9時過ぎ発の「リヴァティ会津」に乗る
うとうとすること約3時間。正午過ぎに会津高原尾瀬口駅へ到着した
うとうとすること約3時間。正午過ぎに会津高原尾瀬口駅へ到着した
檜枝岐歌舞伎の公演が始まるのは夜の19時。まだかなり早い時間なのにも関わらず、30人ほどの乗客がこの駅で下車した。恐らく全員が檜枝岐村に向かうのだろう。

私は以前にもこの駅に来たことがあるのだが、その時に下りた乗客は私だけであった。それだけに、この混み具合はかなり驚きだ。

鉄道会社的にも只事ではないらしく、車掌さんが駅員さんに「もう尾瀬オープンしたの?」と問いかけていた。駅員さんは檜枝岐歌舞伎のことを把握してはいないようで、頭にハテナマークを浮かべたような表情で「さぁ? ちょっと分からない」と答えていた。

檜枝岐村の歌舞伎はイベントとして周知されておらず、知る人ぞ知るローカルな行事という感じなのだろう。そういうところも、実にソソられるというものである。
40分程待っていると、ようやく檜枝岐村へのバスがやってきた
40分程待っていると、ようやく檜枝岐村へのバスがやってきた
一番前の席に鉄の箱と鎖が無造作に置かれていて驚く。何に使うのだろうか
一番前の席に鉄の箱と鎖が無造作に置かれていて驚く。何に使うのだろうか
料金箱の両替機には五百円札の表記が! 随分と長らく使用されているようだ
料金箱の両替機には五百円札の表記が! 随分と長らく使用されているようだ
バスは少し待機したのちに出発し、険しい山中をのんびりと進んでいく
バスは少し待機したのちに出発し、険しい山中をのんびりと進んでいく
バスはこのまま檜枝岐村に向かうのだが、その前にひとつ寄っておきたい場所がある。ちょうど中間点を過ぎた辺りに位置する「前沢」という集落だ。

山の裾野に広がる小さな集落ではあるものの、「中門造(ちゅうもんづくり)」と呼ばれるこの地方特有の伝統家屋が密集しており、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。

先ほど会津高原尾瀬口駅に以前も来たことがあるのと述べたのは、ズバリこの前沢集落を訪れる為であった。といってももう6年も前のことなので、現在の様子を確かめておきたかったのである。
対岸の展望台から見る前沢集落。コンパクトな集落ながら茅葺民家の現存度が凄い
対岸の展望台から見る前沢集落。コンパクトな集落ながら茅葺民家の現存度が凄い
関東の桜はとっくに散っているが、標高の高いここではまだ咲いていた
関東の桜はとっくに散っているが、標高の高いここではまだ咲いていた
主家に馬屋を接続した「中門造」の家屋。牛や馬と一つ屋根の下で暮らす、豪雪地帯ならではの様式である
主家に馬屋を接続した「中門造」の家屋。牛や馬と一つ屋根の下で暮らす、豪雪地帯ならではの様式である
路地を進むごとに景色に変化があり、散策が楽しい集落だ
路地を進むごとに景色に変化があり、散策が楽しい集落だ
うーむ、改めて見てもやはり見事な集落である。福島県の茅葺集落といえば下郷町の「大内宿」が有名であるが、個人的には前沢もそれに匹敵するレベルだと思う。

大内宿は完成された町並みながら完全に観光地と化している対し、前沢は住人の方々の素朴な生活が維持されている点が素晴らしい。観光客に見せるための整備と、住民の生活の為の整備が、程よく調和している印象だ。
水の力を利用してアワやヒエを杵を突く「バッタリ小屋」が再現されている
水の力を利用してアワやヒエを杵を突く「バッタリ小屋」が再現されている
集落の一角にあった無人販売所では、なんとミツバチの巣箱が売られていた
集落の一角にあった無人販売所では、なんとミツバチの巣箱が売られていた
自家製のハチミツと共に売られていたこの巣箱。お持ち帰り限定、史上最安価格で7000円とのことだが、いやはや、お買い得なのかどうなのか。「桐材99%使用(残り1%は釘や金具ってこと?)」「カンタン持ち運び」「買うなら今!!」などと過剰なまでに宣伝文句が打たれているが、うーん、本気なのかネタなのか分からない不思議なノリである。

……いや、そもそも巣箱からハチミツを抽出する手間などを考えると、ふらっと遊びに来た訪問客が手を出すには敷居が高すぎる商品だろう。やはり遊び心と考えるのが妥当だろうが、このくらいの価格ならちょっと欲しいと思ってしまった自分もいる。

さてはて、時間はとうにお昼を過ぎている。前沢集落の前には蕎麦屋があったので、昼食はそこで済ませることにした。
古民家を改装した、良い雰囲気のお店である
古民家を改装した、良い雰囲気のお店である
ツルツルとのど越しの良い蕎麦に加え、「はっとう」と「ばんでい餅」を頂いた
ツルツルとのど越しの良い蕎麦に加え、「はっとう」と「ばんでい餅」を頂いた
なんだか聞き慣れない料理名が並んでいるが、これらはいずれも南会津に伝わる郷土料理である。

このうち「はっとう」は蕎麦粉と餅粉を練って伸ばしたものを菱形に切って茹でたもので、ジュウネン(エゴマ)をまぶして食べる。もっちりとした食感にエゴマの香ばしい風味が際立つ逸品だ。なんでもこれを食べた役人があまりのうまさに「贅沢だからハレの日以外には食べてはならない」と法度(はっと)を出したことからその名が付いたそうだ。

また「ばんでい餅」はエゴマの甘味噌で頂く大きめの団子で、パリッとした張りのある外観の割にもちもちやわやわとした食感で実にうまい。なんでも山仕事に入る際に山の神に供えていたといい、即席でこしらえた盤台と杵でこねたことから盤台(ばんでえ)餅と呼ばれるようになったという。いずれも素朴というか、素直で実直なうまさである。

前沢集落を満喫したところで、そろそろ檜枝岐村に向かうことにしよう。歌舞伎の公演時間が近付いていることもあり、バスは昼の便よりも午後の便の方が混みそうな感じである。最悪、椅子に座れないかもしれないなぁと思っていたのだが……。
意外と混んではおらず、余裕で座ることができた
意外と混んではおらず、余裕で座ることができた
乗客は昼の便の半分ほど。どうやら余裕を持って檜枝岐入りする人の方が多いらしい。檜枝岐村には温泉もあるらしいし、早めにチェックインして観光や温泉を済ませ、それからメインとして歌舞伎を楽しむというのが主流のようだ。

バスが若干遅れたこともあり、私が檜枝岐村に着いたのは16時過ぎ。とりあえずお世話になる宿にチェックインし、荷物を置いて村内を軽く散策した。
山間に赤い屋根が連なる檜枝岐村。この見える範囲に村のほぼ全てが集結している
山間に赤い屋根が連なる檜枝岐村。この見える範囲に村のほぼ全てが集結している
17時に宿に戻って早めの夕食を頂いた後、歌舞伎の会場である村の神社に向かう。宿からは少し離れた位置にあるようなので、ご主人の車で送って頂いた。

開場時間は18時。もう少し時間があるので、まださほどの人出ではないだろう。そうタカを括っていたのだが……。
神社の参道には、既に長い行列ができていた
神社の参道には、既に長い行列ができていた

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