特集 2017年6月2日
 

お通しだけでお腹いっぱいになってしまう串焼き屋

全部お通し!
全部お通し!
タイトルの通り、お通しの量がすごいことになっているお店があるらしい。お通しだけでお腹がいっぱいになるから、メインの串焼きに辿り着けないとの噂もある。それは、本当なのだろうか? オーバーじゃないのか? 行ってみたら予想をはるかに上回る量のお通しが出てきた。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。

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自由が丘のレトロなデパートの中で

そのお店の情報は林さんから届けられた。以前通っていた美容院で美容師さんから聞いたという。イタリアのマフィアは街の情報を理髪店で掴むというから、この情報も信頼できる。

それにしても、「お通しだけでお腹いっぱい」である。今までそんなスタイルのお店には出くわしたことがない。映画館で色々な作品の予告編だけ2時間流されるようなことだろうか。想像がつかない。

自由が丘の駅前で林さんと待ち合わせた。そのお店は駅前の自由が丘デパートの中にあるらしい。
レトロな佇まいの自由が丘デパート
レトロな佇まいの自由が丘デパート
昭和感漂うロゴ
昭和感漂うロゴ
一階の店舗は営業時間を過ぎているから夜はシャッター商店街のようにみえる
一階の店舗は営業時間を過ぎているから夜はシャッター商店街のようにみえる
先日、テレビで自由が丘のマダムを特集していて、奥様たちがランチにいくら使っているかを探っていた。その番組の調べによると自由が丘マダムのランチ価格の平均は1800円。同じ調査でお父さんたちの平均は500円以下だったので3倍以上の開きがあった。

今回訪れた自由が丘デパートは、そんな自由が丘の印象を拭い去ってくれた。レトロで庶民的な雰囲気が嬉しい。
飲食店は2階、3階にある
飲食店は2階、3階にある
林さんの案内で
林さんの案内で
噂のお店「串ステラ」を目指す
噂のお店「串ステラ」を目指す

串焼きのメニューはAコースとBコースの2種類

お通しだけでお腹がいっぱいになるお店、「串ステラ」は自由が丘デパートの2階にある。デパートの2階は団地のような造りになっていて、小さな飲食店が軒を連ねていた。
小さな飲食店が軒を連ねる
小さな飲食店が軒を連ねる
ここが噂のお店「串ステラ」
ここが噂のお店「串ステラ」
カウンター席だけの店内に入ると、常連さんと思われるお客さんが2人、それぞれカウンターの端と端で静かにグラスを傾けていた。

僕たちは常連さんに挟まれるような格好で、カウンター席の中央に腰をかけた。

メニューには串焼きのコースとして、AコースとBコースが用意されている。
AコースとBコース
AコースとBコース
値段の違いは串焼きの本数の違いだろうと察しはつくが、一応店主に確認してみる。店主はカウンターの中で忙しそうに調理をしていた。

「AコースとBコースの違いはなんですか?」

店主「本数です。Aコースは8本でBコースは13本」

やはり本数だった。

お通しの量がすごいという噂である。串焼きの本数は抑えておいた方が無難だろう。Aコースを頼みながら、

「足りなかったら、串焼きを追加出来るんですよね?」

と店主に確認すると、「もちろんです」と答えて笑った。この時、「あれ? 不敵な笑みだな」と感じた。そしてこの後、それが間違っていなかったことを思い知らされることになる。
不敵な笑みを浮かべたように見えた
不敵な笑みを浮かべたように見えた

挨拶代わりにまずは5品、そして立て続けに3品

生ビールで乾杯して一息ついた頃に、最初のお通しが出てきた。小鉢に入った料理が5品。一気にテーブルが埋まってしまう。
豚肉を卵で閉じたもの
豚肉を卵で閉じたもの
ナムル的な豚肉料理
ナムル的な豚肉料理
かぼちゃの煮付け
かぼちゃの煮付け
ひじき
ひじき
切り干し大根
切り干し大根
お通しの種類がいくつかあるお店だと、どのお通しがいいですか? などと聞かれることがある。しかし、ステラは違う。問答無用にいきなり5品の小鉢がテーブルに並ぶ。
テーブルがお通しで埋まった
テーブルがお通しで埋まった
まぁまぁ、お通しが多いと言えば多いかな。でも、お通しでお腹がいっぱいになるっていうのはオーバーなのでは?

そんなことを考えながら、並んだ5品を少しずつつまんだ。

どれもうまい。

味付けは少し濃いめだが、お酒のあてにちょうどいい。

すると、引き続き店主が小鉢を持ってやってきた。
山菜でさっぱりと
山菜でさっぱりと
きんぴらごぼうで甘辛く
きんぴらごぼうで甘辛く
ニンニクの芽と豚肉で精力的に
ニンニクの芽と豚肉で精力的に
気がついたら目の前に小鉢が8つ。

串焼きはまだ出てこない。

僕たちは静かにざわざわとし始めた。
こ、これは気を引き締めていかないと大変なことになるかもしれない
こ、これは気を引き締めていかないと大変なことになるかもしれない
早くも放心状態に入りつつある林さんと、その様子を鋭い目つきで見ている店主
早くも放心状態に入りつつある林さんと、その様子を鋭い目つきで見ている店主

串焼きがでかい

お通しの8品をつまみながらビールを飲んだ。

この時点で僕の胃袋は50%くらい満たされてしまった。しかし、串焼きに手が出ないほどではない。

すると、最初の串焼きが2本、焼きあがってきた。
ねぎ間とレバー
ねぎ間とレバー
串焼きがずっしりとでかいのだ。1本200円ほどの価格設定で少し高めかと思っていたが、出てきた串焼きを見てその考えはぶっ飛んだ。

200円でこのボリュームだったら、かなり良心的である。

そして、串焼きのボリューム以外の良心、更なるお通しがやって来た。
なます
なます
卵焼き
卵焼き
これで小鉢が10品である。テーブルに並びきらない。

どうしたものか悩んでいると、今度は3本目の串焼きが!
3本目の串、皮!
3本目の串、皮!
串焼きのお皿を縦に置かないとおさまらない
串焼きのお皿を縦に置かないとおさまらない
ボリューミーな串焼きが3本とお通しの小鉢が10品。

満腹感は8割ほどに達している。

お通しって何かね?

この辺りで、僕はふと思い立つ。

お通しって、何かね?
と。

お通しとは注文した料理ができるまでに出てくるちょっとした食べ物、という認識があった。

今回の場合、注文したのはAコースの串焼き料理。つまり、串焼きができるまでに出てくるのがお通しのはずだ。

だが、ステラのお通しはその定義に当てはまらないようである。だって、串焼きが出てからもお通しが出続けるから。
ナスを白味噌であえたもの
ナスを白味噌であえたもの
野菜サラダ
野菜サラダ
4本目の串はアスパラ巻き
4本目の串はアスパラ巻き
8本の串焼きコース中盤で、出てきたお通しが12品。

9割ほどの満腹感を覚えながら、僕は心の中で繰り返す。

「お通しって、何かね?」

と。
お通しって何かね?
お通しって何かね?

甘い・しょっぱいループを繰り出してくる

5本目の串焼き、セロリ巻きとともに、次なるお通しもテーブルに並ぶ。
13品目、青菜の胡麻和え
13品目、青菜の胡麻和え
14品目、もろきゅう
14品目、もろきゅう
15品目、中華風ピリ辛豆腐
15品目、中華風ピリ辛豆腐
これまで和風なお通しが続いたが、15品目にして中華風の味付けで僕たちに迫ってきた。

ここに来て味変か!

まだ串焼きが3本残っているが、正直に言うと既に満腹感は100%に達している。

それでも店主のお通し攻勢はとどまることを知らない。中華風ピリ辛豆腐の次に、スイーツのようなお通しを繰り出してきた。
16品目、さつまいものスイーツ
16品目、さつまいものスイーツ
まだ串焼きが出切ってないのに、このタイミングでスイーツである。

ということは、ここでお通しはジ・エンドということだろうか?
17品目、ポテトサラダ
17品目、ポテトサラダ
終わらないのだ。

甘い物のあとに、ポテトサラダがくるのだ。

そしてさらに、
18品目、シロップで味付けされたみかん
18品目、シロップで味付けされたみかん
19品目、醤油味の茎
19品目、醤油味の茎
甘いみかんと醤油味の茎。さつまいものスイーツから始まった、甘い・しょっぱいループの始まりである。

ネバー・エンディング・お通し、ということなのか?

店主は僕たちをどうしたいのか?

すると、それまでノンアルコールで参戦していたべつやくさんに、店主からお茶と更なるスイーツのサービスが!
べつやくさんに振る舞われたお茶。お茶も濃い!
べつやくさんに振る舞われたお茶。お茶も濃い!
べつやくさんにだけ甘夏の皮のスイーツが
べつやくさんにだけ甘夏の皮のスイーツが
べつやくさんだけズルい!

と、普段の僕だったらごねるところだが、この時の満腹度は120%。甘夏の皮を持ってカメラに微笑むべつやくさんに対して、どうぞどうぞ、という気持ちしか起きない。

それにしても、何故べつやくさんは健康食品のコマーシャルみたいな笑顔を浮かべているのか。
まだ小鉢を出そうとしている
まだ小鉢を出そうとしている

店主は根っからの甘党だった

テーブルの上がなかなか片付かない僕たちを見て、

「どうします? 小鉢、終わりにしますか? まだありますけど」

と店主が聞いてきた。

「は、はい、すいません。もうお腹がいっぱいです」

と、正直に現状をお伝えした。

Aコースを頼んだ時、「足りなかったら串の追加注文も」などと息巻いていた自分が滑稽だ。噂以上のお通しの量に、僕たちは完全にやられてしまった。

まだ、全て食べ切れていないが、ここで店主にお話を聞くことにしよう。
小鉢をすごく出す店主さん
小鉢をすごく出す店主さん
― 小鉢の料理は全部手作りですか?

店主「ええ、全部作っています」

― 途中、甘い物がはさまれましたが、

店主「私、甘党なんですよ。お酒をほとんど飲まないので」

― え!そうなんですか! お酒に合う料理ばっかりだったので、てっきり飲まれるのかと。

店主「今年に入って、一滴も飲んでません。最近、甘さ抑えめのスイーツが多いですが、あれは最悪ですね。これでもかっ!ってくらい甘くないと!」

意外にも店主は甘党だった。

そして、
20品目、リンゴの甘いやつ
20品目、リンゴの甘いやつ
小鉢はもう終わりに、とお願いしていたにもかかわらず、20品目のお通しが出てきた。

甘党の店主が作った、リンゴの甘いやつである。最近の甘さ控えめなスイーツに対して真っ向から「ノー」を突きつける、物凄く甘く味付けされたリンゴであった。

まだ終わらない

ボリューミーな串焼き8本とお通し20品。以上がステラのAコースであった。僕と林さんは、それぞれ5杯ずつお酒を飲んでいる。

合計金額が気になるところだが、店主から告げられた金額を聞いて驚いた。

1人5000円ほどなのだ。

内訳を計算すると、Aコース:1700円と、お酒550円が5杯で2750円、合わせて4450円。

ということはお通し代金が550円という計算になる。550円で20品。どうなってるんだ?
何やらタッパーに詰めている店主
何やらタッパーに詰めている店主
あの量のお通しが550円という衝撃にやられていると、店主が僕たちにタッパーを持ってやってきた。
これは?
これは?
店主「お土産のマーマレード、おいしいよ」

なんと! お土産までつくのだ。

さらにさらに、
もう一つのお土産
もう一つのお土産
店主「さっき彼女に出した甘夏の皮、あれも持って帰りなさい」

べつやくさんだけがもらっていた甘夏の皮のスイーツまでお土産にくれた。

本当にどうなっているのだろう?

この店主は前世か前前世か前前前世で、何か悪いことでもしたのだろう。後半、ずっとそんなことを考えていた。そうでもないと、こんなにサービスしてくれる理由が分からない。前世の罪滅ぼしとしてお通しをサービスしているのだ。

もう動けないってくらい満腹になり、お土産を2つももらい、店主の笑顔に見送られて、僕は気付いた。あの店主はホスピタリティーの塊なのだ。前世でもお通しをいっぱい出していたに違いない。前世を疑って申し訳なかったと思う。

とにかく、いいお店と巡り会えて僕は幸せです。
ステラオリジナルの焼酎はアルコール度数30度。これも濃い!
ステラオリジナルの焼酎はアルコール度数30度。これも濃い!
食べきれなかった串焼きは包んでもらって翌日食べた
食べきれなかった串焼きは包んでもらって翌日食べた
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