特集 2017年6月9日

NYのかわいい給水タンクと屋上論

ニューヨークのビルの上にいる、とんがり帽子のかわいいやつ。この給水タンクを愛でます。
ニューヨークのビルの上にいる、とんがり帽子のかわいいやつ。この給水タンクを愛でます。
過日ニューヨークに行った。すごく楽しかった。

この街の名物と言えば自由の女神だったり、エンパイア・ステートビルだったり、ブロードウェイミュージカルだったりだが、ぼくが夢中になったのはもっと別のものだ。

それは給水タンク。

これこそ真のニューヨーク名物だ。けっこう本気でそう思う。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:NYの廃高架再利用「ハイライン」がすてきだった

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単純でいてかわいい形

冒頭の写真に写っているのが、がビルの上の給水タンク。その名の通り、ビル内に水を供給するためのもの。

ニューヨークに限らず、日本はじめ世界中のビルの上にあるものだが、この街のものは特徴的だ。だいたい同じ形をしていて、かつ目立つ。

これのどこが名物だよ、とお思いかもしれませんが、以下にだーっと給水タンク写真を並べちゃうので、とにかくご覧ください。だんだんそのかわいらしさがわかってくると思います。たぶん。きっと。
けぶるマンハッタンに、台にのってすっくとたつ給水タンク。
けぶるマンハッタンに、台にのってすっくとたつ給水タンク。
春の陽射しを受けてほほえむ(そうぼくには見える)給水タンク。
春の陽射しを受けてほほえむ(そうぼくには見える)給水タンク。
手前のビルと合わせ、シンメトリーにキメる給水タンク。後ろにもうひとりひかえているのも見逃さすべからず。
手前のビルと合わせ、シンメトリーにキメる給水タンク。後ろにもうひとりひかえているのも見逃さすべからず。
これも後ろにちらっと仲間が見えている。
これも後ろにちらっと仲間が見えている。
たいていハシゴが付いている。いつか登りたい。
たいていハシゴが付いている。いつか登りたい。
ポンプからタンクに水を供給するパイプの接続具合もキュートだ。
ポンプからタンクに水を供給するパイプの接続具合もキュートだ。
この画面にいくつのタンクがいるでしょうか。
この画面にいくつのタンクがいるでしょうか。
見渡すと、マンハッタンはこうやって給水塔だらけなのだ。
見渡すと、マンハッタンはこうやって給水塔だらけなのだ。
かわいらしい。じっと見てたら、だんだん生き物っぽく感じてきた。給水タンクの模型とかアクセサリーってないのかな。現地で探せばよかった。しまった。

NHKで「摩天楼の上に広がる “異空間” ニューヨーク」と題してこのタンクが登場するドキュメンタリー番組が放送されたらしい。見逃してしまったのでくやしい。もしや、と思ってNHKオンデマンドを見てみたが配信されていなかった。ざんねんだ。

ぼくがこれら給水タンクに惹かれたのにはいくつか理由がある。まずひとつは、単純に良い形だからだ。

円筒形というのがいい。縦横比も絶妙だ。とんがり屋根を除いた本体部分の高さと直径はだいたい1:1か、やや縦長のものが多い。ときにずいぶんとひょろ長いやつもいたり、逆にずんぐりしたやつもいるけれど、おおむねシルエットは正方形だ。
ときにはこういうずんぐりしたやつもいる。下のやつとプロポーションが違うのがいい。
ときにはこういうずんぐりしたやつもいる。下のやつとプロポーションが違うのがいい。
こちらは細長いタイプ。右のほうはふつうの縦横比。往年の刑事物ドラマのコンビのようだ。
こちらは細長いタイプ。右のほうはふつうの縦横比。往年の刑事物ドラマのコンビのようだ。
時にはこういうイレギュラーな形のものも。
時にはこういうイレギュラーな形のものも。
これも同じようなタイプ。ブルックリンでよく見かけた。地域性があるのかな。
これも同じようなタイプ。ブルックリンでよく見かけた。地域性があるのかな。
変わった形のものでびっくりしたのはこれ。
変わった形のものでびっくりしたのはこれ。
なんだかいろいろ装飾されてる。きらいじゃない。きらいじゃないけど、ぼくとしては「普通」を大事にしたいと思う。何そのこだわり。
なんだかいろいろ装飾されてる。きらいじゃない。きらいじゃないけど、ぼくとしては「普通」を大事にしたいと思う。何そのこだわり。
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大きすぎず小さすぎず、もキュート

どうだろうか。なんとなく分かっていただけただろうか。

見てきたように、とんがり屋根がポイントだ。これは分かりやすいチャームポイントだ。だよね。ですよね。

この傾斜は天道さま対策だ。雨や雪が流れるようにこれがつけられている。雪があまり降らない東京にはないフォルム。また、このとんがりによって、タンク本体との間にいわば「屋根裏」の空間ができて、これが断熱の役割を果たすという。
専門書以外でこれらニューヨークの給水タンクについて書かれた本はほとんどなくて、日本語のものはこの折原恵さんの「屋上のとんがり帽子」ぐらい。子供向けだけど、すてきな写真と解説がたくさんのってて、すばらしい本です。おすすめ。
専門書以外でこれらニューヨークの給水タンクについて書かれた本はほとんどなくて、日本語のものはこの折原恵さんの「屋上のとんがり帽子」ぐらい。子供向けだけど、すてきな写真と解説がたくさんのってて、すばらしい本です。おすすめ。
タンクの仕組みも図説。イラストがかわいい。
タンクの仕組みも図説。イラストがかわいい。
また、大きさもいい。大きすぎず小さすぎず。ぼんやり見ていると見過ごしちゃうけど、注意して見るといたるところにいるということに気がつくサイズ。

ものによって多少大きさの違いはあるが、ビル大きさとの対比や風景の中に占める割合からしたら誤差だ。おそらく効率と素材と構造的にこの大きさがもっともバランスがよいのだと思われる。だから大きなビルでは、サイズではなく数によって容量をまかなっているようだ。
大きなビルには数で対応。
大きなビルには数で対応。
こちらは倉庫。やはり数で対処。みっちり身を寄せ合っているのがいい。
こちらは倉庫。やはり数で対処。みっちり身を寄せ合っているのがいい。
比較的小ぶりなビルでも、給水タンクのおおきさはいつも通り。アンバランスな感じがたまらない。
比較的小ぶりなビルでも、給水タンクのおおきさはいつも通り。アンバランスな感じがたまらない。

なんと木製なのだ

そして素材がもっともそそる。実はこれらはみな木製なのだ。前出のイレギュラーな形のものは金属だったが、実直な愛すべき円筒形のものは、みんな木でできている。縦方向の筋は雨の跡だけではなく、杉板が組まれた模様なのである。

横方向の平行線は、いわば樽の「タガ」だ。下の方ほど間隔が狭いのは水の圧力の分布を示しているわけだ。おもしろい。
「屋上のとんがり帽子」にはメーカー取材の様子も載っている。ご覧の通り、木なのだ。びっくり。
屋上のとんがり帽子」にはメーカー取材の様子も載っている。ご覧の通り、木なのだ。びっくり。
最初はコンクリートかと思ってた。それにしちゃこの横方向の補強はなんだろう? と不思議だったが、木だとはねえ。
最初はコンクリートかと思ってた。それにしちゃこの横方向の補強はなんだろう? と不思議だったが、木だとはねえ。
ごくまれに金属製もあるが、こうして見ると、やっぱり木のやつの方がいい。
ごくまれに金属製もあるが、こうして見ると、やっぱり木のやつの方がいい。
屋上のとんがり帽子」では、木である理由として、季節による温度差が大きいニューヨークでは、実は木が最も耐久性に優れていることなどがあげられていた。ほほう。

さきほど「模型とかないのか」と書いたが、調べたところこのタンクをかたちどったキャニスターが発売されていた。が、金属製のようだった。ここは木で作ってほしかった。おしい。でもほしい。でも高い。

タンクは建築デザインより強い

次に興味を惹かれたポイントは給水タンクとビルとの関係だ。タンクを追ってマンハッタンを歩いて行くうちに気がついたのは、建築の様式や建てられた時代にかかわらず、同じようにこの形のタンクが載っている点だ。

つまり、デザインや様式の一貫性よりもタンクのほうが強いのだ。設計者やデザイナーはこのタンクがてっぺんに置かれることを念頭に置いていないように思える。屋上はほとんど見えないから気にしていないのだろうか。
建築の種類に関係なく、おおむね同じタンク。それがいい。
建築の種類に関係なく、おおむね同じタンク。それがいい。
団地もこの通り。
団地もこの通り。
この団地のように、隠しているケースも。
この団地のように、隠しているケースも。
これはすばらしい。もはやモニュメントのよう。ナイス団地。
これはすばらしい。もはやモニュメントのよう。ナイス団地。
話すと長くなるからやめておきますが、団地もなかなかでした。これとか煉瓦貼りなのにやっぱり団地っぽいカラーリングをほどこしててキュート。
話すと長くなるからやめておきますが、団地もなかなかでした。これとか煉瓦貼りなのにやっぱり団地っぽいカラーリングをほどこしててキュート。
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天を「摩」しているのはタンクだ

タンクはビルの一番上に置かれる。あたりまえだけどこれ重要。少し高いところからビル屋上に点在するとんがり帽子を見ていたら、まるで三角点のようだな、と思える。さながらビルの高さを示す標識だ。
それぞれのビルの高さを示すかのようなとんがり。
それぞれのビルの高さを示すかのようなとんがり。
マンハッタンの高層ビル群はスカイスクレイパーと呼ばれるが、空を擦っている(scrape)しているのは彼ら給水タンクのとんがりだ。彼らこそが「スクレイパー」なのである。

あとスカイスクレイパーを「摩天楼」って和訳した人すごいと思う。名直訳。

911メモリアル・ミュージアム行くべき

「摩天楼」がの話がでてきたので、そういえば、と脱線しますが、あらためてマンハッタンの超高層っぷりを見て、やっぱりすごいなあ、と思った。

香港もすごいけど、あちらが「土地がなくてこうなっちゃった」という雰囲気なのに対して、ここは「こうしたかった!」というノリノリの意志を感じた。

このちょっとどうかしている大量の高層ビルは、足の下の岩盤の頑丈さを反転させて空に向けて表現したものに見えた。摩天楼はマンハッタン島の強固さを示した棒グラフだ。

そんなことを「911メモリアル・ミュージアム」で感じた。
マンハッタンは一枚岩の岩盤で、ものすごく硬いそうだ。これは「911メモリアル・ミュージアム」の展示のひとつ。かつての貿易センタービルの地下の壁がそのまま残されていて、これを見てぼくは「すごく硬そう!」っていう感想をいだいた。
マンハッタンは一枚岩の岩盤で、ものすごく硬いそうだ。これは「911メモリアル・ミュージアム」の展示のひとつ。かつての貿易センタービルの地下の壁がそのまま残されていて、これを見てぼくは「すごく硬そう!」っていう感想をいだいた。
ミュージアムの隣には、かつてのツインタワーの位置に2つの穴があけられていてそこに水が流れ込み、周囲には犠牲者の名前が刻まれているというかたちの記念碑があった。むこうにみえるのが新しく建てられたワンワールドトレードセンタービル。当初の設計は、奇しくもさきほどのキャニスターのデザイナーと同じダニエル・リベスキンド(いろいろあって彼の設計部分はほとんど残っていないが)。
ミュージアムの隣には、かつてのツインタワーの位置に2つの穴があけられていてそこに水が流れ込み、周囲には犠牲者の名前が刻まれているというかたちの記念碑があった。むこうにみえるのが新しく建てられたワンワールドトレードセンタービル。当初の設計は、奇しくもさきほどのキャニスターのデザイナーと同じダニエル・リベスキンド(いろいろあって彼の設計部分はほとんど残っていないが)。
立ち入ることができないこの巨大な穴はビルがなくなったことを強く意識させるデザインだが、ぼくにとっては「ニューヨークを代表する超高層ビルを支えていた地盤」を感じさせるものでもあった。
立ち入ることができないこの巨大な穴はビルがなくなったことを強く意識させるデザインだが、ぼくにとっては「ニューヨークを代表する超高層ビルを支えていた地盤」を感じさせるものでもあった。
というように、タンクとそれが載っている高層ビル群に思いをはせた後だと、このミュージアムは、マンハッタンの岩盤を感じさせるものになる。ぼくはそうだった。

正直にいうと、このミュージアム、どんなに愛国的な展示が待っているのだろう、とちょっと身構えていたのだが、そういう雰囲気はほとんどなかった。ニューヨークに行く機会があったら、ぜったい訪れるべき。

ぼくがおもしろく思ったのはここではツインタワーがまるで「人」のように扱われていること。
まるで「幼いころの写真」のように、建設中の様子があたたかく描かれ、
まるで「幼いころの写真」のように、建設中の様子があたたかく描かれ、
いたるところで「これはこの箇所の部材」と写真解説が付いて、柱や窓枠などが置かれ、
いたるところで「これはこの箇所の部材」と写真解説が付いて、柱や窓枠などが置かれ、
ビルが登場した色々な時代の映画の場面が上映されているようすは、
ビルが登場した色々な時代の映画の場面が上映されているようすは、
まるで、有名人が残した作品を見てしのぶ、という雰囲気だった。そういえばホームアローン2に出てきたねえ。
まるで、有名人が残した作品を見てしのぶ、という雰囲気だった。そういえばホームアローン2に出てきたねえ。
展示の大部分が、ツインタワーの基礎がそのまま残してあるさまだったり、ひしゃげた構造鉄骨だったり、在りし日の風景だったり、色々な映画で描かれているシーンの上映だったり。まさに建っていた場所にミュージアムがあるので当然といえば当然なんだけど、ちょっと不思議な感じだった。

というのも、まず犠牲者についての展示があるだろうと思っていたから。奥の展示室まで人間の展示がなくてツインタワーについてばかり。で、はっと気がついた。これ、ツインタワーが「犠牲者」なんだ。擬人化されている。ツインタワーが完全に「故人」ののりで展示されている。

あと、こういう建築の展示方法もあるんだな、とも気づかされた。わゆる建築の展示会と全く異なる見せ方だ。設計者であるミノル・ヤマサキの話はほとんど出てこないし、構造や設計思想の解説もほんの少し。いかに普段見ている建築展が建築カルチャーの文法に則っているかが逆に分かった。

もちろんほんとうの犠牲者の追悼も大きくなされている。これについてはやっぱり筆舌に尽くしがたい。ここでは黙っておこう。
人に関してひとつだけ言うとすると、消防士たちに対する感謝と追悼の展示が印象的だった。これは倒壊に巻き込まれたはしご車。
人に関してひとつだけ言うとすると、消防士たちに対する感謝と追悼の展示が印象的だった。これは倒壊に巻き込まれたはしご車。
そういえば チェルノブイリに行ったときにも消防士を顕彰する碑を見た。キエフにあるチェルノブイリ博物館は元消防署の建物だった。
そういえば チェルノブイリに行ったときにも消防士を顕彰する碑を見た。キエフにあるチェルノブイリ博物館は元消防署の建物だった。
ああそうだ、そういえばロンドンでも消防士の碑を見た。セント・ポール大聖堂の前にたっていた。ロンドン大空襲をはじめ、第二次世界大戦で亡くなった消防士、ほか殉職した消防士を追悼するもの。
ああそうだ、そういえばロンドンでも消防士の碑を見た。セント・ポール大聖堂の前にたっていた。ロンドン大空襲をはじめ、第二次世界大戦で亡くなった消防士、ほか殉職した消防士を追悼するもの。
すっかり給水タンクから脱線してしまった。しかも重々しい話題に。強引に話をつなげると、ビルの上の給水タンクは、生活水道水だけでなく、消火用スプリンクラーにもつながっている。

ツインタワーの上にもタンクがあって(今回紹介したような形ではないだろうけど)、あの瞬間、消火の水をフロアに落とそうとしたんだろうな、と思うとなんだか切なくなった。
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実は高校生のころから見たかったのだ

閑話休題。ぼくが給水タンクをおもしろいと思った理由の3つ目。それはこれが「小さい雲」だからだ。

ビルの中の人々が必要とするとき、彼らの頭上一番高いところにあるタンクが水を落とす。これは雲だ。オンデマンド雲だ。ここに限らず、世界中の都市でビルの上にはそれぞれ小さな雲が載っている。もちろん日本でも。

マンハッタンのものは、その雲がかわいらしい形をとって見えている、というわけだ。しかも実際の雨を避けるために帽子をかぶっている。
雲の下に、かわいらしい形の「オンデマンド雲」たち。
雲の下に、かわいらしい形の「オンデマンド雲」たち。
以上3点が、いまのところ思いつく「ぼくがニューヨークの屋上給水タンクに惹かれる理由」だ。長かった。ほんとに3点だったか。5点ぐらいなかったか。まあいいか。

で、実はニューヨークに行く前から彼らを見るのを楽しみにしていた。行ってから気づいたのではない。なんせ高校生のころから気になっていたのだ。
なぜならニューヨークの給水塔を観察したすばらしいエッセイが載っているこの本を好んで読んでいたから。なんという魅力的な絵。このタッチのおかげで「きっと実物もキュートに違いない」と思っていた。
なぜならニューヨークの給水塔を観察したすばらしいエッセイが載っているこの本を好んで読んでいたから。なんという魅力的な絵。このタッチのおかげで「きっと実物もキュートに違いない」と思っていた。
これは絵本作家として有名なジェイムズ・スティヴンスンのイラストエッセイ集「大雪のニューヨークを歩くには」という本。すごく好きで、ときどき読み返してはや25年。
これは絵本作家として有名なジェイムズ・スティヴンスンのイラストエッセイ集「大雪のニューヨークを歩くには」という本。すごく好きで、ときどき読み返してはや25年。
中には、雨宿りをしている人たちの観察分類などもあって「こういう楽しみ方があるのか!」と衝撃を受けた。いわゆる考現学、路上観察学と呼ばれるものの範疇だが、今和次郎や赤瀬川源平を知る前にこの本に出会った。ぼくの原点だ。
中には、雨宿りをしている人たちの観察分類などもあって「こういう楽しみ方があるのか!」と衝撃を受けた。いわゆる考現学、路上観察学と呼ばれるものの範疇だが、今和次郎や赤瀬川源平を知る前にこの本に出会った。ぼくの原点だ。
そんなわけで、今回実際にまのあたりにして大感激だったのです。
そんなわけで、今回実際にまのあたりにして大感激だったのです。

世界の屋上を見て回りたいぞ

さて、現代の「ドラえもんの空き地」はビルの屋上ではないか、という記事を書いたことがある。昔と比べていかに日本の屋上のバックヤード化したか、を味わった。バックヤードの一環として、日本でも屋上にタンクはあるが、マンハッタンのような存在感はない。木製のものがあるとはきいたことがないし。球形のやつとかかわいいけどね。

今後、都市ごとに異なる屋上の風景には注目していこうと思ったしだいだ。
香港の屋上もすごいことになっているのだが、地上からなかなか見ることができないのが残念だ。日本の屋上にも通称「山岡四郎の家」と呼ばれる、法的にはなかなかあやしい屋上家屋がけっこうある。韓国にも「オクタッパン」という似たような屋上家屋の歴史があるときいた(最近はリノベされておしゃれに解釈され、有名ドラマの舞台にもなったとか)。
香港の屋上もすごいことになっているのだが、地上からなかなか見ることができないのが残念だ。日本の屋上にも通称「山岡四郎の家」と呼ばれる、法的にはなかなかあやしい屋上家屋がけっこうある。韓国にも「オクタッパン」という似たような屋上家屋の歴史があるときいた(最近はリノベされておしゃれに解釈され、有名ドラマの舞台にもなったとか)。。
そうそう、フランスに行ったときは、屋上が煙突まみれなのを面白く思った。
パリの建物の屋上はご覧の通り、煙突まみれ。
パリの建物の屋上はご覧の通り、煙突まみれ。
つまりニューヨークでは「下に落ちる」、パリでは「下から上がってくる」もののために屋上が使われているのだ。ニューヨークは「小さな雲」だったが、パリでも煙という「雲」状のものが出て行く場所ってわけだ。
つまりニューヨークでは「下に落ちる」、パリでは「下から上がってくる」もののために屋上が使われているのだ。ニューヨークは「小さな雲」だったが、パリでも煙という「雲」状のものが出て行く場所ってわけだ。
よく見ると一本の大きな煙突と思いきや、細分化されてる。
よく見ると一本の大きな煙突と思いきや、細分化されてる。
かわいい。
かわいい。
きくところによると「暖炉ひとつにつき煙突一本」ときまっているそうだ。つまり煙突を共有してはいけないということ。安全性のためだろう。ということはこの小さな煙突の数が、建物内にある暖炉の数というわけだ。いまも全部機能しているわけではないだろうが。
きくところによると「暖炉ひとつにつき煙突一本」ときまっているそうだ。つまり煙突を共有してはいけないということ。安全性のためだろう。ということはこの小さな煙突の数が、建物内にある暖炉の数というわけだ。いまも全部機能しているわけではないだろうが。
屋上を見るだけの世界ツアーとかないかな。

また脱線して「屋上論」をぶちます

記事としてはいいかげん終わりにしてもいい頃合いだが、もうひとつだけ話をさせてください。「マンハッタンの屋上」で思い出しちゃったことがあるので。

それはこれ。このビル。MetLifeビル。
道路の正面に道をふさぐように建っている後ろの方の「MetLife」とあるビル。
道路の正面に道をふさぐように建っている後ろの方の「MetLife」とあるビル。
碁盤の目になっているこの街で、なぜか通りの真ん中に聳え立っているビルだ。なんか偉そう。傍若無人。おそらく隣接するグランドセントラル駅がその理由だと思う。
このビル、かつては「パンナムビル」であった。1991年にパンアメリカン航空が倒産してその名ではなくなってしまった。

建築史において重要なもので、設計者はヴァルター・グロピウスだ。あのバウハウスを創立した人。また、ユナイテッド・フルーツ社長の劇的な飛び降り自殺やスーパーマンの主人公の、クラークとロイスの名前のもとになったハヤブサが住み着いていたなど、逸話が多い。

ともあれ、かつてのパンナムビルの屋上、となればぼくと同じ世代の人にはぴんと来るものがあるだろう。そう、「アメリカ横断ウルトラクイズ」の決勝戦だ。
間近から見上げたMetLifeビル。ここを入っていくとグランドセントラル駅にたどりつく。
間近から見上げたMetLifeビル。ここを入っていくとグランドセントラル駅にたどりつく。
(以下長くなるので、興味のない方は飛ばしてください)
YouTubeにあった「第13回アメリカ横断ウルトラクイズ 決勝」を見ると(すごくなつかしかった)、毎回おきまりのジェームズボンドのテーマをBGMに(そういえばなんでこの音楽なんだろう?)、福留功男の名調子が聴けるが、その中に「敗者を捨てて、勝者はひたすらニューヨークへ」とのフレーズある。ヘリコプター間近に見える世界貿易センタービルが今見ると印象的だ。
決勝戦の開催場所をビルの屋上にしたことはこの番組のすばらしさのひとつ(ただし1984年の第8回まで)。勝者の象徴としての屋上。文字通り「テッペンをとる」だ。海外旅行がまだ夢であった番組開始当時、しかもニューヨークを代表するビルの屋上にのぼりつめる、というのはまさに勝利そのものであったろう。

この「強いものがビルの高いところにいる」というベタだが効果的な演出は、アメリカの映画でよく使われていたように思う(と言ったものの、これぞという例が思い浮かばないのだが。「ゴーストバスターズ」でラスボスが登場するのは高層階だったし「摩天楼はバラ色に」では独裁的な社長はビル屋上でジョギングしていた。いずれもマンハッタンだ。ほかに象徴的な「強者の屋上映画」あったらおしえてください。バットマンにもそういうシーンあった気がする)
華原朋美の1996年のヒット曲「I'm proud」のPVの舞台も屋上である。彼女と小室ファミリーの絶頂期にリリースされたこの映像。ロケ地はマンハッタンではなくロサンゼルスだが、まさに日本のポピュラーミュージックにおける勝利者であった彼らが、そのことを宣言する場所としてアメリカの屋上を選んだというのはとても正しい。
屋上で音楽、となれば最も有名なのはビートルズの "The Rooftop Concert" だろう。これこそ頂点を極めたものたちの屋上音楽、とも言えるが、ぼくはこれが無許可で行われた(映像見ると、警官がやってきて一時中断する顛末が)ことに注目したい。ぼくのイメージではイギリスの屋上は「反骨」「やんちゃ」だ。

「イギリス+音楽+屋上+反骨」でいうと、かのファクトリー・レーベルの成功と挫折を描いた『24アワー・パーティ・ピープル』は、屋上でハッパを吸いながら「いま、神を見た。俺に似てた」とうそぶくシーンで終わる。

って、いささかマニアックな例で申し訳ない。とにかくアメリカの屋上とはずいぶん毛色が違うということをお伝えしたい。日本で言うなら「傷だらけの天使」の屋上が近い雰囲気だと思う。ビートルズもこの屋上での演奏が最後のライブになった。

やっぱりきっとニューヨーク名物

なんだかニューヨークの給水タンクがかわいい、って話からずいぶん逸れてしまった。

最後にもうひとつだけコンサートの話を。ふたたびニューヨーク。それまで事実上解散状態にあったサイモン&ガーファンクルがふたたび二人揃ってライブを行った、伝説の「セントラルパーク・コンサート」。1981年のことだ。

屋上ではなく、その名の通り、マンハッタンのセントラルパークで行われたのだが、なんと舞台にはとんがり帽子の給水タンクが置かれていた。屋上でのコンサートをイメージしたセットだ。
By Rainer Halama / Wikipedia
By Rainer Halama / Wikipedia "View of the stage from deep in the audience" より。中央に見える舞台に給水タンクが聳えている。
この舞台セットをデザインした Eugene Lee の元で当時アシスタントをしていたアートディレクター・John Magoun のウェブサイトに、その模型の写真がある
サイモン&ガーファンクルはニューヨークっ子であることを誇りにしている。その彼らが記念すべきライブで給水タンクをフィーチャーした。ジェイムズ・スティヴンスンといい、やっぱり給水タンクはニューヨークの人たちにとって特別なものなのだ。名物と言ってまちがいない。

いつにも増して話があちこちに飛びました。もうしわけない。屋上はいろいろ考え甲斐があるってことだと思う。

次回ニューヨークに行くときは、実際に屋上に上がってタンクに登ったりしてみたい。
ニューヨーク滞在中、ずっと上を見上げてた
ニューヨーク滞在中、ずっと上を見上げてた

【告知】 イベント:ほんとうは怖いアンパンマン!

さくらいみかさんのすばらしい記事「大人たちよ、人形は捨てなくてもいい(と専門家が言ってた)」の「専門家」たる、早稲田大学の菊地浩平先生をゲストにお招きしてのイベントがあります。

ぼくがいつもやっているイベント「団地団」に登壇していただくんですが、ここで学内の面白い講義第1位に選ばれた「人形とホラー」をお話ししてもらいます。アンパンマンってじつはすごくこわい話だよね、という。ぼくは実際に講義うけたので知ってますが、ほんとうにおもしろいです。

2017年6月11日(日)の19時30分から、阿佐ヶ谷ロフトにて。みなさんぜひ!

詳しくは→こちら
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