特集 2017年6月20日

靴下だけで歩けば穴が空かないはずだという主張に人類の叡智が集った

靴下だけで街をうろうろする取り組みに、4人の先生方がコメントをくれました。
靴下だけで街をうろうろする取り組みに、4人の先生方がコメントをくれました。
靴下に穴が空かないようにしたいと考えた結果、靴下だけで歩いてしまえばいいのではないかという結論になった。

靴がないので足の周りが蒸れないし、足の先が靴の中でぶつからないので磨耗しにくそうだからだ。

実際にやってみたし、各分野の専門外の専門家にもコメントをもらった。
1987年東京出身。会社員。ハンバーグやカレーやチキンライスなどが好物なので、舌が子供すぎやしないかと心配になるときがある。だがコーヒーはブラックでも飲める。動画インタビュー

前の記事:送水口が猫に見える


すぐ靴下に穴が空く

つま先に空く。
つま先に空く。
すぐ靴下に穴が空く。
そしてその靴下を履いてしまう。
穴が空いたと気付いた時にすぐ捨てないからである。
挙句、会社の飲み会に行ってみたら座敷の席で、慌てて靴下の先を引っ張り、穴が目立たないようにひょこひょこ歩いてヘラヘラすることになる。
こうして、穴が目立たないようにしている。
こうして、穴が目立たないようにしている。

原因はなんだ

靴下に穴が空かないようにするにはどうすればいいのか。
調べた結果、「歩き方」と「靴の中の蒸れ」に原因があるのではないかという結論に落ち着いた。
靴下の一箇所に極端に力がかかるような歩き方をしていると多分穴が空く。
そして靴の中の蒸れが布の損傷を助長させているのだ。
ネットで調べてみると足から体の毒素が出ているなんて話もある。
なんだろう毒素って。怖い。
原因はだいたいこんなところみたいだ。
原因はだいたいこんなところみたいだ。

蒸れないようにしよう

歩き方はそう簡単には変えられない。
大変そうだし何をどう変えればいいかわからない。
では靴の中が蒸れないようにしよう。

蒸れないようにするってなかなか難しいものである。
メッシュの靴を履いてもサンダルを履いてもわずかに触れている布地と足の間に湿気を感じる。
怖い。
何かを履いているだけで、そこに留まった空気が蒸れを生み出し、蒸れに呼応した足がバンバン毒素を出している気がする。
怖いと考えると汗が出て更に足が蒸れる。

もう、徹底的にやるのだ。
どこにも空気の停滞する場所がない、もう外みたいな風通しのいい場所に靴下を置くのだ。
というかもう、外だ、外に出すのだ!靴下を!
出した。
出した。
出した。

靴下だけで過ごせばよいのだ。
これで靴下周りが蒸れる心配はない。
靴下の磨耗も遅くなるはずである。
会議で話したら、編集部の安藤さんが靴の中にある時より摩擦も少ないのではないか、と言ってくれた。多分こういうことだ。こういうことなのか?
会議で話したら、編集部の安藤さんが靴の中にある時より摩擦も少ないのではないか、と言ってくれた。多分こういうことだ。こういうことなのか?
とにかく素晴らしい。
このドラスティックなソリューションを机上の空論で終わらせないために、靴下だけで歩いてその爽やかさを体験したい。

そして突然だがここで、社会学者岸政彦先生のコメントを紹介したい。
立命館大学大学院先端総合学術研究科教授
岸政彦先生のコメント


連れ合いの齋藤直子に教えてもらったのですが、「つま先スルー」というサンダル用のストッキングがあって、ペディキュアしたつま先をきれいに見せるために、つま先の部分が薄くなっているそうです。

この上から間違って靴を履いてしまうと、その薄いところが靴の中にあたって、破れてしまうこともあるそうです。
やっぱり靴のせいだったんですね。

なので、靴下のままで外を歩くと、親指のところに穴が開くことは避けられるでしょうが、そのかわり地面と接する踵のあたりが破れてしまうものと思われます。

普通のコメントですみません、もっと面白いことを書こうと思ったのですが、沖縄出張中で、昼は仕事で忙しく、夜はずっと飲んでました。
社会学者の岸政彦先生である。
恐らく靴下の穴のことは専門外だろう。
でもきっと何か知っているだろうと思ってコメントを頂いたらちゃんと説得力のある話が聞けた。
安藤さんと同じ意見だ。
足の指のところに穴が空くのは防げるかもしれないのだ。

よかった。
元気に歩いていきたい。
写真はライターのmegayaさんにお願いした。megayaさんは靴を履いていた。
写真はライターのmegayaさんにお願いした。megayaさんは靴を履いていた。

<靴下で街を歩く> 表参道

きれいな街を歩きたいと思い、表参道に来た。
休日の表参道
休日の表参道
特に何も落ちていない。安心。
特に何も落ちていない。安心。
靴を脱ぐと地面の感触が伝わってきた。
ひんやりしていてかなり凹凸がある。
なんとなく、服について色々考えた。
なんとなく、服について色々考えた。
街ゆく人々はみんな靴を履いている。
これだけ人がいて、全員靴を履いているのだ。
みなさんの靴下は湿気の多い靴の中で、一歩ずつ確実に磨耗しているはずだ。
筆者の靴下だけが、表参道の日差しを浴びてリラックスしている。
晴れた日に芝生に大の字になって寝転がっているのと同じコンディションである。
靴を履いていない人がいた。ただし靴下も履いていない。
靴を履いていない人がいた。ただし靴下も履いていない。
確かに靴下を履かなければ靴下に穴は空かないだろう。
そういう思いきった選択もいい。
評価したい。

そしてまた唐突に、人形学者、菊池浩平先生のコメントである。
人間と靴下との関係について。
写真は下の記事より引用しました。右が菊池先生。
写真は下の記事より引用しました。右が菊池先生。
早稲田大学文化構想学部助教
菊地浩平先生のコメント


人形研究の立場からいえば、所有物の摩耗は持主と過ごした時間を象徴するもの。

またWWEという世界一のプロレス団体にかつてマンカインドというレスラーがいて、彼の唯一の理解者はミスター・ソッコという靴下でした。

以上のことから靴下に穴が開くのは、持主との関係やコミュニケーションが次の段階に入ったことを示すシグナルといえます。決して捨ててはいけません。

そこから第2章が始まるのです。
『大人たちよ、人形は捨てなくてもいい(と専門家が言ってた)』の記事でもご協力頂いた、人形研究者、菊池浩平先生である。

菊池先生によると、穴が空いてからが靴下とのコミュニケーションの第2章ということだ。
穴の空いた靴下で堂々と歩き回る自分を想像して、靴下とのコミュニケーションを深くすることで周囲の人々とのコミュニケーションをこじらせてしまうんじゃないかとふと疑問に思ったが、とにかく力強いお言葉をいただけて嬉しい。

こうして穴が空かないように試行錯誤するのは、まだまだ靴下とのコミュニケーションが未熟であるという証拠なのかもしれない。

<靴下で街を歩く> 原宿

街並みが変わったと思ったら原宿に入ったらしい。
すれ違う人の装いも少し変わった気がする。
表参道と原宿ってこんなに近かったのだ。
おしゃれな通り。
おしゃれな通り。
ここには雑誌や芸能のスカウトの方がいるらしいので、読者モデル希望の方はこの通りを何往復もするのだそうだ。
靴下に穴が空かない希望の筆者。
靴下に穴が空かない希望の筆者。
この散歩、街の人はどういう反応だろうかと思っていたが、特になんの反応もない。
みんな他人の足元なんてよく見ていないのだ。
しかし、おしゃれの街原宿では目立った反応をしてくれる方が何人かいたらしい。
megayaさんが教えてくれた。
「足見て、顔見て、足見てました。」
ということだ。
行列があったので並んだ。おいしいサンドイッチのお店らしい。
行列があったので並んだ。おいしいサンドイッチのお店らしい。

<靴下で街を歩く> 渋谷

渋谷に来た。
渋谷に来た。
原宿と渋谷も思っていたより近い。
いや、歩くのが楽しくてあっという間に感じただけかもしれない。
横断歩道は、白いところと黒いところで踏んだ感触が全然違う。
横断歩道は、白いところと黒いところで踏んだ感触が全然違う。
白いところはつるつるしていて少し盛り上がっていて、踏んでいて気持ちいい。
足裏の感覚については、明治大学の橋本直先生からコメントがいただけた。
写真は下の記事より引用しました。
写真は下の記事より引用しました。
明治大学先端メディアサイエンス学科准教授
橋本直先生のコメント


実は、東大のVRの最新研究で「床の上で無限に階段を昇る体験ができるVR」というのがあるんですが、この研究で「足裏に触覚刺激を与えてあげると階段を昇っている感覚が高まる」ということが示されています。(参考:Infinite Stairs

昇る時は階段の端のところに足裏が接触するので、それを模した触覚刺激を床に置いた突起物で与えてあげることで上昇感が高まるんだそうです。

ちなみに、地下鉄の階段に注目すると、降り側よりも昇り側のほうが、段の端が擦り減っているんだとか。そこに集中的に足が接触している証拠ですね。

この研究と靴下の因果関係はわかりませんが、もしかしたら階段を上るから靴下に穴が空くってことはないですかね?
『アイデアスケッチの描き方を習ってわかった10のポイント』の記事でご協力頂いた、ユーザインタフェースやインタラクション分野の橋本直先生である。
すごい。
足裏の刺激だけで、階段を登っている感覚が得られるのだ。
ということは、つるつるとざらざらの刺激をいい感じで交互に与えることで、靴下だけで横断歩道を渡っている感覚も得られるのかもしれない。
参考の動画を見たら被験者の方が靴を履いていた。
「靴下に穴が空かないために靴下だけで横断歩道を渡るVR」中に靴下に穴が空くかもしれないということだ。
そんなVRはないのだが。
タワーレコードの前に犬がいた。
タワーレコードの前に犬がいた。
やけにななめの犬。
やけにななめの犬。
犬も裸足だった。
犬も裸足だった。
今、靴を履いていないものへのシンパシーが強い。
今、靴を履いていないものへのシンパシーが強い。
ここに来る前に渋谷のライブハウスの前を通った。
もうすぐ人気のあるバンドのライブがあるらしく、たくさんの似た装いの若者が集まっていた。
さぞロックでパンクな若者が全国から集ったのだと思ったが、全員、全員が揃いも揃って靴を履いてた。
「靴、履いてるなあ…」
とつぶやきながらmegayaさんとその人混みを抜けた。
何かのキャラクターもいた。
何かのキャラクターもいた。
…………………………
…………………………
!
このキャラクターは全く悪くないのですが、なんか裏切られた感覚がすごい。
あとはスクランブル交差点を歩いたり、
あとはスクランブル交差点を歩いたり、
靴を見たり、
靴を見たり、
公園を走ったり、
公園を走ったり、
しました。
しました。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所
中村勇先生のコメント


僕たち実験屋からすると、その実験は結構難しいですね。
どれぐらい条件を同じにできるか、バイアスをかけずに試験できるかなど実験のテクニック的な難しさがあります。
「靴下がやぶけるテストをするよ」と言うとゆっくり歩いたりする人とか出ますよね。
通常こういうのっていうのはテストしてることを隠してやるんです。
しかも統計処理をしなきゃいけない。
もちろん複数人で行う必要もある。
意味がある実験結果を得るのは結構難しいんじゃないかと思います。
意味があるというのは統計用語で言う有意ってやつだね。
素粒子・原子核物理学とか、物質構造科学とか、とにかく難しそうな研究をしている高エネルギー加速器研究機構の中村勇先生である。

この実験は難しいのだ。
一人で、しかも敢えて靴下に負担を与えようとゴツゴツしたところを走ってみるなんて一番ダメなのだ。
ということは今回の説を検証するには、大勢で、靴下の実験であることは伏せながら靴下だけで街を歩いてみなくてはならない。

有意な結果が出る実験というのは難しいのだなと思った。
催眠術が使えればできるかもしれない。
結局靴下はこんな感じに。
結局靴下はこんな感じに。
穴がどうこうではなく、とにかく汚い。
かなり序盤から、megayaさんも「汚ねえ!」と言っていた。
布の磨耗の方はどうかというと、指先は全然平気で、その分かかとのところの布がちょっと薄くなっているような気がした。
最初に岸先生が言ってくださった通りである。
公園を走る前だが、かかとのところの布が透けてきている様子。
公園を走る前だが、かかとのところの布が透けてきている様子。
というわけで、今回の実験と、4名の先生方から得た専門外の叡智を集結させた結論である。
長い。
長い。
長い。
ライトノベルのタイトルみたいだ。
ありがたいお言葉なのでなるべく詰め込もうとしたら何が何やら分からなくなってしまった。
しかし実験を終えた今、人形学者である菊池先生の「決して捨ててはいけません。」という力強い言葉がやけに胸に残っている。
穴が空いた靴下を恥ずかしいと思うからこんなに苦しんでいたのかもしれない。
空いた穴は、靴下とのコミュニケーションが第2章に入った証として、むしろ誇りに思い、積極的に見せていくべきなのではないだろうか。
見せていくべきだろうか。
どうだろうか。

「叡智」の部分はすごく良かった

結論が出ずに終わったが、各先生方から頂いた「専門外の叡智」は最高に良かった。
自分の結婚式で、芸能人から祝電が届いたような気持ちになった。
無茶なお願いにも関わらず対応して頂き、ありがとうございました!
撮影を終えて替えの靴下を買おうとダイソーに入ったら、床がフローリングですごく落ち着いた。家みたいだ。
撮影を終えて替えの靴下を買おうとダイソーに入ったら、床がフローリングですごく落ち着いた。家みたいだ。
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