特集 2017年6月28日

シュレッダーのディスプレイがぶらぶらしてておもしろい

おすすめスポットをご紹介
おすすめスポットをご紹介
ライターのトルーが「おもしろいシュレッダーのディスプレイを見つけました」という。行ってみたらたしかにかわっていた。

なにも変なところはないのだが、結果的におかしなことになっている。ゴミがぶらぶらしているのだ。

へえと思ってシュレッダーに普段縁のない2人で他にもいろいろと売り場をめぐった。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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半笑いで待つ

遠目で見た時点で吹き出してしまった。左がライターのトルー
遠目で見た時点で吹き出してしまった。左がライターのトルー
ああ…なるほど……。

到着するやいなや話を聞かずして「おもしろい」というのが分かった。ぶらぶらしている。先に来ていたトルーも上の写真のとおり半笑いで待っていた。

(「トルー」という名前が気になってシュレッダーに集中できないという方に説明すると、トルーというのはペンネームで本名ではない。本名は北村真一。当サイトにはもう1人「北村」がいるため(北村ヂンさん)、どうしようかと検討した結果ペンネームを使うことになった。命名由来まで興味のある方が全国で4人くらいいるかもしれないので念のため本稿の最後に書いておきますね。)

さて、あらためてシュレッダーだ。
ヨドバシカメラの秋葉原店。ずらーっと奥まで並ぶシュレッダーの上に小袋がぶら下がっている
ヨドバシカメラの秋葉原店。ずらーっと奥まで並ぶシュレッダーの上に小袋がぶら下がっている

小袋がぶらぶらゆれる

これ、各シュレッダーから出る裁断された紙を小袋に入れてぶら下げて「これがこのシュレッダーから出る裁断後の紙ですよ」というのを分かりやすくディスプレイしているのだ。

シュレッダーの使命は機密情報の安全な廃棄のための書類の裁断だ。裁断されたゴミの様子こそが商品の一番のウリなのだ。ゴミを見せることが売り上げの拡大につながる。なかなかない状況がシュレッダー売り場にはある。
このように裁断後の紙の様子が非常によくわかる
このように裁断後の紙の様子が非常によくわかる
と、大変に有効なディスプレイ方法ではあるのだが、その有効さを追った結果、状況としてはやはり「小分けのゴミがぶらぶらしている」ということになっているのが味わい深い。当然と致し方なさの先にあるゴミのぶらぶら。

トルーとうなずきあった。

「変だね(良い意味で)…」
「変なんですよ(良い意味で)、なにが変でなにが良い意味なのかはわからないんですが」
「これはしっかりと変だよ。自信持っていいよ」
「下から見上げると、またいいんですよ」
※敬語がトルーでタメ口が筆者の古賀
しゃがんで見上げると一層おもむきぶかいという
しゃがんで見上げると一層おもむきぶかいという
なるほど
なるほど
たしかにこれは見たことのない景色だ。頭上で小さなゴミ袋がぶらぶらする。中にはなにか細かく切り刻まれた紙がぱんぱんにつまっている。

ぼんやりとした気持ちになりしばらく立って様子を見ていると、行きかうお客さんはこの小分けのゴミ袋を手にとって裁断の様子を見る。そうして見終わって手放す。小袋は振り子のようになる。ぶらんぶらんしていた袋が、このときばかりは「ぶーらん、ぶーらん」する。
天井からつられているため紐はかなり長い。ぶーーーらん、ぶーーーらんする
天井からつられているため紐はかなり長い。手放された勢いでぶーーーらん、ぶーーーらんする
さらによく見ていると、手をふれていない小袋も微妙にそよいでいるのが分かった。

「エアコンの風かね?」
「えっと…そうですかね、ゆれてますね」

動画撮影に自信がなく実子の運動会ですらカメラを回さない私だがこれはたまらず撮った。
トルーと2人、しばらく見た。

シュレッダー=寿司職人説

シュレッダー売り場というものがこんなことになっているとは思わなかった。

おそらくは、シュレッダーを売ろう、たくさん売ろう、そういう気持ちが高まってのことだろう。商うことへの熱意と工夫である。

これがタワーレコードだったら手のこんだ造作とポップができるんだろうし、お蕎麦屋だったらでかい蕎麦のおわんの上を箸が電動で上下するみたいなディスプレイを外に置いちゃう、そういうことだろう。
そば屋にあるこういうやつ。工夫を凝らしたディスプレイ。論理としてはこれだ (写真はこちらの記事</a>より)
工夫を凝らしたディスプレイ。論理としてはこれと同じだ (写真はこちらの記事より)
と、思って納得しようとしていたが、トルーは別のことを考えているようである。

「シュレッダーの上にそのシュレッダーが裁断した紙が吊るされてるって、寿司屋だったら職人さんの頭の上に得意の握りが浮かんでるみたいなものじゃないですかね」
以降トルーによる妄想イラストが挿入されます。ご了承ください
以降トルーによる妄想イラストが挿入されます。ご了承ください
その発想はなかった。

その発想は、なかったな…!

確かに並べられたシュレッダーは1台1台が独立した個性ある商品だ。型番はもちろん、メーカーが違うものも並んでいただろう。一つ一つが一人の職人さんのようだと思う気持ちはよくわかる。

お寿司屋でごくごくまれにカウンターに座ったときの喜び、それはケースの中のあのネタが、「わ~! 目の前でこんなきれいに握ってもらって出てきたよ~!」という驚きと喜びだろう。

シュレッダーだって、はじめて買っていそいそとなんらかのその辺にある紙を裁断したときは「わ~! こんな細かい屑になったよ~!」という喜びが、まず間違いなくあると思う(そして2~3日はあきもせずにあれやこれやと裁断するのだ)。

シュレッダーの出す屑はゴミではあるが仕事の成果そのものでもある。シュレッダーは寿司職人であり紙くずの小袋は握り寿司。それくらい華やかにたとえても、ばちは当たらないかもしれない。
仕事の成果が頭上に浮かぶ
仕事の成果が頭上に浮かぶ

セキュリティレベル「最高」

そんなことをしゃべりながら、ではもっとほかのお店でもシュレッダーを見学してみようじゃないかという話になった。雨降りのなかのろのろ移動する。

「シュレッダーって…全世界で3種類くらいでいいんじゃないですかね…」
「そうだよね、そんなにいらないよね? こだわるようなツールじゃない気がする」
「でも種類結構ありますね」
「あるね…いろんな種類がある、必要が、あるんだろうね…」
「うち、シュレッダーないんですよ」
「うちもないよ」

シュレッダー意識の高低でいうと、最底辺くらい低い2人がシュレッダー売り場をハシゴする。2人とも、しかし世の中のさまざまなものへの好奇心は旺盛なほうなので興味はしんしんである。

結果的に、最初のお店のようなとんちの効いた陳列をしている店は他になかった。が、シュレッダー売り場を「へぇ」と眺めてはよそみせずに次の店の売り場へとハシゴするうちに、シュレッダーというものの思いもしない奥深さを味わうことになった。

シュレッダーの知識がどんどん増えていく
シュレッダーの知識がどんどん増えていく
従来のクロスカットと最新のマイクロクロスカットの違い
従来のクロスカットと最新のマイクロクロスカットの違い
「……カットされたあとの紙の形が……違うんだ…!」
「CD-ROMとかクレジットカードが切れるやつもあるみたいですね」
「クレジットカード! ……って人生で3回くらいしか切らなくない?」
「あはは、ですよね、あはは」
クレジットカードが切れるという機能が付きがち
クレジットカードが切れるという機能が付きがち
いやあなどってはいけない。実際は会社などたくさんクレジットカードを処分しなければならないというニーズがあるのだろう、企業努力を笑うのはよくないことだ。

笑った罰として、2人、シュレッダーの書類のカットの種類について学びを深めていくことにした。「ストレートカット」や「クロスカット」など、裁断に種類があるらしいのだ。
ざっくり言うとこんな感じ
ざっくり言うとこんな感じ
「マイクロカットはセキュリティレベルが『最高』だって書いてある」
「『最高』ですか」
「セキュリティレベル最高! テンション上がるね」
「『最高』っていい言葉ですねー」

じんわりと盛り上がった。
「極大」とも書いてあった。セキュリティレベル、極大!
「極大」とも書いてあった。セキュリティレベル、極大!

知らない訴求がある世界

さらにシュレッダーには裁断できるメディアの幅(紙以外にカードやCDなど)、裁断の種類のほかにも裁断スピードや一度に裁断できる紙の量、さらには運転音の小ささなど、研ぎ澄まされるべき良さには余念がないらしいことも分かった。
逆向きに陳列されていたが「ハイセキュリティ」の「ハイ」のでかさが力強い
逆向きに陳列されていたが「ハイセキュリティ」の「ハイ」のでかさが力強い
A4サイズの紙を3枚まとめて裁断でき、ホチキスの芯がついたままでも大丈夫。CDやDVDは4分割とメディア細断対応。裁断後の紙が透明なタンクからどれだけたまっているかが見える。ラベルやポップから次々と飛び出す売り文句。

「細断」という熟語を聞いたことがなかった。辞書を引けば、紙などを細かく切り刻むこととある。うん、そうだろう。

思えば紙やCDを細かくちぎりたいと思ったことのない、細断とは無縁の人生であった。そんな私たちの前に次から次へとさまざまなシュレッダーがあらわれてはそれぞれの魅力をプレゼンテーションしていく。

願いもしない願いが過剰にかなう可能性がそこにはあった。大量の紙を一度に静かに可能な限り最小に切り刻みできるだけたくさんタンクにためられるという、いま生きているのとは別の人生が見える。ちょうど「ラ・ラ・ランド」がそんな映画ではなかったか。
カメラ並みに各種スペックが並べてある
カメラ並みに各種スペックが並べてある
「デシベルが書いてあるよ…!」
「70dB、うるさいんですかねそれは…」
「どうだろうね、ちょっとどれくらいの音か想像つかないね…」
「静かなんじゃないですか?いいシュレッダーぽいし」

あとで調べてみたところ70dBは「電話のベル」や「うるさい街頭」くらいの音だと出ていた。それ、結構うるさいのではないか。いや、機密情報をじゃんじゃん処理してくれているのだから相応か。ふさわしいデシベルという評価軸もまたシュレッダーならではである。
同じ70dB
同じ70dB

虫かご

そうしてあっちこっちとシュレッダーを見て歩いていたが、これまでになくスペックが低く廉価なものが最後の店で唐突にあらわれた。
トルーが謎の角度からながめている
トルーが謎の角度からながめている
虫かごかとおもいきや手回しのシュレッダーだ。

この日みたシュレッダーのなかでも一番簡素なものがこれだった。業務用の、それこそ10万円以上するようなハイスペックなものも見てきただけにこのシンプルさには目が覚める思いである。もちろん裁断できるのは紙のみだ。

RPGのスタート時点でももうちょっとましな装備をしているんじゃないか。これまでのシュレッダーたちにくらべるとこれは裸に葉っぱ一枚くらいの感覚ではないか。

「ハイスペックなのを結構見てきたからこれはたまらないね…」
「欲しくなってきました」
「これほとんど虫かごだよね? 買って虫を飼いたいね」
「上から、求められてないストレートカットを与えましょう!わさわさわさわさ!」

捕った虫を飼うための箱と、秘密にしたい情報の記載された紙をばらばらにする箱。全くといっていいほど役割の違うこの2者の様相が非常によく似ているというのに感じ入る。

じろじろと見入った。なにかいいもののような気がしてきた。少なくとも裸に葉っぱ一枚といったのは悪かった。
すこし遠くから2人で見た
すこし遠くから2人で見た

新しい文化との出会い

私たちはシュレッダーというものを常々意識していなかった方の人間だ。だからこそ発見がある。新しい文化に触れたのだ。

はじめて野球場で試合を観戦する。またはじめて劇場でオペラを鑑賞する。その延長線上に、「買ったことのなくまた今後買う予定のないシュレッダー売り場をめぐる」は、あった。

「ねえ、これ『マイナンバー制度の個人情報保護に対応』って書いてある」
!
「書いてありますね」
「(スマホで調べる)マイナンバーのガイドラインで、復元できないように書類を廃棄しなくちゃいけないっていうのがあるらしいよ」
「とすると…マイクロクロスカットですかね」
「マイクロクロスカットだろうね、最高だからね、セキュリティレベルが」

ちょっとしたシュレッダー用語もいまではすぐに出てくる。新しい文化にふれ、知見を得た。街に出るということそのものをやった日であった。
トルーから「ステラおばさんの上には当然クッキーがぶら下がってるんだろうなと思ったので描きました」と送られてきたイラストでおわりにします
トルーから「ステラおばさんの上には当然クッキーがぶら下がってるんだろうなと思ったので描きました」と送られてきたイラストでおわりにします

お願い今日はシュレッダーシュレッダーいわせて

冒頭でも言い訳したが、最初に紹介したようなかわったシュレッダーのディスプレイはこの日と、合わせて別日にそれぞれがめぐったほかの店でも見つけられることはできなかった。

トルーのみつけたシュレッダー売り場がおもしろい、という、本稿は基本的にはそういった記事である。

「あそこ、シュレッダー専門店かというくらいの品揃えだったよね」
「シュレッダー専門店だったのかもしれないですよね」
「そうだよね、あれ専門店名乗っていいよね」
「でもシュレッダー専門店っていりますかね?」
「シュレッダーだけ欲しい人にはありがたいんじゃないのかね」

最終的に「シュレッダー」と声に出していいたいだけの2人になっていた。
あまりの種類の多さに目移りして何を撮って良いか分からなくなっていた写真
あまりの種類の多さに目移りして何を撮って良いか分からなくなっていた写真

ちなみになぜ北村真一がトルーになったかの由来ですが、飲み会の席でこういう経緯で決まりました。

・苗字をはずして「真一」ではどうか、ホストみたいでかっこいいから
・かっこいいといえば英語のほうがかっこいい
・真→truth?
・truthだと読み方がわからず覚えてもらえない
・では「トゥルー」で
・「トゥルー」だと「トゥ」が発音しづらい
・「トルー」でいきましょう

まさかと思いましたが本人が喜んでくれたので採用となった次第です。
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