特集 2017年7月7日
 

もうひとつの人生ごっこ

「こっちの世界でのおれはそんなことを……」
「こっちの世界でのおれはそんなことを……」
知らない町の家に泊まると、まるで別の人生みたいだなと思う。

知らない町の知らない景色。ここに住んでいる僕はどんな仕事をしているだろう、などと考える。
あっち側の僕とは違う、水道工事や電子部品の商社、食品の卸の仕事だろうか。クローゼットにはサイズはあうけど見たことがない服が入っているだろう。

そして見たこともない友達や恋人がいて、身に覚えがない身の上話をしてくるだろう。
そんな別の人生を味わう方法を考えた。
1971年東京生まれ。ニフティ株式会社勤務。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。 編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。

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記憶喪失になってもらいます

とある住宅街に部屋を用意した。
そこにいると「友達」が訪れてくる。「友達」はまったく見たことがない人である。そしていろいろ話しかけてくるが、何ひとつ身に覚えがない。

でもその話の端々から、自分がどういう人物で何をしてきたかを推測するのだ。

ぜひ自分で体験してみたいところだが、僕が準備して体験することはできない。
そこで被験者を用意した。いや、被験者ではない、この最高のエンターテイメントを味わえる人である。
ライター、住正徳さん
ライター、住正徳さん
部屋にひとりで1時間ほど先に入ってもらって別の人生の雰囲気を味わってもらった。
知らない部屋のダイニングで西日を浴びる
知らない部屋のダイニングで西日を浴びる
ベランダに出るとまったく知らない町である
ベランダに出るとまったく知らない町である
「なんで自分がここにいるのかわからないけど、ずっとここにいたような気もする。でもこんな夕方に家にいるってことは一体仕事はどうしたんだろう。休んだのかな」

すでに混乱しはじめている。ここで「友達」を投入したい。

見たことのない「友達」が訪ねてくる

「ピンポーン」

聞き覚えのない呼び鈴が鳴る。

「ああ、住さん、入っていいですか」
「近くまで寄ったものだから」

住さんにとってまったく知らないふたり(でもそれはこっちの世界の「友達」である)が入ってくる。
もちろん住さんには「友達」が訪れてくることは伝えてある。
「友達」を迎えた瞬間。
「友達」を迎えた瞬間。
戸惑いと笑いが混ざった珍しい表情をしている。平行世界のあいだの壁が破れた瞬間である。核爆発でも起こるかと思ったが大丈夫だった。
「友達」がテーブルにおみやげを広げるあいだ、何かを思い出そうとしている住さん(もちろん思い出せるものはない)
「友達」がテーブルにおみやげを広げるあいだ、何かを思い出そうとしている住さん(もちろん思い出せるものはない)
「意外にきれいにしてるじゃないですか」
「駅からもわりと近いですね」

などと知らない「友達」は話しかけてくる。今回の「友達」はこのふたりにお願いした。
男性が大室さん、女性が砂川さん。
男性が大室さん、女性が砂川さん。
大室さんは飲み会などで数回一緒になったことがある。砂川さんはニフティの社員である。この難解な企画の難しい役を快諾してくれた。

ふたりには事前にこっちの世界の設定を覚えてもらった
この世界の設定

3人は同僚。職場は池袋にある大学。
大室さん 助手
砂川さん 学生課
住さん 広報

試験のときに同じ教室の担当になってから話すようになった
いちど3人で南大沢のアウトレットモールに行った
住さんはアディダスのピンクのスニーカーを買った
でも住さんはそれを履いてない

住さんは3年前に中途で入った
同じ年に砂川さんは新人として入った。言ってみれば同期。
砂川さんと住さんは今年の花見のときになにかあった
砂川さんはそれについてあまり話さない
周りの人もそれを知っている。(でも実際は手を握っただけ)

住さんは以前、田町の自動車ディーラーで働いていた。
でも、本人はバンコクにいたとFacebookに書いていた(うそ)

住さんは明るいし、よく働く。上司も評価している。
ただ、住さんはたまに職場に来なくなってしまう。見に行くと普通にいて、翌日からまたくる。みんな待ってるよ、みたいなことは言わない。

今回も住さんは3日来ていない。
職場の乾さん(年長者、とっつきにくい)も住さんがいないことを心配している。
大室さんが見てくると職場で言った。誰か行く?と言ったときに砂川さんがおそるおそる手をあげた。住さんと砂川さんの関係がギクシャクしているのは知っているので、大室さんは戸惑っている。

住さんの趣味はバッティングセンターに行くこと。
腰痛持ち。前職で事故にあったらしい。
無理しないように言うが、無理しがち

生まれは埼玉県東松山
実家はレンタルビデオ店を営んでいるらしい
3人の緊張感あふれる会話はダイジェスト動画を作った。動画は本稿最後に貼ったが、シーンごとのようすをまとめた。

会話の端々からわかるこの世界の自分

この世界での自分がどんな人間であるかはこの「友達」の発言から推測することができる。
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この世界の自分は、ネギが好きで、ダイエットのためにこんにゃくゼリーをよく食べているらしい。
「ピンクのスニーカーもそのためでしょ」とも言われている。
ふだんの住さんが履かない靴である。
これが好きなのか
これが好きなのか
この世界の自分は、この仕事に就く前はバンコクにいたとFacebookに書いたらしい。だが、それがうそであることをみんな知っているとを言われる。
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見どころは、「それ今いわなくてもいいでしょう」と住さんがこちらの世界の人格になって反論しているところである(9:00ごろ)。徐々に設定が設定でなくなってきている。

仕事はなんだろう

いったいこちらの世界で自分は何をしているのかが気になるところである。住さんも「会社がねえ」などと探りを入れている。しかしこちらの世界では会社じゃなくて大学なのだ。

会社と言っても反応は鈍く、「住さん会社って呼ぶんですね」とまで言われてしまう(1:00ごろ)。
「えーなんて呼んでるっけ?」とすなおに聞いてみると(職場の呼び方を同僚に聞く不自然さを感じさせない聞き方はうまい)

意外なこたえが帰ってくる
意外なこたえが帰ってくる
池袋? しかしこのあとの大室さんが「心配する先生もいるから…」と言うので、「先生」と呼ばれる人がいる職場であることがわかる。
5:10ごろ〜
5:10ごろ〜
その後、「先生は専門がありますよね」などと絞り込みの質問をして(7:00〜)、賭けに出る。
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先生がいる職場、学校か病院のうち病院にかけてみたが見事に外してしまう。
重なりかけた平行世界がまた元に戻ろうとしている。

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