特集 2017年7月17日
 

手品師に集団で論破されたい

!
斎藤「次の質問です。なぜハトを出すのですか? ハトだけひいきですか?」

植田「それはチャニングポロック」

斎藤「チャ?」

戸崎「ヨーロッパの手品師で、すごく昔の方なんですよ。1950年代かな?」

斎藤「じゃあその前の手品師は、鳩を出してなかった?」

トーマ「正確に言うと、50年ぐらい前に鳩の手品を作った人がいるんですね、それまではなかった」

野島「そして、チャニングポロックっていう人が、映画の中で鳩出しのマジックをやったことで世界中に広まったんです」

斎藤「それで世界の手品師が、『みんなあれやろう』って思ったわけですか?」

植田「そうです。だから、なぜ鳩なのか? と言われると、流行りですよね」

斎藤「じゃあ、今後違う動物が出て来る可能性はありますか?」

野島「一通りの動物は既にみんな出してるからなあ」

トーマ「ホワイトタイガー出した人いますし……。それで噛まれちゃった人もいますね」
!
斎藤「ウワー」

野島「日本でもジャック武田さんっていう、いろんな種類の動物を出すことを得意としてるマジシャンがいるんですが……。ただ、あの、餌代を稼ぐのが大変と」

なんとリアルな話なんだ……。「動物を飼うのは大変」。これまで何人の小学生が捨て猫を拾ってきて、お母さんに言われてきたセリフだろう。

植田「コンパクトなタネででっかく見えるっていう点で、ハトは一番いいんですね。消す場合は逆にでっかいもの消すよね、象みたいな」

斎藤「ハトって扱いやすいですか?」

トーマ「僕は毎日ショーでハトのマジックをやっていますが……鳩は……扱いやすいかな? ある程度はなつくらしいですけど、知性があまりないので。そういう点では扱いやすいかと」
ショーでハトを出すトーマさん
ショーでハトを出すトーマさん
斎藤「鳩やだなって思うことはないんですか? リスにしたいとか」

トーマ「リス出してそんなお客さん喜ぶかなあって思います。相手のリアクションが全てなので」

戸崎「そうかな。リスかわいいと思うけど」

野島「いや。リスに逃げられたら帰ってこない。絶対に」

リスは自分の好みで上げたのだが、意外と手品師たちから賛否両論である。

植田「江戸時代の手品でカゴから犬を出すというのがありました。で、出すのが難しかったら、亀を出せって(江戸時代の文献に)書いてある。だけど、亀は出てきてもうれしくないよね。リスはどうだろう」
犬を出す手品 放下?3巻(国立国会図書館デジタルコレクション)より
犬を出す手品 放下?3巻(国立国会図書館デジタルコレクション)より
ハトを出すことには、歴史もあるし、合理性もある。論破である。それにしても、「手品師がどんな動物を出したらうれしいか」ということを今まで考えたことがなかった。ハトが最高。公園でハトを見る目が変わりそうだ。亀はごめん! 動物園ではわりと亀を見たくなるけど、手品のときは見なくてもいいや!
!
斎藤「手品師って失敗していることもあるんですよね?」

野島「ちっちゃい失敗は絶対どこかでしてます。それは気づかれないようにうまく処理する」

トーマ「逆に、どのレベルから失敗なんですかね? 完全に満足したっていうショーは年に1回あるかないか。心残りや反省は必ずあります」

失敗は当然ですが何か? という雰囲気。そうなのか!

ハトが料理にダイブしてもリカバリーできる

!
トーマ「ハトの手品で失敗したことがあります。
炎の中から飛び出して、客席を旋回してステージに戻ってくるのですが、動物なので100発100中じゃないんですね。うまく戻ってこなかったなー、くらいの失敗だといいんですけど……。お客様の野菜スティックにダイブしたことがあって」

斎藤「気まずい」

トーマ「それは、その時までだいたい200回ほどやって、その1回だけですけど」

斎藤「でも、ハト的には野菜スティックは食べたい物だからなあ。お腹が空いていたのか」

トーマ「一瞬空気が凍りますよね。でも、曲に合わせた無言の演技なので途切れさせることができない。そこで、カッコつけながら、ジェスチャーで謝る! それしかないんですよ。喋っちゃうと、急に演技が消えてリアルに戻ってしまうので」

斎藤「手品師がびっくりしたら、お客さんはひいちゃいますよね」

トーマ「お客様は、『えっ』って顔で驚いてました。僕は40分のショーが終わったあとに、もう真っ先にバーって客席に降りていって、申し訳ございませんでした、って。
大丈夫でしたか、ハトをぶつけられたくなったら是非またいらしてください、って恐る恐るジョークを言って」

戸崎「それはうまい」

植田「最善手だったのかな。失敗してもリカバリさせる。それがプロとアマの違いではありますね」

野島「常に何かしら保険は打ってますね」

植田「手品教室の卒業パフォーマンスを見たことがあります。生徒さんがカードの予言を間違っちゃったんですよね。でも『すみません。間違えました。終わります』って言って終わっちゃって。あれはちょっとなあ」

戸崎「それは見ていてキツいな」

トーマ「さっき保険って言いましたけど、僕は保険をかなり用意する方です。予備の予備の予備ぐらいまで。でもそれを使ったことはないです。ただある、というだけ。」

野島「失敗といえば……。去年中国のコンベンションに呼ばれて、400人ぐらいを前にマジックやったんですよ。
カメラがね、真上と正面と二種類あって。僕の後ろにプロジェクターがあって。そこに僕の手品がリアルタイムで映されているんですね。
で、マジックやっても全然ウケない。後で聞いたら、真上からのカメラがプロジェクターに映ってて、全部タネがずっと見えてたんです」

斎藤「えー! それは自分の失敗じゃないわけですよね」

野島「例えば、カード当てを失敗しても、そういう台本でしたっていうフリで、続行できるんですが、これは辛いです」

手品をやったこと自体が失敗?

!
戸崎「根源的なところ言うと、そもそも手品をやったこと自体が失敗っていうのはある(笑)なんでこれやろうと思ったんだろうって……」

冗談かと思っていたら、ここで手品師全員からため息と共に同意。みんな「やらきゃよかった」と思ったことが一度はあるのか……。

植田「アマチュアあるあるなんやけど、客のことを全く考えずに、自分がやりたいことをやって、結果ウケなかったとか。そういうのはある」

戸崎「そしてその後に連絡が一切つかなくなる。あるある」

植田「そこまではないやろ!」

手品自体の失敗はある。しかし、それでもショーの失敗はしない。論破である。それにしてもトーマさんのリカバリ、全然手品の技術とは関係なくて、ほとんど「ここ一番の人間力」という感じ。そういうのが必要とされる仕事、恐いなーと思う。

<もどる▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓