特集 2017年7月26日
 

列車から降りればそこは宿―憧れの「駅の宿」で一晩過ごす

あの2階に泊まる日がやってくるとは…
あの2階に泊まる日がやってくるとは…
牛丼屋で飲む、バス停で飲むなど「あらぬところで」何かするのは、非日常を体験しているようで愉しい。

その延長上に、あらぬところに泊まる、というのがあるだろう。氷上のホテル、断崖絶壁、はたまた野宿…その中で私が特に憧れていたのは「駅に泊まる」ことだ。無人駅に寝袋で、という方向もあるが、私は宿泊施設となっている駅に宿泊してみたかったのだ。それがひょんなタイミングで、ついに叶うことになった。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。

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降りたらご飯と布団、Oh、エクストリームな宿よ

経緯はこうだ。何度か列車旅をご一緒したことのある、漫画家YASCORNさんから久々に旅のお誘いが来た。

別件で北海道までフェリー旅をするのだが、そこから「比羅夫駅」へ行きませんか?というもの。もちろん目当ては、そう、「駅の宿 ひらふ」である。駅員のいない無人駅でありながら、駅が宿泊施設になっている。この駅に、宿泊するというのだ。

ところで私はなぜか駅舎の本を読むのが好きで、杉崎行恭さんの著書を、半身浴のお供に文字通り穴が開くまで読んでいたりするので、この比羅夫駅の様子は写真と文章で目にしていた。以来、この「駅に泊まる」ということを私の様な旅初心者にも味あわせてくれるこの宿が、ずっと憧れであったのだ。
湯気でボコボコになっている2冊の本、両方にこの駅の記事が(左:「駅旅のススメ」 JTBキャンブックス、右:「駅旅入門」 JTBパブリッシング)。
湯気でボコボコになっている2冊の本、両方にこの駅の記事が(左:「駅旅のススメ」 JTBキャンブックス、右:「駅旅入門」 JTBパブリッシング)。
ほら、こんな客室、憧れるに決まってる。
ほら、こんな客室、憧れるに決まってる。
もちろん行く行く!と二つ返事でOK。そしてその日はあっという間にやってきた。5月中旬、北海道へフェリーで入り(この辺は割愛!)函館本線、比羅夫駅へ。スキーで世界的に人気の、ニセコの近くである。
フェリーで苫小牧に降り立ってから何箇所か立ち寄った後、ここ長万部から函館本線で85分。17時少し前、だいぶ日も傾き、周囲に寂しさも漂ってきた。
フェリーで苫小牧に降り立ってから何箇所か立ち寄った後、ここ長万部から函館本線で85分。17時少し前、だいぶ日も傾き、周囲に寂しさも漂ってきた。
淡い風景の中をひたすら走る。
淡い風景の中をひたすら走る。
18時過ぎ、比羅夫駅に到着。つまり本日のお宿に到着。
ログハウスと積まれた薪が、ここがただの駅でなく宿であることを物語る。盛り上がってまいりました。
ログハウスと積まれた薪が、ここがただの駅でなく宿であることを物語る。盛り上がってまいりました。
来た…ついに来た!
来た…ついに来た!
いつかはと思いつつ数年、そして今日北海道入りからもほぼ1日かけてたどり着いたここは、しかし列車を降りてから17歩で着いちゃう駅の宿なのであった。

YASCORNさん誘ってくれてありがとう。
しかも部屋の予約から夕飯の交渉から何から、任せっぱなしなのだった。YASCORNさん重ねてお礼申し上げます。

さてその予約内容が、着いた目の前に展開されていた。ジンギスカンだ!本場の、ジンギスカンだーー!!

列車から降り立った目の前のホームに、私たち用のお食事が用意されているのを想像してみてください。
まさに今、オーナーさんにご用意いただいているところだった。もう火がカンカンに熾っていて、気分上がりっぱなし。
まさに今、オーナーさんにご用意いただいているところだった。もう火がカンカンに熾っていて、気分上がりっぱなし。
ジンギスカンは夏季のみ提供だが、特大焼きおにぎりが2つついて1人前1600円。ビールは別売で300円。これで本場の羊肉が、しかも山の駅のホームで楽しめるのだから、すばらしい。

荷物をいったん部屋に置き、さてまずはこの最高の夕食を楽しもう、そうしよう。ほほほほほ。
戻ると、おや先客が。
戻ると、おや先客が。
5月のGW明け、この時期は実は閑散期で、私たちは希望通り列車の見える線路側の2階の洋室をとることができた(ちなみに繁忙期には男女別の相部屋になったりするそうで)。

一方こちらは、何度かここを訪れているというリピーターの兄弟。それぞれ別の地域に住んでいて、1人は北海道、もう1人は神奈川から登山をしに来ているのだという。こちらは私たちの部屋の奥の和室に宿泊するそうだが、ジンギスカンでは同じテーブルを囲むことになったのだ。旅人宿の醍醐味ですなぁ。
やあどうもどうも。とても穏やかなご兄弟でした。
やあどうもどうも。とても穏やかなご兄弟でした。
肉焼くのに夢中で、記録程度の写真で申し訳ない。
肉焼くのに夢中で、記録程度の写真で申し訳ない。
地元の羊肉、やわらかくておいしかった…。タレも、他にはないオーナーこだわりのタレで。写真撮らなくていい時に、また食べたい。原稿書きながらも、ああ、このときに戻りたい。

静かな山あいでは、近くを流れる川のせせらぎとカエルの鳴き声しか聞こえない。そんな中へ、列車でやって来ていきなりチェックインして、もうジンギスカンをつついている。その上、サッポロクラシックをばんばんいただいて。これ、もうほとんど夢だろう。
この静寂は来てみないとわからなかったな(タイミング的に、兄弟がすごい勢いで食べてるように見えますが、実際はくつろいでます)。
この静寂は来てみないとわからなかったな(タイミング的に、兄弟がすごい勢いで食べてるように見えますが、実際はくつろいでます)。
と、その静けさの奥のほうからズドドドドッとディーゼル機関の響きが近づいてきた。私たちの乗ってきたのとは逆方向、長万部に向かう列車だ。

学校やお勤め帰りの方々がそこそこ乗っていたが、ホームで羊を焼いて食べている私たちは彼らにはどう見えるだろう。

あ、でもいつものことだから気にならないか。小さな優越感は圧倒的な日常の前に崩れ去る。
ビールのおかわりを多少躊躇する瞬間ではあります。
ビールのおかわりを多少躊躇する瞬間ではあります。
しばらくすると、ご兄弟は翌朝が早いとのことで、部屋へと辞していった。あとは女2人で、駅ホームで飲んで食べてデザートまで堪能したのだった。
夕張?!と思ったが季節的にこれは他から取り寄せたもの。最初から最後まで心づくしのご馳走でした。
夕張?!と思ったが季節的にこれは他から取り寄せたもの。最初から最後まで心づくしのご馳走でした。
さて待望の、今宵のお部屋である。先ほども書いたが、閑散期ということで希望通り、線路側の2階の、あの屋根裏っぽい部分を取れたのだ。
わぁ…ここだ。まさに山小屋のよう。
わぁ…ここだ。まさに山小屋のよう。
これこれ。この感じですよ。
これこれ。この感じですよ。
ここも、いいねえ。
ここも、いいねえ。
狭いところが好きなので、私はこの屋根傾斜のあるほうを。
狭いところが好きなので、私はこの屋根傾斜のあるほうを。
今は駅としては無人駅だが、この部屋は元々は倉庫だったそうだ。定員は4名。他、奥の和室は元々は駅員さんの宿直室で、定員3名。
待合室に入ると、宿への入り口が。そう、見覚えのあるようなこのたたずまい。昔ここは事務室だった。
待合室に入ると、宿への入り口が。そう、見覚えのあるようなこのたたずまい。昔ここは事務室だった。
事務室の対面には、除雪用具などを保管。
事務室の対面には、除雪用具などを保管。
地獄表((c)みうらじゅん氏)ほどではないが、鉄道でなかなか来にくい場所ではある。
地獄表((c)みうらじゅん氏)ほどではないが、鉄道でなかなか来にくい場所ではある。
駅に滞在するということが、頭ではわかっているが体がまだ信じてないという、奇妙な感じだ。この感じを味わうのが目的の1つではあるが、ちょっと心を落ち着かせよう。

そうそう、下のロビーでコーヒーをいただけるのだ。それからオーナーに話を聞いてみよう。薪ストーブもあったよね。うふふ。

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