特集 2017年7月28日

「科学と学習」の教材付録の裏話、聞かせて!

「科学と学習」の教材付録について、根掘り葉掘り聞いてきました!
「科学と学習」の教材付録について、根掘り葉掘り聞いてきました!
「科学と学習」をご存知ですか?

学研から1946年から2010年まで発行された子供向け科学雑誌。日本中に科学好きの少年を増やした、科学技術立国JAPANの立役者と言ってもいい。

そんな立役者の中の人たちに、ひょんなことから取材できることになった。今明かされる、衝撃の事実たち!「教材は編集長ひとりで考える」「教材の素材は味が決め手」「教材の試作屋跡継ぎ問題」…と、はい、正直教材付録の話ばっかりです。かつて読者だった科学仲間よ!郷愁の海に潜ろう。
1984年大阪生まれ。2011~2019年までベトナムでダチョウに乗ったりドリアンを装備してました。今は沖永良部島という島にひきこもってます。(動画インタビュー

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まずは知的好奇心むきだしの大人たちをご覧あれ

東京は五反田にある、学研ビル。
東京は五反田にある、学研ビル。
その過去の教材の展示室に、私と、ライターの西村さん、編集の古賀さんがいた。
その過去の教材の展示室に、私と、ライターの西村さん、編集の古賀さんがいた。
「これは電池がなくても聴けるラジオで…」「へーっ」
「これは電池がなくても聴けるラジオで…」「へーっ」
「うわっ、ほしい!地図記号のスタンプだ!」
「うわっ、ほしい!地図記号のスタンプだ!」
「わ~なにこれ!再販してほしい!」
「わ~なにこれ!再販してほしい!」
はい、説明します!ちょっと長くなるけど!

「科学と学習」と「教材付録」をご存知ですか?

1946年創刊の小学生向け雑誌で、学校の学習指導要領と連動した内容が、漫画や写真を交えながら楽しみつつさらに学べる毎月発行の定期購読タイプの雑誌。「科学と学習」というように、「●年の科学」と「●年の学習」の2つの雑誌に別れ、各学年(1~6年)で合計12誌あった。

どちらも2009~2010年に惜しまれながら休刊したが、最高部数は毎月670万部(!)、「まだかなまだかな~学研のおばちゃんまだかな~♪」と聴けば、「あっ、おばちゃんだ!」と合いの手を入れたくなる人も多いだろう(おばちゃん=各家庭に配達する、学研の販売員)。私には郷愁の権化、そのものだ。

そんな「科学と学習」のキラーコンテンツというか、切っても切り離せない存在が「教材付録」。毎月雑誌に付いてくる付録で、光る骨格模型、酸性雨調査キット、カブトエビ飼育セット…子どもの知的好奇心をえぐる切り口と、プラスチックや試薬などのもはや付録の枠に収まらない贅沢さ!母親とおばちゃんの世間話を傍目に、付録を居間に持って行ってすぐ開ける。幼い頃は漫画をあまり買ってもらえない家庭で育ったので、有り余るコンテンツ消費欲は「科学と学習」にたっぷりと注がれた。そんな憧れの学研に、ひょんなことから取材できることになったのだ。
ひょんなことの詳細は、「27年前に見たウルトラマン製造工場は幻だったのか」という記事にて。最後の宣言通り、こうしてやって来たという訳です。
ひょんなことの詳細は、「27年前に見たウルトラマン製造工場は幻だったのか」という記事にて。最後の宣言通り、こうしてやって来たという訳です。

教材付録、改め「科学キット」は今もすごかった!

お話を聞くお相手は、STEAM事業室(科学、技術、工学、芸術、数学のこと)の橋爪さん(左)と、科学教材開発チームの西脇さん(右)。
お話を聞くお相手は、STEAM事業室(科学、技術、工学、芸術、数学のこと)の橋爪さん(左)と、科学教材開発チームの西脇さん(右)。
デイリーからは私を含む、冒頭の三人(古賀さん撮影)。 ちなみに西村さんは「学習」の読者だったそうです。
デイリーからは私を含む、冒頭の三人(古賀さん撮影)。 ちなみに西村さんは「学習」の読者だったそうです。
私「2010年の休刊の後、今売られている教材って『大人の科学』だけという認識で合ってますか?」

橋爪さん「いや、子ども向けの教材は『科学キット』として書店で売られていますよ。今日は過去の人気教材からリニューアルしたものを中心に持ってきました」

私「え!そうなんだ。完全に勘違いしていました」
大人の科学。エレキギターや真空管ラジオなどチョイスが渋い。
大人の科学。エレキギターや真空管ラジオなどチョイスが渋い。
科学キットの一例。人気教材のリニューアルという『お天気予報パーフェクトセット』。風向・風速・気圧・温度・湿度・雨量が調べられ、明日の天気予報まで出来るスグレモノ。
科学キットの一例。人気教材のリニューアルという『お天気予報パーフェクトセット』。風向・風速・気圧・温度・湿度・雨量が調べられ、明日の天気予報まで出来るスグレモノ。
西村さん「これほしいな…」

西脇さん「もともと、5年の科学の人気教材で毎年付いていたものですね。お子さんがベランダで使うものなので、マンションを見ればこれがあるかどうかで、どの家庭が購読しているか一目で分かるという指標になっていました」

私「まさに学研帝国や…」
紫外線を測るキット。子どもばかりでなく、日焼けを気にするお母さんといった大人も含めた需要もあるとか。
紫外線を測るキット。子どもばかりでなく、日焼けを気にするお母さんといった大人も含めた需要もあるとか。
私「あ、これ、覚えてる!ただ、デザインはもっと子ども向けで、豚のキャラクターのシートの上から日光を当てると、その部分だけくっきりと残るものだったような」

西脇さん「あ、ありました。ペンケースにもなるやつですね」
おばけえび飼育観察キット。
おばけえび飼育観察キット。
おばけえびはもとはアルテミア・サリーナというプランクトンだが、科学と学習が名付けたことにより、小学生の間ではおばけえびの名前で知られるようになった。科学と学習の教材の素晴らしいところは、この好奇心を掻き立てるネーミングセンスだ。
「おー、見える見える!」
「おー、見える見える!」
これ。
これ。
うーん!いずれの教材も懐かしい…。ただ、その材質やパッケージなど、全体的に品質が向上しているので、どことなく昔観ていたアニメのリメイクを見ているような気分になる。
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教材の開発…実は、「味」が決め手!?

昔からの人気教材のリニューアルもある一方で、教材には科学技術の進歩や新たなアイデアによって生まれたものもある。ここで、今年のニューフェイスである「カラフル水だんご」を実演してもらった。
科学教材開発チーム、開発担当の富澤さん。
科学教材開発チーム、開発担当の富澤さん。
私「おっ、よくそんな実演セットがすぐに出てきましたね…」

橋爪さん「今は夏休みで書店での実演が多いんですよ」

全員「なるほど」
透明の水溶液の中に色付きの水を落としてしばらく待つと…。
透明の水溶液の中に色付きの水を落としてしばらく待つと…。
私「知育菓子みたいですよね、ねるねるねるねみたいな…」

富澤さん「あ、はい、そうなんです。開発するときに参考としていろんなお菓子を箱買いして試しました」

私「色もかき氷っぽい…」

富澤さん「食紅で色付けしています。教材の安全基準には子どもが食べても大丈夫という縛りがあって」

古賀さん「それって…つくる側としては地獄ですよね」

富澤さん「教材を審査する人は、『実は毎回教材を食べているんじゃないか』という都市伝説があったんです」

西村さん「プラスチックバリバリ食べてるとか」

富澤さん「基準が『俺が食べられるか?』という」

私「どんな審査」

富澤さん「あ、そろそろ頃合いです」
コロンッと、水が持てるようになる!
コロンッと、水が持てるようになる!
全員「おー!すごーい!!かわいい!!」
全員「おー!すごーい!!かわいい!!」
持たせて!持たせて持たせて!!
持たせて!持たせて持たせて!!
おっほ…!!
おっほ…!!
おぉ…
おぉ…
古賀さん「思ったよりモノっぽい…」

西村さん「ふつうに楽しんじゃいますね」

富澤さん「最近は見かけなくなりましたが、人工いくらも同じ作り方なんですよ」

全員「へーー!」
我々が書店の仕入れ担当者だったらかなりちょろい。
我々が書店の仕入れ担当者だったらかなりちょろい。
富澤さん「この膜用の水は乳酸カルシウムなんですが、実はもうひとつの候補があって、味を見て決めました」

私「基本的には、どちらがまずくないかってことですか」

西村さん「教材の決め手は味だったってことですね」

説明があとになったけど、この「カラフル水だんご」は2年ほど前に「掴める水」というフレーズでも話題になった、アルギン酸ナトリウムを使ったゲル化現象を活かした教材。容器のゴミが出ずマラソンの給水にいいと聞いたことがある人もいるかもしれない。製造方法が一般人には手の届かぬハイテクノロジーだと勝手に思い込んでいたので、書店で気軽に買って家で試せるレベルだったという事実に驚いた。
大ヒット(勝手に)御礼中!
大ヒット(勝手に)御礼中!
橋爪さん「食べられるといえばスライムもそうですね」

私「あれ、スライムって以前からありませんでした?」

橋爪さん「オモチャとしてはあったんですが、我々の安全基準を満たすかというところで時間が掛かりました」

私「つまり、食べても大丈夫?」

橋爪さん「まぁ、品質的に大丈夫ですけど…食べちゃダメです」
おいしそうでも食べないでくださいね。
おいしそうでも食べないでくださいね。
橋爪さん「スライムアーティストの方がいらっしゃいまして。その方の新しいレシピで、安全で、よく伸びて手にベタつかないスライムが出来たんです」

西村さん「それってまさに科学ですね」
学研が認める安全品質!
学研が認める安全品質!
昔は出来なかったことが今なら出来る。ここ最近、バック・トゥ・ザ・フューチャーの空飛ぶボードが実現したというニュースをいくつか見た記憶があるが、本質はこのスライムも同じだ。あと、スライムアーティストの方がすごく気になる。検索してもあいにくRIP SLYMEしか出てこない。

私「スライムを食べるといえば、小3くらいの頃にスライムの自作にハマって、舐めたり噛んだりしてました」

西村さん「あれってホウ酸使ってるよ、ゴキブリ殺す」

私「えーっ…!?」

子どもの好奇心と危険は裏表、学研さんは正しい。
右端の教材は、中国語が印刷されている。 向こうも「自由研究」っていうんだ。というか、あるんだ。
右端の教材は、中国語が印刷されている。 向こうも「自由研究」っていうんだ。というか、あるんだ。
科学キットとして売られている教材は、実は中国・台湾・韓国でも展開している。ベトナムにも来てくんないかな(筆者はベトナム在住です)。若い親は新しい物好きだし、甘やかす割に教育に関心が高い傾向があるから当たりそう。

教材は、夏休みの自由研究用に工夫の余地を残す!

こちらは新作の泥だんご。マニュアル通りにつくると、最終的にピカピカに輝く。
こちらは新作の泥だんご。マニュアル通りにつくると、最終的にピカピカに輝く。
西村さん「それにしても、泥だんごが教材のキットになるって改めて考えるとすごいですよね」

古賀さん「泥だんご自体は知ってたけど、キットとしてあればつくろうという気になりますね。ああいうの自作したらだいたいガッカリする出来になるから」

西脇さん「そうですね。土も各地から取り寄せて、配合して、泥だんごに適したものを使っています。それに、削ったり磨いたりする道具も付けてあります」

古賀さん「めちゃめちゃハードル下がった!」
なんでも岐阜県の土がいいらしいです。
なんでも岐阜県の土がいいらしいです。
私「こういう教材が一番売れる時期はいつですか?」

橋爪さん「やはり夏休みに自由研究目的で売れます」

私「でもそれクラスで何人か被っちゃいそうですね。自由研究として泥だんごがゴロゴロ出てきたみたいな」

古賀さん「それはそれでいいんじゃないですか?」

私「あ、あくまで個人の学びが大事ってことで…」

橋爪さん「何を学ぶのか、工夫の余地は残すようにしています。泥だんごなら大きさや色を変えられるとか」

私「岐阜以外の土を使ってやってやったとか、ちょっとパンクな小学生とかがいてもよさそうですよね」

西脇さん「まさにそういう使い方がいいですね」

私「大してパンクじゃなかった」


そうか、自由研究自体は工作じゃないんだから、完成品を持っていく訳じゃないのか。そう考えると、アレンジの幅はいくらでもあるのかもしれない。
これは風で発泡スチロールの玉などを包んで捕まえるという、空中実験マジックキット。ただし音はデカめ。
これは風で発泡スチロールの玉などを包んで捕まえるという、空中実験マジックキット。ただし音はデカめ。
装置が見えないように撮ると、物理法則がバグった感ある。
装置が見えないように撮ると、物理法則がバグった感ある。

教材は編集長がひとりで考えていた

西村さん「教材って、企画から販売までにどれくらい時間が掛かるものなんですか?」

西脇さん「完全な新作となると一年くらいですね」

全員「一年も!?」

私「その工程はどういうもので…」

西脇さん「まず、教材の企画は編集長ひとりが行います」

全員「えっ!?」

西脇さん「教材が売上を左右すると言ってもいいので、編集長は雑誌の記事はつくらずに、教材に力を注ぎます。そして、その編集長には15年以上の下積みがなければなれません。私も入社してすぐにつくりたかったのですが、なかなか関わらせてもらえませんでした」


そ、想像以上に花形!そして茨の道…!が、何しろ半世紀近い歴史を持つ科学と学習の要である教材を企画するとなると、それも当たり前のことなのかもしれない。西脇さんの「編集長が命を懸けて(教材をつくる)」という語り口に、なんとなく、刀匠が真っ赤に燃えた玉鋼を金槌で無心にカンカンと叩き続ける様が思い浮かんだ。


西村さん「それって全学年をひとりの編集長が?」

西脇さん「あ、いえ、科学と学習の2誌が計6学年あったので、発行当時の編集長は全員で12人いました」
古賀さん「おぉ、なんかかっこいい!」

私「選ばれし者感ありますね!」
こちらは新作の「だんごむしめいろハウス」。だんごむしは曲り角を左右交互に進むという習性を活かした迷路。
こちらは新作の「だんごむしめいろハウス」。だんごむしは曲り角を左右交互に進むという習性を活かした迷路。
クランク機構を活かした作品のミニチュア版。風力でプロペラが回り、生きた多足類のように動く。
クランク機構を活かした作品のミニチュア版。風力でプロペラが回り、生きた多足類のように動く。
西脇さん「テオ・ヤンセンの、ストランドビーストという作品のミニチュア版ですね、あれをみなさんもつくれますという」

西村さん「電気使ってないのがすごいですよね」

西脇さん「ここは風がないので動かないですね」

西村さん「さっきの空中実験マジックキットでどうですか?」
「ブィーーン!!」「…さすがに回んないですね」
「ブィーーン!!」「…さすがに回んないですね」
子どもに人気ということで、YouTuberに引っ掛けた書籍もある。
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実は深刻な試作屋さん跡継ぎ問題

教材は編集長が考えているという話だったが、それでも設計して開発してという工程はあるはずだ。その専門の部署などがあったのだろうか?聞いてみた。


西脇さん「社内に開発室というものがあって、そこが編集部からの依頼を請け負うのですが、より専門的な知識が必要なときは外部の試作屋さんにお願いしていました」

私「試作屋!」

西脇さん「その方が、家にあるプラスチック材を切り出して組み立てて、原型を持ってきてくれます。とくに一箱の決められたスペースに収めるという制約もあるので、大人の科学などはその人がいるから出来るというのもあります」

私「教材の陰には職人さんがいらっしゃるんですね…」

西脇さん「そう、まさに職人ですね。昔は玩具が多かったのでフリーの試作屋さんがたくさんいたのですが、段々といなくなってまして…今は日本に数人といわれています」


稼げないなどの切実な事情もあり、今は後継者もいないらしい。ならば海外でとなると、大きいものなら可能だろうが、このサイズで、かつ素人がはめ込み式で組み立てる前提でとなると途端にハードルが高くなるとのこと。
この一箱に収めることが難しいのだ。
この一箱に収めることが難しいのだ。
私「そっか、完成していない形が完成品というか」

西脇さん「はい。接着剤でくっ付ければ済む話でないので、1/100mm単位で精密な金型が必要になります」

私「そんな凄腕の後継者がいない。それって、完全に今が過渡期じゃないですか…」

西脇さん「そうなんですよ…。先日台湾へ出張に行ってきまして、人口の規模もあるんでしょうけど、(教材に関して、企画も含めて、)自国で新しいものをつくるという発想はなく、外から持ってきてそれを売るという考えだったんです。だからこそ我々は作り続けていきたいなと思いました」


今私が考えてもどうにもならないことはもちろんなんだけど、それでも心配せずにはいられない。自分の愛した科学と学習の教材が、そんな時期にあったとは…。このあと話題が変わっても、しばらくこのことばかり考えていた。


橋爪さん「それでは、過去の教材の展示室へ行きましょうか」

全員「行きたい行きたい」

展示室は全世代のタイムカプセル

「うおー!」
「うおー!」
「すごい!すごい!!」
「すごい!すごい!!」
ここが冒頭で登場した展示室、年代別に教材が並べられてある。
私も前回ここを見たときの感動が、今回の取材につながったのだ。


西脇さん「さっき話に出た紫外線のものはこれですね」

私「わっ、わー!!」
やばいやばい!これだこれだこれだー!!
やばいやばい!これだこれだこれだー!!
正直ちょっと泣きそうです。
正直ちょっと泣きそうです。
これも!間違いなく遊んだ。
これも!間違いなく遊んだ。
慎重に重ねていくと、
慎重に重ねていくと、
サーカス(雑技団)のようになります。
サーカス(雑技団)のようになります。
さっきから教材を目の当たりにするたびに、今まで存在すら忘れていた記憶の引き出しがバッタンバッタンと開きだして、感情の収めどころが定まらない。教材付録は、1962年から2010年まで48年間、ほぼ半世紀に渡って生み出されていた。つまり今、高校生くらいから70歳くらいまでの人なら誰もがお世話になっている可能性がある訳だ。こんなストライクゾーンが広いタイムカプセル、いやタイムルームか?地球上においてもなかなかないぞ。


古賀さん「あっ、西村さんがさっき言ってたやつ!」

西村さん「あー、これだー!」
学習の話は入れられなかったんだけど、西村さんが覚えていた「石膏で小判をつくる教材」も発見!
学習の話は入れられなかったんだけど、西村さんが覚えていた「石膏で小判をつくる教材」も発見!
西村さん「学習の教材は、いつも渋いんですよ。地図が印刷されたボードの上に家の形に小さく切ったスポンジを載せて、箱庭の街をつくるやつとか。あれって完全にシムシティですよね。社会科が好きだったので良かったんですけど、科学に比べて地味だよなーとは思ってました」

私「あ、今さら気づいた。科学が理科で、学習が社会ってことですか?」

橋爪さん「学習は国語と社会、算数です。なので、文字の書き方や九九を覚えるための一覧表などもありました」

私「あー、友達の家のトイレの壁に張っていそうなやつだ!あれって学習の付録だったんだろうな。調べるほどではなかったけど、25年越しでやっと出どころを掴んだ」


この展示室をつくるときには、不足分の教材を集めるため、いくつかはネットオークションで買い戻したとのこと。それでも、さすがに過去分合わせると膨大な数になってしまうためすべて揃っているという訳ではないらしい。ここ、限定的でも一般開放したら、親子客が押し寄せるだろうなぁ…。
過去の教材、100個くらいあるので動画で紹介します。

教材を通して分かる、当時の世相や流行

教材は、毎年つくられる人気教材がある一方で、その当時の世相や流行りを反映しているものも多く見られる。
こちらはなんと、1922年に発見されたツタンカーメンの墓にあったエンドウマメの(子孫の)栽培キット。そういえば、ツタンカーメンの呪いがどうのこうのってテレビで流行ってたな。
こちらはなんと、1922年に発見されたツタンカーメンの墓にあったエンドウマメの(子孫の)栽培キット。そういえば、ツタンカーメンの呪いがどうのこうのってテレビで流行ってたな。
覚えてる!酸性雨の研究キット。当時は大気汚染が社会問題化していて、酸性雨がよく話題に上っていた。
覚えてる!酸性雨の研究キット。当時は大気汚染が社会問題化していて、酸性雨がよく話題に上っていた。
ピコピコボーイという名の通電チェッカー。これは完全にゲームボーイを意識。
ピコピコボーイという名の通電チェッカー。これは完全にゲームボーイを意識。
ミスターマリックとのコラボレーションまで。
ミスターマリックとのコラボレーションまで。
超人気ロングラン教材だった鉱石セット。
超人気ロングラン教材だった鉱石セット。
こちらの鉱石セット、最盛期には、材料を調達するためにひと山崩すなんてこともあったらしい。なんというスケール…!どこかの村の所有地だったら、上がった利益で公民館建て直せそう。

その一方で、捻りすぎて迷走!?と思ってしまいそうなものも。
カメラ…と思いきやなんとこれ、アリの巣キット。レンズからアリの暮らしを覗ける。なぜカメラ型。
カメラ…と思いきやなんとこれ、アリの巣キット。レンズからアリの暮らしを覗ける。なぜカメラ型。
卒業の思い出に、指の石膏。なぜ思い出に指。
卒業の思い出に、指の石膏。なぜ思い出に指。
手作りとうふセット。「これぞ本格派」のコピーがイカス。
手作りとうふセット。「これぞ本格派」のコピーがイカス。
昔は自由度高く、ハサミや注射針なんてものもあった。今じゃ絶対できない。
昔は自由度高く、ハサミや注射針なんてものもあった。今じゃ絶対できない。
初期は全体的にデザインが渋い。そもそも教材付録の誕生には、生活デザインの父として知られる秋岡芳夫氏が携わっていたとのこと。鳴り物入りのプロジェクトだったのだろう。
初期は全体的にデザインが渋い。そもそも教材付録の誕生には、生活デザインの父として知られる秋岡芳夫氏が携わっていたとのこと。鳴り物入りのプロジェクトだったのだろう。

「科学と学習」は科学技術立国・日本のバタフライエフェクトだった

懐かしい匂いに誘われて来ただけのつもりが、最後にはそんな感想を思った。科学と学習(とくに科学)はそもそも、科学好きの子どもたちを増やし、科学技術立国を目指す日本を支えるという創業者の思いからはじまったものらしい。まさに狙い通り、私は理系を選んだし、その後エンジニアになった。結局今はライターという文系寄りの仕事をしているが、それもWEB(IT)に抵抗がなかったからで、科学を読んでいたからこそだと確信を持っている。社会科ライターと呼ぶにふさわしい西村さんは、学習を読んでさらに社会科が好きになったと話していた。

かつて読者だった人たちは、自分の歴史をさかのぼっていくと、科学と学習の存在が影響していたという人は意外と多いのではないだろうか。児童教育の醍醐味に、身を以て触れた気がする。GTKだ、「グレート・ティーチャー・科学と学習」だ。余談だが、最初これもタイトル候補にしていたけど、それはしなくて正解だったと思いました。
中の人のおふたりと、教材を持って記念撮影!
中の人のおふたりと、教材を持って記念撮影!
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