特集 2017年8月1日

一点突破弁当の限界を探る

おかずはフカヒレのみ。一点突破弁当の迫力。
おかずはフカヒレのみ。一点突破弁当の迫力。
今年の四月から東京駅近くの会社で働くようになり、昼間はずっとサラリーマン生活を送っている。
で、東京駅の中が飲食店多くて便利なので、ランチタイムは駅ナカから周辺をぐるぐると回っているのだが、そこで、ちょっとこれスゴくないか、というお弁当を見つけてしまった。
おかずがフカヒレのみ、という、一点突破の超豪華弁当である。
豪華だけど、日の丸弁当的なシンプルさ。これは食べてみたい。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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フカヒレ麺専門店のフカヒレ弁当

見つけたのは、東京駅の八重洲南と丸の内南を横断する自由通路ぞい。
フカヒレ料理で有名な高級中華『筑紫樓』がやっているフカヒレ麺専門店『頂上麺』だ。
店の入り口に巨大なフカヒレが飾られている。干して背びれがあのサイズって、どんな巨大鮫だ。
店の入り口に巨大なフカヒレが飾られている。干して背びれがあのサイズって、どんな巨大鮫だ。
このお店の前は何度も通っていて、「わーフカヒレの乗ったラーメンだって。すごいなー」という印象しか(ラーメンとは言えかなりのお値段がするので、とても入れない)無かった。
ところが、たまたまお店のある通路カドを曲がったら、正面から見えにくいところでお弁当のテイクアウトもやっていることに気づいたのである。
しかも、なんかもうスゴいやつ。
わりと盲点な位置にあるテイクアウトコーナー。
わりと盲点な位置にあるテイクアウトコーナー。
それが『ふかひれの姿煮込み弁当』だ。
名前の通り、メインのおかずがフカヒレの姿煮込みのみ。青梗菜とザーサイが彩り程度で、あとは白飯。そして価格が3,200円+税。
フカヒレと白飯。プリミティブな弁当。
フカヒレと白飯。プリミティブな弁当。
とにかく高級なのは、わかる。だってフカヒレの姿煮がどーんと1つ入ってるし。
しかし今までテレビや雑誌などで見たことのある高級弁当って、高そうなおかずがちまちまと何種類も入っているヤツばかり。
つまり、おかずいっぱい=高級、という構図が基本だと思っていた。

対して、こちらはフカヒレ姿煮のみ。
おかずが少ないけど高級、というのは知らない図式だ。
そもそも、貧乏弁当の代表である日の丸弁当(おかずが梅干しのみ)と方向性が一緒じゃないか。
パニックである。
ガチな表情の険しさが、当時のパニック状況を物語る。
ガチな表情の険しさが、当時のパニック状況を物語る。
さらにまずいことに、たまたま給料日が来たばかりで、財布におろしたての現金がいくらか入っていた。
パニックになった人間に金を持たせて、ろくな結果が出るワケがない。
買ったわー、『ふかひれの姿煮込み弁当』。

フカヒレ姿煮弁当、その驚異の性能

鼻息荒く買ってきた筑紫樓の『フカヒレの姿煮弁当』、その全貌がこちら。
たぷんたぷんのとろみスープに沈んでいるが、「あ、いるな」という3200円フカヒレの確かな存在感。
たぷんたぷんのとろみスープに沈んでいるが、「あ、いるな」という3200円フカヒレの確かな存在感。
お店のサンプルに偽りなく、弁当箱の容積ほぼ半分がフカヒレの姿煮でドーン。
あとは白飯と、「他にもちょっとはおかずあります」というエクスキューズ的な要素としてわずかな青梗菜とザーサイ。
ザーサイよりも前に表示されるカキ油と片栗粉。旨味ととろみの激しさを物語る。
ザーサイよりも前に表示されるカキ油と片栗粉。旨味ととろみの激しさを物語る。
原材料名の表示順も、まぁそう来るだろうな、という順番で並んでいる。見た目からして疑いようが無い。
視覚的に”くる”リフト画像。
視覚的に”くる”リフト画像。
付属のプラ製れんげですくい上げてみると、ずっしりと重い。自分の人生でここまでフカヒレの重みを手に感じたことがあっただろうか。
そしてその初体験を、弁当で済ませてしまっていいんだろうか。

ちなみに風景が明らかに外なのは、入社したばかりの会社の中で3000円を超える弁当を食べる勇気が無かったから。ぽつんと会社の屋上でぼっちメシでフカヒレを食う。なんだこのシチュエーション。
さっきから意味の分からない要素ばかりが積み上がっていくな。
猛烈なとろみですべって、なかなか箸でつまめないフカヒレ。
猛烈なとろみですべって、なかなか箸でつまめないフカヒレ。
早速、姿煮のフカヒレをむしって一口。
あー、旨味だ。まとわりついてくるとろみスープの旨味がとんでもないことになっている。旨味の塊でぶん殴られているような、バカでもわかる旨味。
フカヒレの繊維のサクサクじゃきじゃきした歯ごたえと一緒にオイスターソースのカキ味がドカンときて、サクサクじゃきじゃき食ってるうちに、じわっとショウガの風味に流されて消えていく旨味。
たまにフカヒレの端っこのトロッとした食感もあって、これもまたいい。
脳が旨味の量を受け止めきれず、勝手に遠い目になる。
脳が旨味の量を受け止めきれず、勝手に遠い目になる。
フカヒレ単品でどこまで白飯を食うおかずになり得るのか、と若干の心配はあったが、何の問題も無かった。うわー旨味ー!めしー!旨味ー!の繰り返しだけでどこまでも白飯が進む。

途中でフカヒレが先に無くなってしまったが、これも大丈夫。
残ったとろみスープかけごはん。旨味の量的にはこれだけで800円ぐらい払える。
残ったとろみスープかけごはん。旨味の量的にはこれだけで800円ぐらい払える。
ひどい顔になってるのは承知だが、この画像が最もその時の感情を表現できてた。
ひどい顔になってるのは承知だが、この画像が最もその時の感情を表現できてた。
行儀が悪いのは承知だが、これをせずにいられようか。
旨味ー!
食後の放心。正直な感想は「やっちゃった…」だ。自分でも何をやったのかはよく分からないけど、やっちゃった感すごい。
食後の放心。正直な感想は「やっちゃった…」だ。自分でも何をやったのかはよく分からないけど、やっちゃった感すごい。
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一点突破弁当の可能性をさぐる

『ふかひれの姿煮込み弁当』は、異常に旨かった。
旨かった上に、おかずがフカヒレのみという一点突破でも全然問題なく白飯が片付く、ということも分かった。おかず一点でも大丈夫なのだ。

あんなインパクトのある弁当を食った後ではどうしても蛇足っぽさがあるが、他に一点突破な弁当が作れないかの実験もしてみたい。

まず試作一号のおかずは、これだ。
生ハムだけで白飯いけるか。
生ハムだけで白飯いけるか。
生ハムの代名詞でもある「プロシュット」と「ハモンセラーノ」の食べ比べができるというセットを、会社近くの高級食材スーパーで見つけた。旨そうだ。
生ハムの旨味だけで白飯、いけるんじゃないか。
生ハムオン白飯。
生ハムオン白飯。
白飯の上に生ハムを乗せた、いわばのり弁の生ハム版…生弁である。
こうやって写真にすると単なる生肉が白飯の上に乗っている感が強いが、れっきとしたハモンセラーノ乗せごはんである。
生肉オンリー感を払拭すべく、緑色の食材も取り入れた。
生肉オンリー感を払拭すべく、緑色の食材も取り入れた。
あと、『ふかひれ姿煮込み弁当』もフカヒレのみと言いつつ青梗菜とザーサイが入っていたのに習って、こちらにも彩りとして生ハムメロンを追加してみた。
ところで、これは弁当中のデザートなのか、それともアナザーおかずなのか。生ハムメロンは常にアイデンティティのゆらぎを持っている。

さて、鮮度的に不安もあるので遠出は避け、作りたての生弁を自宅近所の公園に持ち込んで食べてみた。
うまいっすなー、生弁。
うまいっすなー、生弁。
違和感ゼロで、旨い。生ハムの塩気と旨味だけで、何の支障も無くいくらでもご飯が進む。
わー、うまーい。
ただ、生ハムは薄い。ボリューム的にフカヒレおよびとろみスープに少し及ばないかな?という懸念もあった。
大丈夫。そこはちゃんと策を施してある。
生ハムイン白飯。
生ハムイン白飯。
のり弁の醍醐味と言えば、白飯の中にものりを敷いた、二段重ねの部分じゃないか。ならば生弁もかくあるべきだろう。
ということで、ちゃんと事前に生ハムも二段重ねにしておいたのだ。
わー、どこまでもうまーい。

質素に一点突破を試みる

生ハム弁当は問題なし。実はここまでは、最初から想定範囲内だった。
フカヒレと同様に生ハムという高級食材を使ったのだから、ちゃんと旨いのは分かっている。

では、次に挑戦すべきは、そんなに高級食材じゃなくて、でも旨味溢れるおかずの一点突破である。
中華・洋食ときたので、最後は和食にチャレンジ。個人的に大好物の、だし巻きで挑戦だ。
これはいけるのか。かなりのチャレンジレベル。
これはいけるのか。かなりのチャレンジレベル。
和食の一点突破で高級なやつと言えば季節柄うな重が思い浮かぶが、今さらうなぎでは実験にもならない。
おかずとして白飯がいけるかどうかギリのフチを攻めるという意味合いでも、だし巻きはいい線だろう。
…と思って作ってみたのだが、できあがりが想像以上にシンプルで震えた。

ところで、弁当箱に収めた時点でなんか既視感があるなー、と思ったんだけど、たぶんこれだろう。
ヴァチカン市国の国旗。黄色と白の美しきツートン。
ヴァチカン市国の国旗。黄色と白の美しきツートン。
白飯に梅干しを乗せたものを日本の国旗になぞらえて『日の丸弁当』と呼ぶのだから、白飯とだし巻き卵の弁当は今後『ヴァチカン弁当』と呼ぶべきだろう。もしくは、ヴァチ弁。
白飯の上の紋章が再現できていないのが惜しいが、そこは今後の課題としよう。
しっとり焼けただし巻き。いい感じだぜ。
しっとり焼けただし巻き。いい感じだぜ。
大学時代、うどん屋で数年バイトしていた時にこってり仕込まれたので、だし巻きには自信がある。卵とだしの比率が半々というフワッフワなやつ(難しい)も焼けるのだが、今回は弁当と言うことで、汁気を出さないように少し硬めに仕上げてみた。
その代わり味は濃いめにしてあるので、白飯のおかずには充分に耐えるはずだ。
よし、旨い!
よし、旨い!
旨いけど、オンリーはきついな…
旨いけど、オンリーはきついな…
ヴァチ弁、正直、最初のひと口ふた口は「いける!」と思ったのだが、食べ進めるうちに「もうちょっと他のものも食べたいな」と箸が止まってしまった。
充分に旨味もあったし、塩気も白飯を進ますのに足りるレベルで作ってみたのだが、何かが足りない。
やはり、一点突破弁当には「高級な旨いものを食べてる!」という高揚感が必要なのかも知れない。

「高級品の高揚感が必要」というのは我ながら身も蓋もない結論だが、それが実感である。

ふかひれ姿煮込み弁当なんかは割り箸から値段なりの高級感があって、食べる前からテンションが上がるのだ。

そういうテンションに身を任せて、物足りなさに気づく前に一気にガーッと食べてしまえ、というのが一点突破弁当のコツなのかもしれない。
あまり見ない形状の高級割り箸。先端だけ利休箸のように丸くなっている。たぶんだけど高級だ。
あまり見ない形状の高級割り箸。先端だけ利休箸のように丸くなっている。たぶんだけど高級だ。
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