特集 2017年8月7日

神社でプロレス? それって罰当たりじゃないんですか?

ここでプロレスが??
ここでプロレスが??
約1300年前に創建されたと伝わる神田明神(神田神社)。その境内には地下空間があり、そこで昨年プロレスが行われたという。ん?プロレス?

後楽園ホールが「プロレスの聖地」などと表現されることはあるが、神社という“本気(マジ)の聖地”でプロレスである。もしかしたら、それはとてもけしからんことではないのか?

神田明神を訪ね、聞いてみた。「それって罰当たりじゃないんですか?」
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

罰当たりって何かね?

もしかしてこれは炎上案件というやつではないのか。聞けば、プロレスだけでなく、アイドルのイベントも行われているらしい。プロレスもアイドルも素晴らしいエンターテインメントだが、神社という神聖な場所でやるのはいかがなものか!!
神田明神。東京屈指の古社として知られる
神田明神。東京屈指の古社として知られる
利き腕をぶんぶん回して向かったのは、そのプロレスが行われたという例の地下ホール。権禰宜の岸川さんが出迎えてくださった。
権禰宜の岸川さん。写真は苦手
権禰宜の岸川さん。写真は苦手
―― さっそくですが岸川さん、罰当たりですよ! 神社でプロレスだなんて!!

岸川さん「どうして罰当たりなんですか?」

―― えっ…

岸川さん「そもそも『罰当たりなこと』ってなんですか?」

―― …………(なんだろう? 鳥居におしっこするとか? ※それは普通に犯罪)

岸川さん「結局のところ、それを罰当たりという方には『神社や神職とはこうあるべき』という偏見があるのではないかと思います。神社というと、どうしても『神聖な場所』というイメージに縛られがちなのですが、ではお祭りの屋台はどうなのか? 境内に焼きそばやたこ焼きの屋台があっても『不敬だ!』と怒る人はあまりいませんよね。境内でカラオケ大会が開催されることもありますが、町内会のカラオケはよくてアイドルのライブはNGというのは、私には正直よくわかりません」

―― ……はい
こちらがそのプロレスが行われたという祭務所地下ホール。普段は江戸文化にまつわる講座などが開かれたり、神社同士の組合の会合で利用されたりしている
こちらがそのプロレスが行われたという祭務所地下ホール。普段は江戸文化にまつわる講座などが開かれたり、神社同士の組合の会合で利用されたりしている

岸川さん「それから、こういう話になると『神社の格式』や『伝統』といった言葉を持ち出す方がおられますが、それをおっしゃる方ほど、むしろ神社の歴史や素地を知らないのかなと思うことがあります。『奉納相撲』などは古来のものですし、じつは『奉納プロレス』も明治時代にはすでに神社の境内で行われていました。靖国神社では昭和30年代に力道山の一行によるプロレスが行われ、現在もゼロワンという団体が奉納プロレスをやっています」

―― …………(プロレス詳しいな)
昨年12月に行われた女子プロレス団体「アイスリボン」による奉納プロレス。神社で安全祈願・興行のヒット祈願をしたのち、数試合が開催された
昨年12月に行われた女子プロレス団体「アイスリボン」による奉納プロレス。神社で安全祈願・興行のヒット祈願をしたのち、数試合が開催された
岸川さん「また、アイドルのライブについてですが、そもそも神社は境内に芝居小屋があったりと、芸事との関係性が深い場所です。歌舞伎役者はまさに、江戸時代はアイドルのような存在ですから。それが現代のアイドルに置き換わっているだけ。歌舞伎は江戸時代当時は“新しい文化”として見られており、それが数百年の歴史を経て“伝統芸能”になったのです。確かに神社は古くからの文化を伝える場所ではありますが、当時の歌舞伎のように、新しく生まれた文化を受け入れていくことも大切なのではないかと思います」

―― ……すみません

岸川さん「ちなみに、アイドルのライブもプロレスも『興行』を行うために場所をお貸ししたわけではありません。あくまでヒット祈願の参拝にこられて、その余興としての奉納イベント。ですから、神社としては拒む理由はないんです」
明治時代には歌舞伎の人気役者と神田祭の“コラボ浮世絵”も作られるなど、神田神社はそもそも芸能文化との関わりが深いという
明治時代には歌舞伎の人気役者と神田祭の“コラボ浮世絵”も作られるなど、神田神社はそもそも芸能文化との関わりが深いという
とまあ、いきなり論破されてしまったが、そんな筆者も本当のところをいうと神社でプロレスには大賛成なのである。冒頭は「クレーマーVS神田明神」という、それこそプロレス的な図式を作るために不謹慎廚を装っていたが、じつは岸川さんのおっしゃることには同意しかない。(※ちなみに、お気づきかもしれないが岸川さんはプロレス好きということもあり、プロレスの話をする際はやや熱くなる。昨年末に奉納プロレスを行ったのは「アイスリボン」という女子プロレスの団体だが、それは念願の後楽園ホール興行に向けた成功祈願だったことをしみじみと語ってくれた)

コラボのルーツは銭形平次

というわけで、ここからは普通にインタビューします。

―― 神田明神って、プロレスやアイドル以外にも、たとえば頻繁にアニメとコラボ(※有名なのは『ラブライブ!』)したりと、かなり前衛的な印象です。それって昔からそうなんですか?

「昔からですね。たとえば、『銭形平次』は神田明神下の長屋に住居を構える岡っ引きという設定でした。そのご縁もあって、境内には銭形平次の記念碑があります。他にも境内で『笑点』の収録が行われたこともありますし、映画やドラマのロケ地としてもよく使われています。『帝都物語』『ロングバケーション』『新参者』などですね。そういうものを受け入れるのは、もううちでは当たり前になっています」
社殿横にある銭形平次の石碑
社殿横にある銭形平次の石碑
石碑を囲む「寛永通宝」の文字
石碑を囲む「寛永通宝」の文字
―― それは、宮司さんのお考えが相当に柔軟なんでしょうか?

岸川さん「現在の宮司は80歳近いのですが、考え方は柔軟だと思います。また、私などは元々神社の生まれではなく、大学を卒業してから神職の道に入りました。そういう人間はやはり、『神社とはこうあるべき』といった固定観念が薄いですね。ただ、もちろんそれぞれの神社によって方針は異なり、我々がやっていることが全てではありません。それぞれ尊重されるべき価値観があり、それぞれが正しいと思いますね」
Tシャツ、キーホルダー、さらには御朱印帳まで、豊富なコラボグッズがある
Tシャツ、キーホルダー、さらには御朱印帳まで、豊富なコラボグッズがある
…ううむ、骨太である。新しい文化を受け入れることに対して、確固たる意志がある。話を聞く限り、何でも受け入れてくれそうな懐の広さだが、そうはいってもNGなものはあるだろう。

―― NGを教えてください

岸川さん「殺し合い、とかですね」

―― ああ、それはだめですよね

岸川さん「ドラマなどでも神田明神が殺人現場になるなど、公序良俗に反することは認められません」

―― では、たとえばアイドルのグラビア撮影などは?

岸川さん「水着はNGですが、普通に散歩をするような写真であればアイドルの写真集であっても問題ありません。あとは、さい銭箱の前で踊るなど、参拝客に迷惑がかかったり、不快な思いをされたりする恐れがあるものは駄目です。以前、テレビ局から神田明神に関する平将門公の首塚をミステリースポットとして紹介したいという相談を受けましたが、参拝される方が気分を害される可能性があるためお断りしました」
「参拝者ファースト」が原則。参拝客の迷惑になることはNG
「参拝者ファースト」が原則。参拝客の迷惑になることはNG

お作法に縛られずに参拝してほしい

もしかしたら我々は神社というものを固くとらえすぎだったのかもしれない。もちろん厳かなしきたりを守る神社もあるし、それはそれで大事なことだが、神田明神の場合はいろいろと大らかだ。

たとえば、それは参拝のお作法ひとつとってもそう。手順やルールにとらわれず、自由にお参りしてほしいと岸川さんは言う。

岸川さん「お参りの作法というのも、それこそ時代によって異なります。たとえば江戸時代は扇子を持ってお参りするのが一般的でしたが、今では誰もやりませんよね。人それぞれでいいと思います。必ずしも二礼二拍手一礼でなくてもいいですし、それを守らなかったからといって罰当たりだなんてこともありません」
というわけで、神田明神は絵馬も自由度が高い。アニメのイラストが描かれた、いわゆる「痛絵馬」はよく知られている。しかし、「そもそも絵馬って絵を描いて奉納するものですから」と岸川さん
というわけで、神田明神は絵馬も自由度が高い。アニメのイラストが描かれた、いわゆる「痛絵馬」はよく知られている。しかし、「そもそも絵馬って絵を描いて奉納するものですから」と岸川さん
―― そうなんですか? 鳥居は真ん中を通ってはいけないとか聞きますし、神社ってタブーが多い印象でした。これまでは「おそるおそる」参拝していたんですが、それは必ずしも守らなくてはいけないものではないと

岸川さん「あとは、お参りをするときは住所を言わなくてはいけないのですか? など、たまに参拝者に聞かれるのですが、そういうことはありません。そうした作法の一部は、ある種メディアが広めた部分もあります。もちろん、神職は鳥居の真ん中は通りませんし、参拝客の方が自分でそれを守るのはいい心がけだと思います。ただ、人に強要することではありませんよね」

―― お作法通りじゃないと、ご利益が減ったりしませんかね?

岸川さん「むしろ、それを他人に押し付けるほうが半減しそうですよね」

―― 神様からの評価もマイナスに?

岸川さん「そうですね(笑)」
真ん中を通ったからといって「罰が当たる」というものではないようだ
真ん中を通ったからといって「罰が当たる」というものではないようだ
―― 節度やマナーは守りつつも、もっと肩の力を抜いてカジュアルに神社を訪れてみてもいいのかもしれませんね

岸川さん「ぜひそうしてください。神社に対して凝り固まった思想を持っていたり、がんじがらめの作法に従って参拝したりしても楽しくも清々しくもないんじゃないでしょうか。神社はお参りをする場所であり、観光名所であり、人が集まる広場でもある。神聖な場所っていうイメージだけを強く持ってしまうと、神社の本当の姿はとらえられない。神社の楽しい部分っていうのを自ら消してしまっていますよね」


そう、神社というのは楽しいところなのである。
だって見てくれ。えびす様のご尊像はとても立派で見ごたえがあるし
だって見てくれ。えびす様のご尊像はとても立派で見ごたえがあるし
お馬さんはいるし(※この日は放牧中でした)
お馬さんはいるし(※この日は放牧中でした)
狛犬はインスタ映えするし
狛犬はインスタ映えするし
文化財もあったりして(江戸期の石造物『石獅子』※千代田区指定有形民俗文化財)、見どころだらけなのだ
文化財もあったりして(江戸期の石造物『石獅子』※千代田区指定有形民俗文化財)、見どころだらけなのだ
マスコットはゆるキャラである
マスコットはゆるキャラである
銭形平次の顔ハメもあるよ
銭形平次の顔ハメもあるよ
境内には屋台とベンチがあり、ビールも飲める
境内には屋台とベンチがあり、ビールも飲める
参道の蕎麦屋。看板は銭形平次そばセット
参道の蕎麦屋。看板は銭形平次そばセット
最後に、「神社にはいろんな人が来ます。ひとりの理想のためではなく、多くの人たちが願う場所です」と岸川さん。ぼくもまったくその通りだと思います。

神社観の押し付けはやめましょう

古来より、神社にはさまざまなものが「奉納」されてきた。そこには時代時代の文化が反映されるわかだから、そりゃ今だったらプロレスもあればアイドルも、アニメだってその対象になり得るだろう。それは自然なことなのだ。

岸川さんは「参拝を楽しんでほしい」と言っていた。あまり固定観念にとらわれず、人それぞれの楽しみ方をすればいいみたいですよ。

【協力】
・神田明神
http://www.kandamyoujin.or.jp/

・アイスリボン
http://iceribbon.com/
平成31年1月には神田明神に「江戸文化交流館」がオープン予定。日本伝統文化、江戸文化、神道文化などのほか、それこそアニメやアイドルといった新しいカルチャーの発信拠点になるという
平成31年1月には神田明神に「江戸文化交流館」がオープン予定。日本伝統文化、江戸文化、神道文化などのほか、それこそアニメやアイドルといった新しいカルチャーの発信拠点になるという
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