特集 2017年8月20日

書き出し小説大賞 第128回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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およそ三年間、仕事の関係でジャカルタに在住し、久しぶりに日本に帰ってきた態で「王様のブランチ」を観ると知らない顔が大半である。8月後半は雨つづき、今日も遠雷が聞こえる。それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。

書き出し自由部門

剣と、魔法と、宿題の夏。
morin
廃校の黒板には今も疑惑の相合傘が残る。
七世
今年のお盆こそ、盗癖のある親戚を突き止めるんだ。
紀野珍
来年には来年のお気に入りのTシャツがあるだろう。
きつね
姉のカミングアウトに驚いた父の右手がフレミングの法則の形でかたまっている。
xissa
サソリ定食が冷めていく。
大伴
海は想像していたより大きく、思ったより乾燥していた。
terayo
バス停の椅子として、主任はそこにあった。
けー
カツ丼屋を出て彼女は、豚の看板に目をやり、少し涙ぐんだ。
君と僕と雨
野菜室から出した人参は冷んやりして、ずっとささがきをしていたい。
井沢
観覧車はゆっくりと動きを止め、高速で逆回転を始めた。
エリンギ
いつも独りじゃ寂しい。コソ泥だって恋がしたい。
茂具田
事故に見えますが、ヨガです。
マークパン助
通信速度制限がかかった。ビームサーベルが短くなる。
そーすけ
土下座した父が部屋のすみに滑っていくのを見て、欠陥住宅に気がついた。
もんぜん
それは、カラオケで本来2人のラッパーが歌っている曲を1人で歌った直後の出来事だった。
もろみじょうゆ
丘の上に作った工場は360度出勤可能だ。
ヘリコプター
何度追い払っても、股間にコウモリがぶら下がってくる。
くのゐち
ジュブナイルはティーンエイジャーに殺されたよ。
くずきり
さっき紅茶を口に捨てたわ。
ミスアイヌ
デート中、歯が抜けたらどうしよう…そんなことばかり考えていた。
トミ子
俺は、ジャンクション、ジャンクションに女がいる。
にら将軍ハルナ
寸評●morin氏「剣と、魔法と~」アプリゲームのコピーのよう。それにしてもアプリゲームのCMって興味ない人にとってはとことんシュール。●紀野珍氏「今年のお盆こそ~」父方の叔父が怪しい。●きつね氏「来年には来年の~」去年『海人』のTシャツを着ていた近所のオッサンは、今年も同じ『海人』を着てます。●大伴「サソリ定食が~」憶測でしかないがサソリは冷めた方が美味いと思う。●けー氏「バス停の椅子として~」いい不条理演劇になりそう。●エリンギ氏「観覧車は~」観覧車が絶叫マシンになった日。●茂具田氏「いつも独りじゃ寂しい~」コソ泥萌えw●マークパン助「事故に見えますが~」全身骨折にしか見えない!●くのゐち氏「何度追い払っても~」式の最中なのに!●くずきり氏「ジョブナイルは~」サリンジャーの仕業さ。●ミスアイヌ「さっき紅茶を~」飲み物を口に捨てるという表現、すごく斬新ではないでしょうか。●にら将軍ハルナ「俺は、ジャンクション~」なんだろ?インディアン嘘つかない、みたいな語感。意味分かんないけどかっこいい。

続いては規定部門。今回のモチーフは『花火』。大量採用で書き出し花火大会、開催です!

書き出し規定部門・モチーフ「花火」

着火しているかどうかをいつも私が見に行かされる。
g-udon
春に花見をした河原で今日は花火を待っている。
xissa
花火が君の横顔を照らす。どうやら緑色のときが一番かわいい。
Mch
親方の花火は、一発で夜空を卑猥にした。
えむ毛
この部屋から音だけがわかる、今年は君がいるからそれでいい。
ミミズグチュグチュ
キャラクター花火が風で流され幾何学模様になった。
g-udon
今年の花火大会からお小遣いだけでいいと娘は言った。
山本ゆうご
花火が球体だと知った日の驚きは忘れられないし、何なら今でも納得していない。
Mch
花火より、浴衣にしたたるソフトクリームが気になった。
夢雀
曇って下半分だ。
あひる
意味なんて考えたら花火なんて見てられないってば。
ミミズグチュグチュ
いきなり線香花火からいくような女だった。
大伴
「このまえ」「電」「車」「のってたらさ」「スゲー」「うざい」「奴」「いてさ」愚痴が打ち上がり始めた。
哲ロマ
「しょぼっ!」「地味」「なんか汚くない?」などの声が飛び交う花火大会だった。
たこフェリー
「こんなにも儚いものかね」と父がつぶやき、私は聞こえないふりをした。
トロニー
見ても聞いてもいない花火を上がったと誰が信じられよう。
suzukishika
女たちはこの花火の音が子宮に響いてるんだろうなぁ。雑念は花火と供に散った。
お皿が乾くの3時間
たったひとつの線香花火が海を干上がらせた。
FJK
そんなのはスターマインじゃないって?お父さんのスターマインと私のスターマインとは違うの!
魚子
3分後に花火が上がったら面白いのに。カップ麺にかやくを入れた。
タニッチ
組長が言った。「もういいや、花火にしちまえ」
正夢の3人目
手持ち花火を振り回す奴は真っ先にやられる。
ぐるりん
今年もマンションのドアスコープから歪んだナイアガラを見届けている。
うぃけっと
ヘビ花火はロッケンロールだ。
もんぜん
ヘビ花火が死んだ祖父の顔になっていく。
住民パワー
師匠が花火大会をプロジェクトっていう。
terayo
検索してみたところ、リビングに鎮座するそれは三尺玉というものらしい。
トロニー
三尺玉は筒にピッタリと収まった。
ビールおかわり
筒のQRコードを読み込んでから、スマホを花火にかざして下さい。
タクタクさん
「ブルガリヤ!」ヨーグルトを打ち上げる度に歓声が上がる。
タクタクさん
「カンブリヤ!」古代生物を打ち上げる度に歓声が上がる。
タクタクさん
哲学じみてきた師匠渾身の新作は、黒色だそうだ。
かりめろLA
無人島に流れ着いた7人の花火師は何もないところからS.O.Sの花火を作りあげた。
もんぜん
女王様はひとしきり何かを考えた後、線香花火の束を買った。
prefab
湿った肛門が、フローリングに花火のような跡を残していった。
ねもっ血風クン
破戒僧が爆竹を投げてきた。
はぎっち
かんしゃく玉は不発で右肩は外れていた。
TOKUNAGA
去り際に、人魚は海面を見上げる。小さな打ち上げ花火がひとつ咲き、揺らめいた。
紀野珍
昔の江戸では花火を見せないという刑罰があったらしい。
夏模様
打ち上がるごとに下着泥棒を照らし出す。
morin
今年は政治色の強い花火大会だった。
吉田髑髏
確かに、あの年打ち上げたのはアタシですよ。引退してたんですがねェ、頼まれたんです、妙な封筒が届きましてな。
うにねこ
「特等席を見つけたぞ」少年の眼をした父は、手足を凧にくくり付けた。
ぴすとる
束のまま火を着けられた線香花火は、強い生命を放ち続けた。
乾燥肌
線香花火が無口にさせた。
TOKUNAGA
ビニールハウスからは、滲んだ火花だけ見えた。
あや幹部
その日だけは銃声ではなかった。
トミ子
花火師だった親父の墓前に線香花火を一輪備える。
kwsk
煙草のもらい火は僕と彼のあいだに小さな花火をもたらした。
小夜子
今年もまた、行っていない花火大会の混雑に巻き込まれた。
くのゐち
花火大会から帰って来たら突然、居候の叔父がクレープ屋を始めると言い出した。
パチリパンダ
スーパーの効きすぎた冷房が花火の余韻を忘れさせていた。
九官鳥級艦長
火薬の匂いが、夢の入口までついてきた。
タクタクさん
花火大会実行委員会は開催後の打ち上げにも力が入る。
g-udon
夏のしっぽが燃えていく。
たまお
今回は寸評、いらないんじゃないですかね。一瞬で散る花火と書き出しの愛称は抜群だと思いました。爆笑の打ち上げ花火、リリカルな手花火、それぞれに咲く物語をご堪能ください。

それでは次回のモチーフを発表します。
次回モチーフ
「から揚げ」
次回のモチーフはみんな大好き、から揚げ。もちろん嫌いな人もいるだろうが、好きな食べ物アンケートでは常に十位内をキープしている。料理、食事といった広いテーマより一品に絞った方が考えやすい。思い出やエピソードを絡めたものから、シュールな笑いまでさまざまなものが創れると思う。表記は作品のテイストによって、カラアゲ、唐揚げ、等自由に選んで欲しい。締め切りは9月1日正午、発表は9月3日を予定している。以下の投稿フォームから部門を選択し送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

かけうどん/じゅんじゅん/じょん/珠四季/ら+/まじいい/雨の日は寝る/
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