特集 2017年8月22日
 

パワーポイントを使ってアドリブで即興プレゼンする「パワポカラオケ」に挑戦した

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「パワポカラオケ」というパワーポイントを使用した競技がある。「パワーポイントでカラオケ」と聞くと、「初めて海外旅行に行っていきなり寿司を食う」みたいに混乱しそうな言葉だが、簡単に言うと即興のアドリブプレゼン大会だ。
(ちなみにデイリーポータルZでもライターをやっている井上マサキさんは、この大会で優勝したことのある強者)

このイベントに僕が招待されて参加することになったのだけど、ものすごくアドレナリンがでる緊張感のすさまじい競技であった。
ただオチを先に言ってしまえば、結果として僕は大恥をかくことになったので、本当は思い出したくはない。だけれど記事にするために古傷に自ら塩を塗っていくスタイルでいこうと思う。
大学中退→ニート→ママチャリ日本一周→webプログラマという経歴で、趣味でブログをやっていたら「おもしろ記事大賞」で賞をいただき、デイリーポータルZで記事を書かせてもらえるようになりました。嫌いな食べ物はプラスチック。

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パワポカラオケとは?

当日の大会のことを書く前にまずは「パワポカラオケ」というものについて簡単に説明したいと思う。

社会人であればパワーポイントを使用している人も多いと思う。会社のプレゼンなどによく使われるスライド資料を作成できるアプリだ。嫌になるほど毎日のように触っている人もいるかもしれない。
せっかくなのでパワーポイントで使われていそうな画像を作成しました。
せっかくなのでパワーポイントで使われていそうな画像を作成しました。
ルールは実にシンプルで、まずは自分がプレゼンするテーマをクジで決め、そのテーマに沿ってランダムに順番に出てくる5つの画像を見ながら、アドリブでプレゼンしていくのである。

説明だけ聞くと話術に自信がある人なら「え?簡単じゃん」と思うかもしれない。だがしかし、これがやってみると奥が深い。何より全てがランダムで決まる競技なので、事前に準備が何もできないのである。不安しかない。
今回の出場者。種々な職業の人が集まった。
今回の出場者。種々な職業の人が集まった。
パワポカラオケは普段は誰でも参加できるイベントなのだが、今回は「主催者が呼びたい人を呼ぶ」というテーマで行った特別な大会なのである。

参加するメンバーは落語家、アイドル、ゲームクリエイター、漫画家、ボードゲームショップオーナーとかなり色濃いメンバーが集まっており、なぜかその中に僕も入っているのである。

Twitterのフォロワー数で言えば全員が5000人以上を超える中で僕は1000人もいっていない無名中の無名なのだ。ライオンたちの檻にウサギを投げ込むような所業。

このままでは大会に出ても「誰だよ、あいつ…」と白い目で見られるだけに決まっている。僕はなんとしてもお客さんに「あいつ誰だか知らないけどすげぇ!!」と言わせてやりたいと思った。

ということで出場が決まってから、僕はパワポカラオケ用の秘策を考えて大会に望むことにした。これを思いついたときは絶対に優勝できると思った。まあ、この秘策のせいで大恥をかくことなるとはこのとき夢にも思わなかったのだけれど…

パワポカラオケ大会の当日

会場は原宿のヒミツキチオブスクラップという場所で行われる。
会場は原宿のヒミツキチオブスクラップという場所で行われる。
予想以上にお客さんが多く入っていて怖くなってきた…
予想以上にお客さんが多く入っていて怖くなってきた…
「パワポカラオケ」というそれほど知名度の高くないイベントだし、そんなに多くは人も来ていないだろう…と思ったが、当日になってみれば会場は満員であった。

この人数の前で急にアドリブ何かやらないといけないと考えると、急に足がすくんできた。通常こういったイベントは打ち合わせや事前準備があると思うのだが、今日はアドリブで全てを対応しないといけないので武器が何もない。参加者は全員が丸裸の状態なのだ。
ステージ裏の参加者の暗さが異常だった。
ステージ裏の参加者の暗さが異常だった。
ただその気持ちは僕だけではなかったようで、参加者が集まるステージ裏では、

「なんでこんなこの仕事を引き受けてしまったんだろう」
「こんな緊張感がともなう競技だなんて知らなかった」
「胃が痛くなってきた」
「いまだにルールがよくわかっていない…」
「子どもに会いたい」

とネガティブな意見で蔓延していた。高校生が万引きで捕まって親を呼び出されたときはきっとこんな感じの空気なのかもしれない、と思うくらいに重い。緊張でほぼ全員が顔を真っ白だし、小学生のプール以来に唇は紫になっていた。
司会はセミキノコというコンビでイベントを数多く手がけている青木さんと瀬戸口さん。今回の主催者でもある。
司会はセミキノコというコンビでイベントを数多く手がけている青木さんと瀬戸口さん。今回の主催者でもある。
今日いるお客さんの半分以上はパワポカラオケを初めて見に来る人だった。
今日いるお客さんの半分以上はパワポカラオケを初めて見に来る人だった。
大会がすぐに始まるかと思いきや、司会の二人がお客さんに向かって無茶ぶりを言い始めたのである。「いきなり大会を始めてもまだどんな競技がわからない人もいると思うので、会場のどなたかにデモンストレーションとしてチャレンジしてもらいましょう!」と挑戦者を求めたのである。

「誰かやりたい人いますか?」と司会の二人が煽っていたが、ステージ裏では「こんな緊張感ある危険な競技に立候補してやりたい人なんていないだろう」と参加者は全員笑っていた。
しかし…いた!!!!!
しかし…いた!!!!!
まさか立候補する人がいるとは思ってもいなかったので、その勇者の顔を見ようと出演者の全員がステージ裏から身を乗り出した。
まさか立候補する人がいるとは思ってもいなかったので、その勇者の顔を見ようと出演者の全員がステージ裏から身を乗り出した。
プレゼンを始めた勇者は笑いをきっちりと取って客席に帰っていった。
プレゼンを始めた勇者は笑いをきっちりと取って客席に帰っていった。
まさか立候補する人がいるとは誰もが思っていなかった。予想外すぎる。そしてなんとパワポカラオケの経験者だったらしく、慣れた感じでさらっとこなして笑いをさらっていった。

急に参加したお客さんが笑いを取ったことにより、出場者にはより一層のプレッシャーがかかった。出場者の一人である宮川サトシさんが言った「もうあの人優勝でいいから帰ろうよ…」というセリフに全員が同意した。

そしていよいよ訪れる自分のターン

緊張しすぎて真顔でずっと首の皮をいじっていた。
緊張しすぎて真顔でずっと首の皮をいじっていた。
そして僕がプレゼンをする番がいよいよきた。緊張しすぎてここまで誰がステージに立って何を話していてもうまく笑えなかった。足がガクガクと震えながらもながらもステージに移動する。
パワポカラオケではまずはプレゼンするべきテーマをクジで決める。
パワポカラオケではまずはプレゼンするべきテーマをクジで決める。
僕がプレゼンするテーマは「免許」に決まった。正直このテーマが当たりなのかハズレなのかが検討もつかない。結局はどのテーマでも即興で何を話すか決めないといけないからだ。凶と大凶だけのおみくじを引いているようなものだ。

「免許」についてどうプレゼンすれば良いのか必死に脳をフル回転させる。しかし、テーマが決まるとすぐにプレゼンは始まるのだ。考えている時間などない。とにかくしゃべって走りだすしかない。
沈黙が一番怖いのでとにかくしゃべり出すしかない。
沈黙が一番怖いのでとにかくしゃべり出すしかない。
「そもそも免許の歴史というものをご存知でしょうか?」という出だしで僕は話を始めた。もちろん思いついたこと口にしているだけなので、話のゴールなど自分でもまったく見えない。ここからの話の道筋は頭をフルに働かせて次の言葉を紡いでいかないといけない。冷や汗が止まらない。

今回の大会ではテーマに沿ってランダムな5枚のスライドを順番にめくっていき、5分間のプレゼンを行う。スライドは自分のタイミングで次のものに変えることができるのだけれど、前のスライドに戻ることは出来ないというのが肝だ。

なので、話を組み立てつつ、どう上手く話を振って次のスライドに行くかがポイントなである。

僕は「免許の歴史」という題材で話を進めていくことにして、「免許証の発祥はイギリスにあります。ではイギリスではどのように免許を取得するのか教えたいと思います」と話をつなげて次のスライドにいくことにした。
一枚目のスライドは「スーツから札束を出す」という画像だった。
一枚目のスライドは「スーツから札束を出す」という画像だった。
スクリーンには胸元からお金を出している画像が表示され、会場からはすでにクスクスとした笑いが出ていた。沈黙が一番怖いので、画像を見てここは素直に「大金を払えば取得することができます」と慌て言い、会場では笑いが起きた。

あれ?思っていたよりはウケた?
…なんか気持ちいいな!!

文面にするとスベっているように見えるが、パワポカラオケの会場では画像が切り替わるだけで自然と笑いが起きる空気感があるのだ。いや、文章だからスベっているように見えるだけで本当にスベってないからね!!
その後も次々にスライドが変わっていき、必死に対応する。
その後も次々にスライドが変わっていき、必死に対応する。
画像がおもしろくて、それだけで爆笑が起きるときもある。
画像がおもしろくて、それだけで爆笑が起きるときもある。
パワポカラオケは見ている側にとっては常にワクワク感があるようだ。アドリブなので挑戦している人が何を言い出すのかわからないし、筋道立てて話を組み立てたとしも、画像によっては180度展開を変わり展開がまったく読めないのである。

会場では「次の画像はなんだ?」「どう話を切り返す?」という期待で満ちているように感じる。緊張と緩和の連続が起こり、笑いたくなる空気を作っているようだ。

そして挑戦している僕も緊張感もすごいがそれと同時に妙な高揚感もあり、パワポカラオケに対して熱が入ってきて口から次々に自然と言葉がでてくるのである。なんだこれ、楽しいな!!
プレゼン中はセミキノコの二人がツッコミを入れて助けてくれるのもありがたい。
プレゼン中はセミキノコの二人がツッコミを入れて助けてくれるのもありがたい。
結果として、僕は運もよく「アメリカの免許のとり方はどうなっているでしょう?」「一方フランスでは免許はどうなっているでしょう?」という話の振りとスライドの画像が上手く一致して笑いを誘うことができた。

自分の話しとスライドがたまたま合っていてアドリブがうまく進んでいるときの、客席からの「おお!!」という反応が気持ち良い…!

おもしろい画像にも恵まれて、僕のプレゼンはなんとか笑いをとることができた。やる前は顔面蒼白であったが、やってみるとアドレナリンがドバドバと出て、とにかくしゃべりが止まらなかった。会場の笑い待ちの独特の空気感もすごいし、やっている側も自然とヒートアップしてくる。パワポカラオケ…おもしろ…!

人間は追い込まれると個性が自然と出てくる

初挑戦でトップバッターだった白坂さん。「遊園地」というお題で、自分の子どもが好きだと言うトーマスの話題につなげて話を展開した。最後はなぜかトーマスの娘が誕生するという謎の感動(?)話しで幕を閉じた。 
初挑戦でトップバッターだった白坂さん。「遊園地」というお題で、自分の子どもが好きだと言うトーマスの話題につなげて話を展開した。最後はなぜかトーマスの娘が誕生するという謎の感動(?)話しで幕を閉じた。 
漫画家の宮川サトシさんは、「将来自分が出す漫画のアイディア」という話に上手い具合に持っていき、自分のフィールドでプレゼンを進めていった。漫画家にしかできないパワポカラオケだ。ステージに上る前は誰よりも緊張で顔面蒼白だったのが印象深い。
漫画家の宮川サトシさんは、「将来自分が出す漫画のアイディア」という話に上手い具合に持っていき、自分のフィールドでプレゼンを進めていった。漫画家にしかできないパワポカラオケだ。ステージに上る前は誰よりも緊張で顔面蒼白だったのが印象深い。
唯一パワポカラオケ経験者であるゲームクリエイターの米光さんは、「恋」というお題に対して「僕は恋には自信ありますよ!!」と始まる前から笑いを誘っていた。そして始まって見ると、一枚目のスライドの書いてある説明文をただただ読むだけという荒業にでて笑いをとっていた。
唯一パワポカラオケ経験者であるゲームクリエイターの米光さんは、「恋」というお題に対して「僕は恋には自信ありますよ!!」と始まる前から笑いを誘っていた。そして始まって見ると、一枚目のスライドの書いてある説明文をただただ読むだけという荒業にでて笑いをとっていた。
落語家の吉笑さんは、「さすが」としか言いようがない見事なプレゼンだった。話のプロはやはり違う。画像が出てきたときは考える時間があるので言葉が途切れてしまうのが普通だが、その時間がほぼなく淀みなく話続ける。 「スキャンダル」というテーマだったのだけれど、つい先輩をいじってしまい、プレゼンが終わったあとに「あれは本当に失敗しました」と笑いながら話していた。アドリブだから思わず出てしまう発言もパワポカラオケならではだ。
落語家の吉笑さんは、「さすが」としか言いようがない見事なプレゼンだった。話のプロはやはり違う。画像が出てきたときは考える時間があるので言葉が途切れてしまうのが普通だが、その時間がほぼなく淀みなく話続ける。 「スキャンダル」というテーマだったのだけれど、つい先輩をいじってしまい、プレゼンが終わったあとに「あれは本当に失敗しました」と笑いながら話していた。アドリブだから思わず出てしまう発言もパワポカラオケならではだ。
白幡いちほさんはアイドルという肩書をまったく感じさせないほど話すのが上手かった。「マンガ」というテーマでプレゼンして、自分が過去に本当に漫画家を目指していた経験から次々に話を展開していった。出て来るスライドがすべてサラリーマンのような画像ばかりで、「マンガ」というテーマにも関わらず一向にファンタジーな展開にならないのもおもしろかった。
白幡いちほさんはアイドルという肩書をまったく感じさせないほど話すのが上手かった。「マンガ」というテーマでプレゼンして、自分が過去に本当に漫画家を目指していた経験から次々に話を展開していった。出て来るスライドがすべてサラリーマンのような画像ばかりで、「マンガ」というテーマにも関わらず一向にファンタジーな展開にならないのもおもしろかった。
すべてがアドリブで進んでいくので、パワポカラオケに挑戦すると個性や知識、経験したことなど、その人のすべてがさらけだされることになる。素の人間がみられるような気がした。

それぞれ話がまったく違う展開になるので誰のプレゼンを聞いてもおもしろい。破綻する話しもあれば、急カーブでまったく違う内容からキレイにオチまで持っていく話もあり確実に笑える。
どのステージでも手を叩いて笑う人がいるほど会場は盛り上がっていた。
どのステージでも手を叩いて笑う人がいるほど会場は盛り上がっていた。

調子に乗って2本目で大恥をかくことになる

1本目が終わり途中結果の順位が発表される。
1本目が終わり途中結果の順位が発表される。
最初の回が終わって順位が発表された。一位はやはり順当に落語家の吉笑さんであったが、驚いたことに2位が僕なのである。

やっている間はアドレナリンが出まくっていたので、どれだけウケていたのかあまりわからなかった。とにかく必死になってやっていたので、まさか2位だとは思わなかった。

こうなってくると欲がでてくる。本気で優勝が狙いたくなってくる。「一番有名じゃない人が優勝」なんて少年マンガみたいでカッコイイじゃないか…それに僕には家で考えてきたパワポカラオケ用の「秘策」があるのだから…!

そしていよいよ運命の2週目が始まった。
2本目のトップバッターは宮川サトシさん。
2本目のトップバッターは宮川サトシさん。
宮川サトシさんはまさかの奇襲にでた。登場するなりサンシャイン池崎ばりのテンションで「いえぇぇぇぇぇぇーーーーーーい!!!」と走ってステージに上がり、1本目とは全く違うテンションで登場した。
明らかに無理なキャラ作りに大爆笑が起きた
明らかに無理なキャラ作りに大爆笑が起きた
セミキノコの二人にも「普段そんな人じゃないじゃないですか!!」とツッコまれていた。パワポカラオケは人の性格をも変えてしまうのは魔力があるのかもしれない。
ゲームカフェオーナーの白坂さんの2本目。
ゲームカフェオーナーの白坂さんの2本目。
パワポカラオケのおもしろさはやはりどんな言葉が飛び出てくるのかわからないというところだ。個人的にこの日一番好きだったのは、「ゴルフ」というテーマでプレゼンしていた白坂さんから飛び出た「タイガーウッズの冷凍保存」というワードだ。パワーワードすぎる。

たしかにあれだけ歴史に名を残す選手なら冷凍保存しても良いのかもしれない。(そんなわけない)
写真だけでなく図やグラフなどがでてくる場合もある。そこがパワポカラオケの怖いところ 
写真だけでなく図やグラフなどがでてくる場合もある。そこがパワポカラオケの怖いところ 
この日一番の笑いとったのは「狼に育てられた少女」というテーマで発表した米光さんだ。なんとこのテーマでそのまま話しだすのではなく、「私は狼に育てられた過去があるのですが…」と、自らがその経験があるかのように語りだしたのである。

かなりの急展開に会場は笑いに包まれ、さらに一人で「歌舞伎町にいるヤクザ」と「旅をしている狼少女」という設定で一人芝居を繰り広げたのである。これがこの日最高の笑いを生み出していた。
元お笑い芸人という力を発揮した白旗いちほさん
元お笑い芸人という力を発揮した白旗いちほさん
「1本目終わったら失うもの何もなくなりましたね」と発言した白旗いちほさんは、「朝活」というテーマを引いたが、「朝活?朝活って…」とお題の言葉自体に不安を感じながら探り探り始めた。

しかしやはり元お笑い芸人という経歴があるからなのか、話の展開が上手く、さらにセミキノコの二人が話にツッコミを入れても、さらにツッコミし返すなどして、まるで漫才のような展開で場を盛り上げていた。
2週目の方が明らかに笑いは大きかった
2週目の方が明らかに笑いは大きかった
1周目で全員がパワポカラオケの概要を把握したのか、もう精神的に怖いものがなくなったのかはわからないが、2週目はレベルがあがっていた。

そして次はいよいよ僕の出番である。実にいい流れだ。会場は完全に温まった状態だ。そして僕はこの日のために考えてきていたと秘策があったので、いよいよそれを実践するときがきた。これで絶対に優勝できるはずだ!!
プレゼンをやる前に自信満々に「実は秘策があります」と言い放った。会場からは「おお!」とどよめきが起きた。
プレゼンをやる前に自信満々に「実は秘策があります」と言い放った。会場からは「おお!」とどよめきが起きた。
僕の考えた秘策はこうだ。ただ普通にプレゼンするのでなく「パワーポイントを使ったコント」をするというものだ。「企業のプレゼンに出場するが、パワーポイントのスライドが間違っている」という設定のコントだ。アンジャッシュのコントを思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれない。

パワポカラオケではわけのわからないスライドがたくさん流れる、それを逆手に取ってコント風にしてアドリブではなく、型にハメようという作戦だ。以下のような台本の流れでプレゼンを行おうと思った。
(部下に話す感じで)「今日は大事なプレゼンだ。渡邊、明日の資料は大丈夫か?明日は大事な会議だからな!スライドちゃんと準備してこいよ!」

(ナレーション風に)「次の日。プレゼン当日」

(企業の方々に話す感じで)「さて、今から弊社では(アドリブ)をプレゼンしたいと思います。弊社の売りは (アドリブ)です。では早速1枚目の資料を見ていきましょう」

【スライドの一枚目を出す】(焦った感じを出す)

(部下を叱る感じで)「おい、渡邊!資料が違うじゃないか!!なんだよこれ!
え?資料を間違えたから今日はこれでお願いしますだって?…わかった。俺のアドリブでなんとかしよう…」

【ここからはアドリブで適当に企業プレゼンしている風に話す】

(最後のオチ部分)「めちゃくちゃプレゼンして本当に申し訳ありませんでした!!本当にこの度は申し訳ありません!以後このようなことがないよう…え?弊社の案が採用…?
完璧である。オチまで筋道がしっかりしているし、プレゼンのテーマに何が来ても「弊社ではこのようなコンセプトの商品を提案します」としておけば、大抵のものは応用することができる。

そしてスライドが変なものがきたとしても、「間違った資料」という設定があるので、確実に対応できる!

究極のパワポカラオケ専用のテンプレートである。もはや生まれたばかりのパワポカラオケという競技を終わらせる神の一手になってしまうかもしれない。佐為…オレ…打っても良いのかな?

よし!これで優勝はもらった!!!
…
… …
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… … …
… … …
… … … …
… … … …
はい。見事にスベリました。

ええもうそれは見事にまったくウケませんでした。軽井沢の冬の朝くらいシンとした空気でした。キンキンに冷えた会場はホッキョクグマも逃げ出すレベルでしょう。さっきまで盛り上がっていたお客さんが全員帰って入れ替わったのかと思うくらい状況は一変した。

パワポカラオケのおもしろさは「アドリブで緊張感がある中で、なんとか話をしようとする姿」なのである。必死になればなるほど、その姿におもしろさを感じられるものだ。

そこで僕は変な「枠組み」を作ってしまったので、「アドリブ」という大前提を破壊してしまったのだ。サッカーでハンドのルールを失くすようなものである。一番の根幹を殺している。パワポカラオケ殺人事件だ。

そして地獄のような5分間を耐えて僕はステージをあとにした。司会の瀬戸口さんが思わず困って頭を抱えている姿が今でも頭から離れない。
ラストは落語家の吉笑さん。
ラストは落語家の吉笑さん。
そして僕のあとに吉笑さんが打って変わって完璧なプレゼンを披露した。やはり先ほどより空気を掴んだのか、パワーアップしていて1回目よりもさらにおもしろかった。

「専門学校」というテーマでやり、自分の自己紹介を交えつつテーマに合わせてスラスラと言葉巧みに進めていく。もはや吉笑さんの独演会を見に来ているかのように錯覚するほどである。

落ち着いて進めているだけでなく、写真に対しての言葉の切り返しも正確で確実に笑いをとる。そしてスライドに画像ではなく「グラフ」が出てきたときにも「これは企業コンサルタントの専門学校に行っていたときのものですね」と的確に返していく。
最高の5分間が終了した
最高の5分間が終了した
完璧だ。まさに言葉のプロだ。ただ吉笑さん曰く「落語もそうなんですけど、初めてやるときの方が緊張感があって良いものができるんですよ。だから一本目の方がよかったかなと。」と謙遜していた。カッコよすぎる。

ただ最後に「落語でもよく言われているんですが、奇をてらうのではなくて古典を信じてやることが大切ですね」と僕がやった2回目のスベったコントをいじり、大爆笑をかっさらい吉笑さんはステージを降りていった。

おあとがよろしいようで。

優勝は予想通り盤石の強さで吉笑さんだった。初挑戦ながらアイドルの白旗いちほさんが2位だ。
優勝は予想通り盤石の強さで吉笑さんだった。初挑戦ながらアイドルの白旗いちほさんが2位だ。
2回目のプレゼンはやはりすべての回の得点を合わせてもぶっちぎりの最下位であった。やはり初めに2位という結果がでたのは、たまたま運がよかっただけなのである。自分がおもしろいと勘違いしてはいけない。
正直、優勝したかった…悔しい…
正直、優勝したかった…悔しい…
不思議なことに終わってみると、あれだけ恥をかいたのにも関わらず、再びパワポカラオケに挑戦したくなっている自分がいた。

それは僕だけでなく、「次誘われたらどうします?」と宮川サトシさんに聞いてみたら「実はちょっともう一回やりたい気持ちもあります」と言っていた。謎の中毒感があるのだ。あのステージに立ったときの脳内麻薬がフルに出ている感じは、たしかにたまらないものがあった。

ただ次にもし出る機会があれば、もう二度とコントはやらないと心に硬く誓った。
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