会場は佐久市子ども未来館(sakumo)
sakumoは長野県の佐久市にある子ども施設である。建物の1/3くらいをプラネタリウムが占めている。
建物に入る前からわかるドームの存在感
手前の歩道橋にはプラネタリウムの上映情報が
このプラネタリウム、ふだんは毎日4回ほど上映されている。各回、最初に職員の方による星空の生解説があって、後半は妖怪ウォッチなど(今夏の場合)のプラネタリウム用特別番組。下見のついでに見せてもらったのだけど、ドームの内側をジバニャンが縦横無尽に駆けまわったりして、普通の映画館にはない迫力があった。
そういうのを見ると「簡単にものすごいイベントができそうだな…」と思ってしまうが、見るのとやるのは大違いなのだ。
なんでも流せるわけではない
プラネタリウムは星を投影するための装置なので、出せる映像が限られている。
ジバニャンが走り回ったりするのはもちろん特別な映像があってのことなので、普通にカメラで撮った写真なんかは出せない。(パワーポイントを出してみたけど、絵がゆがんで大変なことになった)
ドーム全体で使えるのは、星空と、プラネタリウム用にあらかじめ用意された素材(夜景とか)いくつか。それだけだ。もちろん機材や予算によって変わってくるだろうけど、今回の場合。
で、代わりに教えてもらったノウハウがこれである。
夜景の360度背景に、プロジェクターを足した
普通のプロジェクターを置いて、ドームを大画面として使う方法。これだと前方しか写らないけど、なにぶんでかいので大迫力である。
矢印が本物の人間
でかいだけでなく、ドームなので映像の上のほうはこちらにせり出してくる。3D映像も顔負けの没入感である。今回はステージ上の試合の様子をプロジェクターで投影、さらに通常のプラネタリウムも組み合わせることにした。「星空をバックにプロジェクターで試合の様子を投影する」のだ。
都会で星が消える理由
話が逸れるが、田舎の星空は美しいけど東京には星が少ない。これはなぜだろう?答えは、東京の夜は明るすぎるからだ(大気汚染の話は今は置いておこう)。
同じことがプラネタリウムでも起こる。プロジェクターの映像が明るすぎると、すぐに星が見えなくなるのだ。
そういうわけで我々は、できるだけ映像の光量を抑える工夫をした。ロボット相撲の土俵を黒くして、それを置く台も黒くして、そうすると土俵が見えなくなるので…
LEDテープで囲った
さらにロボットが見えなくなると元も子もないので、上からも照らす。試行錯誤の末、マイクスタンドにLEDライト1本つけて照らすのが一番よかった
ベストコンディション!
するとどうだろう。光量を抑えたことの副産物として、プロジェクターの映像の輪郭が消え、星空に土俵の長方形とロボットだけが浮かび上がるような、スペーシーな絵が完成した。
※あいにくそのベストショットを取り忘れていたので、かわりに星空でなく異次元に迷い込んだ犬の様子を見ていただきたい。このエフェクトはラスボス戦ということで決勝戦で使用した
星空でぶつかり合うロボットたち。……宇宙戦争!
こうして今回のヘボコンのテーマは「宇宙」に決定。
1回戦は夜景+星空…つまり大気圏内を舞台に、2~3回戦は惑星+星の宇宙空間、そして3回戦は上記の異次元空間、と3つのステージを用意した。
みんなで星を作りたい
そしてもうひとつ、今回のイベントの目玉として考えていたのが、「お客さんが星を作る」演出。レーザーポインタを会場で配ってドームに当ててもらうのだ。
ヘボコンでは最後に、受賞ロボットを決める観客投票をする。そのときにみんなにベストロボットをレーザーで指してもらい、最もたくさんの星を集めたロボが勝ち、という演出をしようと思っていた。
……めちゃくちゃいいアイデアでしょう?
レーザーポインタは海外の通販サイトで1本2ドルくらいで買える。しかし調べるうちにそれらは日本の安全基準を満たしていないことがわかる。かといって国内で買うと予算の10倍だ。
予算10倍オーバー VS 失明。この天秤はどっちを選んでも問題ありすぎということで、妥協点としてたどり着いたのがこちらである。
100均のライト
キャンドゥのオンラインショップで180本注文した。投影した光はレーザーみたいに点にはならなそうだけど、少なくとも本体が光る様子は星っぽいのではないだろうか。
で、以下は本番で実際にやってみた結果。
けっこうきれい!(ピントあってなくてぼやぼやですが実物は…!)
低い位置で光るので、星というより、その下で輝く夜景のようである。後ろでモヤッとしてる陰影が、ライトの光が当たってる部分。これがみんなのライトの動きに合わせてフワフワ動く。なんだか幻想的な絵だった。
そして投票では、ロボットの説明とともに番号つきの矢印を投影。
この矢印はパワーポイントで長方形の4辺に並べていたのに、投影するとこれだけゆがむ
そしていよいよ、自分が選んだロボットの矢印の先にみんなでライトを当ててもらう。どうぞ!
ポワーン……
わ、わからない!静止画で見るとなんとなく2が明るい気がするが、実際にはこのライトが常に動くので全然わからなかった。みんなたくさんの光のうちどれが自分のだかわからず、動かして確かめようとするからだ。
結局あきらめて、1個ずつ読み上げて挙手してもらった
結果、「なんか新しいタイプのきれいな光」は見ることができたが、投票としては失敗であった。
でもこういうことがあっても「ヘボコンだからね」で笑って許される。つくづく主催者には優しいイベントなのだった。
そういうわけで、プラネタリウムで開催した宇宙ヘボコン。次のページからはそのレポートです。
宇宙ヘボコン!
さて紹介が遅れた。ヘボコンとは「技術力の低い人限定ロボコン」がフルネームである。ロボットを作る技術力がそもそもない人たちが、おもちゃを改造したりデコったりして無理やり作ってきた「自称・ロボット」を持ち寄り、戦わせるイベントである。
形態としては、土俵から出たり倒れたりしたら負けのロボット相撲トーナメント。しかしここにおいては勝利が正義ではなく、よりヘボかった者が評価される大会である。
今回はまずは受賞ロボットから順にご紹介していきたい。
受賞ロボット紹介
ちひろスペシャル(丸山ファミリー)
ミニパイロンの周りに紙粘土細工をあしらった手作り感あふれるロボット。「娘ができたときに買ってずっと保管していたワイルドミニ四駆を中に入れました(お父さん)」。
かわいい見た目とエピソードで会場をほっこりさせておきながら、スピードと馬力を兼ね備えた圧倒的な推進力で、あらゆる敵を瞬殺した。考えてみれば、なんで娘ができたときにワイルドミニ四駆を買うのかも謎である。
1回戦~決勝戦の瞬殺の様子
ヘボコンでは試合ごとに敗者のパーツを勝者がひとつ受け取るという伝統がある。このチームはなぜか、とちゅうから負けたチームのパーツでなく子どもが一人、優勝チームに合流。一緒に表彰されるというほほえましい(?)エピソードもあった。
賞品を受け取ったちひろちゃん(左)と、よその子(右)
ガーガーダック号(チーム鳥)
夏休みの工作として作られたロボット。学校で急に「ヘボコンのロボット作りました!」と言われても「えっ?」ってことになりそうだが、説明として模造紙にびっしりのレポートまでセットになっており、有無を言わせぬ宿題力である。(ちなみにいったん提出して、本来まだ返却されないものをイベント用に無理やり引き上げてきたそうだ)
ヘボコンの概念説明から製作記まで網羅されたレポート。抜かりなし。
特筆すべくは操縦のすばらしさ。作って満足して操作練習してこない出場者が大半を占めるヘボコンにおいて、「サイドに回り込む」「引いて体勢を立て直す」など戦略的な立ち回りで相手を圧倒しての準優勝。
この華麗な立ち回り!
佐久市子ども未来館の館長である、なおやマン氏による審査員賞。
お前の大切なものをぶち壊し号(信州たくみ組)
タミヤのアクリルロボットキットを気持ちの悪い色の紙粘土で固め、しかもキット部分はちょっと壊れている
一緒に司会をした編集部の古賀さんいわく、「ジブリ映画の不気味なところだけ抜いてきたようなロボ」。
形状は一応パンチの形なのだが、紙粘土がちょっと乾いてなかったり、まったく意図不明に飼い猫の写真が乗っていたりと、異界系の怖さである。
ロボット名を聞くと「お前の大切なものをぶち壊し号」だという。それが初戦で当たったのがさきほどの自由研究の子。会場からは悲鳴が上がったが、実際に戦ってみると…
瞬殺
動画ではわかりにくいけど、相手に接触する以前にパンチがもげ、自己大破していた
本大会最大のかませ犬として活躍してくれた。
なお、館長からの審査コメントは「スクリーン越しで見ると気持ち悪く、間近で見るともっと気持ち悪い。今夜の夢に確実に出てくるでしょう」。
キラキラちゃん(チームえま)
過去、ヘボコンでは「電車にロボットを忘れた」「法事よりヘボコンを優先しようとして離婚寸前になり欠席」などの伝説的エピソードが多数あったのだが、それに新たな1ページを付け加えてくれたのがこのキラキラちゃん。
といっても、当日ロボットを持参できなかったわけではない。ちゃんと作って、会場まで運んだ。上に貼った写真も撮った。ロボットの設定もしっかりしている。「お姫様だから戦わない」のだそうだ。ロボットバトルイベントとしては異色だが、それはもはや些細な話である。とにかく作者(小さな女の子だ)はちゃんと写真を撮って、席にロボットを置いたのだ。それからいったん席を離れてどこかへ行って戻ってきたとき、事件は起きた。彼女はロボットがあるのを忘れて、その上に座ったのだ。
暗いプラネタリウムならではの奇跡である
なんとか、ロボットはプリンセスの体裁だけはとどめたものの、試合においてはこんなかんじであった。
「戦わないプリンセス」と聞いて凛として無抵抗で敵前に立ちはだかる姿を想像したのだが、上に座っちゃったおかげでこの有様だ。
しかしここはヘボコン、ヘボい者がもっともすばらしい世界である。この子に賞を与えずにはいられるだろうか。答えは否。
堂々のデイリーポータルZ賞である。おめでとう!
さて最後に、ヘボコンにおいて最高位の賞とされる、通称:最ヘボ賞。前ページで書いた投票で決める賞であ
ひろっしーに1号(チームCOX)
男性3人組のチームで、とにかくこの顔の説明をしないことには何も頭に入ってこないだろうと思うので先に言うと、彼らの会社の社長の顔である。ロボットの材料はブラシや洗濯板、シェーバーなどすべて日用品。歯ブラシの足をシェーバーで振動させて進む。
そして雑な加工の会社PR
ビッグツリー(中山ファミリー)
こちらは息子さんの顔写真と手形をフィーチャーしたロボ。まさかの、顔・正面対決だ。なお先ほどの写真を見返していただくとわかるが、この赤ちゃんの顔と正面からぶつかるであろう社長の顔の横に「ぶっちゅ~」って書いてあって本当に嫌。
そんな試合の様子はGIFでどうぞ。20人ほど会場に来ていた同僚(社長含む)の目の前での出来事である。左が社長ロボ。
手形を使ったことが功を奏して、社長とのキスを完全に拒否する形で赤ちゃんが押し出し勝利。
繰り返すが、20人ほど会場に来ていた同僚(社長含む)の目の前での出来事であった。
そういった大人の人間関係も汲まれての受賞。
その他のロボット
つづいて、ここまでに未登場のロボットもご紹介していこう。
ブルバグ(チームDAI DAI)。ブルドッグ+バグ(タミヤのアクリル昆虫キット)で「ブルバグ」。ただおもりとしてどこにもつながっていない単2電池を4本搭載。意味あんのかなと思いきや、わりと功を奏す。
スーパーロボット(山下ファミリー)。あんまり意味ないけどめちゃくちゃ手が回る。馬力はあるがすくい上げに弱いキャタピラタイプ。ブルバグの斜面に乗り上げるも、単に飾りでついていた尻尾が偶然つっかえ棒になり勝利する、名勝負を展開。
イエティ(坪井悠)。振動で動くタミヤのボクシングロボを使用しつつ、振動を吸収する発泡スチロールで前後を固めてしまう。見ていて試合直後からおもわず「もうだめだ」を連呼してしまった。
イナヅマ・シロ(高安まあや)。キャタピラタイプで馬力もすばやさもあるが、上記のイエティを相手に、ちょっと見せ場を作らせてあげてから攻め込むなどの優しい側面も。
へぼたろうメカ上号(大槻星午)。お腹につけいているアイロンビーズで書いた「1」号が鏡文字になってしまい、結果「上」号に。後述するこころのミュージカル号に、端に追い詰められじわじわ倒される。
ぢゃっぷる(よっしー・はるき)。上向きに吹き戻しがついており、武器として作用しないのでは?と思ったが、実際に吹いてみるとそこから小さな破片が飛び出す。しかし実戦では発動前に優勝機に瞬殺された。
グリーン車2号(池澤あやか)。自然がテーマで、会場のある佐久で採った雑草をあしらう。何がすごいって土台の粘土にコケが練りこまれている。自然愛を通り越して執念、いや怨念になりつつあるのでは。
バトル農業1号(小林ひであき)。主に鳥よけグッズを使用し、本体中央には豊作を願いせんべいを実装。グリーン車2号との対決では、自然 VS 文明の代表戦となるも、勝利してわれわれの文明は守られた。
ヤマボット(ヤマ部)。山。動かすと上の河口からティッシュ?が出入りするようになっており、そこにセットされた火山岩が飛び出す。攻撃には一切役立たないギミックだったが、本体は普通に強かった。
最後に、賞は逃したものの個人的に印象に残ったロボをもうひとつ。
佐久市コスモホール「こころのミュージカル2017」観に来てね号(「こころのミュージカル2017」星観学園)
ロボット名にもあるミュージカルの出演者たちによる、そのキャラクターをモチーフにしたロボ。かわいい。超かわいい。そしてチームのメンバーも
衣装で非常にかわいらしく登場するのだが…
それとは裏腹に戦い方からは残忍さがにじみ出ており、えげつない戦いぶりを見せた。
1回戦。土俵いっぱいに広げた手で逃げ場をふさぎ、端に追い詰めたあとはゆっくりじわじわ殺す。
2回戦ではおしりの尖った部分を相手に向けてさらに殺意をむき出しにするも、後ろ向きになったことで駆動輪(後輪)が浮きやすくなって敗退。
確実に殺しにくる戦い方と、欲を出しすぎて負ける負け方。くわえて、壇上で宣伝の機会がなくても確実にミュージカルの宣伝ができるよう考えられたロボット名。この計算高さとかわいいロボ・衣装のギャップがたまらないロボであった。