特集 2017年9月17日
 

書き出し小説大賞第130回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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中央線に乗るとときどき電車の軋み音が、気まずくなるほどエロい喘ぎ声に聞こえることがある。自分だけかと不安に思いネットで検索してみると同様に感じる人も多く、なんでも中央線独特のエアサス音らしい。それにしてもあんなものが東京のど真ん中を走っているとは……コンビニのエロ本を規制する前になんとなかしなければならない案件ではないだろうか。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

エイが泳いでいる。ベランダの物干越しに見える。
g-udon
強く両目をつむり、満月を目の奥にしまい込む。
紀野珍
乳を揉んでいる男が、乳を揉みたいと思っている奴に敵うはずがない。
ぴすとる
牛の鳴き声は倍速で聞くと、猫の鳴き声みたいになる。
もろみじょうゆ
会社の電話は飛びはねるように鳴り、会社のユニコーンはびくっとした。
もんぜん
妹が死んだ。雨の色がいつもより暗い午後だった。
ら+
アボカドの中身をくりぬくと、空虚さだけが残った。夜が終わったのだ。
エボシロック
彼は閑話休題から帰らぬ人となった。
たこフェリー
おじさんの足の長さより、ウエストポーチの高さを覚えています。
ヘリコプター
イヤホンがダメになるタイミングでいつも男ともダメになる。
ポン酢助兵衛
道を譲って草の実を付ける。
xissa
小さな病院の待合室では、小さな同窓会が開かれている。
人馬一体勘
美の人。生き急ぐ姿は沙羅双樹。ため息すら畏れ多く、ただただ心穏やかならず。
だーたん
彫刻の足に骨董品の靴を履かせる。
井沢
トライアングルのすき間で産業を営む。
茂具田
住民票も、泣くんだぜ。
マークパン助
寸評

●g-udon氏「エイが泳いでいる〜」物干しと対比させることでエイの映像がよりクッキリ見えた。
●ぴすとる氏「乳を揉んでいる男〜」ハングリー精神。そういえば以前テレビでおっぱいの感触は時速60キロの風圧と同じと言ってた気がする。
●もんぜん氏「会社の電話は〜」ツノ付近の社員は注意が必要。
●たこフェリー氏「彼は閑話休題から〜」本題に戻れない余談の人。
●ヘリコプター氏「おじいさんの足の〜」足の短さをウエストポーチの位置で誤魔化していたのだとすると哀しい。
●マークパン助氏「住民票も〜」そういうときの住民票は、なんでこんなヤツのために確認されんとあかんねん……だと思う。

つづいては規定部門。今回のモチーフは『童話』たぶん子供向きではない。

規定部門・モチーフ『童話』

うすい三日月が浮かぶと、銀のサーカスの合図です。
あひる
夕焼けの国から赤という赤が消えてしまった事件を知っていますか。
Mc
これはまだグーとチョキとパーが仲良く暮らしていた頃のお話です。
八重樫
ここはアリに覆われたお菓子の家。
大伴
昔々、腋の処理を怠った翁ありけり。
prefab
便器さんは言いました。「和式っていいな。重いお尻に座られない」「洋式っていいな。綺麗でウォシュレットがついている」
ぐるりん
川には王様にしか見えない橋が架かっていました。
suzukishika
初めてボーイフレンド宅にお泊りした翌日から、マーサは、どうぶつとお話しできる力を失ってしまいました。
伊勢崎おかめ
ライオンのお財布はキリン革。キリンは葉っぱでお金を包む。二人並んで野原を進む。
けー
傷だらけのピアノをギシリと開くと、外はあっという間に冬になった。
けー
さかさまの童話の中で、人魚姫はもう何度生き返ったことだろう。
珠四季
結局、願いを叶えてくれたのは悪魔だけだったとさ。
住民パワー
昔々おじいさんが総務省の所管する主な法令それはとくに電波に関してですを調べていると少しだけおかしな事に今気が付きました。
菅原 aka $UZY
「いいこと言ってやろう」という顔で、白く長いヒゲを生やした、見るからに仙人ふうのおじいさんがほほえんでいます。
紀野珍
「まったくもってふけいきだ!」豚の貯金箱はおなかをゆらして言いました。小銭の音は聞こえません。
七世
部室棟の青鬼はどんなつまらない相談も親身になって聞いてくれた。
Mch
ドロシーは夢を見た。あんまり長い夢だったから、自分が花だということを忘れてしまった。
まナツ
すれっからしのJ子にも、童話みたいな恋の時代があった。
ボーフラ
奴隷たちの暴動は日常茶飯事です。
ビールおかわり
新たな地平を求め、プリンセスたちはバイクにまたがりました。
あひる
海辺のクレーンは首を長く伸ばして恐竜になる日を待っていました。
xissa
お爺さんがVR空間から戻ると、ポケットのビットコインは全て消えてしまいました。
住民パワー
「モエッ」と一言鳴いて、サトルはアキバの雑踏に消えてしまいました。
タクタクさん
註:一部不適切な表現がございますが童話としての内容を鑑み原文のままとさせて頂いております。ご了承ください。
あだんそん
寸評

●あひる氏「うすい三日月が〜」明治大正期の叙情的な世界観。うすいとひらがなにしたことでさらに雰囲気が出ている。
●八重樫氏「ここはまだグーと〜」それからというもの〜で終わる起源ばなし。
●大伴氏「ここはアリで覆われた〜」まず駆除せねば。
●ぐるりん氏「便器さんはいいました〜」野糞がいちばんというケツ論?
●けー氏「ライオンのお財布は〜」ライオンがキリン革の財布を持っている設定がイヤな緊張感を生んでいる。
●菅原 aka $UZY氏「昔々おじいさんが総務省〜」このテーマで風刺パロディは案外むずかしいが、その一線を越えたバカバカしさがあった。
●紀野珍氏「いいことを言ってやろう〜」断固スルーしたい。
●あだんそん氏「註:一部不適切な〜」過剰なコンプラによる改変は本当にやめていただきたい。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「部下・上司」
職場はキャラの宝庫である。困った部下、イヤな上司、かわいい部下、憧れの上司……。もちろん自分も他人から見れば相当キャラの立った変人かもしれない。上下関係はストレスの原因だけど少しだけ客観的にとらえれば、そこには間抜けながら味わい深いさまざまなドラマが立ち上がるのではないだろうか。締め切りは9月29日、発表は10月1日を予定している。以下の投稿フォームから部門を選択し送っていただきたい。力作待ってます!
最終選考通過者
Yuzie/terayo//morin/夏模様/青井未知/哲ロマ/
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