特集 2017年9月29日
 

行くと最低7回はくらくらするお店

気になるけど入りづらいお店に入ってみた
気になるけど入りづらいお店に入ってみた
「たばこ、弁当、ジュース」という看板を掲げているお店の軒先でビールを飲んでいる人がいた。テーブルの上には料理っぽいものも並んでいて楽しそうだ。飲み屋さんなのだろうか。気になったので勇気を出して入ってみたら、2時間の滞在で7回ほどくらくらした。
1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。

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気になっていた人が他にもいた

気になるその場所は中野坂上にある稲垣商店というお店だ。交通量の多い青梅街道沿いでニフティの近所でもある。編集部の藤原くんもこのお店の存在を知っていて、「昼間はバーガーが山積みされていますよ。坂上バーガーって名前をつけてました」という情報をくれた。坂上バーガー? なんだそれは。夜は飲み屋のようになっていることも知っていて「気になってはいたけど入る勇気はなかった」と言っている。よし、一緒に行ってみよう!
気になるあのお店に入ってみよう
気になるあのお店に入ってみよう

くらくらポイントその1「メニューはあってないようなもの」

藤原くんとお店の前で待ち合わせて店内に入った。店内、と言っても外なのだが、テーブルの周りにビールケースの椅子が並んでいる。椅子の上には大きく番号がプリントされていて、番号で注文を管理するためかと思ったが5番が2つあったので違うらしい。
ビールケースの椅子
ビールケースの椅子
席の番号ではないらしい
席の番号ではないらしい
「たばこ、ジュース」と看板が出ているだけあって、飲食スペースはたばことジュースの自動販売機で囲まれている。自動販売機でジュースを買って飲むことも可能なのだろう。すると、藤原くんが自動販売機にメニューが掲出されていることを発見した。
自動販売機の中にメニューが
自動販売機の中にメニューが
焼き鳥メニュー
焼き鳥メニュー
飲み物メニュー
飲み物メニュー
焼き鳥がALL70円で、ビールが300円。安い! そして、焼き鳥メニューの中にある「肉」が気にかかる。「肉」が何なのか確かめる意味も含め、まずは焼き鳥を注文すると、店主から「今はやってない」と答えが返ってきた。

やっていないのなら仕方ない。軒先に出ている「たこ焼き」の提灯も気になったのでたこ焼きをもらおうとすると、

「たこ焼きは随分前にやめちゃって。前はもっと広いスペースを使えていたから屋台を出して」

と店主が。
幻のたこ焼き
幻のたこ焼き
やっていないのなら、せめて提灯の灯を落とせばいいのに。と、思ってしまうが、細かいことは気にしない店主のようだ。この日の料理はテーブルに並んでいるものが全てとのことだった。
テーブルにあるものが今日の料理
テーブルにあるものが今日の料理
ゆでたまご1個50円。目玉焼き100円。ウインナー2本で200円。そしてチキンカツと白米である。

ゆでたまごと目玉焼き、どちらも好きな食べ物ではあるが一緒に二つ食べたことはないし、お酒のあてにしたこともない。なかなかアバンギャルドなラインナップである。

無難なところで、まずはウインナーをいただくことにした。
ウインナー200円
ウインナー200円
店主がレンジでチンしてくれる
店主がレンジでチンしてくれる
このあと、お酒が進みお腹が減って、結局ゆでたまごと目玉焼きも食べることになるのだが、目玉焼きもチンしてくれた。
目玉焼きをチンしてもらったのは初めてだ
目玉焼きをチンしてもらったのは初めてだ
ゆでたまごをつまみに酒を飲んだのも初めてだ
ゆでたまごをつまみに酒を飲んだのも初めてだ
メニューはあってないようなもの。それがここ稲垣商店の流儀なのだろう。ちなみに、付き出しとして出される柿の種は無料である。
付き出しの柿の種無料
付き出しの柿の種無料
楽しい? と藤原くんに聞くと、
楽しい? と藤原くんに聞くと、
3秒沈黙のあと、「はい」と答えた。
3秒沈黙のあと、「はい」と答えた。

くらくらポイントその2「店主が話し相手になってくれる」

若い女性が横に座って接客してくれるお店があるが、ここでは店主が横に座ってくれる。
店主との会話タイム
店主との会話タイム
若い女性が座るお店では高いお酒を注文されたりするらしいが、稲垣商店の店主はお酒を一切飲まない。タバコもやらない。

「ものすごく健康じゃないですか!」

と僕が言うと、

「いや、そんなことないよ。肝臓やられて何回も入院してるから」

と店主。

働き過ぎて過労になり、肝臓をやられてしまったのだという。
働き者の店主さん
働き者の店主さん
このお店は今から20年ほど前にご両親から受け継いだらしいのだが、その前はシェフやトラック運転手などの職に就き、寝る間も惜しんで働いてきたという。

「睡眠時間は1日、1〜2時間だったからね」

今のお店も朝5時から仕込みを始めるのだとか。仕込みと言っても、今目の前に並んでいるのはゆでたまごと目玉焼きとチキンカツである。そんなに時間がかかるとは思えない。

「仕込みはお昼のお弁当ね。10月からはバーガーも始めるから」

藤原くんが見かけたという山積みのバーガーのことだろう。毎年、10月から6月までは朝にバーガーを販売するらしい。
名物、坂上バーガーののぼりが店内に
名物、坂上バーガーののぼりが店内に
ちなみにお昼のお弁当は380円。希望すればどんな料理でもカレーをかけてくれる。
お弁当380円。
お弁当380円。
サービスのカレー
サービスのカレー
ここで、あることに気づいてしまった。

テーブルの上にゆでたまごと一緒に並んでいたチキンカツのことだ。
このチキンカツは…
このチキンカツは…
このチキンカツって、もしかして…、

「そう。お昼のあまりだよ。もし食べるんだったらチンしてカレーかけてあげる」

ゆでたまごと目玉焼きでお腹が満たされていたので、丁重にお断りした。

すると、「ここ、ずっと気になってたんすよ!」

と男性二人組みがお店に入ってきた。
新たなお客が来店
新たなお客が来店
新たなお客が来たことで、店主との会話タイムは強制終了となった。

くらくらポイントその3「ギリ、路上ではない」

稲垣商店で飲んでいると、気になることがある。それは、道行く人たちの視線である。
道行く人たちの視線が気になる
道行く人たちの視線が気になる
最初にここを見かけた時、僕が抱いた「なんだろう、ここ?」という感覚。道行く人たちがそれを感じているのが視線で分かる。
親戚の集まりのようでもある
親戚の集まりのようでもある
「でも、路上だったらこういうクッションはないですから」

と、藤原くんが番号の印刷されたクッションを指して言う。

それを聞いて僕はハッとした。

道行く人たちから見たら、路上で缶ビールを飲んでいるのとほぼ変わりがないのだ。藤原くんはそのことを最初から感じていて、クッションがあることでギリギリ路上ではないと自分に言い聞かせているのだろう。

「そうだな、こうして庇があって雨露もしのげるしな」

と、僕が言うと、
庇のおかげで雨露もしのげる
庇のおかげで雨露もしのげる
「僕のところは庇が届いてないですけど」

と藤原くんが笑う。
藤原くんの席は庇の外
藤原くんの席は庇の外
「でも、そっちは道路に背を向けてるからまだいいよ。こっちは視線がダイレクトだから」

どっちが路上に近いのか。言い合うことに全く生産性がないことに気づき、この会話を終えることにした。

いずれにしても、ここは、ギリ、路上ではない。

くらくらポイントその4「我慢することの尊さ」

お腹が空いているのだろうか。藤原くんが2個目のゆでたまごに手を伸ばす。
2個目のゆでたまごを手に取る藤原くん
2個目のゆでたまごを手に取る藤原くん
二人の会話を引き裂くように、緊急車両がけたたましくサイレンを鳴らしながら青梅街道を行く。
緊急車両が通る
緊急車両が通る
そして、タバコを求めてお客がやって来る。
タバコを買いに来たお客
タバコを買いに来たお客
自動販売機の調子が悪いらしく、店主が販売機の鍵を開けて中から商品を取り出そうとしている。

しかし、お目当てのタバコは売り切れらしい。

「明日の朝には入るから、それまで我慢できる?」

と、店主が聞くと、お客は「うん」と頷いて帰っていった。
素直に帰るお客さん
素直に帰るお客さん
稲垣商店において、ないものはないのだ。僕だったらコンビニに寄って調達してしまうかもしれないが、あのお客はきっと一晩我慢するのだろう。

我慢することの尊さ。

そんなことも稲垣商店は教えてくれる。

くらくらポイントその5「トイレは信号を待って道路を渡れ」

我慢といえば、しばらく尿意を我慢していることに気づいた。そして、3本目のビールを飲み干した頃、
我慢が限界を迎えた。
尿意が限界に
尿意が限界に
そういえばトイレはどこにあるのだろう? (本当の)店内だろうか。

「トイレはね、道路渡った先にある公園のトイレ使ってくれる。悪いね」

と、店主。

そ、そ、そうなのか! 信号を待って道路を渡り公園のトイレで用を足す。それがここの流儀なのだ。
信号を待って
信号を待って
道路を渡って公園を目指す
道路を渡って公園を目指す
公園のトイレで用を足し、再び道路を渡ってお店に戻る。
お店に戻るには再び道路を渡る必要がある
お店に戻るには再び道路を渡る必要がある
川を渡って彼岸に行くようなことだろうか。トイレで悟りが開けた訳ではないが酔いは覚めた。

藤原くんにそんな感想を伝えると、

「どっちかと言うと、こっちが彼岸っぽいですけど」

と、冷静な答えが返ってきて、さらに酔いが覚めた。

くらくらポイントその6「社交性が開花する」

トイレから戻り、驚いたことがある。

それは、藤原くんの変化である。
トイレに行っている間に、藤原くんに変化が
トイレに行っている間に、藤原くんに変化が
「隣のお客さん、職場がここら辺でずっと前からこの店が気になっていたらしいですよ」

と、お隣さんの情報をぶち込んできた。

「話しかけたのか?」

と聞くと、藤原くんが黙って頷く。
話しかけたのか?
話しかけたのか?
藤原くんと知り合って10年以上、彼が初めて見せた社交性である。

オープンでフリーダムな稲垣商店の空気感がそうさせたのだろうか。

稲垣商店が一人の青年を成長させてくれた。

くらくらポイントその7「財布に優しい」

ジャンプ発売日に店頭に出ると思われる看板
ジャンプ発売日に店頭に出ると思われる看板
目玉焼きのサンプル
目玉焼きのサンプル
バーガーが10月から再開されることを知らせる看板
バーガーが10月から再開されることを知らせる看板
仮眠を取る店主
仮眠を取る店主
稲垣商店で飲み始めて約2時間、僕と藤原くんはそれぞれビールを3本ずつ飲み、目玉焼きとゆでたまごを食べ(藤原くんは2個)、藤原くんに社交性が芽生え、色々なくらくらが続いたのでお会計をお願いした。

値段は2人で2,200円(税込)。

デフレスパイラル!

道行く人の視線もビール3本目くらいから気にならなくなるし、かろうじて店だし、安いし、良いことづくめであった。
楽しいお店でした
楽しいお店でした

稲垣商店でのお酒に不満があった訳ではないが、僕と藤原くんは新宿の蕎麦屋さんに流れた。そこで、だし巻き卵とうずらの卵の味噌煮を頼んで気づいた。俺たちは卵を食べ過ぎてやしないか。2軒目に流れてもなお、稲垣商店の手の平で踊らされているような気持ちになった。稲垣商店、恐るべしである。
〆はお蕎麦で
〆はお蕎麦で
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