特集 2017年10月15日
 

書き出し小説大賞第132回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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急に肌寒くなった。街ゆく人は衣替え、近づくハロウィンでオバケが増え、選挙カーからは妖怪じみた候補者たちが寒い持論を展開する。小さい秋はなんだか、毎年見つけづらくなってる気がする。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しよう。

書き出し自由部門

息子の反抗期は、まず苗字の書き順に表れた。
八重樫
サトコの涙はちょうどワイパーの届かないところに落ちた。
Mch
見知らぬ土地の三三七拍子を聞いている。
井沢
人工知能が人から奪ったものは、想像力だった。
君と僕と雨
定置網から出られなくなった父を海女だった母が助けたのが二人の馴れ初めだ。
prefab
俺より尾の長い男がいる。奴との出会いは、丸い月の下の廃工場だった。
けー
私の精子を覗き込むノッコの背中は、寝室でも研究室でも、まるで同じだ。
けー
芸術家気取りの男が泣いた。誰も見ていない時だけ彼は美しかった。
正夢の3人目
生き埋められている。少しだけ、話をしよう。
正夢の3人目
男女混合のバンドってあるじゃん。そこでキーボード弾いてますみたいな感じの女。
muddom
部屋に見慣れない部品が落ちているのを見掛けて以来、体調が悪い。
ぐるりん
父が入所する前に、鼻毛を切ってやろうかと、ふと考える。
ボーフラ
第三駐車場から来た従業員と第二駐車場から来た業者が合流し一日が始まる。
ヘリコプター
自決用に渡されたカプセルを噛みつぶすと、三陸の海の幸の味が広がりました。
いそかぜ
「世界中のポップコーンと弾丸が入れ替わったら、世界は平和になるのかな」彼女がそう呟くと、僕の奥歯は鉛の玉に砕かれた。
水素飯
寸評。

●八重樫氏「息子の反抗期〜」小さな予兆がリアリティを増す。親への反抗を苗字に見た視点が上手い。
●Mch氏「サトコの涙〜」ドライブ中の別れ話だろうか、巧みは比喩で情景まで立ち上がる。
●けー氏「俺より尾の長い〜」不穏で硬質なイメージ。どんなジャンルの物語、分からないぶん引き寄せられる。
●muddom氏「男女混合の〜」勝手な憶測だが、おかっばのグラサン(無口)というイメージが浮かぶ。
●ボーフラ氏「父が入所する前に〜」老人ホームのことだろう。やさしいようで残酷でもある。年月を経た親子の達観がある。
●ヘリコプター氏「第三駐車場から〜」筆者は毎朝どこから合流を見ているのか?気になる。
●いそかぜ氏「自決用に〜」まさかの海の幸にまさかの「〜ました」調。後半の脱力感がよい。

続いては規定部門。今回のモチーフは『散歩』であった。

規定部門・モチーフ『散歩』

飲み過ぎて乗り過ごして散歩している。
xissa
散歩途中でここに就職した。
紀野珍
たぶん、前世で曲がった事がある角だ。
魚子
春夏秋冬、全部見つけた。
トミ子
祖父はパトロールと呼び、祖母は徘徊と呼んだ。
Mch
縄文土器のようなゴムサンダル。いつもすれ違う近所の男と私との共通点だ。
g-udon
巨人は、「おさんぽ」とかわいく言うことで、惨状をうやむやにした。
松っこ
カーブミラーで自分を確認した。
ヘリコプター
転がってきた声たちは、私の横を園児になって通り過ぎ、また声になって転がってゆく。
ねもっ血風クン
男と男の意地のぶつかり合いが散歩を競歩に変えた。
ぐるりん
俺の散歩コースに変質者が出るらしい。俺は急にコート一枚である事が心細くなった。
ぐるりん
日課の散歩をやめた。不審者の目撃情報がぱったりやんだ。
紀野珍
行きずりの女と歩いた。
suzukishika
他人の庭にタイトルをつけていった。
もんぜん
ドーベルマンから逃げることをこの国では散歩と呼ぶ。
もんぜん
少し歩くたびに、合体ロボのパーツを拾う。
タクタクさん
サルとキジに出会うまでは、正直言って散歩気分でした。
ろっさん
散歩の途中で、年収が2倍になる方法を思いついた。
住民パワー
色あせた迷い亀の貼り紙が、秋の風に揺れている。
大伴
散歩は、変身をあと2回残していた。
薬指のペンだ子
借りがあった電波塔までたどり着いた。彼は眠ったふりをしている。
あひる
ズボンのチャックを上げたり下げたりして歩く。明日、明後日、町内会、さらに先の未来、穏やかな老後。確率は振り子のようにゆり動いた。
雨の日は寝る
私の散歩はだいたい通報されて終わる。
哲ロマ
寸評。

●xissa氏「飲み過ぎて乗り過ごして〜」月と一緒に歩いているうちにとてつもない『自由』を感じることがある。
●トミ子氏「春夏秋冬〜」小さい秋だけじゃない。泉谷しげるの代表曲は散歩中に生まれたのかもしれない。
●g-udon氏「縄文土器のような〜」あの茶色い便所スリッパはたしかに縄文モデル。
●松っこ氏「巨人は、おさんぽ〜」鬼太郎の名作『原始さん』を思い出しました。
●ヘリコプター氏「カーブミラーで自分を〜」私も前々からカーブミラーに映る徒歩の自分を間抜けだなと思っていました。
●ねもっ血風クン「転がってきた声たち〜」散歩中にすれ違う子供たちの声をまさに言い当てた表現。微笑ましくもあり切なくもある。
●住民パワー氏「散歩の途中で、年収が2倍〜」大儲けではなく2倍というころが逆に違法臭い。
●雨の日は寝る氏「ズボンのチャックを〜」明日、明後日のあとに突如出てくる町内会。ここから複雑系の世界へ入る。
●哲ロマ氏「私の散歩は〜」帰りはパトカー。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「ラーメン」
次回のモチーフは最早国民食と言っていいラーメン。醤油、味噌、塩、豚骨系、さまざまな種類があり、トッピングも豊富、思いつくワードだけでも行列、スープ、カップラーメン……ネタ的にも作りやすいお題ではないだろうか。急に肌寒くなったこの時期、書き出しラーメンで温まろうではありませんか。締め切りは10月27日正午、発表は29日を予定している。下の投稿フォームから部門を選らんで送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者
あや幹部/茂具田/morin/いずいず/もろみじょうゆ/彼奴の2コ下七世/もがり陶子/吉田髑髏/きょうこ/ウチボリ/
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