特集 2017年10月30日
 

もう”どこの馬の骨かもわからない”なんて言わない!

馬の骨とひたすら向き合う記事です
馬の骨とひたすら向き合う記事です
「どこの馬の骨かもわからない」という言葉がある。この言葉を使う機会があるとしたら、やはり大事に育ててきた愛娘が素性の知れない男を家に連れて来たときだと思う。

「娘さんを…ぼくにください!」
「フン、こんなどこの馬の骨かもわからないやつとの結婚など認めん!」
「お父さん!」

世の男たちはこんな台詞を吐いて大切な愛娘に嫌われたくないだろう。すべての要因はどこの馬の骨かわからないことにあるのだ。大丈夫、みんなでどこの馬の骨かわかるようになろう。
埼玉生まれ、神奈川育ち、東京在住。会社員。好きなキリンはアミメキリンです。右足ばかり靴のかかとがすり減ります。

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クイズ!馬の骨を作った

さっそくだがこれを見て欲しい。カードゲーム『クイズ!馬の骨』だ。
これをカットして裏表を貼り合わせる
これをカットして裏表を貼り合わせる
オモテにはパーツごとに分かれた骨のイラストが、裏面に骨の名称とどこの骨かがわかる図解、簡単な解説が書かれており、楽しみながら馬の骨を学ぶことができるカードである。
一生役に立たないロゴもできた。かわいい
一生役に立たないロゴもできた。かわいい
ではプレイする様子を見ていただこう。シャッフルして何枚かひいてみる。
第1問!
第1問!
ふむ、これは上部が半円形になっているのが他の骨にはない特徴だ(この半円部分は軟骨のため標本にすると溶けてしまうらしい)。
簡単簡単、この馬の骨は…肩甲骨!
やったー!骨格上赤く色づいているのが肩甲骨
やったー!骨格上赤く色づいているのが肩甲骨
正解だー!人間と違って馬には鎖骨がなく、肩甲骨などは筋肉で繋がっている。その結果四肢を前後に大きく振ることができるのだ。
第2問!
第2問!
ははーん、これは馬ならではの特徴的な良いパーツだ。この馬の骨は…踵骨!
連続正解!
連続正解!
やったー!速く走ることを求めた結果指が1本へ進化し、ひづめとなったロマンあふれる骨である。
大丈夫ですか?まだみんなついてきていますか?いったん最終問題にしますね。
ラスト!
ラスト!
はーなるほど。これはひとつの骨というより集合体だ。ちょっと迷うところだけど、副手骨の形ではっきりと飛節構成骨と区別ができる。みんなで一斉に答えてみよう。この馬の骨は、せーの…
腕関節構成骨!
正解だー!
正解だー!
うぉーやったー!これでおれは馬のどこの骨かわかる男だ!!

複数人で遊ぶ場合はカルタのように「大腿骨〜」と読み上げ、札を取り合ったりすると切磋琢磨しながら馬のどこの骨かわかるようになるだろう。

カードのデータを配布するのでぜひ活用して欲しい。
『クイズ!馬の骨』のデータはこちら
※あくまで素人なりの解釈です。正確な情報お待ちしております

一度冷静になろう

さて、ここまで読んだところで読者の中には気づいた方もいるかもしれない。
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そうなのだ、似てるけど違うのだ。わかっている。おれだってどこの馬の骨かわかりたかった。しかしそれは想像以上に険しい茨の道だったのだ。

クイズ!馬の骨を披露することができたのでおれは満足しているのだけど、お時間のある方はどこの馬の骨かわかりたかった男が奔走するその一部始終をご覧ください。

とりあえず馬の博物館へ行った

『クイズ!馬の骨』の制作から遡ること2週間。とにかく馬のことを知ろうと訪れたのは横浜にある馬の博物館。
横浜に10年以上住んでいたが、全くその存在を知らなかった。公式サイトを見ると馬の全身骨格が多数展示されている様子。これは期待できる!
期待に溢れていた頃の笑顔
期待に溢れていた頃の笑顔
入り口には馬のアーチ。帰る頃にはこの大きさのアーチが跡形もなく消えていて夢かと思った
入り口には馬のアーチ。帰る頃にはこの大きさのアーチが跡形もなく消えていて夢かと思った
まずはどうなれば”どこの馬の骨かわかる”状態と言えるかを考えた。
調べてみると、例えば有名なサラブレッドはイギリスが原産、もっとも頭数の多いクォーターホースはアメリカが原産だという。こうしてこれらの馬の骨を比較し、「この特徴を持つということはイギリスの馬の骨だ!」と当てることができればミッションクリアと言えよう。

さて、馬の博物館でこれらを学ぶことができるだろうか。
序盤では馬が活躍した戦国時代の合戦の様子や競馬の歴史などを学ぶことができる。後ろ髪を引かれる思いで、今回は飛ばす。
馬力(ばりき)を測るコーナーは見逃せない
馬力(ばりき)を測るコーナーは見逃せない
馬頭琴だ。スーホ…!
馬頭琴だ。スーホ…!
自分が0.1馬力であることに気づかされたりとわりと満喫しながら奥へ進み、馬の博物館の最深部、馬の全身骨格のコーナーへ。

馬の骨との出会いと瓦解

馬だ!
馬だ!
出た!という感じだった。5頭もの馬の骨が並ぶと壮観だ。この奥には名前の通りモンゴル原産のモウコノウマもいる。馬は綺麗な動物だなぁと常々思っていたけど、こうして眺めると骨格だけでも本当に端整で見惚れる。

しかしここで大きな問題が発生する。わからないのだ。じーっと観察してそれぞれの馬を比べてみるが、よくわからない。大きさが違うことはわかる。それしかわからない。
そもそもサラブレッドの隣にいるのは鎌倉時代の馬だ。どう比較すればいいんだ。
頼みの綱の解説も心もとない
頼みの綱の解説も心もとない
骨格の脇に添えられた解説を読めば何かわかるかも!と走り寄るも収穫はない。
”口の中に牙があるかないかでオスかメスかがわかる 歯の減り方でだいたい何才かがわかる”
答えは書かれていない。なぞなぞだろうか。牙があるのはオスなのかメスなのか。

ちなみにあとで調べたらヨーロッパのことわざに「もらった馬の口はのぞくな」というものがあるらしい。歯を見れば馬の年齢はわかるけど、もらったものを値踏みするのは失礼なことですよ、ということらしい。へー。
きみはどこの馬だ
きみはどこの馬だ
解説をしてくれそうな方を求めて館内を探すも気配はない。
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落ち着いて情報を集めよう

さすがになんの下調べもせずに馬の博物館へ行っても無茶が過ぎた。
あれから1週間。反省して図書館やネットサーフィンで勉強しながら馬の生態に詳しい人を募集したところ、ポツポツと情報が集まり始めた。乗馬クラブで働く人、競馬関係者などなど…頼もしい!

手に入った情報

1.馬の骨、語源は中国
馬の骨とは、鶏の肋骨と並んで中国で役に立たないものの代表として使われた言葉らしい
馬の骨とは、鶏の肋骨と並んで中国で役に立たないものの代表として使われた言葉らしい
鶏の肋骨は小さすぎて使い道がなく、馬の骨は役に立たない上に大きすぎて処分に困ることから誰にも必要とされないものを意味するようになった。そこから「素性がわからない者」という意味が加わり、現在のように使われるようになったという。
2.馬は主に体格で重種、中間種、軽種、ポニーの4つにわかれる。
3.ばんえい競馬に使われる重種はヨーロッパ産。サラブレッドは軽種、日本の在来馬はすべてポニー。
4.同じサラブレッドで比較しても日本のものより海外の馬の方が線が太い。
5.一般的には胸部・背部、腰部、尾部にそれぞれ18本、6本、18本の脊椎があるのに対して、アラブという種はそれぞれ17本、5本、16本と少ない。
最後のアラブ種の情報なんて解決の糸口になるのではないか!?あと、馬好きの方々に共通していたのはサラブレッドを「サラ」と呼んでいたこと。普段触れることのない世界が垣間見えてホクホクした。
話の流れとは関係ないけど馬の博物館ではゴリラに見えるポニーぬいぐるみが大人気です
話の流れとは関係ないけど馬の博物館ではゴリラに見えるポニーぬいぐるみが大人気です
少しずつ情報は集まった。とはいえ決定打はなかなか…というジリ貧の状況のなか一筋の光がさす。なんでも獣医系の大学で解剖学を専攻しているという方から連絡が入ったのだ。
どうやらおれのやろうとしていることは”比較解剖学”の分野にあたるらしい。なんかわからないけど格好いい!やったー!

比較解剖学を学ぶ

やったーではない、まだ何も解決していない。
文献や周囲の詳しい方にあたっていただけるとのことで待つこと数日。進捗報告とともに届いたのはいくつかの英語の論文だった。英語…!
アルファベットしかない
アルファベットしかない
めくるめくローマ字にたじろぐ。英語はからっきしなのだ。外国人に道を訊かれても巧みなボディランゲージと日本語だけでどうにかしてしまう男なのだ。
ましてや専門用語の多い論文。ボディーランゲージが通用するわけもなく翻訳ソフトに頼りながら読み進む。馬の種類による形態学的な違いに言及したもの、頭蓋骨の新しい測定方法について、手根骨の比較、舟状骨の比較…

で、結論から言うと、おれがこれらの論文から有益な情報を拾ってくることは到底無理でした。アラブ種をアラブ人と翻訳してくるのが楽しかったです。
サラブレッドとアラブ人の鼻の長さを比較している
サラブレッドとアラブ人の鼻の長さを比較している
英語力もさることながら、果たして全種類の情報をかき集めることなんて可能なのか…?

今更ながらいったい何種を見分ければいいのだと調べてみると「世界に250種類いる馬の種類」という文字が目に入り、おれは静かにブラウザを閉じた(脚注:はじめに調べておくべき事項だ)。
冷や汗が最上川くらい集まった瞬間である
冷や汗が最上川くらい集まった瞬間である
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もう、馬のどこの骨かわからないとは言わせない

そういったわけで話は冒頭に戻る。どこの馬の骨かはわからなくとも、馬のどこの骨かなら凡人でも頑張ればわかるのだ。100点のゴールじゃないが、おれには馬の骨の知識と『クイズ!馬の骨』たちが残った。きっといい経験だった。

みんなもこの機会に馬の骨を学んで、愛娘が連れてきた素性の知れない男と『クイズ!馬の骨』を楽しんで欲しい。

馬の骨と向き合った挑戦と挫折の日々

久しぶりに論文とにらめっこしながら途方にくれた日々だった。迷走して馬の骨を作ったりしたけど最後まで役には立たなかった。一に鶏肋、二に馬骨とはよく言ったものだ。
無駄に上手くできた
無駄に上手くできた
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