特集 2017年10月31日

真空管テレビでピコ太郎とTwitterと未来を映したら、感動した

真空管テレビの中には、あのとき夢見ていた未来のロボットが。
真空管テレビの中には、あのとき夢見ていた未来のロボットが。
ALWAYS 三丁目の夕日にも登場した「真空管テレビ」。日本のテレビ史の幕開けを告げた一機だ。

「画面が出るまでに何分もかかる…」「壊れたら叩かなきゃ映らない」などの伝説は聞くが、実際に動くところを見たことはない。

真空管テレビを映したい。そして、映るはずの無かったあのときの未来(2017年)を映したら、今と昔が融合するギャップを味わえて、ついでに何か気づきがあるかも知れない。

その貴重な真空管テレビを、映る状態で持っている方が静岡市清水区に居た。僕は東海道本線に飛び乗り、運賃2518円を費やしてそこを目指した。
ライター、番組リサーチャー。過去に秘密のケンミンSHOWを7年担当し、ローカルネタにそこそこくわしい。「幻の○○」など、夢の跡を調べて歩くことがライフワークのひとつ。ほか卓球、カップラーメン、競馬が好き。(動画インタビュー

前の記事:清水で57年愛!味噌溶き系ラーメン~透明スープに客が味噌を溶き、自分の味を作る~

> 個人サイト 文化放想ホームランライター

お昼どきは無人になる東海道本線・興津駅
お昼どきは無人になる東海道本線・興津駅
3時間44分の道のりを越えて、やってきたJR興津駅。東海道の宿場町だが、清水駅の隣だが周囲にほぼお店が無い、地方に来た感たっぷりの駅だ。実は前回の「味噌溶き系ラーメン」の記事でも来ており、不思議な縁を感じつつ歩く。
テラスにある「明治ゴールド牛乳」のベンチがまぶしい
テラスにある「明治ゴールド牛乳」のベンチがまぶしい
東海道ゆかりの道を12分ほど歩いて着いたのがこちら。建設会社のオフィスの一角に、遊び心のある「レトロなものばかりの部屋」があるという。
貴重なレトロコレクションをお持ちである、木下さん
貴重なレトロコレクションをお持ちである、木下さん
こちらが木下英人さん。レトロマニアとして数多くのレトログッズを収集している建設会社の社長さんだ。そしてその中でとっておきに貴重なものが、今も映像が映る真空管テレビ。これだ。

1959年製・真空管テレビ、2017年へ降臨

14型なのに、明らかにそれ以上の存在感がある
14型なのに、明らかにそれ以上の存在感がある
念願の真空管テレビを目の当たりにした。1959年製、三菱の14T-450。1959年というのがどれだけ古いかというと、鉄腕アトムのテレビ放送がはじまったのが1963年で、その4年も前だ。

今まで見てきたテレビと根本的に何かが違う。まず、テレビのまわりの枠がデカい。デザインも現在のセオリーから来たものでは無く、色づかいも実に大胆。

下部に4つ小さなつまみがあるのも見慣れない。そして一番左のダイヤルで電源のオン・オフができる。「遠い過去から来ました」感がプンプン漂う。
この分厚さ! 四角い!
この分厚さ! 四角い!
ウラ側も、何か見たことのないフォルム
ウラ側も、何か見たことのないフォルム

映してみよう

ボディはなんと木製。その重厚感たるや、ただの「電化製品」では無く、タンスのような「家具」に近い異質の存在感。まずはこの真空管テレビでDVDの映像を映していただいた。

電源を入れたが……やはり伝説の通り「なかなか映像が現れない」。有名なこの現象を体感できて嬉しい。1分ぐらい待って……映し出されたのが、これだ。
とにかく、映像の出方が淡い・・・!
とにかく、映像の出方が淡い・・・!
この映像のコントラストの薄さ! 観るほうはおぼろげながら雰囲気で全体像をつかむ感じ。「あぶり出し」を見る感覚にも似ている。そのため当時は部屋を暗くして観るのも推奨されていたそう。

ネットにつなごう

さあ、この真空管テレビをインターネットにつなごう。それに必要なのは以下の3つだ。

1:HDMI信号をHDMI to RCAコンバーターでRCA信号に変える
2:RCA信号をRFコンバーターでRF信号に変える
3:チャンネルは1か2にする(今回は1)

この3つの作業を無事に行えば、PC画面を真空管テレビに映せる。すでに2と3はやっていただいているので、新たに行う必要があるのは1だけ。

…一見カンタンそうだが、実はここから色々難航したのだ…が、まずはその苦労の末の結果を見ていただこう。これだ。
Windows10の画面が……真空管テレビに映った!
Windows10の画面が……真空管テレビに映った!
Windows10を搭載した2017年式PCと真空管テレビが、いまつながった! それにしても・・・映りが全体的に極めて薄い。特に文字を映して改めて思うのが、「何を書いているのかわからない」のだ。

現在のディスプレイではありえないほどのぼんやり表示に、58年間の歳月を想う。ただ、それすらも感慨深い。

あの時の未来(2017年)をいろいろ見ていこう

真空管テレビでもかわいい
真空管テレビでもかわいい
まずは、2010年代のアイドルCMの代表とも言える、乃木坂46出演のマウスコンピューターのCM。真空管テレビでも白石麻衣嬢のかわいさは画質を飛び越えてくる。
二郎系ラーメンがおいしそうに見えない
二郎系ラーメンがおいしそうに見えない
さらに二郎系ラーメンを映す。しかしまるでおいしそうに見えない…「おいしさ」に色が大きく関係していることを思いがけずに学んだ。
あのピコ太郎も。「アッポーペン」のテロップが見えにくい
あのピコ太郎も。「アッポーペン」のテロップが見えにくい
なおピコ太郎の中の人・古坂大魔王氏の誕生は1973年。このテレビができた14年後。
東京タワーが作られたころのテレビで、東京スカイツリーを見る
東京タワーが作られたころのテレビで、東京スカイツリーを見る
東京タワーができたのは1958年末。1959年に作られたこのテレビは、まさにタワー時代のテレビだ。それで2012年に誕生した新東京の象徴、スカイツリーを見る。しかし真空管テレビで見ると、まるでモヤがかかったかのような姿。タワーの時代とツリーの時代が交差すると、この有様になるのだ。
渋谷スクランブル交差点。これ2017年です
渋谷スクランブル交差点。これ2017年です
渋谷スクランブル交差点の道路横断。まさに現代日本を象徴するこのシーンを映すのが真空管テレビ。過去と未来が合わさった、すぐには理解しがたいパラレルワールド感を味わう。

ちなみに渋谷にスクランブル交差点ができたのは1970年半ばごろと言われている(正確な時期はわかっていない)。
世界人口時計より。現在は74億3千万人。
世界人口時計より。現在は74億3千万人。
世界人口時計のサイトを見る。現在は74億3千万人。ちなみに1959年は30億人程度だった。58年という歳月をかけて倍増以上の人口爆発だ。そりゃ食糧危機や温暖化にもなるよなぁ。みんな、屁をこくのをやめよう。

デイリーポータルZを見よう

この真空管テレビで俺たちのデイリーポータルZを見てみよう。まずはTOPページ、これだ!
太い字とイラストのところはわかる
太い字とイラストのところはわかる
うん、なんとなく雰囲気はわかる! 太い見出し字のところと、イラストの部分、枠のところは見て取れる。しかし、他の細かい字のところがなかなか判別不能だ。ただ、それをどうにかして読み取ろうとするのが、なんだかちょっと楽しい。
ライター江ノ島さんの「コマを回しながらコーラ一気飲み芸」は確認できる
ライター江ノ島さんの「コマを回しながらコーラ一気飲み芸」は確認できる
記事も見てみよう。…写真は確認できる。ただ……小さな文字を読むのはとてもとても難しい。グッと近くに寄っても…ダメだ見えん。1959年からの手荒い洗礼を浴びる。
こちらがブラウジングしている様子
こちらがブラウジングしている様子

SNSを見てみよう

僕ら2017年を生きるネット民がもっとも見ているものは、やはりSNSであろう。それさえもこの真空管テレビで見てしまうぞ。まず・・・Facebook!
この有様です
この有様です
どうだ、この有様である。画像はもちろん、アイコンはどうにか雰囲気でつかめるものの、文字は壊滅的なレベルで読めない。58年間もの時がこのような断絶をもたらす。
インスタはまだマシかも!?
インスタはまだマシかも!?
次にInstagram! 画像中心のSNSなので、比較的良い感じ。画像投稿に加え、アイコン部分もまあどうにかわかる。もし真空管テレビでしかネットできなくなったら、Twitter派からインスタ派に鞍替えしようかな。
Twitterが変わり果てた姿に
Twitterが変わり果てた姿に
そしてこれがTwitter! やっぱり字はほぼ見えず、画像頼りだ。

真空管テレビからツイートしてみよう

こんな極限の状況から、どうにかこうにか真空管テレビからツイートしてみた。これだ。
うんっ? なんか投稿されてるけど…なんだかわからん
うんっ? なんか投稿されてるけど…なんだかわからん
おわかりだろうか。わからないと思う。こんなツイートをしたのだ。
人は不安になると、句読点が打てなくなる
人は不安になると、句読点が打てなくなる
「真空管テレビを見てタイピングしたけど、文字がたくさん間違っている」というプチボケツイートを狙ったのだが、こんなときに限ってタイプミスが少なく、あまりボケられずに終わった。

Pepperを見てみよう

Pepperが昭和30年代にタイムスリップした模様
Pepperが昭和30年代にタイムスリップした模様
あのPepperも、未来の世界から真空管テレビに参上。この2010年代の象徴とも言える彼が大昔の箱で動いているのを観ると、妙だ。
Pepperが真空管テレビで動くシーン。58年後からコンニチハ
Pepperが真空管テレビで動くシーン。58年後からコンニチハ

スプラトゥーン2のゲーム画面を見よう

続いては、2017年の大ヒットゲーム機・Nintendo Switchの超人気ソフト、スプラトゥーン2のゲーム画面を映してみる。
なんかドンパチやってる雰囲気は確認できる!
なんかドンパチやってる雰囲気は確認できる!

“カラーテレビになる秘密兵器”登場

ここで木下さんから、また貴重なものを出していただいた。当時あった、白黒テレビを「カラーテレビっぽく観る」ために作られたフィルターだ。
本当に白黒でも「カラーテレビ」っぽく見えるのか
本当に白黒でも「カラーテレビ」っぽく見えるのか
……カラーテレビには見えなかった
……カラーテレビには見えなかった
残念ながら映し出された映像はカラーテレビとはほど遠いもの…しかし、ほんの少しだけカラーっぽい雰囲気は出る。雑誌の「4色カラー」に似ているあの感じ。昔の人はこれで「おお、カラーテレビになった!」と信じた人も居たのだろう。今も昔も、世の中はホントのことを知らない方が幸せだ。

そして僕には、もう一つ観たいものがあった。

アナログ放送終了の瞬間を真空管テレビで見よう

NHK。鈴木菜穂子アナがアナログ放送終了を伝える
NHK。鈴木菜穂子アナがアナログ放送終了を伝える
テレビの仕事をしてきた僕にとって、アナログ放送が停波する事実はデカかった。当時はリモコンで全てのチャンネルを回しながら、その歴史的瞬間を迎えたのを覚えている。それをもう一度真空管テレビで観たいのだ。
鈴木アナ、深々と礼
鈴木アナ、深々と礼
NHKらしく、地デジへの移行アナウンスを粛々と行ったあと、鈴木アナが一言だけ「これまでアナログテレビ放送を長い間ご覧いただきまして、どうもありがとうございました」と気持ちを込めて言い、深く礼をして、アナログの時代は終わった。
アナログ放送の最後を飾ったのは、ど~もくんだった
アナログ放送の最後を飾ったのは、ど~もくんだった
そして、ど~もくんが手を振る画面へ切り替わり…
アナログ放送、終了
アナログ放送、終了
「ご覧のアナログ放送の番組は、今日正午に終了しました。今後はデジタル放送でご覧ください。お問合わせは、総務省地デジコールセンター……」という事務的なアナウンスが、アナログ放送の終わりを告げた。

テレビ黄金時代を支えた真空管テレビでその瞬間をいま一度見届けることで、完全にアナログ時代を成仏させることができた気がした。

実はコレ……ホントに苦労したんです編

接続ができず悪戦苦闘する筆者
接続ができず悪戦苦闘する筆者
と、実はコレめちゃくちゃ苦労した。

何せ「真空管テレビをPCにつなぐ」というのはそもそもやっている人自体が少ない。情報が足りないので、真空管テレビを修理している方などに電話し、どうにかヒントを集めていった。

ただ、肝心の真空管テレビを貸してくれる方は見つからない……いたずらに時間だけが過ぎる中、やっとOKしてくれたのが今回の木下さんだったのだ。

当日は故障や相性問題で困ることの無いよう、2つのコンバーターを持っていった。しかし、どちらもウンともスンとも言わない。さらには、僕が来る直前まで映っていたという地デジまで映らなくなってしまった。

あちこちから情報を集める

苦労する僕を尻目にビール片手に微笑む、若大将
苦労する僕を尻目にビール片手に微笑む、若大将
「このままでは帰れない」と思った僕は、その場で少しでも手がかりを持っていそうな方へどんどん電話。そのうちの有力な筋から「コンバーターが原因の可能性が高い」という答えを聞き出した。

「音が出るということは、信号は通じているものの、映像の信号が何らかの方で遮断されている。コンバーターを変えるべき」という言葉を信じ、木下さんに車を飛ばしていただいて、エディオン清水店に。

そこで約8000円の高級コンバーターを買った(色々聞いたが、HDMI to RCA変換コンバーターというマニアックな機器を売っているのが清水界隈ではココしか見つからなかった)。
8000円のコンバーターで大勝負
8000円のコンバーターで大勝負
ボンカレーを注ぎ込む松山容子に見守られながらセッティング
ボンカレーを注ぎ込む松山容子に見守られながらセッティング

歓喜の「映った!」

そして、ワクワク3割、悲愴感7割の心境でコンバーターをセッティングし、いざケーブルを端子に挿してみると…映ったのだ!!

「これで・・・丸腰で帰ることは無くなった・・・!」
やっと映った様子を写真に撮る僕をさらに撮る、木下さん
やっと映った様子を写真に撮る僕をさらに撮る、木下さん
このときは何よりも嬉しかった・・・!! かくして色々なものを映して見ることができたのだ。

なおホントはChromecastを使ってスマホや、木下さん所有のPS3などもつなごうとしたのだが、この新しいコンバーターを持ってしても、残念ながら不具合が発生してつなげなかった。
VRなどもやろうと思ったのだが、今回はできなかった
VRなどもやろうと思ったのだが、今回はできなかった
5時間近くにも及んだ悪戦苦闘の末、どうにかPCと接続でき、1959年と2017年をつなぐことができたことに今は満足したい。

今回のチャレンジを助けていただいた木下さん、色々相談に応じてくださったテレビ修理業の方々など、この場を借りて皆さんに感謝を申し上げます!

今のテレビ、キレイに映ってくれてありがとう

真空管テレビにはやっぱりこういうのも映したくなる
真空管テレビにはやっぱりこういうのも映したくなる
真空管テレビは、僕の予想以上に映りがぼんやりしていた。特に「細かい文字がぜんぜん読めない」という恐怖のズンドコ状態。ただそれすら、「ぼんやりとした画面に今が映るギャップ」の楽しさを増幅してくれた。

なぜ当時の人の心を捉えたのがプロレスであり、大味な空手チョップだったのか。それは、真空管テレビというぼんやりとしか見えないディスプレイでも、何をやっているのかわかりやすいことがあったからでは無いか。

「いまを、むかしの真空管テレビで見る」からこその楽しさを十分味わえた。とても意義深い機会だったが、だからこそ今のテレビ&ディスプレイの素晴らしさを思った。「キレイに、ハッキリと映ってくれてありがとう」。1959年がそれを僕らへ教えてくれた。
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