特集 2017年11月19日

マークシートは本当にボールペンを読まないのか?(デジタルリマスター版)

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最近誰もが一度は思ったことがあるはずの、この疑問。
試したいけど、センター試験や運転免許試験で試すわけにもいかないし……、と悩んでいた人も多いでしょう。
そこで僕が機械の製造元を訪ね、ボールペンも2H鉛筆も、小さいマーク、汚いマーク、油性マジック、赤鉛筆、全部ひっくるめて調べてきました!!

※2009年6月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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(株)セコニックにお邪魔しました

今回の記事の取材でお邪魔したのは、東京都練馬区にある株式会社セコニックさん。日本におけるマークシートリーダのトップシェアを占める企業だ。
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西武バスには『都民農園セコニック行き』という路線があり、練馬区民にはおなじみの名前なんですよ、と当サイトのウェブマスター林さん(練馬区出身)が言っていた。
僕は「都民農園セコニック」って、農園の名前がセコニックっていうみたいで、少し近未来SFぽいなと思いながらセコニックさんに向かった。(都民農園はまったく別の施設です)
左から、セコニックの藤田さん、松沢さん、髙橋さん。
左から、セコニックの藤田さん、松沢さん、髙橋さん。
セコニック本社を訪ねると、お約束していた藤田さん(左)を含む3人の営業部の方が、丁寧に僕を迎えてくださった。作業服がびしっと決まっている、まさにニッポンの技術屋! という御三方だ。昔は開発の部署も担当されていたらしい。

応接室に案内していただくと、そこにはすでにデモ機が2機用意されており、親切な対応に胸が熱くなった。
マークシートリーダSR-430。カタログ価格\359,100。
マークシートリーダSR-430。カタログ価格\359,100。

これがマークシートを読んでいる様子

最初にマークシートリーダが、マークシートを読み込む様子を見せてもらった。
読み込んだのは小型のマークシートリーダSR-430、今年1月発売の最新機種だ。(※2009年当時)
読み込みの様子を動画で撮影させてもらったのでまずはこれを見てください。
すごい速さである。さすが最新機種! と驚いていたら、藤田さんが微笑んで、もっと速くなりますよ、言った。実はこの速さは、PCと通信しながらの速さなので1分間140枚だが、通信せずに読み込むだけならもっと速くできるとのこと。

ならばということで、その噂の「マークシートリーダの本気」を見せてもらった。
うおぉぉぉぉぉー! っと思わず絶叫してしまう速さである。まるで滝のように流れていくマークシート。
これでも本当に読めるのだという。1分間に250枚ということなので、1秒間で4枚読んでいることとなる。恐るべき速さ、マークシートリーダ。
このあとしばらく、マークシート利用の現状についてのお話を聞かせていただいた。その話を要約するとこうなる。
今回実験に用いた汎用機SR-3500、\819,000
今回実験に用いた汎用機SR-3500、\819,000
• マークシートは主に学校・教育の分野で利用されており、その割合は約80%。
• 残りの20%は、医療分野や製造分野(製パン受発注業務)、アンケート等、確実性と迅速性を重視される場面で使用されている。
• 最近は家庭用スキャナをリーダとして使えたり、文字を読めるOCRが出てきたりしているが、やっぱり「速くて正確」という点において、マークシートの右に出るものはない!
内部はすごいメカメカしさ。メカメカ。
内部はすごいメカメカしさ。メカメカ。
非常に熱い製品に対する思いの伝わってくるお話だった。
速さについてはたったいま目の当たりにしたので、読み取り精度に関して聞いてみた。
すると以前、英検の答案20万枚を採点した結果、読み取りミスは6ヶ所だけだったという。読み取り精度はまさに99.999%以上。
すごいぞ、マークシート!

ここで実験筆記具たちの登場です

取り出すのが恥ずかしかった。散らかった机みたい。
取り出すのが恥ずかしかった。散らかった机みたい。
と、熱い真剣な思いを聞かせていただいた直後で恐縮だったのだが、カバンから実験用に持ってきた実験用具を取り出させてもらった。持ってきた文具は以下のとおり。
鉛筆(HB・2H)、シャーペン、油性ボールペン、水性ボールペン、ゲルインクボールペン、マッキー、マイネーム、水性サインペン、ホワイトボードマーカー、色鉛筆(黒・赤・青)、クーピー黒、万年筆、筆ペン、墨汁、黒の絵の具、蛍光ペン緑
さあ、これでマークシートを塗りまくります!
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実験用マークシート完成!

これができあがった実験用マークシート。何で塗ったかも合わせて書いておく。
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出来上がったマークシートは早速、藤田さんにお願いして読み込んでもらった。
塗っている間、いろいろと面白い話も聞かせていただいたが、それはおいおい紹介することにして、まずは左上の部分から結果を発表していこう。

読み取り濃度は、16段階で評価されている

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じつは読み取りの結果は「有・無」の2つではなく、01~16までの16段階で数値化されるとのこと。
そしてどこから先を「マーク」と認めるかは自由に設定できるのだという。今回は「03」以上をマークと認める設定で読み込んだ。
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そして結果を見ると、HB鉛筆がほぼ満点の数値なのに対して、ボールペンは「03」以上の数値を出せず、マークと認識されていなかった。やっぱりマークシートはボールペンで塗ってはいけなかったのだ!
しかしなぜ、見た目には同じ黒に見えるのに、読み取ってくれないのだろう。お話をうかがってみた。

なぜボールペンを読まないのか

これがマークシートリーダの心臓部、センサー。
これがマークシートリーダの心臓部、センサー。
「マークシートリーダは波長940nmの近赤外線をセンサーから出して読んでいます。これが鉛筆に含まれている炭素に反応します。ボールペンのインクはこの近赤外線をほとんど吸収しないので読みません」
(※nm[ナノメートル]、長さの単位。人間の可視光の範囲はおよそ波長380~770nm)
ここの部分についています。
ここの部分についています。
なんと! マークシートは可視光ではなく、眼に見えない近赤外線でマークシートを読んでいたのだ。だから人間の目には同じ黒に見えても、目に見えない赤外線の吸収の仕方が違うボールペンは読まなかった、というわけだ。
じゃあボールペンは絶対にマークシートで使うことはできないのだろうか?
「いや、読むことはできますよ。センサーを標準の近赤外線のものから、目で見える660nmの赤色光に交換すれば、可視光で見えるものを読むようになるので、ボールペンでも鉛筆でも読みます」
空いている穴の一つ一つが、一列のマークを読む。
空いている穴の一つ一つが、一列のマークを読む。
なるほど。標準のセンサーを鉛筆に合わせているので基本的には読まないが、読むように機能改変もできると。ではなぜ可視光ではなく、鉛筆に標準を合わせているのだろうか。
「教育に使われることが多いマークシートは、答えを消しても書き直せる鉛筆が一番正確なデータを集められるからです。
逆にアンケートなど、そのときに持っている筆記具を使えることが重要な場面では、可視光でマークを読むこともあります」
鉛筆は消して書き直せるから。
なんだか当たり前のことを聞いたようで恥ずかしくなった。ただ、可視光でマークシートを読もうとすると、マーク用紙自体の印刷インクに制限が出てしまうので、標準は近赤外線にしてあるとのこと。なるほど!
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悪い例も、モノによってはけっこう読むと判明。
悪い例も、モノによってはけっこう読むと判明。
ボールペンを読まないと分かったら、気になるのはマジックとサインペンだろう。続いてはこれらを実験した第2パートの発表です。
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果たして油性マジックは読んだのか?

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見てのとおり、油性マジックであるマッキーとマイネームは、どちらもほとんど読まなかった。
それに対してここ数年のヒット商品であるゲルボールペン(シグノ)が大殊勲! 水性ボールペンとの世代交代をマークシート力の差でも発揮する格好となった。

そして意外と健闘したのが色鉛筆の黒。ここまで読むと後で出てくる「クーピー黒」にも期待がかかってくるところである。
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筆ペンは? そして墨汁は? 絵の具は?

続いて実験パート3。日用の筆記具の枠を超えて、墨汁や絵の具に挑戦する。
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墨汁を取りだしたときは、「お、墨汁が出てきましたね!」と、セコニックの高橋さんに朗らかな笑みが見られた。
墨汁はさすがに社内でも実験したことが無いようで、社員の御三方も大いに興味有りのまなざしでこの実験を見守ってくれた。そして結果は下のとおり。
WBは「ホワイトボード」の略です。
WBは「ホワイトボード」の略です。
びっくりしたのは筆ペンと墨汁の差。
同じ筆でも、墨汁がきっちりと読まれるのに対して、筆ペン、ほとんど読まなかった。
そしてそれよりさらに読まないのは万年筆。(Parkerのブルーブラックインク)。気持ちいいくらい完全に認識されない。やっぱり時代の差なのか。
逆に完全パーフェクトのスコアをたたき出したのは黒の絵の具である。「おそらく顔料がいっぱい入ってるのでしょう」との分析を高橋さんから頂いた。
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じゃあ「炭」は読むのか

最後に実験パート4の結果発表。
今回の目玉は「炭」だ。
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「炭で塗るって発想がすごいなあ……(笑)」と藤田さん。
「炭で塗るって発想がすごいなあ……(笑)」と藤田さん。
また、カラフル関係も試してみようと思い、赤鉛筆、青鉛筆、緑色蛍光マーカーもトライした。結果は下に示すとおりである。
キャプション!
たったいま僕の手によって誕生したばかりの炭が、予想外の高スコアをたたき出した。11.3! 本体である2H鉛筆を越えるスコアである。炭、すげぇぜ! さすが純正炭素!
しかし、赤鉛筆と蛍光ペンはまるでダメ。何も認識していない状態だ。青鉛筆も一応、何かがあると認識してくれている程度。やはり純正のセンサーで色物を認識するのは、かなり難しいようだ。
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ここで高橋さんから画期的な提案!

僕のどうでもいい実験に笑顔で付き合ってくださったセコニックの御三方だったが、初めて見るものもあったようで、「おー、なるほどねー」とこの結果には興味を持ってもらえたようだ。
そして、一通りの結果を分析し終えた後、高橋さんがこう言った。
「これ、可視光センサーで読んだらどうなるのかな」

そして高橋さんは可視光線センサーを取りに行って下さった。
というわけで実験はさらに可視光センサー編に続きます!
とうとう赤色光の可視光センサーの登場です!
とうとう赤色光の可視光センサーの登場です!
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可視光センサー装備!!

高橋さんが持ってきた可視光センサーを、藤田さんが鮮やかな手つきで交換していく。さすがに慣れた御手並み、あっという間に取り付けが完了した。
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さあ出来上がったこのマシン、SR-3500改でさっそく読み込みだ!

ボールペン、面目躍如

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可視光センサーは期待通り、黒いもの全てをばっちり読み込んでくれた。青鉛筆だってOKだ。

ただ、唯一読まなかったのは赤鉛筆。この原因は僕にも分かった。当てた光が赤色光だったからだ。
では赤鉛筆はどうやってもマークシートで読むことはできないのだろうか。
「当てる光を緑色光にすれば読むことはできます。基本的に、センサーの光の波長を変えれば何でも読むことはできます。ただ、お客様からのご要求が少ないからカタログ品としては製品化してないですけど」

顧客の注文があれば、どんなリーダでも作る!

なるほど。実際、特定用途向けに緑色光センサーの生産はしているとのこと。ではこれまで、変わったマークシートリーダを作ったことはあったのだろうか。
「以前、週刊漫画雑誌で、読者アンケートハガキを一色で刷りたいからどうにかならないか、という注文に応えたことがありました。
一色にするとタイミングマーク(端っこのシマシマ)が黒で刷れないんですよ。
このときは一番端っこのタイミングマーク用センサーだけ、別の色を読むものにして対応しました」
じつは、このはじっこのシマシマがマークシートの性能の秘密!
じつは、このはじっこのシマシマがマークシートの性能の秘密!
基本的には、顧客の注文に応じて何でも作れるらしい。
ちなみにマークシートの読み取りが早いのはこのタイミングマークのおかげで、これがあるから必要な部分だけを読むことができ、紙全面を読み取るOCR(文字読み取り機)に対して、圧倒的な速度の差があるとのこと。
へぇ~!
大型機も見せてらった。SR-6500、価格\1,680,000。
大型機も見せてらった。SR-6500、価格\1,680,000。

この後、大型のマークシートリーダやセコニックで他に作っている露出計や温湿記録計なども見せてもらい、非常に充実した取材となった。編集長の林さんは計測機器好きだと聞くので、今度ぜひ誘って露出計の取材に一緒にうかがってみたい。


長年モヤモヤしていた疑問が全て解消し、胸のスッキリする取材だった。今回の実験を元に、センター試験を受験する高校生には以下のようにアドバイスしたいと思う。

●油性ボールペンは使わない。
●万年筆やマジックも使わない。
●筆ペンも使ってはいけない。
●書いた後でも消せる鉛筆が、やっぱり一番。
●でも消し方がハンパだと、意外と機械は読んでしまうので、必ず良く消すこと!(マジ)
●一番よく読むのは、黒絵の具。
2Hの鉛筆を持って行った場合、燃やして炭にしたほうがよく読む。

以上、僕からの何よりも役に立つ、超実戦的センター試験対策講座でした。

やっぱり農園の名前に見えるバス停。
やっぱり農園の名前に見えるバス停。

取材協力

株式会社 セコニック
http://www.sekonic.co.jp/
【本当にありがとうございました】
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