特集 2017年11月23日
 

11月にススキの草原でクワガタ探し

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小学校低学年の頃だったか。山口進さんという昆虫写真家が書いたクワガタムシの本を読んでいて不思議な写真に出会った。

赤茶色の綺麗なクワガタムシが、なぜかススキの茎にしがみついているのである。しかも、穂の開き具合や景色を見るにどうやら季節は晩秋。しかも掲載されている生態写真はいずれも日中に撮影されたものだった。

……秋にススキの原っぱで昼間にクワガタ?いろいろ場違いすぎないか。

20年以上の時を経てしまったが、今こそあの不思議なクワガタを実際に見に行ってみようと思い立った。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

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場所は八重山、出会うチャンスは二年に一度

なぜ今年だったのか。

理由は単純に「タイミングが合わなかっただけ」なのだが、この虫はとりわけタイミングを合わせにくい要素が強いのだ。

まず、生息地が石垣島と西表島であること。ちょっとした連休とお金が必要である。そしてこれが重要なのだが、そのクワガタは二年おきにしか地上に現れないのだ。
クワガタって木の幹にくっついてるものじゃん?
クワガタって木の幹にくっついてるものじゃん?
だから探すときは里山の雑木林に行くじゃん? 季節は夏じゃん? 時間帯は夜か早朝じゃん? でも世界は広いの。クワガタひとつとってみてもね。
だから探すときは里山の雑木林に行くじゃん? 季節は夏じゃん? 時間帯は夜か早朝じゃん? でも世界は広いの。クワガタひとつとってみてもね。
正確にはごくごくわずかにしか出現しない年とまとまった数が現れる年とが交互にやってくるのである。しかも、石垣島と西表島とでその周期が揃ってしまっている。そのため、一度チャンスを逃すと少なくとも翌々年まではおあずけを食らうことになる。非常に歯がゆいクワガタと言える。

そして、今年がその当たり年にあたり、なおかつシーズンギリギリの11月半ばにうまいこと連休が取れたのだ。今しかないじゃない!!
こんな晩秋の、しかも真昼のススキ原にいるクワガタだっているのだ。
こんな晩秋の、しかも真昼のススキ原にいるクワガタだっているのだ。
クワガタのいるススキ原があるのは石垣島と西表島。今回は石垣島で観察に挑戦。
クワガタのいるススキ原があるのは石垣島と西表島。今回は石垣島で観察に挑戦。
その色々ややこしいクワガタの名は「チャイロマルバネクワガタ」。多くの人にとっては馴染みのない響きだろう。昆虫愛好家は「チャマル」という愛称で呼ぶことが多い。
で、このチャマルは2015年から石垣市の自然環境保全条例で保全種に指定され、石垣島内では採集禁止となっている。そんなわけで唯一残された西表島には隔年で晩秋に各地からクワガタ通が採集に押しかけるという奇妙な事態が恒例行事となりつつあるらしい。

僕にはコレクションの趣味はないので、触れられずとも観察さえできればそれでいい。というわけでアクセスが楽でライバル(?)も少ないであろう石垣島に照準を定めた。
ほぼ常夏みたいな石垣島といえど、秋になればススキが穂をそよがせる。景色に反して暑っついけどな。
ほぼ常夏みたいな石垣島といえど、秋になればススキが穂をそよがせる。景色に反して暑っついけどな。
「チャマル? ススキが生えてる開けた場所に立ってればいいよ!当たり年ならハチみたいにブンブン飛んでるからすぐ見つかるよ。」
というのは沖縄のクワガタに精通した知人の言葉であった。なるほど、難易度は高くなさそうだ。昼前からレンタカーを走らせて良さげなススキ原を探し出し、おもむろに降り立つ。いつでも来いやチャイロマルバネクワガタ!
クワガタマニアの知人いわく「ススキの生えてる道沿いにつっ立っとけば向こうから飛んでくるよ」とのことだったが…
クワガタマニアの知人いわく「ススキの生えてる道沿いにつっ立っとけば向こうから飛んでくるよ」とのことだったが…
チャイロマルバネクワガタは幼虫時代は林の中で育ち、成虫になると林縁の草原などひらけた場所を飛び回って結婚相手を探すのだという。だからこんな観察方法が成立するのだ。
飛んできたのはナナホシキンカメムシというめっちゃ綺麗なカメムシ(くさい)と
飛んできたのはナナホシキンカメムシというめっちゃ綺麗なカメムシ(くさい)と
オオゴマダラという日本一でっかい蝶(素手で捕まえられるほどのんびり飛ぶので「バカチョウ」という別名がある)だけ。
オオゴマダラという日本一でっかい蝶(素手で捕まえられるほどのんびり飛ぶので「バカチョウ」という別名がある)だけ。
しかし、待てど暮らせどカメムシとチョウとハエしか飛んでこない。こりゃあダメだ!

どうやらチャマルは雨風に敏感で、この日は飛び回るには少し風が強すぎたようだ。
ダメだ!見つかる気がしない!足を使って探そう。
ダメだ!見つかる気がしない!足を使って探そう。
休憩時間に食べるランチは石垣名物の「オニササ」。
休憩時間に食べるランチは石垣名物の「オニササ」。
ならば作戦を変えよう。休憩がてら地元の昆虫館に足を運んで職員さんに助言を求めると「よく道路の上や側溝の中を歩いているのを見かけるから、そういうところを見回ったほうが手っ取り早いかもしれないよ」とアドバイスをいただいた。あと、飼育されている世界最大のゴキブリ(マダガスカルオオゴキブリ)を触らせてもらった。かわいかった。

よし、午後からはその作戦でいこう。
午後からはススキ原周辺の路上と側溝を見回ることに。
午後からはススキ原周辺の路上と側溝を見回ることに。
先ほどのススキ原近くの駐車場に車を止め、のんびりと歩きながらアスファルトと側溝をジロジロと見渡す。

まだまだ暑い石垣島。汗はかくが、このやり方の方が色々な虫や植物を観察できて楽しいことに気づく。これは飽きないぞ。
石垣島の林道にはこういう小さな階段が備えられた側溝がしばしば見られる。
石垣島の林道にはこういう小さな階段が備えられた側溝がしばしば見られる。
これは側溝に落ちてしまったセマルハコガメ(天然記念物)を無事に脱出させるための装置なのだ。
これは側溝に落ちてしまったセマルハコガメ(天然記念物)を無事に脱出させるための装置なのだ。
側溝の底に忍者が如く一体化している虫を発見。クワガタか!?
側溝の底に忍者が如く一体化している虫を発見。クワガタか!?
脱出できなくなったサソリモドキ(くさい)だった。レスキューして森の中へ送還。
脱出できなくなったサソリモドキ(くさい)だった。レスキューして森の中へ送還。
側溝にはなぜかスズメバチ類も数匹落ちていた。いやいや、お前らは飛べるだろうが。どうしたんだ。
側溝にはなぜかスズメバチ類も数匹落ちていた。いやいや、お前らは飛べるだろうが。どうしたんだ。

発見!茶色くて翅が丸いクワガタ!

探し始めて30分くらい経った頃だろうか。側溝の縁をうろうろ歩いている赤茶色の丸っこい虫が目に止まった。茶色…?丸い…?…それって!!
ん?んん!?なんか「良い虫ですよオーラ」をビンビン放っている赤い物体が!
ん?んん!?なんか「良い虫ですよオーラ」をビンビン放っている赤い物体が!
見つけた!これぞ「晩秋に」「昼間の」「草原で」「というか路上や側溝にいるクワガタ」チャイロマルバネクワガタだ!
見つけた!これぞ「晩秋に」「昼間の」「草原で」「というか路上や側溝にいるクワガタ」チャイロマルバネクワガタだ!
出た!チャイロマルバネクワガタだ!!
その名の通り体色は茶色く、
その名の通り体色は茶色く、
クワガタにしては翅がドーム状に丸く、コロンとした体型をしている。大きさは3センチほど。「どんぐりみたいなかわいいクワガタ」という印象。
クワガタにしては翅がドーム状に丸く、コロンとした体型をしている。大きさは3センチほど。「どんぐりみたいなかわいいクワガタ」という印象。
ご覧の通りチャイロマルバネクワガタは小型で、オスであっても大あごが短い。そのため一般にイメージされる「クワガタらしい」迫力にはやや欠ける。

しかし、鮮やかかつシックな色合いと木目を思わせる上翅の風合いが美しく、コロンとしたかわいらしい体型とあいまって独特な魅力を放っている。こういうのを「良い虫」というのだ。

ああ、見に来てよかった。出会えてよかった。
大あごは小さいが、これでもオス。
大あごは小さいが、これでもオス。
続けて路上でメスも発見!さっき見つけたオスより体格が大きい。
続けて路上でメスも発見!さっき見つけたオスより体格が大きい。
写真だと伝わりづらいかもしれないが、上質な木細工のような質感。とても綺麗な昆虫だ。見られてよかった。
写真だと伝わりづらいかもしれないが、上質な木細工のような質感。とても綺麗な昆虫だ。見られてよかった。
ただ気になるのはススキ原の周囲にはチャイロマルバネクワガタの天敵であるオオヒキガエル(南米原産の外来種)が複数いたこと。クワガタだけでなく他の昆虫たちも心配だ。
ただ気になるのはススキ原の周囲にはチャイロマルバネクワガタの天敵であるオオヒキガエル(南米原産の外来種)が複数いたこと。クワガタだけでなく他の昆虫たちも心配だ。

また再来年

というわけで、わずか1日のチャレンジだったが運良く2匹のチャイロマルバネクワガタを観察することができた。確かに彼らは驚くほどクワガタらしくないシチュエーションで活動をしていた。

それにしてもこんな面白い虫が数を減らしているというのは寂しい限りである。僕はきっとまた2年後、あるいは4年後にも彼らに会いに行くことになると思う。そして200年後、400年後も八重山のススキの原っぱには赤茶色いクワガタがうろちょろしていてくれることを願う。
道路脇の木には普通にヒラタクワガタもいた。おいおい、いい加減にしろよ。11月だぞ!?
道路脇の木には普通にヒラタクワガタもいた。おいおい、いい加減にしろよ。11月だぞ!?
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