特集 2017年11月26日
 

書き出し小説大賞第135回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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コタツでいつも思い出すのは足を一本なくしたことである。ひとり暮らしで上京したての頃だった。その冬は足三本のまま、足のない隅で正座して過ごした。コタツは三本足でも立つ。ただしすごく不安定である。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう。

書き出し自由部門

ひたいに「神」と書いてある者は、神ではない。
ぴすとる
星座の形のつなぎ方って無茶があると思うんだな。
茂具田
歩き月見だって危険だ。
君と僕と雨
すべった指でめくれたページが、僕に犯人を教えてくれた。
大伴
ミスター・ブルーシートが死んだ。青の美しさを語れる人が、また一人いなくなった。
muddom
心から反省している人間が、フリック入力できるもんかね。
たこフェリー
エンドロールにしがみついて、映画館の屋上へ出た。
八重樫
パン祭りと皿。一見無関係に見える二つを繋ぐ、社長と河童の心温まる友情の物語。
もずく酢
畳んだ洗濯物が私を中心にタロットカードのように広がる。
xissa
炬燵を出して、祖父をしまった。
住民パワー
3次会でカブを抜いた。
ウチボリ
今宵も湯船の中で、固形入浴剤を尻に敷く。
紀野珍
人力車は果敢にも追い越し車線へ入った。
高田
よく知らない出身地が返ってきたので、空のジョッキにキスをした。
カズマンヌ
「あれだよね、ベース弾いてそうだよね」それが彼の最期の言葉だった。
ひじりん
コーンポタージュを飲もうとして眼鏡が曇ったの俺を見て、山姥は初めて少し笑った。
いそかぜ
小麦粉だらけの手でこけしを選んでいる。
あや幹部
寸評

●ぴすとる氏「ひたいに『神』と〜」寝てる間のイタズラ書きの可能性が高い。自宅の鏡で判明するパターン。
●もずく酢氏「パン祭りと皿〜」ネタの定番、山崎春のパン祭りに新たな光をあてた。
●ウチボリ氏「3次会でカブ〜」3次会でカブ抜きたい(笑)二次会で帰った連中は後で悔しかったと思う。
●紀野珍氏「今宵も湯船の中で〜」ここは当然バブ。微細な気泡が心地いい。
●カズマンヌ氏「よく知らない出身地〜」気まずさとそれを誤魔化すさま。日常あるあるも言い回し次第で洒落た表現になる。
●ひじりん氏「あれだよね〜」最後にしたくない言葉ランキングだとかなり上位に食い込むのでは?
●あや幹部氏「小麦粉だらけの手で〜」どういう経緯か分からないが、その手でこけしを触らないで欲しいと切に思う。

つづいては規定部門。今回のテーマは『温かい』であった。読んで束の間、温まってください。

規定部門・モチーフ『温かい』

とりたてのコピー用紙で暖をとっている。
まじいい
便座から先人の温もりなどを受け継ぐ。
えむ毛
蒸気ごと肉まんにかぶりつく。
紀野珍
使い捨てカイロの死後硬直が始まった。
人馬一体勘
全身に貼られたカイロは、鎖帷子を連想させた。
タクタクさん
我が家のホットスポットは、タマが一番よく知っている。
ジェングウ
サーモグラフィーの股間から、赤が広がった。
ぴすとる
飛行機の短いタラップから降り立つと、南国であった。
カリスマ雪だるま
娘がくれたマフラーは初恋の人がくれたマフラーと同じ色だった。
稲荷
ぼくの首は真綿の暖かさに包まれていた。その上は紫色だった。
やまだよめ
あたたかい雨が通り過ぎて、海に日射しが戻ってきた。
xissa
鎮火したてなので、しばらくは温かい。
住民パワー
水を打ったような劇場で、親族の手拍子だけが温かい。
大伴
冬の現場ではホットの缶コーヒーが気持ちを表す通貨になる。
いそかぜ
この街は何もかもが温かい。人も、建物も、ビールも。
Mch
ライダーは早朝、サービスエリアの無料サービスのお茶の温かさに泣く。
井沢
遠慮のかたまりがまだ温かい。
g-udon
劇熱の確変リーチがはずれた。缶コーヒーはまだ温かい。
夢雀
僕にチャンピオンベルトを巻いてくれた母の手は温かかった。
もんぜん
枕元におかゆを作ってきてくれる彼女を夢みつつ意識は混濁していった。
七世
寸評

●まじいい氏「とりたてのコピー〜」吹雪の山小屋にあるコピー機ほどありがたいものはない。
●タクタクさん「全身に貼られたカイロは〜」夏は全身冷えピタ。
●紀野珍氏「蒸気ごと肉まんに〜」肉まんの食べ方ってこうなんだよね、共感しかない作品。
●ぴすとる氏「サーモグラフィーの股間から〜」創作は視点(この場合は視覚)を変えると面白いという好例。
●カリスマ雪だるま氏「飛行機の短いタラップから〜」普段はパロディは採用しない方だがこれは思わず採用してしまった。『雪国』と対になる『南国』の書き出し。
●やまだよめ氏「ぼくの首は真綿の暖かさに〜」冬のホラー。よく出来てる。
●xissa氏「あたたかい雨が通り過ぎて〜」冬にこんな作品を思いつくさすが常連の手腕。
●Mch氏「この街は何もかもが温かい〜」オチはビールだけど、BOSSのCMにはまりそうなフレーズ。
●七世氏「枕元におかゆを〜」ネタとしてはストレートだけどものごっつう切ない。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「イヤダシ」
イヤダシとは「嫌な書き出し」の略。その書き出しを読んだだけで不快になる、不安になる、ゾワゾワする……など、とにかくアナタの思う「イヤな感じ」を出して欲しい。今回の作品だと自由部門の最後、あや幹部氏の作品などはイヤな感じが出ていると思う。最近巷では「イヤミス」なる読後感の悪いミステリーが流行っている。読後妙にあとを引く、わだかまりの残る作品を期待する。締め切りは12月8日正午、発表は12月10日を予定している。下の投稿フォームより部門を選んで送って欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者
松っこ/豆ん棒/AIR田/たらままこ/ポン酢助兵衛/きうい紳士/NCハマー/けー/沙翁/
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