特集 2018年1月8日

ホウキを手作りして空を飛んだ

2018年の正月は、河原でホウキを作って飛びました。
2018年の正月は、河原でホウキを作って飛びました。
昨年末、友人から正月にホウキを作らないかと誘われた。なぜホウキ。熊手を飾って商売繁盛みたいな話だろうか。

詳しく聞いてみると、別にそういう文化的・歴史的な行事がある訳ではなく、ただ作りたいだけらしい。一応実用品として使えるものだが、ほぼ道楽としてのホウキ作りだ。

大掃除を放棄した私にホウキを作る資格があるのかとも思ったが、それも一興だと参加してみた。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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デイリーポータルZを運営する会社の前でホウキを作る

元旦の翌日、1月2日にホウキを作るためにやってきたのは、偶然にも当サイトを運営しているイッツコムのビルが見える河原だった。

もしこのホウキ作りが楽しかったら、編集部の方々を誘って、会社で使うホウキ作りを一緒にしよう。職場ホウキの会だ。
中央の四角いビルにニフティ……じゃなかったイッツコムが入っている。
中央の四角いビルにニフティ……じゃなかったイッツコムが入っている。
集まったのは私を入れて4人。そのうちの1人が、一度作ったことがあるという程度のホウキ素人集団である。ワークショップや講習会というほどでもない、ただの名もなき集まりだ。

まずは河原を歩いてホウキの材料となる草と柄になりそうな棒を探す。少し離れたところでは、凧がたくさんあがっていた。いろんな正月があるなと思った。
この草でホウキを作る。
この草でホウキを作る。

材料はオギという草

ホウキの履く部分になる素材は、竹やらホウキギ(コキア)やら様々だが、今回使用するのは河原に生えている背の高い草である。

こういう草は全部ススキだと思っていたが、小穂(穂の最小単位)の先端に芒(ノギ)という細い毛のようなものがないから、これはススキではなく荻(オギ)という植物だそうだ。
小穂部分がほとんど落ちていてよくわからないが、オギなのだそうです。
小穂部分がほとんど落ちていてよくわからないが、オギなのだそうです。
その説明を聞いて、鈴木さんと荻原さんと萩原さんが浮かんできてしまい、全然頭に入ってこなくて、ハギでホウキを作るんだったかなと混乱した。

質の良い穂を集める

ススキを使ってホウキを作ったことがあるというHさんに教わりながら、穂がしっかりしたオギを選んで茎を切り、余計な葉や枝を掃ったものを40本くらい集める。これでホウキ1本分だ。

この作業はオギの破片が手や目に刺さりがちなので、軍手やメガネを用意するべきだったか。

風を受けて育つオギは地面に対して斜めに生えていて、その流れに逆らって歩くと、体にグサグサとオギが刺さった。
荻の原っぱ、今にして思えばこれがホントの荻原だ。ということで、この状態にしたオギを集めていく。
荻の原っぱ、今にして思えばこれがホントの荻原だ。ということで、この状態にしたオギを集めていく。
この日は空が綺麗で、余計に「正月から何をしているんだろう」という気分が強くなり、それがとてもよかった。
この日は空が綺麗で、余計に「正月から何をしているんだろう」という気分が強くなり、それがとてもよかった。
この素材集めは、量が重視される食べるための収穫とはちょっと違い、芸術的なセンスが問われる作業である。

これは穂の形がいいぞとか、茎の細さが最高だなんて、まだ一度も作ったことがないのに、伝説のホウキ職人、あるいは村で一番手先の器用なおじいさんになった気分が味わえる。
「私のホウキに使える穂はね、まあ100本生えているうち1本あればいい方ですよ」と熱く語る玉置氏(私)。
「私のホウキに使える穂はね、まあ100本生えているうち1本あればいい方ですよ」と熱く語る玉置氏(私)。
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綿毛を取り除く

集めたオギの穂には綿毛が付いているので、櫛でやさしく取り除かなければならない。これをやらないと、掃除をすればするほどゴミが散らかる逆便利グッズになる。

オギがカラッカラに乾いていたため、力を入れ過ぎると肝心の穂がパキパキと折れたり、プスプスと抜けたりしてしまうので、なかなか加減が難しい作業だ。
櫛にこんな使い道があるなんて。
櫛にこんな使い道があるなんて。
とても面倒臭い作業だが、やればやっただけきれいになるので、なんとなく正月にふさわしい気もする。

綿毛がきれいに無くなって繊維だけが残ると、一気にホウキっぽくなった。努力が報われるって素晴らしい。
このミニチュアの竹ボウキみたいなのが集まって、一本のホウキになるのか。
このミニチュアの竹ボウキみたいなのが集まって、一本のホウキになるのか。

穂をまとめて柄をつけたら完成だ

下処理をした穂を丁寧にまとめて、輪ゴムで仮止めをする。

ここまでくれば、もうほぼホウキである。

元々は雑草なのに、手間を掛けることでちゃんとホウキへと成長していく。
元々は雑草なのに、手間を掛けることでちゃんとホウキへと成長していく。
穂のまとまり具合をなんとなくかっこよく揃えたら、茎を同じ長さにバッサリと切り揃え、その中心に拾ってきた竹の棒を刺して、針金で3箇所ほどしっかりと縛る。

これにて人生初となる手作りホウキの完成だ。予想していたよりも、しっかりとホウキである。それも先が柔らかくて高級感すら感じる立派なホウキだ。
SF作品によくある居住地区を分けられている世界で、ビルが立ち並ぶ川の向こう側へと、殴り込みを掛けに行く反政府軍っぽいな。
SF作品によくある居住地区を分けられている世界で、ビルが立ち並ぶ川の向こう側へと、殴り込みを掛けに行く反政府軍っぽいな。
俺のホウキが完成。大事に使えば一年くらいは持ってくれるかな。
俺のホウキが完成。大事に使えば一年くらいは持ってくれるかな。
作業開始から2時間弱にしては、なかなかの達成感が味わえた。

今更だけど、なにかを作るのって楽しい。今度はしめ縄とか草鞋も作ってみたくなった。
唯一の経験者であるHさんは、ネットの動画で観た糸で細かく束ねる方法で、ホウキの完成度を上げていた。
唯一の経験者であるHさんは、ネットの動画で観た糸で細かく束ねる方法で、ホウキの完成度を上げていた。
より民芸品らしくなった手作りホウキ。我々の中でのホウキ王ということで、ホーキングさんと心の中で呼ばせてもらおう。
より民芸品らしくなった手作りホウキ。我々の中でのホウキ王ということで、ホーキングさんと心の中で呼ばせてもらおう。

ホウキで空を飛ぶ

せっかくホウキができたので、これを持って記念写真を撮りたい。

「じゃあホウキで飛んでください!」

カメラを渡したNさんが、私に無茶振りをしてきた。でも今日の空とこのホウキなら、飛べる気がした。
飛べるかな?
飛べるかな?
お、浮いたね。
お、浮いたね。
意外と飛べる!
意外と飛べる!
満月と重なる正月の三が日、オギを摘んで手作りしたホウキには、特別な魔力が宿るという。このままデイリーポータルZの編集部まで飛んでいったが、正月なので誰もいなかった。

そんな話はもちろんなくて、ホウキにまたがってピョンと飛んで、ローアングルから撮影しただけなのだが、抜けの良い景色と遠くに見えるビルのおかげで、それっぽい写真になってくれた。
ふわりと浮かんだ魔女達。
ふわりと浮かんだ魔女達。
デジカメの液晶画面で写真を確認して、4人で爆笑した。目の前で起きた現実から一瞬だけが切りぬかれて、こうして虚構が生まれたのだ。

ホウキ作りは空を飛ぶまでがセットだな。コツはカカトをお尻につくくらいしっかりと上げること。そして背筋を伸ばして遠くを見ること。

こうして空を飛べたのだから、今年は飛躍の年になるかなとずうずうしいことを考えつつ、とにもかくにも良い初笑いができて満足だ。
手作りしたホウキは、気になっていた天井のホコリを落とすのにちょうどよかった。
手作りしたホウキは、気になっていた天井のホコリを落とすのにちょうどよかった。

家に帰ってから、そういえばホウキはすでにあったなと確認してみると、ものすごく複雑な作りで驚いた。

一度でも自作したからこそ分かるその凄さである。
ものすごく複雑!
ものすごく複雑!
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