特集 2018年1月28日

書き出し小説大賞第139回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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特報!! 前回予告した「書き出しイベント」の詳細が決まりました。
日付・2月28日(水曜日)18時30分開場、19時30分開演。
場所・渋谷ロフト9。
料金・前売り2000円、当日2500円です。
(前売りに関しては後日、渋谷ロフト9のHPに掲載されます)
ゲストはいまのところ、ウェブマスター林くん、自由律のせきしろくんが出てくれる予定です。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

書き出し自由部門

眩しい方に座った。空が白かった。
xissa
「痛くなってからしか来ないのね」埴輪のような女歯科医が言った。
夢雀
交通情報が世界の終わりを告げていた。
ペプシと私
鼻水は冷たくても、涙はあったかいんだね。
人馬一体勘
新雪は僕の足跡だけを残して彼女と共に溶けた。
小夜子
シナモンスティックがただの樹皮に戻る前に返事が聞きたい。
井沢
踊り出しそうな足元で、その無防備な背中を蹴り上げた。
花瀬いをり
祖父が両手でハートマークを作った。心臓発作のサインだ。
住民パワー
タラコってサケの子供よね~といったあいつが、コミケの神になっていた。
桜草
ドラムスティックが捨てられたゴミ置き場を見て、思いっきり笑ってやった。
力力士
夜の水溜りは妖しく光る石油の様に見えた
馬mm
僕の夢精をもっと褒めてほしい。
もんぜん
翌日ザネリは水死体で見つかった。
蚊の蚊
ワテの頼んだシマチョウで全焼しちまった。
茂具田
「み」の口をしたまま、彼女が停止した。
パリジェンヌ
運転見合わせの車内で、タップダンスのリズミカルな靴音が響いた。
魚子
道徳の授業が好きな奴は、揃いも揃って模範解答を言う苛めっ子であった。
轍眼鏡
ここから先は趣味の検便となる。
マークパン助
最終の新幹線に乗り込んだ悪魔は、赤いハイヒールがよく似合った。
めるろ
寸評

●xissa氏「眩しい方に座った」絶妙な描写力。網膜からの視覚野への電気信号まで想像させる。
●夢雀氏「痛くなってからしか」歯医者は治療ではなく、プレイとして臨むべし。
●住民パワー氏「祖父が両手で」想いよ届け!
●力力士氏「ドラムスティックが」捨てられた状態、笑った理由、いろいろ想像できて面白い。実は菜箸だったのかもしれないし。
●茂具田氏「ワテの頼んだ」シマチョウの燃え方って食べ物としてtoo muchだよね。
●轍眼鏡氏「道徳の授業」これを読んで道徳ってたしかに悪用できる思想だと思った。
●マークパン助氏「ここから先は」毎回数本の変態ネタだけで採用されるパン助氏。かっこいいと思います。

規定部門・モチーフ『芋』

芋の精は、屁を操る。
八重樫
必要以上に大きく切られたカレーのじゃがいもは、別れた彼女を思い出させる。
うわのそら
芋の溶けきったシチューを一口食べる。妻が一瞬、母に見えた。
もずく酢
あだ名「メイクイーン」の意味を知ったのはちょっとあとのことだった。
セッドあとむ
煮っころがされるくらいなら、と、芽を出した。
くのゐち
芋を洗いながら、猿は考えた。
八重樫
酋長からタロイモ3年分が贈られます。
むべんべ
アイダホのガンマンは、芋を投げるという。
愛のコリコリーダ
皆がサイリウムの中、私だけサツマイモを振り続けている。
g-udon
雑踏の中に芋を転がしたらあっという間に見えなくなってしまった。
ペプシと私
気だるいポーカーのチップが芋になる頃、ボスが目覚めて、仕事が始まる。
いがそ君
いがそ君
ポテトサラダにヨウ素をかけたら教科書通りの紫色になった。
ヒロポエム
ブラックライトにポテサラだけが光っている。
大伴
少しずつ芋を動かしてアニメが出来ていく。
ろっさん
膨大な芋を食わされた後に、気が狂うほど長い階段を下る。
suzukishika
「バカが!お前が切断したのはサツマイモの蔓だ」衛星回線を通して敵にバカにされた。
タクタクさん
テーブルに突っ伏した私には、このスイートポテトが、ご褒美の様にも超え難い山の様にも思えた。
なかもりばなな
怒りにまかせてマッシュするほど、きめは細かくなっていった
あひる
なんとか芋けんぴを繋ぎ合わせて谷を渡たる
夢雀
くたびれたトレンチコートを着た彼の姿は、食べ残したフライドポテトのように見えた。
住民パワー
芋とは、いわば治外法権である。
ババア伝説
彼の差し芋のセンスは、群を抜いていた。
にら将軍ハルナ
座席に芋だけ乗せた観覧車が回っている。
ねもっ血風クン
寸評

●八重樫氏「芋の精」黄色いもんぺとか穿いててほしい。
●くのゐち氏「煮っころがされる」芋へ対する人間のサディズムは異常。
●g-udon氏「皆がサイリウム」光らないことで主張するホタルもいるのでは!?
●ペプシと私氏「雑踏の中に」転がる芋の行方は分からない。まるで人生のようにね。
●大伴氏「ブラックライトに」実際光るかためしたい!光らなかったら光るよう工夫したい。
●ろっさん氏「少しずつ芋を」新海誠監督の次回作がこれ。
●ねもっ血風クン氏「座席に芋だけ」「祈り」をテーマにしたアートかもしれない。なにに対する祈りかは分からないけど。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「サイコパス」
サイコパスとは反社会的人格を持つ者、異常犯罪者(その予備軍)といったイメージだろうか。とにかくミステリではお馴染みの敵役、小説でも映画でもさまざまなキャラクターが生み出されている。怖れられるということはその反面憧れの対象でもある。みなさんなりのサイコキャラ、サイコな状況、サイコな自分を捏造してください。締め切りは2月9日正午、発表は2月11日を予定しいます。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!
最終選考通過者
小野 芋子/つんざくざくろ/野村バンダム/りんこ/グスマンスグル/高田/ゴムソサ/あんころ/
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