特集 2018年2月2日

百貨店のバレンタインカタログのガチさにありがとう

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バレンタインデーというのはどういうイベントですか。

こう質問すると人によって答えが分かれるのではないか。

39歳の私はバレンタインは「女性から男性に愛を告白する日」という空気感のなか育った。

少し下の世代になると友チョコ推しの影響で「友達同士でチョコを交換する日」「みんなにチョコを配る日」というイメージのほうが強いかもしれない。

海外ではそもそも…という文脈が好きな方にとってはまたほかの意見もあろう。

世代というよりも生きるセグメントや年代ごとに大きく付き合い方が変わる行事でもある。

いろいろあるが、ひとつ確かなのは百貨店のバレンタインのチョコレートに対するガチ熱がとまらないということだ。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

言いたいこと=カタログが豪華で超興奮する!

なにやらバレンタインと社会について語りだすんじゃなかろうかという冒頭文になってしまったが、私が話せるむつかしい話はなにひとつない。

言いたいことはひとつ「バレンタインカタログの豪華さパねえっすね!」なのである。
ざん!
ざん!
ざざん!
ざざん!
かわいい冊子というだけで興奮なのだが、どの本も全部ちゃんとした厚みがありしかもフルカラーである。
冒頭でも乗せたがもう一度厚みの確認をどうぞ
冒頭でも乗せたがもう一度厚みの確認をどうぞ
百貨店のバレンタインは毎年ブランドショコラの販売に強烈に力を入れる。

いわゆるデパ地下だけではなく催事フロアで期間限定のイベントが行われることも多い。そこで扱われる美しきチョコレートが一気見できるのがこのカタログたちなのだ。

先日、この百貨店のバレンタインカタログの急先鋒ともえいる大阪の阪急うめだ本店の215ページにもおよぶフルカラーのカタログがTwitterなどで話題になっていた

それで去年、2017年の高島屋でもらったカタログの豪華さを思い出して今年もあちこちめぐって各店で1冊いただいてきたのだ。
昨年、2017年の高島屋はベルばらフィーチャーでそれも熱かった
昨年、2017年の高島屋はベルばらフィーチャーでそれも熱かった
結果、全10冊を手に入れたというのが上の写真だ。様相としては完全にコミケ帰りである。

東京都心に散在する人気サークルを午後いっぱいかけてまわっての戦果だ。

あつめたからには各店のスペックもまとめてみた。

ページ数、取り扱いブランド数など作り手の苦労がしのばれまくる大変なことになっているのがわかる。
日本酒や抹茶のショコラを推すのがここ数年の流行らしい
日本酒や抹茶のショコラを推すのがここ数年の流行らしい

「カタログ」だからこそ「写真集」になっている…

なかみはジャンル分けにこだわりがあったり、ちょっとした読み物を挟んでいるものも多かったが、基本的には販売案内を目的にした商品紹介だ。

しかしだからこそ整然とチョコレートが並ぶ美しさを堪能できてしまう。

本当にたんたんとえんえんブランド物のチョコレートの写真が続くのである。私がゴリラだったらここ一番のドラミングが鳴り響くであろう。
ブランドのありがたみの波状攻撃(銀座三越のカタログより)
ブランドのありがたみの波状攻撃(銀座三越のカタログより)
伊勢丹新宿のカタログは見どころがコメントしてあって読みごたえも一段高
伊勢丹新宿のカタログは見どころが写真上にコメントしてあって読みごたえも一段高
かわいい系が映えるんだまた(高島屋のカタログより)
かわいい系が映えるんだまた(高島屋のカタログより)
あっぱれなほどにめくってもめくってもチョコレートだ。正直興味のない人にはすべて同じものに見えると思う。正直いうと、興味はあるものの界隈に詳しくない私も見分けがつかない。

これほど理解力が高く求められるにもかかわらずカタログがたくさん配られて盛んにイベントが行われるのだ。ショコラ界にいかにリテラシーレベルの高いファンが多いかがうかがえる。

そしてファンのハイレベルな欲求に百貨店がガチで答えているこの様相にも奮えがくる。

恐縮しすぎて1冊500円払いたいところだ。申し訳ないのであとはチョコを買い私もまたショコラ力の刀を磨くしかない。
ガチ勢の友人はまずは気になるものにざっと付箋をつけあとでそこの写真を撮って現場(催事)に行くといっていた
ガチ勢の友人はまずは気になるものにざっと付箋をつけあとでそこの写真を撮って現場(催事)に行くといっていた
知らない世界のふすまをそっと開けてしずかに中をのぞかせてもらっているような状況だが、感心して「へー!」とついでかい声を出してしまいそうだ。
企画もののページで一番よかったのが銀座三越の紙袋一覧。さすが、わかってるなあ…
企画もののページで一番よかったのが銀座三越の紙袋一覧。さすが、わかってるなあ…
フォトジェニック推しページもさすがに多かった(松屋銀座のカタログより)
フォトジェニック推しページもさすがに多かった(松屋銀座のカタログより)

「きみとぼく」ではない「私とショコラ」

さて、デイリーポータルZでは2005年にべつやくさんが百貨店のバレンタインの催事に乗り込む記事を書いている。

記事でべつやくさんも書いているが、このころは高級チョコレートを「誰かにあげる」という機運がまだあった。

しかしそれがいまではチョコ好きが自分で買って自分で食べるのが定着している、というのはよく聞く話だ。

そういう空気はカタログからも漏れ伝わった。
人間ではなくショコラに心をゆさぶられる
心をゆさぶるのは人間ではなくショコラである(小田急のカタログより)
「誰よりもショコラを愛するの」という過激な宣言
「誰よりもショコラを愛するの」という過激な宣言(大丸東京店のカタログより)
チョコを選ぶとその先にあるのは「見えてくるあなたの個性」。異性ではなく自分に出会う
チョコを選ぶとその先にあるのは「見えてくるあなたの個性」。ほかの誰でもない自分に出会う(松屋銀座のカタログより)
「好き」なのは男ではなくチョコレートなのだ
「好き」なのはなにしろチョコレートなのだ(伊勢丹新宿のカタログより)
世界観としては、私がいてあなたがいるのではない。私がいてチョコレートがいる。

私がバレンタインに恋する相手はもはや人間ではないのだ。

なるほどチョコのことが一生好きだという自信ならば私にもある。思想としては無理がない。

愛するチョコレートを自分で買って自分で食べるというのが百貨店のバレンタインのかたちなのだ。

なにしろ名ショコラティエのチョコレートボックスともなると6粒で3000円を超すものも多い。
ブルガリ様ともなると2個で3801円(伊勢丹新宿のカタログより)
ブルガリ様ともなると2個で3801円(伊勢丹新宿のカタログより)
チョコレートファンにプレゼントするならぴったりだが、チョコに興味のないあなたにあげてなるものかという値段なのだ。
ちなみに高島屋はリトルグリーモンスターというグループを大々的に起用するトリッキーとも思えるキャンペーン
ちなみに高島屋はリトルグリーモンスターというグループを大々的に起用する意外なキャンペーンスタイルできた
コピーもとがっていた「無限の可能性を秘めたステージがいま幕を開ける…」
コピーもとがっている。「無限の可能性を秘めたステージがいま幕を開ける…」関係性の次元を超えた感

ショコラとショコラティエという展開

さらにいうとサロン・デュ・ショコラというショコラティエ(チョコレートの職人さん)にフォーカスしまくるイベントも数年前からバレンタインの時期は話題である。

こういうショコラティエを追っかけるという文化もまだまだ根強いようだ。
西武百貨店もショコラティエ推し
西武百貨店もショコラティエ推し
大丸東京のカタログにも来店情報が
大丸東京のカタログにも来店情報が
私がいてチョコがいて、さらにその先にショコラティエがいる。

行事というよりも萌えと推しの世界だ。チョコレートファンにとってはバレンタインはもはやコミケみたいなもんなのかもしれない。

百貨店のバレンタインカタログを同人誌のようだといったがまるでその通りである。

さては普通の商売だな!?

思えばチョコレートを売りたいメーカーが「バレンタインデーにチョコレートを贈って愛を告白しよう」と仕掛けて定着したのが日本のバレンタインデーだろう(これ諸説あるんでしょうか)。

しかし今や百貨店はそういうギミックなしでストレートにチョコレートを買いたい人にチョコレートを売っている。

ものすごく普通の商売である。
お酒推しも、だからお父さんに上げようとかそういう文脈がない
お酒推しも、だからだれかにプレゼントしようとかそういう流れがない(小田急のカタログより)
義理チョコ需要でもまだ相当売れているのだろうとも思うが、一方で普通の商いがされているのだと思うと最高に胸がすくはなしである。

どうなる義理チョコ

で、その義理チョコ勢である。

今回キャンペーンは意外な方向性をみせた高島屋だが、二子玉川の店舗ではこんなキャッチコピーもはりだしていた。
がっさーと取っていこうとするなかなかの前傾姿勢
がっさーと取っていこうとするなかなかの前傾姿勢
「ぜんぶこの日に伝えてしまおう」とバレンタインにおけるプレゼントの意味を最大限に広げるワイルドなコピーである。義理チョコの拡大解釈といってもいいかもしれない。

義理チョコというと本記事公開の前日はゴディバの思い切った広告も話題になっていた。

行事としてのバレンタインデーはどこへ行こうとしているのだろう。10年後にまたパトロールしてみたい。
スカイツリーはデートスポットだけあって正面からLOVEを打ち出していた。こういうのもちゃんとまだある
スカイツリーはデートスポットだけあって正面からLOVEを打ち出していた。こういうのももちろんまだある
あと二子玉川ライズは
あと二子玉川ライズは
行事をどうしたらいいかわからなくなったときによくやる「七夕にしちゃう」やつを敢行してました
行事をどうしたらいいかわからなくなったときによくやる「七夕にしちゃう」やつを敢行してました

百貨店の興奮と癒しよどうか永遠に

バレンタインに誰かにチョコレートをプレゼントをした、覚えはあるが思い出はない。

おととし新宿の伊勢丹でフランスのショコラティエ、セバスチャン・ブロカードのチョコボックスを入手して食べたらやたらめったら美味しかったというのが私のバレンタインの唯一で最高の思い出である。

おしゃれで情報満載のカタログからブランドチョコを探して買うというタイプのバレンタインもバレンタインとしてしっくりきている気がする。

こういうことができる百貨店という存在の気高さはどうか死なないでほしい。
日本橋の高島屋では1月末の段階でお飾りがバレンタインではなくお雛様だったのがかっこよかった
日本橋の高島屋では1月末の段階でお飾りがバレンタインではなくお雛様だったのがかっこよかった
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