特集 2018年2月23日
 

石材に注目して国会議事堂を見学する

石が気になる
石が気になる
日本の政治は、立法府(国会)、行政府(内閣)、司法府(裁判所)の、三つの権力が、互いに監視・抑制しあい、権力の濫用をふせぐしくみになっている。これを三権分立という。

この三権のうち、立法府である衆議院と参議院のふたつの議院がある場所が国会議事堂だ。

国会議事堂の建物を、使われている石材に注目して見学してみたい。

なお、三権分立については、以降いっさい出てこないのでご安心ください。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。

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実は「国産石材の博物館」の国会議事堂

現在の国会議事堂は、1936年(昭和11年)に完成した。かっこよく書けば 「since1936」である。建築からすでに80年以上経過している。

参議院のウェブサイトによると、国会議事堂の建物は、地上3階(中央部分4階、中央塔9階)地下1階の鉄筋コンクリート造。となっている。中央塔の高さ65.45メートルは、竣工当時は日本でいちばん高い建物であったといわれている。
日本一高かった建物、国会議事堂
日本一高かった建物、国会議事堂
国会議事堂建設のための資材は、当時の最高品質の国産品を使用している。
『新版 議事堂の石』(新日本出版社)という本によると、議事堂に使用する石材は、全部国産品を使用する方針を実行し、外装用の花崗岩・安山岩を全国各地から集め、石材試験や化学分析が行われ、内装用には全国各地の大理石の名石が集められた、とある。

大正末から昭和始めにかけて建設された建築物には、国産の石材が使われていることがあり、とりわけ国会議事堂は「国産を貫いているだけではなく、現在では掘り尽くされて入手が困難のものを含め、最も豊富に日本の名石を一つの建物に集めている。(中略)議事堂はまことに『日本の石材博物館』となっている」(『新版 議事堂の石』)という。

建築用の石材は、大正末ごろから徐々に輸入が増え、戦後はほぼ輸入石材ばかりになったことを考えると、国産にこだわった国会議事堂の石材がどれほど貴重か容易に想像できる。
建築中の国会議事堂(1927年)「帝国議会議事堂建築報告書」営繕管財局編纂より)
建築中の国会議事堂(1927年)「帝国議会議事堂建築報告書」営繕管財局編纂より)
国会議事堂の見学はなんどか来たことがあるけれど、石材にはまったくといっていいほど注目していなかった。盲点だった。「日本の石材博物館」だなんて、なんだか楽しそうじゃないか。
そこで、石材に詳しい人と一緒に国会議事堂を見学し、主に石材に注目して建物を鑑賞してみたい。
左から、西村、西本さん、国会議事堂。議事堂の色白さよ
左から、西村、西本さん、国会議事堂。議事堂の色白さよ
来ていただいたのは、名古屋市科学館主任学芸員の西本昌司さん。西本さんは『街の中で見つかる「すごい石」』(日本実業出版社)という、タイトルだけでもワクワクしてしまう本の著者でもあり、建物や街中にある石材についてとても詳しい。

参議院、衆議院、どっちに行ったらいいの?

さて、日本の国会は、みなさまご存じのとおり、参議院と衆議院にわかれている。国会議事堂を、警視庁のある方から見ると、右が参議院、左が衆議院となっている。
右が参議院、左が衆議院
右が参議院、左が衆議院
参議院と衆議院はまったくの別組織で、国会内の見学コースも、参議院と衆議院で内容が異なっており、まとめて見学することはできない。(一日で両方別々に見学することは可能)
しかし、議事堂内の作りは、ほぼ左右対称になっているので、どちらかを見学すれば、もうひとつの方も、中の構造はほぼ同じと考えていい。

というわけで、特に深い理由はないが、今回は参議院に取材をお願いした。

のっけからトップギアで石材鑑賞

取材といっても、普通の見学コースとほぼ同じコースを見せてもらう。したがって、普通の小学生の社会科見学の間にまぎれて取材することになる……のだが、待合わせスペースから国会内に入る場所でいきなり石が気になってしまう。
あれ、徳山石ですよ
あれ、徳山石ですよ
白い斑(ふ)が特徴
白い斑(ふ)が特徴
西本さん「あれ、徳山石ですね」

――徳山石……徳山って山口の?

西本さん「そうです、周南市(旧徳山市)の黒髪島という島でとれる御影石です、九州なんかに行くと、墓石はこれが多いですね、白い斑(ふ)が特徴なんです、白いところはカリ長石と呼ばれる石ですね」

――白い斑(ふ)……普段、石の模様なんか気にしたこと無かったですけど、言われれば確かに白い斑がはいってますね。

御影石は、石英や雲母、長石などのさまざまな鉱物の粒が混ざり合い、それがどれだけ含まれているかによって、独特の風合いが出てくる。

徳山石は、まさに議事堂に使われた。ということで、知名度があがって使われるようになった石材で、高級品だが現在でも生産はおこなわれている。

外の通路からしてもうこれだ、のっけからトップギアで石に注目である。この記事は長くなるかもしれない。

化石の入ってる石がたくさんあるぞ

建物に入っても石が気になるのは止まらない。今度はぼくが気になってしまった。
西本さん、あれ、あそこの石
西本さん、あれ、あそこの石
――西本さん、あそこ、あの壁の石。あれ、化石じゃないですか?

西本さん「そうですね、化石でしょうねこれ。貝の化石かな? これ、おもしろいのは、模様が上下で対称になってますね」

――あ、ほんとだ。
上下で模様が対称になってる
上下で模様が対称になってる
西本さん「大きい塊だった石を、薄くスライスしたときの隣同士だった石なんでしょうね」

――こうやって、対称に見えるようにきれいに並べるってのは、やっぱり石工さんとか、施工した職人さんのセンスでしょうね。

そんな中、西本さんは、足元にある石が気になったようだ。

西本さん「この白い石、ピサの斜塔の石ですよ『ビアンコカララ』です」
白い大理石、ピサの斜塔の石です
白い大理石、ピサの斜塔の石です
――え、外国産ですか?

西本さん「そうですね、イタリア産です」

冒頭で、クドいぐらい「国会議事堂は、国産の貴重な石材を使っている」と強調したが、ここに来てあっさりイタリア産が出てきた。

しかし、これにはわけがある。現在、わたしたちがいる場所は、平成に入ってから改修された場所である、最近に改修された場所では外国産の石材も普通に使われているのだ。

とはいえ、床にさり気なく使われているこの石ひとつとっても、それが何なのかわかるとそれはそれでたのしい。

西本さん「ビアンコカララは、例えばミケランジェロのダビデ像とか、そういうものに使われているんです」

――あぁ、たしかにダビデ像は大理石でしたね。
ビアンコカララでできたダビデ像(Wikipedia</a>より)
ビアンコカララでできたダビデ像(Wikipediaより)
西本さん「ボンゴレ・ビアンコなんて言ったりしますけど、ビアンコはイタリア語で白ですね、で、カララは産地の地名です」

ぐうの音も出ないほどに「ほー」だ。まだ、国会議事堂見学のメインたる本会議場さえもみていないというのに。

先にすすまない

やっと、建設当時から変わってない部分に入る。
ふつうの階段だが
ふつうの階段だが
ふつう、一瞥することもなく、通り過ぎそうになる階段ホールの壁。しかし今日は違う、壁の石をしげしげと観察する。

――西本さん、この壁の石、穴ぼこだらけですけど、なんて石ですか?
穴ぼこだらけの石
穴ぼこだらけの石
西本さん「これは『琉球石』ですね」

――琉球、沖縄の石なのか。しかしこれ……よく見ると化石じゃないですか?

西本さん「そうです、化石ですよ」

よく見ると、巻き貝的なものやサンゴ的な化石があちこちにみつかるのだ。
巻き貝?
巻き貝?
サンゴ?
サンゴ?
西本さん「こっちにもかなり大きいのがありますよ」
ほら、あそこちょっと大きいサンゴの化石
ほら、あそこちょっと大きいサンゴの化石
大きめのがあった
大きめのがあった
琉球石は、琉球石灰岩とも呼ばれ、南西諸島にたくさんある石である。とくに沖縄では建材としてよく使われていて、家の周りの石垣などに使われているのがそれだという。
竹富島の石垣
竹富島の石垣
化石のせいでできた不規則な穴が、独特の模様になっていて、同じような模様がふたつとないところなどは、ながめていてとてもおもしろい。

議場で、強行採決がどうだとか、造反議員がこうだとかやりあってる間にも、国会議事堂の階段には、何万年前もむかしのサンゴや貝の化石が静かにあり続けているというのが味わい深い。

などと、石材ひとつずつにいちいち感動しているので、なかなか先に進まない。

案内してくださった衛視さんに「そろそろ行きましょうか」と促されて次に行く。

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